Little Black Dressインタビュー|新たな門出を機に紐解く4つの変化

Little Black Dressは2019年のデビュー以来、音楽面でもビジュアル面でも、作品ごとに大きく変化し続けてきた。今年6月発表のアルバム「SYNCHRONICITY POP」は、そのタイトル通り彼女のシティポップへの愛を詰め込んだ、さわやかな楽曲が並んだアルバム。一方で、このたびキングレコード移籍第1弾シングルとしてリリースされた「チクショー飛行」「猫じゃらし」はロックや歌謡曲からの影響を感じさせる楽曲となっており、その振れ幅の大きさは多くのリスナーを驚かせたに違いない。そこで今回音楽ナタリーは、Little Black Dressに“変化”を軸にしたインタビューを実施。「環境」「サウンド」「パートナー」「仕事観」という4つの視点で、新たな門出を迎えたLittle Black Dressの現在を掘り下げていく。

取材・文 / 小野田衛撮影 / 苅田恒紀

Little Black Dressの“変化”①:環境

──Little Black Dressが音楽ナタリーのインタビューに登場するのは、これが4回目です。この間、音楽性もご自身を取り巻く環境も大きく変わりました。今回は“変化”というテーマでお話を伺えたらと考えています。

変化か……。自分の基本的な姿勢は一貫しているんですよ。それは“常に今の自分と向き合う”ということなんですけど。過去を振り返らないし、先のことも考えすぎない。大事なのは今の状態。それは自分でも意識しているところです。ただ、確かに外側の部分はだいぶ変わったかもしれないな。何年も活動していたら当たり前のことなんでしょうけど。

──高校時代に音楽活動を始めた遼さんがインディーズデビューを果たしたのは2019年のこと。2021年にはポニーキャニオンからメジャーデビューを果たし、今回、キングレコードに移籍することになりました。

移籍というのは、会社員の方で言うところの“転職”と同じじゃないかと思っているんですよ。転職っていろんなパターンがありますよね。その会社で自分のやりたいことをやったから次に進むこともあるし、なんかここは違うなと感じて環境を変えることもある。ミュージシャンも基本的には同じだと思います。

Little Black Dress

──ファンからすると、アーティストのレコード会社移籍ってピンとこない部分があるんですよね。具体的に何が変わるか理解できないので。

そこはアーティストによっても違うんでしょうけど、私の場合はあまり変わらないかもしれない。会社員の方でも、履歴書にいっぱい転職した過去が書かれていると「何か問題があるのでは?」って疑いの目で見られるじゃないですか。でも、実際はレコード会社の移籍に深い理由なんてないんです。理由があるとしたら、ご縁ってことでしょうね。

──ご縁?

「幸運の女神には前髪しかない」という言葉があるように、ご縁とかチャンスはその場でつかまないと逃げてしまいますから。環境が変わると、やれることが変わってくるんです。例えばの話ですが、ものすごく売れて有名になったら、逆にできないこともたくさん出てくると思うんですね。「これはやっちゃダメ」みたいな縛りが増えるだろうし、「お仕事だから、やらなくちゃ」みたいなことも当然出てくるでしょうし。

──それは確かにあるかもしれません。

その点、インディーズは自由度が高いし、「これ違うんじゃないの?」と感じたらすぐ軌道修正できる。だから、インディーズ時代が今の自分を作るうえですごく大事だったことは間違いないです。今回、キングレコードに移籍することになったのは、まさに“ご縁”と“タイミング”によるものでした。というのも、今、担当してくれているディレクターさんがLittle Black Dressを好きでいてくださった方なんですよ。ライブも観てくださっていて。だから最初にキングさんに移籍する話が出て会議室に入ったら、びっくりしましたよ。これこそ、ご縁ってやつでしょうね。その方は、私がインディーズ時代に出したアルバム「浮世歌」がすごく好きだと言ってくれまして。「こういうロックサウンドの世界観で、ガツンと好きにやっちゃってください」って応援してくれたんです。そのどーんと構えた雰囲気も安心できましたね。運命だと思っています。

──キングレコードは、遼さんが愛してやまない昭和歌謡に強い会社ですしね。

はい、ありがたい話です。そこもまた、ご縁があったということでしょう。

Little Black Dressの“変化”②:サウンド

──今年6月にリリースされたアルバム「SYNCHRONICITY POP」ではシティポップ色を前面に打ち出していましたが、11月22日にリリースされる「チクショー飛行 / 猫じゃらし」は腰の据わった骨太のロックサウンドですね。わずか半年で別のアーティストになったのかと思うくらい、振り幅がすごいなと驚きました。

