「佐々木敦、アイドルにハマる」

佐々木敦、アイドルにハマる 第1回 [バックナンバー]

きっかけはYouTube

逆回しでたどるアイドルたちの物語

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佐々木敦がここ最近急激にアイドルにハマっているらしい。音楽レーベルHEADZを主宰する一方、音楽、文学、演劇、映画など幅広いジャンルについて長きにわたり批評活動を行ってきた佐々木。常に冷静な視線でカルチャーと対峙してきた彼は、何ゆえこのタイミングでアイドルの魅力に目覚めたのか? かつてHEADZに所属していたことがあり、佐々木とは付き合いの古いライターの南波一海をインタビュアーに迎え話を聞いた。

取材・文 / 南波一海 インタビュー撮影 / 臼杵成晃 イラスト / ナカG

誰にもアディクトされないタイプ

まさかアイドルをテーマに、なんちゃん(南波)に取材を受けるとは思わなかった(笑)。

──自分もびっくりです。

翻訳家の大森望さんもある時期からアイドルにハマったでしょ? 大森さんはなんちゃんのことを超尊敬していて、俺にとっては“なんちゃん”もしくは“南波くん”なんだけど、大森さんにとっては“あの南波さん”だという(笑)。

──文芸界では、大森さんのほうが佐々木さんより先輩になるわけですよね。

圧倒的に大先輩。

──僕は佐々木さんのHEADZで働いていた人間なので、三者の関係におかしなねじれが生じているという(笑)。

一昨日ぐらいに大森さんと話す機会があって、「最近アイドルにハマり気味なんですよ」って言ったら、「どこらへん?」と若干上から目線で聞かれたりして。大森さんだってハマったの最近なのに微妙な古参感を出された(笑)。だから、こんなインタビューが出たら大変だよ(笑)。でも、あの大森さんがあそこまでアイドルにハマるとは思ってもいなかった。

──とはいえ、佐々木さんもこれまでもちょくちょくTwitterでアイドルに言及してきましたよね。

うん。Twitterとかに書いてなくてもけっこうチェックはしてたんですよ。でも自分の中で「表立って書くかどうか」という線引きがあってさ。そのラインを越える頻度が増えつつあるのは、ここ最近の変化ではある。

──どうして変化したんですか?

昔、僕がやっていた早稲田大学の講義に、南波くんにゲストとして来てもらったことがあったじゃん?

──「アイドル・ソング・クロニクル2002-2012」が出たあと。2012年ですね。当時早稲田の学生でBiSのメンバーだった寺嶋由芙さんにも参加してもらって。

一緒に出てくれたもんね。あの頃から多少気にはなっていたんだけど。このインタビューを読んでくれる人たちのために順序立てて話していくと、僕はもともとアイドルはもちろん、特定の誰かの熱烈なファンになることがほとんどないタイプの人間なんです。誰かに夢中になったり、アディクトされて身も心も捧げるようなことが子供の頃から全然なくて。それとは違った形で、興味を持った対象にマニアックに接近するというタイプだった。もちろん世代的には、“アイドル”という言葉が生まれた頃の人間だから、自然とヒット曲なんかは耳に入ってきていたし、アイドルと呼ばれた中にも男女問わず「いいな」と思ったりすることはあったけど、そんなに熱心にチェックしたりはしていなかったんだよね。でも2000年代の一時期に、J-POPについてたくさん書いた時期があって。ちょっとさかのぼれば、つんく♂さんと小室哲哉がクロスフェードするくらいの2000年代初頭に、雑誌「SWITCH」の「さようなら歌謡曲」という特集で自分がメインのライターを担当して、お二人に取材したこともあった。当時、モーニング娘。は「LOVEマシーン」のヒットでブレイクし始めていたよね。

──そうでしたね。

「SWITCH Vol.18 No.2 特集 さようなら歌謡曲」(発行:スイッチ・パブリッシング)

「SWITCH Vol.18 No.2 特集 さようなら歌謡曲」(発行:スイッチ・パブリッシング)

AKB的なものに対する違和感

ちなみに僕は鈴木亜美(当時は鈴木あみ)のプレス用資料に文章を書いたこともあるんですよ。インタビューもしたし。でも、そのとき彼女は、まったく俺の顔を見てくれなかったんだけど。

──忙しさ的にも絶頂期の頃。

ドレスルームみたいな場所でインタビューしたんだけど、メイク中というわけでもないのに、ずっと鏡を見てるんだよ。だから視線が全然交わらない(笑)。その後、彼女はいろいろとあったわけじゃない? だから、あの頃は大変だったんだろうなとか、あとになっていろいろわかった。それから、自分はあの界隈からだんだん離れていって、ずっとアイドルソングは全然聴いていなかったんだよね。そこから時間が経って、2000年代の終盤にAKB48とかがわーっと出てきて、アイドルブームという状況になってきたときに……このインタビューで何度かそういうことを言ってしまうかもしれないけど、俺はAKB的なものに当初ものすごく距離感を感じていて。つまりそれは握手会商法だとか、仕掛け方が好きじゃなかったから。俺は一応音楽批評をやってきた人間だし、音楽レーベルもやってるから、これは自分が考える音楽とは全然違うものだなと思ってしまった。アイドルブーム前夜の2000年代後期って、AKB48がシーンを牽引してたわけじゃない?

