「佐々木敦、アイドルにハマる」

佐々木敦、アイドルにハマる 第3回 [バックナンバー]

努力は決して無ではない

アイドルが現代社会に与える希望

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ふと気付いたらAKBも好きになってる可能性がある

──それこそ、「ASAYAN」でモーニング娘。と鈴木亜美をチャートで競わせていたこととか、当時本人たちはすごくつらかったと思うんですけど、それをもっと露骨にしてエンタテインメントとして見せたのがAKBの総選挙でしたよね。競わせることの緊張感を最大限に高めてエンタテインメントに昇華するという。

本人たちじゃなくてファンに競わせたっていうのが秋元康の発明だよね。つまり人気投票にしちゃった。ある時期からアイドルグループの人数が増えていくという傾向が高まっていって、それはまずAKBによって一気に膨張するわけだけど、そういった傾向は以前からあった。ある意味、美少女ゲームに似てると思う。美少女ゲーム知らないけど(笑)。美少女ゲームって女の子がたくさん出てきて、どんなユーザーでも自分の好みに合う子が1人は見つかるようになってるんだよね? それはマンガもそうで、マンガもある頃から女性のメインキャラが複数いるようになってきた。これは一種のハーレムみたいな考え方だし、多様なニーズに応えるということだよね。今わざとビジネスくさい観点で語ってるけれども、これは否めないことだと思う。そこに対する批判的な気持ちも僕にはかなりあったんだよね。だからモーニング娘。やアイドルグループのメンバーが増えたり減ったりすることにも正直疑問があった。でも今ではメンバーの増減にはいい面があることがよくわかった。だから、今はこうしてAKB的なものに対してあれこれ物申してるけど、単に俺が思い込んでるだけっていう可能性もけっこうある(笑)。

──よく見れば好きなところを発見するかもしれない(笑)。

ふと気付いたらAKBや坂道系も好きになってる可能性がなくはない。だから自分でも怖いんだよ、受け入れ態勢がすごくて(笑)。どこかで止めないと。だって今日も南波くん、さっきからずっと引いてるもんね(笑)。

──佐々木さんの勢いがすごすぎてびっくりしてます(笑)。アイドルブームの波に乗ってハロプロが盛り返していったのは、ユニゾンの歌やリップシンクのパフォーマンスへのカウンターみたいな面もあったと思うんですよ。メディア露出が減ってもパフォーマンスを磨き続けていて、いざブームが到来したときに、「生歌でここまでできるんだ!」っていう発見から注目が集まったところが大いにあると思っていて。

そうそう。口パク、生歌問題もある。まあ俺は状況次第では口パクでも別にいいんだけど。でも、それこそハロプロの人たちって、あんなに激しく踊りながら生歌でやってるわけで、どういう肺活量をしてるんだろうって気持ちになるよね。あれは、やっぱりとんでもない努力をしてないとできない。才能だけに固定しちゃうと人間って最初から選別されちゃうけど、努力とか「こうなりたい」っていう気持ちが結果を出すっていうことを見せられるのは、単純にすごくいいことだと思う。

南波一海と佐々木敦

南波一海と佐々木敦

かえでぃーの加入動画を何度観たことか

──例えばモーニング娘'20の加賀楓さんは本当に努力で夢をつかんだ人だと思うんです。研修生歴が4年と長く、同期や後輩がどんどんデビューしてく中でもがんばり続けた苦労人じゃないですか。派手なタイプではないかもしれないけど、ハロプロには努力を評価する土壌があり、そこで結果を残した。だから加賀さんがモーニング娘。に入ったときは、みんなが泣いたし。

そう! 俺、かえでぃー加入の瞬間の動画を何度観たことか。

──何度も観たんですね(笑)。

マジで何回も観ましたよ。「人間関係No way way」では最後、加賀楓がセンターに立つんだよね。工藤遥が卒業してからは、加賀楓がショートカットということで短髪補充みたいなことになった。ショートってやっぱり目立つじゃん。だから、「1人だけショートの子がいるな」とは思ってたけど、当時は名前も全然知らなくて。「人間関係~」のMVを観たとき、またコメント欄の話で恐縮ですけど(笑)、かえでぃーがセンターに立ったことに感動してるファンがいっぱいいたわけ。「やっと、かえでぃーが認められた!」とか。で、こんなふうに思われている子なのかと思って検索したら、加入の瞬間の動画が出てきて。

