「佐々木敦、アイドルにハマる」

佐々木敦、アイドルにハマる 第3回 [バックナンバー]

努力は決して無ではない

アイドルが現代社会に与える希望

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HEADZ主宰者・佐々木敦が、ここ最近急激にハマっているというアイドルについて語るロングインタビューの第3回。努力がないがしろにされがちな現代社会にアイドルが与える希望や、かつては侮蔑の存在ですらあったというドルヲタに対する気付きなど、今回も佐々木が怒涛のテンションで語る。

取材・/ 南波一海 インタビュー撮影 / 臼杵成晃 イラスト / ナカG

メカニズムをわかったうえで感動できるのが重要

──歌唱という点でいうと、佐々木さんが何度も言及している、ゆるめるモ!はまた少し違う視点で聴いてるんじゃないですか?

ゆるめるモ!に関しては、とにかく初期の名曲「逃げろ!!」がめちゃくちゃ好きで。日本社会って特にある時期からやたらと「逃げちゃダメだ!!」ってメッセージが発されるようになったじゃない。それ以前に浅田彰の「逃走論」的な、経済的繁栄を背景にした余裕しゃくしゃくの“逃走”が顕揚されてたことの反動だと思うんだけど。でもゆるめるモ!は、はっきりと「苦しかったら逃げていい」と歌ったわけで、本当にいい歌詞だなと思って、初めて聴いたときはすごく感動した。だからゆるめるモ!は、まず楽曲というか小林愛の作詞に感動したんだよね。で、ライブ動画を観たんだけど、マジで歌えてないなと思ってしまった。

──初期のライブはそれこそゆるくて。

その後、あのちゃんの人気が出過ぎて、俺はグループの誰かに人気が集中したりするのが好きじゃないから、それでちょっと離れちゃったんだよね。ゆるめるモ!は楽曲の幾つかはいいと思う。でも、楽曲の幾つかがいいっていうレベルで好きなアイドルならいっぱいいるんだよね。ただ……単に人気が出たり注目されればいいとはやっぱり俺は思っていないし、人気が出る出ないとか、売れる売れないだけを重要視するんだったら、そもそもHEADZなんてやってないよ(笑)というのがあるんだけど、やっぱりそのあたりの明暗って、あるじゃない。

──アイドルの場合は仕組み的にどうしても売れないといけないというのはありますよね。バンドやシンガーソングライターだったら、もしメーカーや事務所が離れたとしても、自分たちでなんとかできたりするんですけど。

俺はアイドルネッサンスがすごく好きだったけど、なんで解散したかというと、たぶん結局はマネタイズができなかったからじゃん。

──解散時、「状況を大きく打開し、ブレイクスルーさせることが出来ませんでした」という発表がありました。

当然そういうことは、あらざるを得ないよね。僕も大人だし、ずっと音楽業界にかかわってきたから、なんらかの商売的なメカニズムが透けて見えることはもちろんある。それをわかったうえで、それでもなおかつ感動できるかどうかが重要なんだよね。そういう意味では、幾つもの「騙されないぞ」フィルターを通り抜けて、俺の感動ポイントまでやってくるアイドルが、こんなにいたんだっていう驚きはある(笑)。

──実はたくさんいたという。

佐々木敦と南波一海

佐々木敦と南波一海

アイドルは「努力が報われる仕事」

あと歌の話でいえば、いわゆるAKB / 坂道系の人たちって、基本ユニゾンじゃない。もちろんユニゾンで歌うことのよさもあるよ。例えば嵐は男の子たちがユニゾンで歌うことのよさがすごく生かせてるグループだと思う。アイドルを歌唱面で見たときに、やり方として大きく分かれるのは、やっぱり歌割りとユニゾンの違いだよね。つんく♂という人が考え出した、歌割りとかダンスのフォーメーション、あとどんどんメンバーが入れ替わっていくシステムは本当に画期的で、1つの発明だと思う。あまりにも人気の集中するメンバーがいると、その人が辞めてしまうことが大事件になる。なんで大事件になるかというと、もちろんファンも動揺するし、身も蓋もなく言えば今後の収益が減るからだよね。だから解散とか誰かが辞めるとかになると、そのときの瞬間最大風速で、とにかく儲けられるだけ儲けておこうみたいな感じになってしまう。それが俺はすごく嫌なんだよ。でもハロプロって、辞めることに対してかなり自由な感じがするんだよね。誰かが所属グループとは別の道や、アイドルとは別のことをしたくなったら、もちろん一定のプロセスは踏む必要があるけど、基本辞めてもいいっていう。露骨に引き留められるようなことがあんまりなさそう。で、なんでそうなってるかというと、人材が豊富にいるから。