──間違いなくブームのきっかけであり、中心ですよね。

それに対して、俺は反感まではいかないけど違和感を感じていたんだよね。で、そのあとに地方のアイドルとか、いわゆる地下アイドルと呼ばれる人たちが台頭してきたときに、南波くんが偶然の導きによって、その世界に投入されていった。その後、すごい勢いでアイドルについて書くようになってさ。南波くんとは折に触れて会ったり話したりする機会があったんだけど、そのときによく覚えてることがあって。南波くんがアイドルの仕事をやり始めてそれほど経ってない、今みたいに頂点を極める前だったんだけど。

──やめてください(笑)。

その頃、南波くんが俺に「アイドルの現場に行ってCD-Rを買うのは、ヒップホップのミックステープを買うのと同じことですよ」って言ったんだよ、それを聞いて「なるほど!」ってすごく納得した。

──そこでしか聴けない新曲があるんだけど、それを入手するのが大変だし、いつの間にか次々とリリースされていくし、いつの間にか買えなくなっていくしという(笑)。

南波くんは日本全国に行って、現場でしか買えない音源を買ったり、地方で活動している人と関わったりということをずっとやっていて、それを僕はなんとなく知っていた。それで「南波くんがそんなにハマるんだったら」と思って、いろいろ聴いてはみたんだけど、なかなかハマれなかったんだよね。

──そんな印象でした。

ハマれなかった一番の要因は歌が下手すぎるってことで。どれほど楽曲的に優れていたり、斬新なサウンドアプローチが施されていたりしても、この歌が乗ったら台無しだろうみたいな気持ちになっちゃうことが多くて。しかもアイドル現象みたいなものって、ある時期からいろんな人が論じるようになったでしょう。僕は批評が好きだから、そういうものも読んでみたりするし、読むと納得する部分もあるんだけど、自分で論じたり、評したりしようっていう気持ちにまではならなくて。だからどこか冷めた目で見ていた。つまるところ僕の場合、何よりもまず楽曲なんだよね。何かの偶然で存在を知って、そのアイドルの曲を聴いてみたら、「あれ? 全然いいじゃん」みたいなことは何度かあった。総称としてのアイドルというよりも、アイドルと呼ばれているこのグループのこの曲、とか、そういう感じでちょっとずつ地ならししてきたような感じ。だから実際には2010年代を通じて、少しずつではあるけれどアイドルの曲を聴こうとはしていたんだよ。でも、ほかのいろんな音楽をいいと思ったり、ほかの音源も聴いてみたくなったりするのとそれほど変わらない感覚で聴けるようになったのは、ごく最近のことで。そういう意味では、確かに自分の中に生まれてきた新しい変化なのかもしれないよね。

南波一海と佐々木敦

南波一海と佐々木敦

アイナ・ジ・エンドの衝撃

──どうしてここ最近で変化していったのでしょうか。

具体的なトピックを挙げると、まず自分にとってBiSHが大きくて。その前にBiSがどういうことをしていたかはそれなりに知っていたんだけど、それはあくまでもサブカル的な興味であって、音楽にはハマらなかった。というかBiSはそういう打ち出し方じゃなかったよね。その後、WACKからいろんなグループが出てきたけど全然興味が持てなかった。でも、たまたまBiSHの曲を聴いたら、あまりの素晴らしさにびっくりしたんだよ。

──どういうきっかけでBiSHを聴いたんですか?

YouTube。俺がアイドルを知るのは全部YouTube経由だから。

──全部なんですね。

そう(笑)。もちろん現場にも行かないし、サブスクで聴くことさえほとんどないから、全部YouTubeなわけ。それはYouTubeを観てる時間が増えたことも関係しているのかもしれない。ここ数年、長い原稿を書く仕事がどんどん増えて、そうすると前にも増してパソコンに向かってる時間が長くなるじゃない。作業の合間についついYouTubeをダラ見するようになって。それであるとき偶然にBiSHのミュージックビデオを観たんだよ。「My landscape」だったんだけど、それで初めてアイナ・ジ・エンドの声を聴いて、「これ、全然アイドルの声じゃないじゃん!」ってなった。それで興味を持って、いろいろチェックしてるうちに「オーケストラ」にたどりついた。あの曲はMVがとにかく感動的なんだよね。一種の百合ものなんだけど。そこから個々のメンバーについても調べたりするようになって、そうするといろんなことに興味が湧いてくるじゃない。ライブ中に「オーケストラ」の終盤でお客さんが一斉にペンライトを掲げるとアイナが泣いちゃう有名な動画があるんですけど、それを何度も観てしまったりとか。そうやってBiSHにややハマリしたのが第1の段階。

──何段階かあるんですね(笑)。

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アイドルネッサンス解散でロスを経験

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