「ビー・バップ・ハイスクール」が、2025年12月14日に公開40周年を迎える。清水宏次朗演じるヒロシ、仲村トオル演じるトオルの2人が喧嘩や恋に明け暮れる毎日が描かれ、1作目のヒットを機にシリーズ化。全6作品が製作され、今なお多くの人たちから愛されている。40周年イヤーの今年は、シリーズ全6作のソフビ付き4KレストアBlu-rayが発売決定したほか、記念イベントの開催などで盛り上がりを見せている。
映画ナタリーでは、芸能界屈指の「ビー・バップ・ハイスクール」ファンであるケンドーコバヤシと、「ビーバップ」を知らない世代の代表としてニューヨークの対談をセッティング。細かすぎるシーンを挙げながら「知らんの?」と迫るケンコバに対し、対談のために1・2作目を観ただけのニューヨークは、当初困惑。しかしニューヨークの2人も、「ビーバップ」のテンポのよいギャグ、危険なアクション、そしてコンプライアンスのゆるさは非常に楽しめたという。世代の違う両者に響いた「ビーバップ」の魅力とは。
取材・文 / 加藤よしき撮影 / 笹井タカマサ
え、このセリフわからんの? リョウや、リョウ!(ケンコバ)
──ケンコバさんは「ビー・バップ・ハイスクール」直撃世代ですよね?
ケンドーコバヤシ 僕の中学時代は「ビーバップ」が大ブームの3年間で、ドハマりしました。いまだに「ビーバップ」を指標に生きているところは多々あります。
──「ビーバップ」の何がそこまで強烈だったのでしょうか?
ケンコバ 今までのヤンキーマンガと180度違ったからです。それまでのヤンキーマンガは、強いヤツと喧嘩して、最後は話のスケールが日本統一とかになってました。「ビーバップ」は主人公たちが最強格との喧嘩を避けたりする。喧嘩の強さに重きを置かないところがめちゃくちゃ面白かったですね。
屋敷裕政 それまでのヤンキーマンガよりポップやったみたいな感じですか?
ケンコバ いや、ポップじゃなくてリアル。本当にそこらのヤンキーの話というか。
屋敷 あ~! なるほど、そういう感じやったんですね。
──ニューヨークのお二人には、この対談前に映画の1作目を観てもらいました。
嶋佐和也 僕は2作目(「高校与太郎哀歌」)も観ましたよ。でも僕が1986年生まれなんで、「ビーバップ」1作目が公開されたのは生まれる前なんですよ。
屋敷 僕も1986年生まれなので、同じです。
ケンコバ (阪神)タイガースのバックスクリーン3連発も知らん世代なんや。
屋敷 その年ですよ、生まれたんが。
嶋佐 直撃したヤンキーマンガも「ろくでなしBLUES」とか「クローズ」とかになるんですよね。ただ、そういったマンガの源流に「ビーバップ」があるのは、なんとなく認識していました。
ケンコバ その頃のマンガ家さんは「ビーバップ」のマンガと映画を浴びて育った世代やからね。
屋敷 あとは芸人さんが(劇中のセリフをマネして)使うから知るという感じですね。それこそケンコバさんらの世代の人がよく使うから。
ケンコバ 山ほど使うから。「こんにちは、小坊主です」とかね。
屋敷 ……えっと?
ケンコバ え!? 「こんにちは、小坊主です」わからんの!? リョウや、リョウ!
屋敷 リョウがどのキャラなのか……?(編集部注:長谷川悟演じる須賀良治。3作目「高校与太郎行進曲」に登場した、高校無期停学組のリーダー)
ケンコバ リョウは原作では中学生なんやけど、さすがに中学生を出すのはまずいんじゃないかってなって、映画では高校に行ってない無職として登場して。ずっとヒロシとトオルから「小坊主」って呼ばれとったんやけど、クライマックスで喧嘩するときに「こんにちは、小坊主です」って言って出てくるねん。
屋敷 なるほど……。
ケンコバ えっ、そもそも高校同士の関係はわかってる?
