GLIM SPANKYインタビュー|デビュー10周年、こだわり抜いた初ベストで表すロックへの憧れと愛情

GLIM SPANKY初のベストアルバム「All the Greatest Dudes」がリリースされた。

「All the Greatest Dudes」はGLIM SPANKYのデビュー10周年を記念して制作された、CD2枚組のベスト盤。ファン投票に基づいて松尾レミ(Vo, G)と亀本寛貴(G)が選曲した「怒りをくれよ」「褒めろよ」「美しい棘」「ワイルド・サイドを行け」「Glitter Illusion」「形ないもの」といった人気曲の数々や、今年10月にリリースされた「赤い轍」、ボサノバテイストの新曲「Hallucination」、ゆかりの深いLOVE PSYCHEDELICOと共作した新曲「愛が満ちるまで feat. LOVE PSYCHEDELICO」など計28曲が収録されている。

ベストアルバムではあるが、オリジナルアルバムを制作する感覚で「All the Greatest Dudes」を完成させたというGLIM SPANKY。こだわり抜いたベスト盤について制作秘話はもちろん、ロックに対する思いを松尾と亀本にじっくり聞いた。

取材・文 / 小松香里撮影 / YURIE PEPE

GLIM SPANKYへのわかりやすい“玄関”として

──初のベストアルバム「All the Greatest Dudes」が完成しましたが、ベストアルバムというものに対してどんなイメージがありましたか?

亀本寛貴(G) ベストアルバムはヒット曲をたくさん出している人がリリースするイメージがあって、僕たちはヒット曲のオンパレードっていう感じでもないので、ベストにまとめて発表する必要性はそんなに感じてなかった。でも、デビュー10周年ということもあってベストを出すことが決まり、パッケージをどういうデザインにするかもいろいろと考えていく中でとても思い入れのある作品になりましたね。

松尾レミ(Vo, G) 私はベストアルバムっていうものをあまり聴いてこなかったんですよね。オリジナルアルバムにそのミュージシャンの本質が表れているという概念が自分の中にあって。でも、今はサブスクにアーティストごとの代表曲がまとめられていてベストアルバムみたいな状態になっていますし、私もよく知らないミュージシャンの楽曲を聴くときにまずプレイリストから聴くことが多いんです。10年間活動してきた中で、GLIM SPANKYへのわかりやすい“玄関”を作ることで私たちのオリジナルアルバムを聴いてくれる人が増えるんじゃないかという希望のもと、ベストを作ることにしました。

GLIM SPANKY

GLIM SPANKY

──ファン投票を踏まえて選曲されたそうですが、どの曲を入れるか悩みましたか?

亀本 「この曲を選ぶと、この曲は入れられない」というもどかしさはライブをやっていく中でも感じるので、そういうある種の残酷な取捨選択は、ベストを作るうえでも絶対に避けられないと想定していました。僕はそこまで悩まなかったですね。

松尾 私は悩みました。例えば「怒りをくれよ」とかけっこう激しめな曲があれば、「話をしよう」のようなフォーキーな曲もあって、いろいろな楽曲を入れたいと思うと止めどない選曲になってしまって。テイストが近い曲の中でどれを選ぶか悩みました。DISC 2の6曲目に「Circle Of Time」を収録しましたけど、この曲の3年前にリリースした「アイスタンドアローン」は入っていなくて。この2曲はライブでは同じような位置付けで「どっちをやろう」と悩む2曲なので、ベストにどちらを入れるかもすごく考えました。パーソナルなメッセージ性がより強いのは「アイスタンドアローン」だけど、そうなると初期の曲が多くなってしまうし、「アイスタンドアローン」の進化バージョンとも言える「Circle Of Time」を入れることにしたんです。そういう細かい取捨選択がたくさんありましたね。

