佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 10回目 前編 [バックナンバー]
ハロプロソングを中心に名曲連発!気鋭作家の仕事に迫る
シンガーソングライター山崎あおいとアイドルソングの作家仕事を考える
2022年6月24日 19:00 60
陰がある人やキャラが立ってる人がどんどん売れていって…
佐々木 シンガーソングライターって歌詞もメロディも自分で作って歌うから、基本的には楽曲=自分じゃないですか。山崎さんの中では、自分とは違う人の話を作ってみたいという気持ちが、ずっと前からあったんですか?
山崎 音楽を始めたときから、楽曲を通して自分の思いを伝えたいとか、そういう気持ちが全然なくて。単純に曲を作るのが楽しかったんです。
佐々木 それは技術的なことも含めて?
山崎 はい。「今回は、『好き』って言葉を使わずにうまく歌詞を書けたな」とか、そういうことを中学時代から毎日やっていて。それがとにかく楽しかったんです。でも、シンガーソングライターとしてデビューして周りを見渡すと、陰がある人やキャラが立ってる人がどんどん売れていって。私は別に陰もないし、トガっているわけでもないから、そこでは勝負できないなと感じたんです。それで、「その人たちにできないことってなんだろう?」ってひたすら研究して、作詞作曲をオタク的に研究するようなことは、みんなやってないだろうと思って。
南波 内面を吐露するタイプのシンガーソングライターと自分は違うなと。
山崎 そうですね。そこからさらに楽曲制作にのめり込むようになったんです。
佐々木 ちょっとさかのぼりますが、そもそも山崎さんはどういうきっかけで音楽をやろうと思ったんですか?
山崎 もともと、ものを作るのが好きで、アニメーション映画を作ったり、物語を作ったりしてたんですけど、中学1年生のときにYUIさんの音楽を聴いて衝撃を受けて、「この人になりたい!」と思ったんです。スタイルとしてギターを持って歌うのを真似するところから始まった感じですね。
佐々木 YUIさんを知るまではギターも弾いたことなくて?
山崎 はい、全然。
佐々木 山崎さんが書く曲には、すごくドラマ性があって、どの曲にも女の子の主人公がちゃんと存在している感じがするんです。最初から最後まで考えに考え抜かれた構成で、短編小説を読んでいる感覚に近いというか。
山崎 ありがとうございます。
佐々木 楽曲制作をするうえでスランプはあるんですか?
山崎 それは毎回ありますね。何回も書き直します。「締め切りまであと1日あるから、もう1パターン書いておこうかな」とか、すごく不安になっちゃうんですよね。「本当にこれが正解なんだろうか?」とか思って。いつも自信はないですし、怖いなと思いながら書いています。だから歌が入った正式な音源を聴いた瞬間は、いつも「ありがとうございます!」って気持ちですね(笑)。
その主人公を愛せないと思ったら歌詞にはできない
南波 山崎さんは作詞だけ行う場合もありますよね。その場合、「こういう歌詞を書いてほしい」みたいな具体的な要望があるのでしょうか。
山崎 ディレクターさんによるんですけど、「そのまま歌詞にできるじゃないですか」レベルの具体的なイメージを持っている方もいれば、「あおいちゃんらしい感じでお願いします」みたいな方まで本当にいろいろです。ハロー!プロジェクトさんに関しては、わりと自由にやらせていただいていますね。
佐々木 細かく指示されるものとフリーハンドのものだと、どちらが書きやすいですか?
山崎 フリーハンドのほうがやりやすいです。
南波 例えば作詞だけのときは、どういうふうにオファーが来るんですか?
山崎 曲がまず送られてきて「これに日本語の歌詞を乗っけてください」と依頼いただくことが多いですね。最近は海外のアーティストとのコライト作品が多いので、仮の英語詞が乗っていたりするんです。
佐々木 メロディを聴いてイマジネーションを高めて言葉を書いていく、みたいな感じですか?
山崎 そうですね。明るい曲なのか、暗い気持ちで終わる曲なのか、社会的に訴える曲なのか、それとも個人的な気持ちを書く曲なのか、メロディとアレンジが固まっている時点で、楽曲の方向性が半分くらい決まっていると思うので。
佐々木 なんとなくの方向性は示されるってことですね。
山崎 いえ、曲を聴いて、こちらでなんとなく感じ取るというか。「たぶんこういうことなのかな?」という感覚をもとに歌詞を書いていって。逆に、どう裏切ろうかなっていうところもありますけど。
佐々木 曲が求めているイメージを自分なりにつかんで歌詞を書いていく?
山崎 はい。それが合ってるかどうかはわからないんですけど(笑)。
佐々木 そこで大外れするようなこともあるんですか?
山崎 あります、あります。
佐々木 そういうときは考え方を変える感じですか?
山崎 そうですね。でもダメ出しされるときって、だいたい自分でもわかるんですよ。自信満々で「絶対にこれでしょ!」って提出した曲は、ほぼ採用されるんですけど、「なんか違う気がするんですけど、一旦見てもらっていいですか……?」って感じで提出した曲は、やっぱり書き直しになりますね。
南波 そこに関しては柔軟に対応していって。
山崎 すごくドM気質というか、単純に好きなんですよね、「まだまだ!」みたいなことが(笑)。「明日までにやり直してください」みたいなことがあると、すごく燃えます。
佐々木 この仕事にめちゃめちゃ向いていますね(笑)。
南波 それこそアーティスティックな感覚が強い人だったら何がなんでも譲れない部分とかも絶対にあると思うんですよ。でもそこで「もっとオーダーを出してください」ってなれるのは絶対作家に向いていますよね。
山崎 昔からそうなんですけど、自分が書いた曲にあんまり執着がなくて。1回誰かに聴かせたものは「さよなら」って。
佐々木 別にやり直してもいいみたいな。
山崎 そうですね。
南波 ご自身の作品もそうですか?