嶋佐 全然わかってないです。1作目で出てくる、小沢仁志さん(扮するヘビ次)のいるめちゃくちゃ悪い学校、なんでしたっけ?
ケンコバ それは戸塚水産! 戸塚水産は別格なのよ。原作やと、戸塚水産の岸直樹ってやつが出てきたら、ヒロシとトオルが走って逃げるくらいやから。「君子危うきに近よらず~~っ!! さわらぬ神にたたりなしってかぁ~~っ!!」って言って、走って帰るねん。
屋敷 めっちゃ覚えてる!
嶋佐 (手元の資料を確認しながら)戸塚のページってどこですか?
──えっと、小沢仁志さんがここに載ってますが……いや、ここは戸塚じゃないですね。
ケンコバ 俳優さんもドンドン入れ替わるからね。小沢仁志さんは北高の前川新吾もやるから。(※編集部注:小沢仁志は1作目では戸塚水産のヘビ次こと中村竜雄役だったが、3作目から6作目では北高の前川新吾役。この役は1作目では瀬山修が演じていた。このほかにも「ビーバップ」シリーズでは、1つの役を複数の俳優が演じるケースが多々ある)
屋敷 そんなんありなんですか!?
嶋佐 ムチャクチャやってる……。
ケンコバ 小沢さんが演じた北高の前川新吾は1作目とは真逆の役で。ナンパ番長と呼ばれていて、すれちがった女の人とは絶対にセックスをする……あ、ごめん。コーマンかますっていう。
──ビーバップ風に言い換えないでください(笑)。
今よりちゃんとしていないじゃないですか。その危なっかしさがいい(嶋佐)
──では、皆さんのお気に入りのシーンを教えてもらえますか?
ケンコバ 2作目で浅野ゆう子さんが「ダンシング・オールナイト」を歌うシーンです。ヤバいよな、あれ。
屋敷 きれいでしたねぇ。
ケンコバ 俺、ホンマに劇場でズボンに手を突っ込みそうになった。
──やめてください(笑)。では喧嘩に関するシーンでは、どうでしょう?
ケンコバ 喧嘩だと、やっぱり2作目のテルがいいですよね。テルに関しては原作より映画版が好きで、洋品店でジュンとシンペーを襲うところは最高ですよ。(テルの口調で)「城東は数が多いだけのぉー! チンピラの集まりだってぇー! ほざいたなぁー! そのツラに穴開けてぇ! 二度とでけえ口利けねえようにしてやるかぁ?…………アーー!?」。
屋敷 えっと……?
ケンコバ 「城東は数が多いだけのぉー! チンピラの集まりだってぇー! ほざいたなぁー! そのツラに穴開けてぇ! 二度とでけえ口利けねえようにしてやるかぁ?…………アーー!?」。
屋敷 なんで2回やってんですか(笑)。
──世代の方は本当にすぐセリフのマネをされますよね(笑)。
ケンコバ やっちゃいますよね。でも、それが一番危険なんです。中学で喧嘩になったとき、「ビーバップ」の言葉が出てくるヤツがおるんですよ。
嶋佐 あー、マネしちゃって。
ケンコバ 大阪なのに「なにガンつけてんだオラァー!」って標準語で(笑)。それを俺がイジリ続けるっていう。
──(笑)。では、ニューヨークのお二人はどうでしょう?
