ポルノグラフィティ「ヴィヴァーチェ」特集|岡野昭仁&新藤晴一はデビュー25周年を経て新たな高みへ

ポルノグラフィティの新曲「ヴィヴァーチェ」が10月30日に配信リリースされた。

今年9月8日にデビュー25周年を迎えたポルノグラフィティは、デビュー記念日を含む9月1、7、8日の3日間、アニバーサリーライブ「因島・横浜ロマンスポルノ'24 ~解放区~」を広島・因島運動公園と神奈川・横浜スタジアムで開催した(参照:ポルノグラフィティ、晴天のハマスタで迎えたデビュー25周年「わしらの今はあんたらが作った」)。その公演で初披露された「ヴィヴァーチェ」は、自分らしく生きるための一歩を踏み出す勇気を与えてくれるファイトソングになっている。

作詞を岡野昭仁(Vo)、作曲を新藤晴一(G)が手がけた本作は、どんなアプローチで完成へと至ったのか。音楽ナタリーでは岡野と新藤にインタビュー。その制作エピソードに加え、「因島・横浜ロマンスポルノ'24 ~解放区~」を終えての感想、ともに50歳を迎えた今の心情、そして未来への思いなど、じっくりと話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき

本当に幸せなキャリアを積ませてもらっている

──9月1日にお二人の地元広島の因島運動公園、9月7、8日に横浜スタジアムで「因島・横浜ロマンスポルノ'24 ~解放区~」が行われました(※8月31日の因島公演は台風の影響で中止に)。デビュー25周年を盛大に祝った3本のライブについての感想から聞かせてください。

岡野昭仁(Vo) まず因島公演に関しては、1日しかできなかったことがすごく残念ではありましたけど、25周年という大きな節目に自分らの故郷でのライブを実現できたことがすごくうれしかったですね。そこからの流れで横浜スタジアムのステージに立てたこともよかった。因島で過ごしていた学生時代、Guns N' Rosesのスタジアムライブを観て、「自分たちもあんなところでライブができたらな」と憧れを抱いてましたから。因島のライブを経てハマスタに立てたというのは、個人的にグッとくるストーリーではありました。あの3公演を通して「ポルノグラフィティとして長い時間、活動することができたんだな」ということを改めて噛み締めることもできましたし。

新藤晴一 ハマスタは前回やったときよりも、スタジアムの構造上キャパが大きくなってたんだけど、2日間とも目一杯のお客さんが客席を埋めてくれましたからね。すごく気持ちよかったですよ。因島の公演に関してもね、因島に住んでいる方はもちろん、外からもたくさんの方が来てくれて。そういう光景を見ると、自分らは本当に幸せなキャリアを積ませてもらっているなと実感します。3公演ともライブ自体、すごくよかったですしね。自分たちとしていい演奏ができていることを感じながら、お客さんも含めてみんなでポルノの楽曲を歌うことで25周年という節目を迎えられたのは本当によかったなと。

──因島公演では、因島の名産であるはっさくをモチーフにした尾道・因島のイメージキャラクター“はっさくん”が登場し、ポルノが作詞作曲を手がけた「はっさくんのテーマ」が披露されましたね。

岡野 あの曲はね、10歳くらい年下の親戚の子にお願いされたんですよ。2年ほど前に「ひと兄ちゃん、ちょっと曲作ってやってよ」って言われて、断れなかったという(笑)。ポルノの25周年と、はっさくんの活動10周年に合わせてようやく披露できた感じで。

「因島・横浜ロマンスポルノ'24」因島公演の様子。(撮影:上山陽介)

「因島・横浜ロマンスポルノ'24」因島公演の様子。(撮影:上山陽介)

──作曲は昭仁さん、作詞は晴一さんですね。疾走するロックなサウンドの上に乗る、因島の風景が感じられる歌詞がすごくいいんですよ。

新藤 そうね。ここは別に作家性とかを出すところじゃないので、因島の人が楽しく歌ってくれたらいいなという思いで素直に書けました。因島の風景に関しては自分の中にずっと存在しているものなので、改めて取材する必要もないですし、スラスラ書けましたよ。はっさくというテーマに関しても、因島発祥の柑橘類として日本中に広めようと歴々の大人たちが奮闘してきたことも知ってますからね。なかなか柑橘類のメインにはなりきれてないところはあるけど、今回は僕も因島出身の大人としてしっかり推していくつもりで歌詞を書きました(笑)。

──はっさくが因島発祥ということは今回のタイミングで知りましたけど、その存在は昔から知っていたので知名度は高いと思いますけどね。

岡野 へえ、そうなんだ!

