24時間無料で楽しめるBSデジタル放送局「BS12 トゥエルビ」では、1月4日にドラマ「モンテ・クリスト伯」がスタート。2024年にヨーロッパ諸国を中心に配信され、今回が独占日本初放送となる本作では、無実の罪で投獄された若き船乗りエドモン・ダンテスの復讐劇が描かれる。主人公のエドモン・ダンテス / モンテ・クリスト伯爵をサム・クラフリンが演じたほか、ジェレミー・アイアンズ、ミケル・ボー・フォルスゴー、アナ・ジラルドらも出演。全話の監督を、デンマークの巨匠ビレ・アウグストが務めている。
本特集記事では、ひと足先に鑑賞したライター・渡邉ひかるによるレビューで、これまで幾度も映像化されてきた「モンテ・クリスト伯」の中でもより原作に忠実な本作の魅力を解説。“クラフリン版”がいかにエレガントで抜け目のないモンテ・クリスト伯なのか、またそのキャラクターを肉付けする獄中シーンの重要さなどを通して、同作が掲げる普遍的なメッセージを堪能するきっかけにしてほしい。
レビュー / 渡邉ひかる作品紹介 / 脇菜々香
圧倒的なスケールで新たに幕を開ける復讐劇「モンテ・クリスト伯」とは
原作は、1844年に出版されたアレクサンドル・デュマによるフランス古典文学「モンテ・クリスト伯」。日本では「巌窟王」の名で知られ、これまで日本を含む世界各国で幾度も映像化・舞台化されてきた“復讐劇の金字塔”とも言える作品だ。その中でも比較的原作に忠実に制作された本ドラマでは、フランス・イタリア合作による圧倒的なスケールと、美術・衣装・ロケ地の細部までこだわった映像美を楽しむことができる。
舞台は19世紀前半のフランス。若き船乗りエドモン・ダンテスは、嫉妬と陰謀に巻き込まれ、入ったら生きて出られないと言われるイフ城に無実の罪で投獄されてしまう。15年の過酷な囚人生活を経て、エドモンは脱獄。同房で出会った神父に在りかを教わった莫大な財宝を手に“モンテ・クリスト伯”として姿を変え、自分を陥れた裏切り者たちに冷徹かつ緻密な策略で復讐を遂げていく。
主人公エドモンを演じるのは、「ハンガー・ゲーム」シリーズやドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」で知られるサム・クラフリン。共演には「運命の逆転」で第63回アカデミー賞主演男優賞を受賞したジェレミー・アイアンズ、「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」のミケル・ボー・フォルスゴー、「パリのどこかで、あなたと」のアナ・ジラルドらが名を連ねた。監督は「ペレ」「愛の風景」でカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを2度受賞し、1998年版の映画「レ・ミゼラブル」を手がけたビレ・アウグストが務めている。
キャラクター紹介
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エドモン・ダンテス / モンテ・クリスト伯爵(演:サム・クラフリン)
船長に任命され、最愛のメルセデスとの結婚も目前だったが、嫉妬と陰謀に巻き込まれ無実の罪で投獄される。脱獄後、莫大な財宝を手にした“モンテ・クリスト伯”に姿を変え、自分を陥れた裏切り者たちに復讐を始める。
渡邉ひかる レビュー
優雅で容赦ない“サム・クラフリン版クリスト伯”
