今年メジャーデビュー15周年を迎えたHilcrhymeが、最新オリジナルアルバム「24/7 LOVE」をリリースした。
Hilcrhymeにとって約2年ぶりのフルアルバムとなる本作は、昨年12月より連続リリースされた3枚のベストアルバムに新曲として収録されていた「十字架」「Killer Bars」「ドラマ」や配信シングル「UNIQUE」「走れ」、新規書き下ろし曲を含む全11曲入り。新潟出身のトラックメイカーWAPLANがすべてのトラックを手がけたことで、Hilcrhymeにとって実に12年ぶりとなる1MC・1トラックメイカーによるアルバムが作り上げられた。メジャーデビューからの15年の歩みの中で築き上げ、磨かれてきたHilcrhymeという確固たるブランド力はそのままに、新たなトライを果敢に盛り込んだことによる新鮮な聴き心地。そこには15年を経たからこそたどり着いた地平が広がり、まるで1stアルバムのようなみずみずしい魅力が詰め込まれている。
12月まで続く全国ツアーをスタートさせたばかりのHilcrhymeのTOCに、アルバム「24/7 LOVE」についてじっくりと話を聞いていく。
取材・文 / もりひでゆき
ここ10年くらいなかったほどの満足度
──今年6月に日比谷野外大音楽堂で開催されたメジャーデビュー15周年記念公演「リサイタル2024」の感想から聞かせてください。
もうずいぶん昔のことのように感じますけど……とにかくすごく楽しい1日でしたね。お客さんと同じくらい自分自身が感動できるライブってあまりなかったりするんです。でも、あの日はしっかり感動できたなと。Hilcrhymeとしての高い目標はまだまだあるけど、15年やってきたことに対しては自分のことをちょっと労ってやってもいいかなという気持ちにもなりました。いろいろ紆余曲折があったチームなので、感慨深く感じるところはやっぱりありますよね。
──会場を埋め尽くしていたお客さんの温かいムードが印象的でした。ファンからの祝福を全身で浴びるTOCさんもすごく気持ちよさそうで。
思う存分、浴びました(笑)。会場には昔からのファンの方はもちろん、若い方もすごく多かったんですよ。客層がグッと若返ったというか。あの日は、Hilcrhymeの1stツアー「リサイタル」の再現公演という名目だったので、同名の1stアルバムの曲を中心に披露していったんです。でも、当時の曲を知らない人もけっこういらっしゃって。「歌って!」と煽っても、「この曲、知らない……」みたいなリアクションがけっこう見られた。ただ、そういう若いファンの子たちは最近の曲でわっと盛り上がってくれて、一緒に歌ってくれているんですよね。数字的に見れば1stアルバム「リサイタル」がダントツに売れたんですけど、その数字はもはや今のHilcrhymeのライブに直結しているわけではないなという発見がありましたね。
──それはつまり、15年活動を続けてきた中で常に新規ファンをしっかり獲得し続け、リスナーが新陳代謝していることの現れですよね。決してネガティブなことではなくて。
はい。僕もめちゃくちゃいいことだと思ってます。15年という節目にそういったことを知れたという意味でも、あのライブをやった甲斐があったなと。
──野音では新曲として「24/7 LOVE」がいち早く披露されましたが、ライブを終えたあとはアルバム制作にグッと照準を合わせていった感じですか?
そうですね。ただ、思い出すのもちょっと億劫になるぐらい、制作に追い詰められていて(笑)。約2年ぶりのアルバムだったので、その間に発表した既発曲が6曲あったんですよ。そういう意味ではすでに半分できあがっているような状態だったんだけど、残りの曲の制作にとにかく苦心して。最初に決まっていた締め切りの段階で1曲しかできてなかったという、かなりマズイ状況でした。
──曲が生まれなかったのには何か理由があったんですか?
実は制作の環境を変えたんです。10年前から自分のスタジオは持っているんですけど、なんとなく違う場所で歌詞を書きたいなと思って。新潟のちょっと見晴らしのいい場所に新しい物件を借りたんです。結果としてそれがよくなかった(笑)。環境を変えるのであれば、もっと時間的に余裕があるときにやるべきだったなと。切羽詰まった状況がより悪化してしまったところがあったんです。
──以前お話を伺った際、「今が一番曲作りを楽しめている」といったことをおっしゃってましたけど、その感覚のままでは向き合えなかった感じですか?
いや、曲作りを楽しめている感覚はずっとあるんです。逆に言えば、それが楽しすぎるから1曲として形にするのが困難になってしまった。いろんなやり方を模索していく中で、作業がどんどん遅れちゃったって感じですね。決してアイデアが出てこないとかではなく。出すぎちゃうから「どれにしよう?」みたいな。
──それはうれしい悩みですね。
そうそう。そんな過程を経たからこそ、完成したアルバムはここ10年くらいなかったほどの満足度がありますね。新しい制作環境も含め、ここからもっと成熟していけることも確信できたし、超ワクワクできる経験になりました。
うまいヤツがゴロゴロいる時代だからこそ
──既発曲が多数収録される中、新曲を加えることでアルバムの全体像として思い描いていたイメージはありましたか?
大きなテーマとしては変わらず“LOVE”というものを掲げていますね。その中で今回強く意識したのは、1小節たりとも無駄な詞、ヴァースを書かないこと。徹底的に必要でないものを削除していって、同業から見たら隙がないと思われるような作品にしようと思ってました。メジャーデビューしてから16年目と言えばもう完全にベテランの域に入るわけなので、とにかくクオリティの低いものは残したくなかったんです。自分自身がすべてにおいて頷ける、納得できるものを作ろうと。その作業はすごく楽しいものではあったんですけど、だからこそ時間がかかってしまったという。
──確かに、今作の楽曲には強さを感じさせるワード、ラインが満載ですね。
そうですね。似たようなワードを使うにしても、アプローチを変えなきゃ面白くないわけで。それぞれで全然違った調理の仕方をすることはかなり模索しました。
──メジャーデビューから15年を経てもなお自らにハードルを課し、新たな表現にトライするところがTOCさんらしいですね。
ここ数年、ラップがすごく流行っているじゃないですか。そういう状況に後押しされたところもあると思います。自分以外のアーティストの曲を聴けば、それが刺激になって自分の創作意欲にもつながっていく。「うわ、こいつのラップうまいな。だったら俺はこいつにできないことをしてやろう」みたいな。僕の場合は周りの状況を受けてアウトプットするのが合ってるなと改めて思いましたね。この世界は常に競争ですから。
──TOCさんの場合、周りに目もくれずオリジナリティを貫いている印象があったので、その感覚はちょっと意外な感じもします。
いや、自分らしさって結局、周りを意識する中で見えてくる、作っていくものだと思うんです。ラップが流行って、うまいヤツがゴロゴロいる時代だからこそ、それがやりやすくなったところもあるし。そういう意味では、Hilcrhymeとしてのアティチュードを改めて構築、提示することが今回のアルバムの裏テーマだったような気もします。周りの状況に目を向けつつ、今の自分にしかできないことをやろうという。
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音楽を始めた頃から自分に言い聞かせていること