書籍「黒澤明 オリジナル映画ポスター・コレクション」の発売を記念したイベント「黒澤映画ポスターの世界」が、11月27日に東京・代官山 蔦屋書店で開催。黒澤映画の数々で主演を務めた
ポスターは忘れ去られてしまうアート
三船史郎はまず「黒澤さんの30作品のうち、父が出演したのは16作品。ポスターをまとめて本にしていただいてとてもうれしく思っております」と完成をたたえる。井上は約30年にわたって映画ポスターを集め続けるコレクター。もともと配給会社に勤め、映画ポスターをめぐる裏事情を見聞きした経験から「ポスターはどうしても忘れ去られてしまうアート。でも映画の本編と同じくらい後世に伝えていきたかった」という思いを抱え、これまでも映画ポスターに関連する書籍を手がけてきた。
「日本の監督で世界に通用する方はたくさんいらっしゃいますが、文化的、映画史的にも黒澤さんの歩みはあまりにも重い。ポスターのことも誰かが記録する必要があるんじゃないかと思っていた」と、井上にとって黒澤の全監督作を集めたポスター集を作るのは念願だったという。黒澤は東宝を中心に、海外も含めた複数の映画会社を横断して映画を撮っており、ポスター集を作るハードルも高い。黒澤プロや三船プロの了解も得て、東宝、松竹、KADOKAWA、ワーナー・ブラザースなど映画会社との交渉を進めていった。
本書を読んだ三船史郎も「古い作品なので、実はポスターが集まるのか半信半疑だったんですけど、本当にたくさんのポスターがそろっていて驚きました」と吐露。現在、三船プロにはポスターなどのたぐいはほとんど残ってないそうで、展示会などで必要になったときは、三船が出演した映画のポスターを集めているコレクターの力を借りることもあるそう。三船敏郎が主演し、黒澤の代表作とも言える「
終戦直後のポスター事情
三船敏郎と黒澤がタッグを組んだ作品で、三船史郎が特に思い入れがあるのは、自身が生まれた1950年に公開された「
さらに「今はなかなか町中でポスターを見ることはなくて、シネコンのショーウィンドウが多いですよね。でも当時は理髪店や銭湯、人が日常的に行き来する場所にも多く貼られていたそうです。専用のスペースがあって毎週のように新しいポスターが貼られていて、各社の営業さんが『うちのポスター以外は貼らないで』みたいな、せめぎ合いがあったという話も伺ったことがあります。お客さんには1枚のポスターだけで『これは観なくちゃいけない』と思わせる強いものをデザインする必要があった。監督、キャスト、ストーリー、タイトル、写真。白黒映画の写真でも人工着色をしてカラーのポスターが作られています。映画宣伝においては今より何倍もポスターが重視され、競われていたんだと思います」と語った。
三船史郎が初めて観た黒澤映画は?
三船史郎が初めて観た黒澤映画は、1957年公開の映画「
黒澤との思い出を聞かれると、三船史郎は「黒澤さんの現場は一度も行ったことがないんです。(父は)仕事にだけは家族を連れて行ったりしなかった」と述懐。記憶にあるのは、狛江にあった黒澤の邸宅にスタッフやキャスト、その家族も含めて呼ばれた打ち上げだそう。「今はホテルやレストランでやるのが主流だと思いますが、そのときは黒澤監督の大きなお家で打ち上げ、どんちゃん騒ぎ。裏にお寺があって、そこで(黒澤の娘である)黒澤和子ちゃんと遊んだ記憶があります」と振り返った。
黒澤映画の若い世代への伝承
トークでは黒澤映画の若い世代への伝承という課題も語られ、2人が黒澤映画を観たことがない人に薦める1本を紹介。井上は「短いほうがいいかもしれない。『七人の侍』はハードルが高いですかね。『
三船史郎は、三船敏郎が黒澤と初めて組んだ「
観客からは、三船敏郎が出演した黒澤作品以外の映画から好きな1作を尋ねる質問も。三船史郎は「非常に印象に残っている作品」として、稲垣浩監督による1958年の「無法松の一生」を取り上げる。三船敏郎演じる荒くれ者の主人公がある未亡人と息子にあれこれと世話を焼き、父親代わりのような一面を見せる1作で、三船史郎は「じんと来るような作品です。人力車を引く、北九州の小倉の車夫の話。映画には祭りで太鼓をたたくシーンがあります。撮影所に三船の車が停まっていると、周りのスタッフは『今日も銀座に飲みに行くのか?』などと思われていたようなんですが、この作品では撮影所のダビング室で太鼓の練習を毎日していたそうです」と役ヘと向き合っていた父親の一面を伝えた。
三船敏郎モデルのジーンズお披露目
イベントでは、三船プロがWebマガジンの「ぼくのおじさん」、アパレルブランドのAUBERGE(オーベルジュ)とコラボした三船敏郎モデルのジーンズとTシャツもお披露目。ジーンズは三船が1950年代にはいていたジーンズをイメージソースに制作した2種類のブラックデニムで、三船が実際に愛用していたシャツの生地がコインポケットの裏にあしらわれた。Tシャツでは架空の三船映画のポスターをフランス映画風にデザイン。「勇猛精進」の題字は三船敏郎直筆のものだそう。商品は受注生産となり、詳細は今後「ぼくのおじさん」やAUBERGEから発表される。
2時間に及んだトークの後半、この日が三船史郎の75歳の誕生日であることも明かされた。場はお祝いムードとなり、井上は、俳優としても活動した三船史郎が大学在学中に出演したデビュー作「
最後に、三船史郎は「父が亡くなって28年も経つものですから、それでもこうやって黒澤監督と撮った作品を今でも観ていただけるということを非常にうれしく思っています」と挨拶。井上は「黒澤ファンの皆さんに『自分の本だ』と思っていただけると光栄です。正直、私も金額は高いと思っているんですけど、これでもがんばったということはお伝えしておきたいです(笑)。ただ一生に一度しか実現できない本。後悔をしないようにこだわった自負はございます。皆様に楽しんでいただいて、初めてこの本の存在意義がある。1人でも多くの方に手に取っていただき、将来も何度も見返していただけるような本になったら幸いです」と締めくくった。
「黒澤明 オリジナル映画ポスター・コレクション」は全国の書店およびAmazonなどで販売中。
三船史郎の映画作品
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黒澤明の映画、初めて観る人にお薦めは?
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三船敏郎を父に持つ三船史郎と2時間トーク。「黒澤明 オリジナル映画ポスター・コレクション」発売記念
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