山崎 ツアーで曲を育てていくみたいなことがあんまり得意じゃないんですよね。曲ができたら終わり、みたいな(笑)。完成したら「よかったね」って、そこがピークになっちゃうので。
佐々木 場合によっては、自分とはかけ離れたタイプが主人公の歌詞も書くことになるわけじゃないですか。自分自身が共感できないような主人公を描く場合は、どのようにしているんですか?
山崎 共感できなくても書けるんですけど、その主人公を愛せないと思ったら歌詞にはできないです。それが自分の中のラインで。「この子の気持ちには共感できないし、私はこういうタイプじゃないけど、でもなぜか愛せちゃうな、愛しいな」と思えたら、全然自分とは違っても書けます。
佐々木 完全に神目線ですね。「こういう人がいてもいい」ってことですもんね。
山崎 そうですね。どんなキャラクターでも“愛らしさ”みたいなものは常に意識しています。
3年の時を経て世に出た、アンジュルム「ハデにやっちゃいな!」
佐々木 具体的な曲の話も聞きたいですよね。直近だと
山崎 あれはけっこう前に提出していた曲なんです。それこそコロナ前くらいに。
佐々木 そのときはアンジュルム用に書いたんですか?
山崎 いえ、とりあえず書いたという感じですね。
佐々木 そういう形の提出もあるんですね。
山崎 はい。あの曲は単純にライブを見たままのテンションで書いた曲で。確か
佐々木 そういう場合は、テンションが高いまま一心不乱に書いていくんですか?
山崎 それこそ超ノリノリでペンライトを振りながら書いてます(笑)。
佐々木 でも結果的に3年近く楽曲が世に出ることがなかった。
山崎 そうでしたね。コロナ禍になってから、ハロプロのライブもバラード中心になっていったので。
佐々木 世相と合ってないみたいな。
山崎 たぶんそういう事情もあったのかなと思うんですけど。
南波 ノレる曲は、ここ最近ようやくリリースされるようになって。
佐々木 確かにコロナ禍においては、しっとりした曲のほうが優先されたのかも。Juice=Juiceの「がんばれないよ」とか。
山崎 あの曲はがっつりコロナ禍に書いたバラードで。私が担当したのは歌詞だけなんですけど。
南波 もちろん偶然だとは思うんですけど、「がんばれないよ」や、
佐々木 「がんばれないよ」もそういうふうにしか聴けない(笑)。
山崎 卒業のことは、まったく知らなかったんですよ。リリースのタイミングとか。
佐々木 わかっていて書いたら採用されないですよね(笑)。
山崎 すごいタイミングだなって思いました(笑)。
南波 特に「涙のヒロイン降板劇」のときは誰もが思ったんじゃないですかね。
佐々木 ちなみに「涙のヒロイン降板劇」は僕の去年のハロプロベストソング1位でした(笑)。
南波 たまたま時期的にシンクロしちゃうことがあるんですね。
山崎 そうですね。どの曲をどのグループで、どのタイミングでリリースするとか決めるのは事務所の方で、私は単純に曲を書いて、あとはお任せする感じなので。
佐々木 けっこう前に提出した曲が突然シングルになったりすることってよくあるんですか?
山崎 ありますね。
佐々木 中にはリリースされて初めて知る、みたいなこともたまにあるみたいですけど。
山崎 本当にあるみたいですね(笑)。私はリリースされてから知るということはなかったですけど。そういう話はたまに聞きます。
佐々木 例えば、この曲はアンジュルムをイメージして書いたんだけど、別のグループが歌うことになったとか、そういうこともあるわけですよね?
山崎
佐々木 今となっては宮本さんをイメージして当て書きしたんじゃないかと思うくらいぴったりハマっていて。
山崎 あの曲は、佳林ちゃんの歌唱力と表現力がとにかくすごいので。一緒に失恋した気持ちになっちゃいました(笑)。
<後編に続く>
山崎あおい
1993年生まれ、北海道出身のシンガーソングライター。「YAMAHA Music Revolution」でグランプリを受賞したことをきっかけに、地元を中心に音楽活動を展開。透明感のある歌声と、等身大の歌詞が同性を中心に支持を集める。2012年8月にビクターエンタテインメントよりインディーズ時代に発表した楽曲をまとめたアルバム「ツナガル」をリリース。2014年1月に1stアルバム「アオイロ」を発表した。以降もコンスタントに作品をリリースしている。最新作は2021年12月リリースのアルバム「√S」。シンガーソングライターとしての活動と並行して他アーティストへの楽曲提供も積極的に行っている。
佐々木敦
1964年生まれの作家 / 音楽レーベル・HEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」の編集長を務める。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。同年8月に78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)、11月に文芸誌「群像」での連載を書籍化した「それを小説と呼ぶ」(講談社)が刊行された。
南波一海
1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル・PENGUIN DISC主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行い、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「
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山崎あおい/Aoi Yamazaki @aoi_punclo
佐々木さん、南波さん!ど緊張しながら行きましたが、とっても楽しい時間でした!ありがとうございました!是非に〜〜↓↓
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