屋敷 シーンというか、全部のアクションシーンが絶妙にマジで危ないところです。1作目だと電車のシーンとか。
ケンコバ あれは有名! あのシーンはハリウッドのスタントマンでも断るって言うね。危なすぎるって。
屋敷 よく見たらバシャーンって落ちる川もけっこう浅いし。
ケンコバ 別のシーンでは、みんな歩道橋の上から普通に飛び下りてくるやんか。あれ、下に何も敷いてないし。アクション専門でやってる人でも、ようやらんって。
嶋佐 (トオル役の)仲村トオルさんも、とんでもないアクションをご本人がやってますよね。2~3mくらいあるところから、サラっと飛び降りていたし。あれ、すごいですよね。
──ちなみに「ビー・バップ・ハイスクール」40周年の特集では今回の対談以外にも、仲村トオルさんにインタビューを行う予定です。何か聞きたいことはありますか?
ケンコバ 「いろいろな大作に出演されていますが、『ビーバップ』より危険な現場はありますか?」ですね。ボロボロのアーケードの上を走るだけでも危ないじゃないですか。
屋敷 仲村トオルさんは、これが映画初主演だったんですよね。
ケンコバ ゾッとしたやろうな、「これから何十年もこんな世界でやっていくんか?」って。
屋敷 川もそうですけど、1作目の最後に小沢仁志さんと戦うところもヤバいですよね。足もとが昭和の石やからめっちゃ痛そうなんですよ。
ケンコバ 昭和の石ってなんやねん(笑)。
屋敷 本当に普通の建設現場の石というか。嫌な石。
嶋佐 全体的に、今よりちゃんとしていないじゃないですか。その危なっかしさがめっちゃいいですよね。単純にアクション映画として優れていると思います。
屋敷 ドキドキするよね。なんかジャッキー・チェンの映画ぐらいアクションシーンがあって。ずーっと飽きずに観れました。
絶対に誰か、けがしてるじゃないですか(屋敷)
嶋佐 あとは、とんでもないことをしているのに、とんでもないテンポで進むじゃないですか。
屋敷 そうそう!
嶋佐 1作目で歩道橋の上でノブオが制服を脱ぐシーンとか、通行人がめちゃくちゃ集まってて、車がすごいクラッシュするのに、5秒くらいで終わって、次のシーンに行くじゃないですか。普通はリプレイとかスローモーションとかで何度も見せていいシーンなのに。
ケンコバ それが那須(博之)監督のすごさよ。俺たちにとっては(クエンティン・)タランティーノじゃなくて、那須なのよ。俺たちの那須。
屋敷 喫茶店で暴れるシーンもすごかったです。それに敵役が悪すぎるやろと。(中山美穂が演じるヒロインの)今日子の髪を切ったり、小さい弟まで襲ったり。中山美穂さんやのに顔面に青タンあったし。
嶋佐 1作目の最後、仲村トオルさんが小沢仁志さんにバックドロップするシーンとか、本当に落としてますよね。危なすぎる。
ケンコバ 「ビーバップ」は大喧嘩と小喧嘩で構成されるんやけど、大喧嘩の緊迫感はエグいからね。技もどんどんエスカレートしていくし。
屋敷 絶対に誰か、けがしてるじゃないですか。そのあと「勝ったー!」って言うけど、「いやいや!」って(笑)。
──心配が先に来てしまう(笑)。
嶋佐 2作目も最後に延髄切りで、テルが危ない倒れ方をしているのに「勝ったぞー!」。
屋敷 「勝ったぞー!」やないねん! 勝ったあとに仲間がみんなヒョコヒョコ出てくるし。
嶋佐 あれなんなんですか?
ケンコバ トオルが「勝ったぞー!」って言ったら、ヒロシが走って来るのが決まりやねん。
嶋佐 あの終わらせ方がめっちゃ面白かったです。
屋敷 「勝った」って言うた!みたいな。
ケンコバ なんでそこを覚えてて、テルの「城東が……」を覚えてないねん!
屋敷 そういえば地井武男さんもすごいイケイケで。「ちい散歩」のイメージしかないから、びっくりしました。(編集部注:地井武男は映画「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズ全6作で、“ヤクザ刑事”と恐れられる少年課の巡査部長・鬼島を演じた)
ケンコバ もともとコワモテ役者やからね。