ライブのリハーサルをやってても、「これ本当に両方とも自分が書いたんだよな?」って不思議に感じます(笑)。70~80年代の日本の音楽から影響を受けているので、そういう意味では一貫しているはずなんです。ただ、ジャンル的にはロックだったりシティポップだったりバラバラな部分はありますね。聴いたときに受ける印象が違うのは、アレンジの問題もあると思いますけど。

──やはりそこは大きいですか。

私はシンガーソングライターなので、特にメロディと歌詞の部分に力を入れて曲を作っているわけです。だけど、そこからどんな洋服を着るかによって雰囲気が変わるんですよね。衣替えして1年前の冬服が出てくると、「あれ? こんな服、持ってたっけ?」と不思議に思うことがあって。だけどさらに1年経つと、「あの服、捨てなければよかった。また着たいのに!」って懐かしくなったりする。そんな感じなんですよ。

Little Black Dress

──1つのタンスに、いろんな引き出しがあるイメージ?

そうかもしれない。歌謡ロックの引き出しと、シティポップの引き出しがあるイメージかな。どちらかと言うと、歌謡ロックのほうはメッセージ性が強い曲が多いですね。今回のシングル「チクショー飛行」もそうだけど、理不尽なことに対する怒りを歌ったり。やっぱりロックってそういう歴史があるジャンルですから。シティポップは単純にサウンドが大好きなんです。

──まったく違うタイプの楽曲をライブで歌うとなると、感情移入が難しそうな気もしますが。

セットリストの流れに関しては、確かにすごく頭を悩ませています。それは歌う側の問題というよりは、聴く側が混乱するんじゃないかなという意味で。ただ、その点で言うと11月のライブからバンドメンバーがガラリと変わったのですが、びっくりするくらい音に統一感が出たんです。だから、聴いていて違和感みたいなものはないんじゃないかと思います。

Little Black Dressの“変化”③:パートナー

──遼さんは今年の5月に発表した「恥じらってグッバイ」では川谷絵音さんをプロデューサーとして迎えたり、そのほかにもいろんな編曲家の方とタッグを組んできていますよね。

私の中で「Little Black Dressの音はこうでなくてはいけない!」みたいな強いこだわりって実はあまりないんです。それよりもレコーディングやライブではバンドメンバーの特性を生かした音を出してもらいたくて。やっぱりミュージシャンの方々は「自分がこの曲を弾くなら……」と考えてきてくれますから。そこを私が打ち消すようなことはしたくないんですね。私ならではのオリジナリティは、作詞作曲と歌の部分で十分に出せるので。

──そのへんは組む相手の裁量に任せているんですね。

はい。ただ、一緒にやる人によってビジュアル面はけっこう変わっているかもしれません。「チクショー飛行」と前作「マロニエの花」では、ミュージックビデオのギャップがすごいなと。

──楽曲の世界観に合わせてメイクや衣装を変えているということでしょうか?

それもありますし、監督さんが出してくる企画に最大限沿いたいんです。毎回、すごく新しい発見があるんですよ。「この曲をこんなふうに解釈してくれたんだ」って。それを表現するのがすごく楽しいんですよね。さっきのバンドの話と同じで、自分の変なこだわりで面白いアイデアを消したくないので。

Little Black Dress

──“まな板の鯉”タイプ?

そうかもしれないですね。そこはデビュー当時から大きく変わった点だと思います。インディーズの頃はもっとわがままでプライドが高かったけど、それは不安だったから。「人に任せたら自分がなくなるんじゃないか?」「自分の居場所が消えちゃうんじゃないか?」と思っていたんです。だけどほかの方の提供曲を歌わせていただいたりしているうちに、自分の表現の本質は変わらないんだなと気付いた。最初は提供曲を歌うことにも葛藤があったけど、そんなのは余計なプライドだとすぐに気付いたし、得たもののほうがはるかに大きかったです。自分の“誇り”なんて“埃”みたいに軽く吹き飛ばしちゃえばいい(笑)。

──大事なのは自分自身ということですか。

そう。今の自分と向き合うことが大切なんだなって。一部の人からは「なんかコロコロ印象が変わるアーティストだな」と思われているかもしれないけど、音楽って自由であるべきじゃないですか。面白いと思ってもらえることは、どんどん試していきたいんです。私が自由じゃないと、聴いてくれる人も自由になれないですから。

──いろんな人と関わることで学んだことはありますか?

柔軟性ですかね。昔はとにかく我が強い人間だったので。だけど相手も1人の人間として生まれ育ったストーリーがあって、ルーツがあって、独自の考えを持っているわけですから。そこにリスペクトを向けたいと考えるようになりました。会話とかも同じだと思うんですよ。「私が! 私が!」と自己主張するばかりではなく、きちんと相手に質問したりしないとコミュニケーションは成立しないですよね。誰かと一緒に音楽をやる以上、そこはやっぱり大事だと思います。