新藤 それはありがたい。大人たちががんばったおかげですね(笑)。

岡野 正直ね、因島で育った僕らからするとはっさくの知名度をいまいち信じられなかったところがあるんですよ(笑)。だからある意味、曲作りに関してもすごく気楽で。例えばテーマが“みかん”とかだったら背負うものが大きくて、荷が重いと感じたかもしれないけど、はっさくはすごく気が楽でした(笑)。

──あははは。あと、「はっさくんのテーマ」をお二人の母校である因島高校の生徒の皆さんが歌っているのもエモいポイントで。

岡野 そうそう。しかもね、メインボーカルの女の子は、うちらが大阪で活動していた時期にいろいろ手伝ってくれてた子の娘さんだったんですよ。ライブのあとにそのことを聞いて「え、そうだったんだ!」みたいな。そんな巡り合わせもありましたね。

岡野昭仁(Vo)(撮影:上山陽介)

岡野昭仁(Vo)(撮影:上山陽介)

新藤 その子のお母さんと僕は小学校からずっと一緒でしたからね。昭仁は高校も一緒でしょ?

岡野 うん、一緒一緒。

新藤 そんな同級生の娘さんが時を経て、僕らの曲を歌ってくれるという。本当に偶然だったんだけど、そこには不思議なつながりを感じたところはありましたよね。

「ヴィヴァーチェ」の始まりは鼻歌

──そんなさまざまなドラマを生んだ「因島・横浜ロマンスポルノ'24 ~解放区~」で初披露されたのが、このたび配信リリースされた新曲「ヴィヴァーチェ」です。この曲はどのように制作されていったのでしょうか?

岡野 今回は曲が先だよね。新藤の曲がもともとあって。

新藤 うん。僕はよく(宗本)康兵と一緒に曲やアレンジ作りをすることがあって。僕のアトリエで康兵が弾いてくれるピアノを聴きながら、「ここをこう変えたい」とか「こういうリズムはどうかな」とか、そういうことをよくやるんですよ。この曲もそんなやりとりの中でできたもので、康兵のピアノに合わせて、僕が鼻歌を歌って作った感じでしたね。ご機嫌な感じで(笑)。

ポルノグラフィティ「ヴィヴァーチェ」ジャケット

ポルノグラフィティ「ヴィヴァーチェ」ジャケット

──鼻歌ですか? ギターでメロを付けていくのではなく?

新藤 うん。メロができてからはギターを登場させましたけど、最初は鼻歌。鼻歌って言うとカッコ悪いから、シャウトって言っときましょうか(笑)。そういう作り方はこれが初めてでしたね。

──そこからアレンジを含めて、最後まで形にしていったんですか?

新藤 曲出し用として、デモアレンジをしながら1コーラスだけ作ったと思います。コードとメロディが決まった状態で、僕が細かいアイデアをいろいろ出しながら、それを康兵が拾って、広げていってくれました。康兵とは僕のミュージカル(「a new musical『ヴァグラント』」)のときもそうやって制作をしたんだけど、アイデアをどんどん膨らませてくれるので、本当にありがたいです。

岡野 僕が最初にこの曲を聴いたのは、そのデモの段階で。華やかさのあるアップテンポの曲は、どんな時代もポルノにとっての武器なので、すごくいいなと思いましたよ。しかも今回はリズムアレンジ、特にサビの中のリズムアレンジが面白かったので、そこらへんで新しさも感じましたし。

だったら僕はもっと個に向けて

──作詞は昭仁さんですね。晴一さんの曲で作詞をするのはけっこうひさしぶりですよね。

岡野 うん。今回も新藤が歌詞を書くもんだと思ってたら、なぜか僕に依頼がきて。

新藤 今回は昭仁に書いてもらったほうがよさそうな曲だったからお願いしました。

新藤晴一(G)(撮影:上山陽介)

新藤晴一(G)(撮影:上山陽介)

──「ヴィヴァーチェ」は「カナデビア」企業ブランドCMイメージソングに採用されましたが、歌詞の内容に関して先方からのオーダーもあったんですか?

岡野 ありました。「新しい船出」とか「希望」とか、あとは「カナデビア」という企業なので“奏でる”というワードを入れていただけたら、みたいなお話もありましたね。そういったイメージやキーワードを盛り込みながら、僕らしくストレートな歌詞を書いていければいいかなと。先方からいただいた“奏でる”というワードから派生して、音楽用語でもある「ヴィヴァーチェ」という言葉をタイトルとして探し当てて、そこから内容を広げていったところもありました。

──前作「解放区」と同じくファイトソングと言える楽曲だと思いますが、「ヴィヴァーチェ」はより個に向けたメッセージになっている印象を受けました。自分で選び、動く意思を鼓舞してくれるというか。

岡野 そうですね。「解放区」では先が見えない、光が見えない状況はどんな人にもあるということを新藤が書いてくれて。そのことによって、「つらい思いをしているのは私だけじゃないんだ」と、救われた人も多かったと思うんです。言ってみれば、「解放区」は集団に対しての大きな救いを描いた曲だったので、だったら僕はもっと個に向けて書いてみようと思いました。