──昇格を待ちながら日々研鑽しているハロプロ研修生がいますね。

誰かが辞めたとしても補充をして、そのことによって新陳代謝が起きていくのは、すごく健康的なこと。どんどんメンバーが替わっていくことも、会社としての対処の仕方がとてもいいと思う。アップフロント偉いなって(笑)。そういう人材のシステムと歌割りみたいなことは全部関係あると思うんだよね。1人ひとりに対して、どれだけちゃんと自分の存在価値を本人が感じられるようにしてあげられるか、という。メンバー間であまりにもデコボコができちゃうと、「私は結局添え物なのね」とか「〇〇ちゃんを輝かせるために私はいるんだ」とか思っちゃいがちだし、事実としてそうなっちゃったりするじゃん。そこをどうやったら回避できるのかっていうのは、すごく重要な問題で。

佐々木敦

佐々木敦

──そこのケアは本当に難しいんだろうなというのはどこを見ていても思います。

歌がうまい下手というのはもちろん、かわいい、かわいくないというのもそうで。美少女コンテストをやったら上位に来るような人ばかり集めてるグループは僕は嫌なんだよ。そうじゃなくて、ルックスに自信がなくてもアイドルになりたい子だっていっぱいいるわけで、それはすごくいい意味で自己実現への純粋な欲望で、段々アイドルブームがそっち方向に展開していったのは、本当にいいことだと思う。その半面、わりと簡単にアイドルをやれちゃうってことのよくない点もあるとは思うよ。だってロクに努力しなくてもなれちゃったりするから、ちょっとイヤなことがあっただけで辞めちゃったりするわけじゃん。

──確かに。

でも、本気でアイドルになりたくてなった子は、何年間かでものすごく魅力的になるんだよね。それはルックスうんぬんだけじゃなくて、もっと総合的な輝き。そうするとファンが増えていって、結果的にその子の中に自信が生まれるわけじゃない。自己承認欲求って、実は他者からの承認欲求なわけだけど、でも本当はやっぱり「自分で自分を認めてあげられる」のが目標だと思う。誰か忘れたけど、ハロプロのメンバーがインタビューで、「アイドルってなんだと思います?」って聞かれて、「努力が報われる仕事です」と答えてた。努力した本人がそう言えるのって素晴らしいなと思った。努力が報われる仕事って今、本当にないじゃない。僕は日本って“努力”というものがすごくないがしろにされがちな社会になってると思う。恋愛とかでもさ、よく言われることだけど、昔の「101回目のプロポーズ」の「僕は死にましぇん!」みたいなのって、今同じことをやったら完全にストーカーでアウトなわけじゃない。

──それはそうだと思います(笑)。

ちょっと前に居酒屋でメシ食ってたら槇原敬之の昔の曲が流れてきて、なんて曲かはわからないんだけど、「例え君が振り向いてくれなくても、最後まで僕は君のそばにいるよ」みたいな内容の歌詞だったの。これって今だと超ヤバい奴にされちゃうわけじゃん(笑)。ぱっと聴いたらヤバいんだけど、要するに歌ってることは「君に好きになってもらえるように僕は努力を続けたい」ってことなの。別に「ずっとお前に付きまとい続けるぞ」って意味じゃない。だけど、今はああいう歌詞ってすぐさまアウトだよね。で、俺はそれって、つまり努力しても無意味という裏返しのメッセージだと思うわけ。答えというか評価が最初から決まっていて、そこから逆転しようとしてもしょせんは無駄、みたいな。これは恋愛だけじゃなく、社会的 / 経済的な階層もそうだと思うんだけど、貧富や社会的地位があらかじめ固定されていて、もはや動かしがたい。で、そのことについて、みんな若干のあきらめみたいなものがある。“持てる者”は初めからいろいろなものを持っていて、“持たざる者”は持たされてないから持つことができない。“持たざる者”は“持てる者”を目指すのではなくて、ただ羨望や嫉妬することしかできない。だから努力するだけ無駄と考えるほうが相対的にクレバーに見えてしまう。

大河ドラマを観てるような気持ち

──映画「パラサイト 半地下の家族」でそういうくだりがありましたよね。計画を立ててもうまくいかないからノープランがいい、みたいな。

今の日本で努力や才覚だけで上に行くのは本当に難しい。ゼロ年代にホリエモンとかがそういう志向を標榜したことがあったけど、日本人のメンタリティって、どういうわけか、ああいう成り上がり者を嫌う場合が多くて、なのに最初から金や権力を持ってる人は崇めへつらったりする。今の日本社会には、努力や研鑽を敬遠する空気が根強くあると思う。でも、「そんなことない、努力すれば何かしら報われることがある」っていう希望を与えてくれるのも今のアイドルシーンのいいところだと思う。これは子供にも夢を与えてると思うよ。それこそモーニング娘。なんて「小学2年生のときにモーニング娘。を好きになって、いつか入りたいと思ってました」みたいな子が5年後とかに本当にメンバーになったりしてるわけじゃん。

──ハロプロに影響を受けてアイドルになった人は本当に大勢います。ハロプロのメンバーに限らず。

それってすごい感動的なことだよね。だからこっちは今や、膨大に登場人物がいる、ヒロインも山ほどいる、長い長い時間にわたる大河ドラマを観てるような気持ちになってるわけ。全部YouTube経由だけど(笑)。

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