スピッツの楽曲「楓」を原案・主題歌とした映画「楓」が、12月19日より全国で上映中。本作は、ニュージーランドでの不慮の事故で双子の弟・恵を失った涼と、最愛の恋人・恵を失った亜子が、大切な思い出を胸に前へ進もうとするラブストーリーだ。キャストにはダブル主演の福士蒼汰、福原遥のほか、宮沢氷魚、石井杏奈、宮近海斗(Travis Japan)、大塚寧々、加藤雅也らが名を連ねた。
映画ナタリーでは、本作の監督を務めた行定勲とスピッツの大ファンで知られる福徳秀介(ジャルジャル)の対談をセッティング。2人にとって“ラブストーリー”とは。楽曲「楓」の歌詞から紐解く映画「楓」の魅力、福徳が本作を「誰かと見ればよかったなぁ」と思った理由などを語ってもらった。
なお本文には一部ネタバレを含むためご注意を。
取材・文 / 西森路代撮影 / 清水純一
映画「楓」予告編公開中
スピッツの歌詞は解釈の幅が広くて、いろんな読み方ができる(福徳)
──スピッツの大ファンで知られる福徳さんですが、「楓」という映画をどうご覧になりましたか?
福徳秀介 スピッツの歌詞は解釈の幅が広くて、いろんな読み方ができるんですよね。だから、どんなパターンで来るのかと思って映画を観始めて「なるほど、こう来るか」と納得しました。「楓」の歌詞の最初に「忘れはしないよ」とあるので、その言葉がどう映画に出てくるんだろうと思っていたんですけど、早い段階からそれが見えたので、気持ちよく始まったという感覚でした。
行定勲 僕としては、スピッツの歌詞を物語としてなぞってしまうのはちょっと浅いなと思っていたので、作り手としてプレッシャーが押し寄せてくるところもありました。スピッツの歌って、生と死の間を行ったり来たりするもの、死生観が描かれているものもあると思うんです。そして難解なものも多いので、いろんな読み解きができるんですよね。歌詞の断片を切り取ってシンプルに作ることもできるけれど、演出側としては、できるだけスピッツ的な複雑さを描ければと考えていました。
──行定さんにお伺いしますが、楽曲「楓」を映画へと昇華するうえで特にこだわったポイントはありますか?
行定 「楓」って映画的な感じがするんですよね。答え合わせをしようにもできないような。聞く側に委ねているような。だから、これはちゃんと作れれば最高の映画になると思いました。それにスピッツの歌詞って抽象と具体が混ざっているので、風景もちゃんと見えるんです。言葉としては「かわるがわるのぞいた穴から 何を見てたかなぁ?」というところが抽象なんですよね。でも、そのあとに「叶えられない夢もあった」と現実的な話になる。それは個人の具体的な感情の話で。映画の演出をするときにも、抽象的なところが生かされるといいなと思いました。
──「のぞいた穴」のことを考えると、天体望遠鏡のシーンを思い起こします。
行定 歌詞には広がりがあるので、望遠鏡から星を見ていることの先を考えました。なぜスピッツの歌詞には星が出てくるのか、それは悠久とか永遠の象徴かもしれないということや、星の瞬きが我々の住む地球に届くまでの時間に比べたら、恋愛の中の苦悩と向き合う時間は一瞬なんだけれど、だからこそ、その一瞬が大切なんだということ。映画でもそういうものが描ければいいなと思いました。
福徳 「のぞいた穴」の部分の歌詞もよくてスッと耳に入ってきますし、「瞬き」という歌詞は、年月の中の一瞬を想像させますよね。この映画でも「年月」と「のぞく」ということがリンクしていて、しっくりくるものがありました。
恋愛は2人の間に枷があったほうがいい(行定)
──この映画は、ストーリー展開も魅力的ですよね。弟のふりをしてその恋人・亜子と過ごす涼、涼の優しい嘘に気付いていながらも前に進めずにいる亜子。予想のしなかった出来事が起こり、徐々にいろんなものが見えてきます。そのあたりを、福徳さんはどう感じられましたか?
福徳 行定監督に聞くべきか、脚本の髙橋泉さんに聞くべきかわからないんですけど、映画を観ながら「涼と亜子のラブシーン的な表現はどうなるのか」と考えていたんです。事故のこともあって精神的にも難しいのかなとも思ったり……。
行定 恋愛映画を作るときには、必ず脚本家と恋人同士の肉体関係がどうであったのかの議論をするんです。今回は一度だけ涼と亜子がキスをするシーンがあって、それは2人にとって大きなハードルであったということを見せています。2人が踏みとどまっていた過去が明らかになり、また亜子がそれ以上前に進めなかったというシーンになっているので、重要なポイントでもあり、つらい場面でもあります。恋愛は2人の間に枷があったほうがいい。「ロミオとジュリエット」でもそうですよね。涼と亜子の場合は、お互いの踏み込んではいけないという“遠慮”が大きな枷になっています。
福士さんも福原さんも最初からニュートラルでいてくれた(行定)
──福士蒼汰さん、福原遥さんについても伺います。演出をしていて印象に残ったところは?
行定 福士さんも福原さんも最初からニュートラルでいてくれたのがよかったです。作品によっては役作りのギアを入れないといけないものもありますけど、僕はあまりギアを入れず、抑揚のない方向の演技を基盤にしていたほうが脚本の流れが際立つんじゃないかと思っているんです。今回初めてご一緒する2人でしたけど、その感覚が最初から共有できていてよかったです。
福徳 変な質問かもしれないんですけど……バリバリの恋愛映画を演出するにあたって、最初に福士さんにはどんなことを伝えられたんですか?
行定 今回はとにかく「常に息苦しさを持っていてほしい」と言いましたね。あふれる感情もあるけど抑圧してほしい、と。でもキスシーンとか、彼女が寝ているときには感情を出してもいい。涼が自分らしくなれるチャンスだと伝えました。
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恋愛をするとだらしなくなる(福徳)



