1995年に大阪で結成され、ジャパニーズR&Bの草分け的な存在として今なお活躍し続けている3人組ユニット、Skoop On Somebodyが通算15枚目のアルバム「GOOD NEWS」をリリースした。
前作「Nice'n Slow Jam -beyond-」からおよそ1年ぶりのアルバムとなる本作は、彼らのルーツの1つであるゴスペルにフォーカスした内容。TAKE(Vo)のプリンス愛が炸裂した「LOVE OR NOT」に始まり、誰しも多かれ少なかれ抱えているネガティブな側面に向き合った「SHAPE OF HEARTS」、レゲエとゴスペルを融合させた「MY HOMEWORK」など、「Skoop On Somebodyにとってのゴスペルとは何か?」を追求したバラエティ豊かな楽曲が並んでいる。
ここ数年は、ゴスペルクワイアを率いてのクリスマスコンサートを毎年開催しているSkoop On Somebody。なぜ今、彼らはゴスペルを再定義しようと思ったのか? アルバムの制作エピソードを振り返りながら、その真意をじっくりと語ってもらった。
取材・文 / 黒田隆憲
もっとストレートなゴスペルアルバムを作ってみよう
──今回、新作「GOOD NEWS」で改めてゴスペルにフォーカスしようと思ったのは、どんな経緯があったのでしょうか。
TAKE(Vo) 最初は本当に単純な話だったんです。今年KO-ICHIROさんが還暦を迎え、「めでたいね、何か特別なことをやりたいね」という話になり、ツアーの合間にソロコンサート(「KO-ICHIRO ピアノコンサート」)などを行っていたんです。で、Skoop On Somebodyとしての次のアルバムも「ステラ」(2023年11月リリースの14thアルバム「Nice'n Slow Jam -beyond-」収録曲)が持っていた、荘厳なゴスペルの雰囲気を引き継ぐものにしたいという意見で一致しました。もともとKO-ICHIROさんは、メジャーデビュー前からずっと大阪でゴスペルバンドをやっていたんです。もちろん、SKOOP(Skoop On Somebodyの前身バンド)の時代から僕らはゴスペルから多大な影響を受けてきたのですが、今回はそれを主軸にもっとストレートなゴスペルアルバムを作ってみようと。始まりはそんな感じでしたね。
──そもそもどんなきっかけでゴスペルと出会ったのか、それぞれ聞かせてもらえますか?
KO-ICHIRO(Key) きっかけは日本で「Mama, I Want to Sing」(1988年)というミュージカルが上演されたときですね。残念ながらチケットが取れずに観ることができなかったのですが、そうすると余計に思いが募るじゃないですか(笑)。そもそも僕はソウルやR&Bが昔から大好きだったのもあり、そこでゴスペルへの興味にも拍車がかかりました。ゴスペルを深く知るきっかけになったのは、アシュフォード&シンプソンという夫婦のソングライターチームが作る音楽に触れるようになってから。彼らが生み出した楽曲は、なんといっても「Ain't No Mountain High Enough」が有名ですが、そこからさらに興味が湧きました。「アメリカの教会で本場のゴスペルを体験してみたい」と思い、25歳で渡米したのもその流れです。帰国してすぐゴスペルグループを結成し、そこにKO-HEYくんがドラマーとして参加してくれて。彼はTAKEともR&Bのグループをやっていたので、それで3人が初めて出会ったんです。
──ゴスペルが3人をつなげてくれたようなものですね。TAKEさんのゴスペルとの出会いは?
TAKE 昔、大阪にアンコールというライブハウスがあって。そこでアフリカ系アメリカ人たちによる生のバンド演奏を聴いて「なんじゃこれは?」と衝撃を受けました。それから毎日のように通い詰め、友達をたくさん作ってそのコミュニティに入っていくことになるのですが、その中でも特に仲よくなったのがサム・ジョーンズというジャズベーシスト。彼が「本場のブラックミュージックを浴びるならニューヨークに行こう」と誘ってくれて、ハーレムを案内してもらったんです。そこでトミー富田さんという、ハーレムの商工会議所のメンバーでもある方に出会えたのもサムのおかげ。シルビアズ・レストランっていうソウルフードの老舗で飛び入りで歌わせてもらうなど、貴重な経験もたくさんしましたね。
──それが20歳くらいの頃?
TAKE そうです。当時は血気盛んの怖いもの知らずで(笑)、ライブハウスのオープンマイクにもどんどん挑戦していました。でもあるとき、バーテンダーの友達に「TAKE、お前はこれでいいのか?」って言われたんですよ。「いや、最高だよ! ブラックミュージックやゴスペルを歌ってみんなが喜んでくれているし、ここにずっといたい」と答えたんですけど、彼は僕にこう言ったんです。「俺たちから見たら、どこの国かもわからん初めて見る日本人が歌っているから面白がっているけど、お前の本当のソウルは何なんだ? 日本人のソウルって何なんだ?」と。それでハッとして、日本に帰って“自分の音楽”をやると決めたんです。
──その方のおかげで、Skoop On Somebodyの結成につながっていくわけですね。KO-HEYさんもゴスペルの影響を受けたそうですが、それはどんなきっかけでした?
