「佐々木敦、アイドルにハマる」

佐々木敦、アイドルにハマる 第3回 [バックナンバー]

努力は決して無ではない

アイドルが現代社会に与える希望

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アイドルの活動は部活だと思えばいい

──でも、こうして話を聞いてると、さすがにアイドルを好きになりすぎている気もします(笑)。大森望さん的な段階までいく可能性が。

大森さんは現場に足繁く行ってる。でも僕は全然行かないから。そういえば去年「TOKYO IDOL FESTIVAL」のレポートをしませんかっていうオファーが来たんだよ。あれはどこから来た話だったかな。

──音楽ナタリーですね(笑)。

そうだったのか(笑)。確か南波くんが、「編集部からそういうオファーが行くと思います」って連絡をくれたんだよね。あのときに俺は初めてそんなイベントがあることを知ったの。あれだけの規模で同時多発的にすごい数のアイドルが出てるんだと驚いた。タイムテーブルを見て仰天しちゃった。これを南波くんは全部観てるのかと。

──全部は観てないです(笑)。普通のフェスは転換の時間があるのに、アイドルはオケがあればライブをやれちゃうんで、終わったらすぐに次のアイドルが出てきてひっきりなしなんですよ。だからああいうタイムテーブルが組める。

結局、レポートは断って、TIFにも行かなかったんだけど、決して行きたくないわけではなかったんだよ。というか俺の場合、すごくよくあることなんだけど、行ったら絶対ハマってしまうと思ったんだよね。

──あはははは!(笑)

俺は自分で自分にシールドを掛けておかないと、かなりなんでも受け入れちゃうから。拒絶とか嫌悪する力が弱いというか、他人の影響がインストールされやすいし。すごく昔、テクノが流行り始めた頃に「何がテクノだよ!」とか思ってたのに、実際クラブに行ってみたら、気付いたときには踊ってたからね(笑)。そうなってしまいかねないので、仕事の合間にYouTubeを観てるぐらいがちょうどいいんじゃないかな。アイドルだけじゃなくて、とにかく最近はYouTubeを観てる。いわゆる人気YouTuberとかは全然観ないんだけど、お笑い芸人と犬の動画もかなり観る。とにかく犬が好きすぎて、死ぬほどワンコ動画も観てる。

──面白すぎる(笑)。普通に超定番のコンテンツじゃないですか!

YouTubeを観てると、ついついコメント欄も読んでしまう。例えば女性芸人のコメント欄を見ると、どれだけ面白いネタをやってても、コメントは「かわいい」ばっかりなんだよね。Aマッソとか、せっかく面白いネタをやってるのにさ。「そういうのってどうなのかな」とか思いつつ、とにかくコメントを見ちゃう。僕、Amazonのカスタマーレビューも超よく読んでるからね。それであるとき、アンジュルムの動画を観てたら、船木結が辞めることに対して、「運営はこんな才能がある子を取り逃がしたことを反省しなきゃいけない」みたいなコメントを見つけた。この子はアイドル界に必要だからとか、このグループに必須だから、って思うファンの考え方もわかるけど、俺は全然そういうふうに考えないタイプなんだよね。もちろんそういうファンだって、そのアイドルへの愛やこだわりからそう言ってるのだろうけど、意識として半分運営側というか“仕掛ける側”になってしまってるというか。で、それがともすればある種のアイドルファンが陥ってしまいがちな“上から目線”とつながってるような感じもあって。そういう感性が、辞めたくてもなかなか辞められないという人気メンバーゆえの悲劇を呼んでるという気もする。だから、アイドルの活動は“部活”だと思えばいいんだよ。それこそ、アンジュルムのメンバーが、わちゃわちゃしてるのを見ると、これって要するに女子高の部活だよなって思う。まあ部活よりも年齢差があるんだけど。部活って、絶対に先輩が引退していくわけじゃん。でもその代わりに新入生が入ってくる。アンジュルムならアンジュルム、Juice=JuiceだったらJuice=Juiceっていう部活の中に、いろんな子が出入りしていく様子を定点観測していけばいい。俺はそういうふうに勝手に思ってる。今は10代の前半にデビューして10代のうちに引退とか、めっちゃあるじゃん。