──そこからまた、さかのぼって。

そう。そしたら、かえでぃーが新メンバーとして部屋に入ってきた瞬間に牧野真莉愛が驚きとうれしさで泣き崩れるシーンがあって。2人は研修生で一緒だったから。「ずっと待ってた」って言って。その後、かえでぃーは、ニコニコ笑ってる横山玲奈の横にいって、泣きそうになりながら自己紹介してた。あの動画を何度観たことか(※動画の36分50秒付近)。

──もう歌とか曲が関係ない(笑)。

あれはかえでぃーがおばあちゃんになっても自分で観れる動画だよ。「50年前、私はあんなにうれしかったんだ」って。そんなこと俺たちにはないじゃん、当たり前だけど(笑)。しかも加賀楓は加入後に歌も踊りも、さらにどんどんうまくなってるよね。彼女は女の子にも人気が出るタイプだから、今までモーニング娘。にいなかったタイプ。今のモーニング娘。って、あまりにもメンバーのバリエーションが豊富で、普通だったら絶対に成立しないような感じじゃん。でも、それはさっき話したような、男性目線の多様なニーズに応えるというのとは全然違う。言ってしまえば偶然だよね。誰かが辞めて誰かが補充されて、ということを繰り返していたら、いつの間にかああなってたという。

──誰がいつ辞めるかなんて、わからないですもんね。

そうそう。これはユニゾン問題とも関係があって、ダンスもそうなんだけど、全員に同じ振りをそろって見せられると、「おお!」って思う。でもそれってマスゲームだよね。見た目も年齢も相当に違う人たちが、同時にいろいろ動いていて、なのに全体を見ると、ある統一感を持ってるみたいなものが俺は好きなわけ。今のモーニング娘。は完全にそうじゃん。アンジュルムの「46億年LOVE」の振りって、普通だったら左右をそろえるところを故意にバラしてるんだよね、あれも同じ。こういうことを考え出すと、語れば語るほどハロプロとほかのアイドルとの違いみたいな話になってしまう。だから「最近アイドルにハマってるそうですが、乃木坂とか日向坂とかはどうですか?」みたいなことを聞かれるのが一番怖い(笑)。申し訳ないけど、今のところ全然興味がないから。

俺は大人の仕掛けに踊らされてるのかもしれない

あ! もう1つ言いたかったのが、俺、神宿は前からけっこうチェックしてるんだよね。

──曲が毎回いいんですよね。

Wiennersの玉屋2060%を始め、優秀なソングライターが楽曲を手がけてて、名曲が多い。UUUM所属ってのもユニークだよね。ようやく売れ始めてるのか、こないだ渋谷のセンター街でベスト盤が流れてて、めっちゃびっくりした。

──だから一概に、容姿が整った子を集めましたみたいなグループはつまらないという見方もすべきではないと思うんですよね。

確かに。神宿はメンバー全員、相当なレベルでかわいいよね。しかも、ちゃんと歌もうまい。だから結局、ルックスはある意味では全然問題じゃないというか、かわいい子はかわいいだろうし、多少かわいくない子だってアリということでしかない。ただ、かわいい女の子たちを大人が選んできて、「ほら、全員かわいいでしょ。好きでしょ?」みたいにする感じが嫌なの。そりゃ俺だって、そういうグループを見たら「おいおい、かわいいな」とは思うよ。けど、それってあまりに当たり前のことだし、見たまんまだから想像力が入る隙間がないよね。俺はYouTubeを観ながら勝手にいろいろと、その人なり、そのグループなりの余白を想像で脳内補完して感動してるから、そういうことができないぐらいすべてが与えられちゃってると、自分には入っていけない感じがしてしまう。そういう意味でもハロプロはすごいなと思う。「こんなことになってたのか!」って叫ぶぐらい驚きの現状だなと(笑)。以前「モーニング娘。は何度でも黄金期がやってくる」みたいなコピーがあったけど、あれって本当だなと思って。

──もう、めちゃ純粋(笑)。

大人の仕掛けが好きじゃないとか言いつつ、実は大人の仕掛けに踊らされてるだけなのかもしれない。でも、むしろ今は踊りたい(笑)。

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベルHEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。文学ムック「ことばと」編集長。2020年3月に「新潮 4月号」にて初の小説「半睡」を発表した。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル「PENGUIN DISC」主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行ない、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。

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