KO-HEY(Dr) 僕はMississippi Mass Choirという100人以上のゴスペルクワイアが大阪に招聘されたときに、TAKEと一緒に観に行ったのが大きかったです。大勢の声が1つになって響くブラックミュージックを初めて体感して衝撃を受けましたね。初めて聴くうえに言葉もわからない音楽なのに、どうしてこんなに涙が出るんだろう?って。ゴスペルってもとはキリスト教の音楽ではあるんですけど、宗教を超えて響く何かがある。うまく説明ができないのですが、理屈ではなく心から湧き上がってくる感動があったんですよね。
「歌いたい」という純粋な気持ちこそがゴスペル
──そうした体験を踏まえ、今回ゴスペルをどうやって自分たちの音楽に取り込んでいきましたか?
TAKE 「ゴスペルアルバムを作る!」と決めたまではよかったのですが、実際1月、2月は毎日曲を書いては消して……の連続でした。悩みましたね。本当に自分にそんな説得力のある曲が書けるのかな?と。ニューヨークにももう長いこと行ってないし、うまく感覚がつかめない。気分転換にサーフィンに行っても、そのことばっかり考えていましたね(笑)。そんなとき、ふと思い出したことがあるんです。
──どんなことを思い出したのですか?
TAKE 大学生の終わり頃、周りのみんながどんどん就職先を決めていく中、僕は漠然と「音楽の仕事がしたい」と思っていて。でも、それが叶わずちょっと引きこもりみたいになってしまった時期があったんです。そんなとき、家でゴスペルのVHSビデオを擦り切れるほど大音量で聴いて涙を流していたんですよ。「こうしている場合じゃない」「とにかく歌いたい!」って。ゴスペルのスタイル云々よりもまず、その「歌いたい」という純粋な気持ちが僕にとってのゴスペルなんじゃないかと。そのときのことを思い出しました。
KO-HEY だから、今回のアルバムに関してコンテンポラリーなゴスペルを期待されると、ちょっと違うと感じるかもしれません。とにかくTAKEの歌を主軸としつつ、生い立ちも性格も性別も年齢も、みんなバラバラの人が集まって声を合わせることで、1つの音楽が生み出される。僕にとってはそれがゴスペルの定義。サウンドやスタイルを超越し、みんなでひとつになって響き合うことがゴスペルなんだと信じてアルバムを作っていきました。
KO-ICHIRO 僕がゴスペルのカバーバンドをやっていたのは、かれこれ30年以上前。そのときもメンバーとよく話していたのはゴスペルのルール、つまり「クリスチャンじゃないとゴスペルは歌っちゃいけないのか?」ということでした。最初は本当に純粋な気持ちで、「すごくいい曲だからみんなで演奏したい」「心を込めて音楽として表現し、みんなの前で発表したい」と思ってゴスペルに取り組んでいたのですが、掘り下げれば掘り下げるほど「もっとちゃんとアフリカ系アメリカ人のことを理解しないとゴスペルなんてやってはダメなんじゃないか?」と考え込んでしまった時期もありましたね。特に歌詞については、きちんと意味を理解してから歌ったり演奏したりするべきだと。とはいえ実際に教会で話されている内容って、意外と身近なコミュニティの話が多かったりもするんですよね。神様の話ばかりではなく、日常の中でちょっと心が震えるようなことを音楽として表現するのもゴスペルなんじゃないかって。
TAKE そういう意味で言えば、例えばアルバムの新曲「コントラスト」も「僕らの日常にあるゴスペルを歌いたい」というモチベーションから生まれた曲でした。「神様についての壮大なテーマもいいけど、身近でリアルなゴスペルも素敵だよね?」と。そうなると、やっぱり作詞は小林夏海さんしかいない。「sha la la」をはじめSkoop On Somebodyの数々の名曲を、これまで数多く手がけてくれた彼女の言葉選びは本当に素晴らしくて。どこにでも転がっているような言葉を拾ってきて、それが宝石みたいにキラキラ輝かせるというか。本当にいつも感動させられますね。
KO-HEY 僕自身、そんなに歌詞を書いてきたわけじゃないので、夏海さんの歌詞を読ませてもらうと、平易な言葉でこんなにも深いところにたどり着くなんて、本当にすごいなと思います。正直、自信を失うこともありますが(笑)、今回のアルバムでは僕も自分なりの正直な言葉で、嘘偽りなく歌詞を書きました。
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