──進学のタイミングで、とか。

進学が多いと思うんだけど、その子の人生全部を考えたら、アイドルとして活動していた時間って、すごく貴重な思い出だよね。アイドルを卒業して大学や専門学校に行ってさ、普通に就職して結婚したとしても、10代のある時期、自分は武道館の舞台に立っていたんだ、っていうものすごい記憶を持つ人が今どんどん生まれてるわけで。それってすごくいいことだと思う。その人自身にとっても、例え誰にも言わなかったとしても、その後の人生で困難や苦境に見舞われたとき、どれほどの力になるか。

──しかし、YouTubeのコメント欄からでも話が広がりますね(笑)。

アイドルを好きな気持ちこそが“尊い”

俺はドルヲタ的なメンタリティに対してもかねてから思うところはあったわけ。一番マズいのは疑似恋愛的な感覚だよね。疑似恋愛的な錯覚を醸し出すような仕掛けをある種のアイドルグループはやっちゃったわけじゃん。俺はそれもすごく嫌だった。でも、それはアイドルが悪いわけじゃない。ファンの中にはタチの悪い人もいる。だけど、そういうことをビジネスモデルとしてこしらえた大人が一番悪いという気持ちがあった。こと音楽業界において、いわばパンドラの箱を開いてしまったと俺は思ってた。だから、そういう見え見えの罠にハマってしまう一部のアイドルファン、それこそ買ったCDの枚数を自慢するようなドルオタのことを以前の俺はかなり侮蔑していた。でもここ最近になって、そういうのとは全然違う、いいなと思えるファンがたくさんいることがわかってきたんだよね。

──というと?

最近のアイドルファンって、よく“尊い”って言うじゃない。あれって、要するに“好き”を超えてるっていう意味だよね。単に“推し”とか“萌え”とかじゃないんだと。“尊い”=“リスペクト”だよね。最初に“尊い”っていう表現を目にしたときは、「なんかキモイな」って気持ちになった。でも、いろんなグループがいて、辞めていくメンバーに対しても温かい声を掛けるファンがすごく多かったりとか、そういうのを見てるとだんだん、ああ、“尊い”っていうのは、アイドルが尊いだけじゃなくて、ファンがそのアイドルを好きな気持ちこそが“尊い”んだと、俺は思うようになったわけ。

──それはすごい視点。

まったくの他人のことを、そんなふうに尊重する気持ちになれるのは、すごくいいこと。俺がドルヲタに対して感じる嫌な面は、上から目線みたいなことなんだよね。女性蔑視みたいな。よくK-POPと日本のアイドルの違いみたいなことで、K-POPは徹底的に育て上げるからデビューした時点で完成してる、でも日本は努力とか伸びしろを見せる文化だとかって言うじゃない。でもそれにもいい面と悪い面がある。いい面は、さっきも言ったように努力すれば報われるかもしれないということ。悪い面は「キミ、がんばってるね、引き続きがんばりたまえ」とか言いたがるファンが出てくること。人の努力に対して上からいい子いい子するような感じが俺は好きじゃない。それってやっぱりファンの中に変な欲望があると思ってしまう。でもそうじゃなく、本当に純粋な努力とか、あんなふうにしか歌えなかった子が今こんなに歌えるみたいなことを喜ぶのは素敵なことだと思う。だって、なんで喜ぶのかというと、ずっと応援してきたからなわけじゃない。それって本当に“尊い”ことだと思う。しかも女性のヲタだっているわけだから。そういうことを考えると、知らなかったとはいえ、あまりにもアイドルを一面的に見ていたなと思って反省する日々です。

──佐々木さんがファンダムとかアイドルの物語みたいなものをこんなふうに肯定する日が来るとは思わなかったですよ。

いや、アイドルに限らず、基本的にファンダム的なものは今でも嫌なんだよ。でも1人ひとりのファンの気持ちを考えると、そういう中に真実があることは否めない。アイドルのドラマ性みたいなものに関してもそうで、結局、誰かがシナリオを書いてるようなものは、こっちにだってわかるわけじゃない。ドラマは書くものではなくて生まれるものだから。あからさまに見え見えなドラマに踊らされているのを見ると、そういうことさえわからない人たちを金ズルにしてるあこぎなビジネスだと思っちゃう。自分はそういうものとは関係したくないなという気持ちになるけれど、そうじゃないものもちゃんとあるということが、ここにきてようやくわかってきた。やっと気付けました、もっと前に気付いていたらよかったのにな、という気持ちです(笑)。

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