過去に何度となく映画やドラマになってきた題材だが、今回の「モンテ・クリスト伯」はどの国の人にも通ずる普遍的なメッセージを掲げ、原作のタイムレスな魅力を重視。それは、フランスとイタリアの制作会社が手に手を取り合った合作であること、監督を務めているのがデンマークの名匠で、ハリウッドでも活躍してきたビレ・アウグストであること、イギリスの実力派を中心とした国際色豊かなキャストが顔を揃えていることからも分かる。しかも、ビレ・アウグストに関しては、全8話をすべて1人で監督する力の入りよう。映画監督がドラマシリーズを手掛ける場合、大抵は冒頭の1、2話のみを担当して作品のカラーを作るパターンが多いところ、アウグスト監督は撮影開始時74歳にして、フランス、イタリア、マルタで行われた半年弱のロケを仕切り、19世紀フランスの空気を情感豊かに再現しているのだからあっぱれ。いわゆる映画的なスケールと映像の質感も、監督以下精鋭スタッフの手腕によるところが大きい。
その中で見えてきた特徴は、主人公のモンテ・クリスト伯が非常にエレガントであるということ! 愛する女性との未来を夢見る青年エドモン・ダンテスが無実の罪を着せられ、投獄されるものの再起し、自分を陥れた相手に復讐していく流れはもちろん変わらず。むしろストーリーラインをできる限り忠実になぞっているのだが、のちに謎の伯爵モンテ・クリストと化すエドモンが優雅で容赦ない。投獄前の心優しく無垢なエドモンが華麗なる復讐人となっていく様を、近年めっきり渋さが増し、より格好よくなったサム・クラフリンがスマートに演じている。何度も映像化されてきたため色々なモンテ・クリスト伯がいるのは確かで、誰がどのタイプとは言わないが、恨み節の強いモンテ・クリスト伯もいれば、ド根性を感じさせるモンテ・クリスト伯も。その点、“クラフリン版クリスト伯”は本来の優しさをほんのり感じさせつつもやることはやるし、いちいち抜け目ない。それでいて、人を魅了するだけの絶対的な好感度もある。イギリスの俳優だからというわけではないが、紅茶をいただきながらゆったりと策を練っていそう? きっと、恨みの感情がもたらす見苦しさなどは奥底に仕舞い込みながら。それは愛するメルセデスに対しても同様で、彼の復讐劇は大人のラブストーリーとして身悶えさせるものになっている。実際のところ、後半のとあるシーンでは体がちぎれそうなくらい身悶えさせられた。
ファリア神父が登場する第2話こそが最重要回
そんなクラフリン版クリスト伯を語る上で欠かせないのが、ファリア神父を演じるジェレミー・アイアンズの存在だ。獄中のエドモンに“紳士になるためのレッスン”を施し、一緒に脱獄を目指しもする賢者役に、アウグスト監督は「愛と精霊の家」や「リスボンに誘われて」でも組んだイギリスきっての名優を起用。エドモンがファリア神父と出会ってから脱獄するまでを、まるまる1話を使って丁寧に描いている。何せ大長編とも言うべき原作のため、映像化にあたってはこの獄中エピソードが駆け足になることも少なくないが、今回の「モンテ・クリスト伯」は第2話こそが最重要回。なぜクラフリン版クリスト伯がここまで聡明で優雅になり得たかのアンサーも、ここに詰まっている。ちなみに、クラフリンとアイアンズは「人生はシネマティック!」でちらりと共演済み。今回の再共演を2人とも喜んだそうだが、孤独な獄中生活を何年も強いられてきたエドモンとファリア神父がお互いの存在を知り、「何年も人と触れてなかった」と言いながら抱き合って喜びを爆発させるシーンは涙が出るほどかわいらしい。知恵を授けるだけの賢者に留まらず、エドモンと出会い、自らも生き生きしてくるファリア神父の視点に立つことで見えるものも、物語の大事なメッセージとなっている。
では、勧善懲悪を求めるストーリーの中で、洗練された態度を貫いてきたモンテ・クリスト伯はどこへ向かうのか。結末に触れるつもりはないが、このドラマシリーズがそもそも、どの国の人にも通ずる普遍的なメッセージを掲げていることを気に留めておいてほしい。エレガンスの中に生きてきたモンテ・クリスト伯は、復讐が生むものも、生まないものもきちんと知っている。そんな彼の心の内を受け止めてこそのラストであり、「モンテ・クリスト伯」なのではないかと思う。