「今でもカッコいい」ベスト盤制作で湧き上がる喜び

──数量限定の10周年記念限定盤には多くのコンテンツが付属しますが、中でも松尾さんプロデュースの“オリジナルヴィンテージ加工Tシャツ”が目を引きます。

亀本 これ、マジでいいよね。実際に制作していく中ですごくお買い得な商品なんじゃないかと思いました。満足度が高いというか。こういうものを作れたことがうれしいよね。

オリジナルヴィンテージ加工Tシャツのビジュアル。

オリジナルヴィンテージ加工Tシャツのビジュアル。

松尾 本当にうれしい。ユニバーサルのいろいろなミュージシャンの限定盤ボックスを見せてもらったんですけど、すごく魅力的で「こういう限定盤って自分がファンだったらうれしいな」と思ったんですよ。クオリティが高いボックスセットを所有できれば満足度は高いと思うので、普段のグッズだったら作れないような原価の高いヴィンテージTシャツを入れることにしました。すごくこだわりましたね。フォトブックレットはLPサイズになっていて紙質がめちゃくちゃいいんです。1個1個クオリティをチェックしながら上質なものをセレクトしたので、お買い得だと思います。あとめっちゃ個人的な話なんですけど、自分でデザインしたロゴが使われているのもすごくうれしいです。

GLIM SPANKY「All the Greatest Dudes」10周年記念限定盤ボックスのデザイン。

GLIM SPANKY「All the Greatest Dudes」10周年記念限定盤ボックスのデザイン。

亀本 すごくいい作品になったよね。

松尾 本当にそう。数日前にマスタリングを2日間に分けてやって、改めて通しで聴いて。ライブでやり尽くして、数え切れないほど聴いてきた曲もあるわけですよ。そういう曲もいいスピーカーで聴くと記憶がフラッシュバックしてきて、「この音がカッコいいと思ってこれにしたな」とか「こういうボーカルの処理の仕方をお願いしたな」とか思い出したんですね。歌やギターの技術で言えば「今のほうがうまくできる」「このメロディはもっとキャッチーにできる」とか思ったりするんですけど、サウンドの1個1個は今でもカッコいいと思える。その選択をした自分はナイスだなって思いました。そういったうれしさはベスト盤を作らないと知ることができなかったと思うのでよかったです。

亀本 僕は松尾さんと違って定期的に過去の音源を聴いてるんですけど、音楽のことをあまりわかってなかったからこそ生まれたいい曲が存在していて。それはほかのアーティストの楽曲を聴いても思うことなんですよね。例えば10代や20代のアーティストの曲を聴いて、「こんなにつたないのにめっちゃいい曲になっててずるい!」と嫉妬することがある。今の自分たちはそういうフレッシュな魅力を出すことがなかなか難しくなっていますが、過去の音源を超えていかなきゃいけないなと改めて思いました。松尾さんにも「今の自分たちが22、23歳とかでデビューしたての新人だったら『こいつらめちゃくちゃ面白い! ライブに行ってみたい』と思われるよね」と話したことがあるよね。

松尾レミ(Vo, G)

松尾レミ(Vo, G)

亀本寛貴(G)

亀本寛貴(G)

──実際、GLIM SPANKYはそういう存在として音楽シーンに現れましたよね。

亀本 そうですね。だからみんな「なんだこいつら?」と思ってくれたと思うんですよね。

松尾 私はずっとGLIMを客観視できなかったので、そういう感覚がわからなかったです。でも今回レコード会社のマスタリングブースの大きなアンプで、いい音で昔の音源を聴いたらこれまでと全然違う感覚になりました。

亀本 自分の演奏だと思って聴くと「さすがにヘタすぎるだろう」と思ったりするんですけど、新人だと思って聴くと「ヤバい! まぶしい!」と思うんだよね。やっぱり20歳そこそこの新人のときにしか出せない魅力があって。若い頃からずっと同じ方法論で曲を作ってカッコよくできるアーティストもいますけど、僕たちは同じアプローチでやっても単に凡庸な音楽になってしまうので、やっぱりどんどんアップデートしていかなきゃいけないなと、ベストを作って強く思いましたね。

タイトルに“BEST”と入れなかった理由

──DISC 2は今年リリースした楽曲や新曲を中心に構成されています。これはお二人のアイデアだったんですか?

亀本 DISC 2の7曲目の今年4月にリリースした「Fighter」以降の曲は、このベストアルバムに入れるであろうことを想定して作った曲なんです。それらの楽曲を小出しにしたっていう感覚です。

松尾 「Fighter」は「ワースポ×MLB」(NHK BSのスポーツ情報番組)のエンディングテーマではあったんですが、私たちとしては“新しいアルバムの新曲”という気持ちなんです。ベストではありますが新しいオリジナルアルバムを作る感覚もあったので、タイトルに“BEST”とは入れずに「All the Greatest Dudes」という名前にして、でもベストアルバムにもハマりそうなタイトルにしました。