「蛇の道」黒沢清が濱口竜介とトーク、「リアリティほど怪しい言葉はない」

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映画「蛇の道」の公開記念トークが本日6月16日に東京・角川シネマ有楽町で行われ、黒沢清濱口竜介が登壇した。

映画「蛇の道」公開記念トークの様子。

映画「蛇の道」公開記念トークの様子。

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黒沢が1998年に発表した同名映画を全編フランスロケでセルフリメイクした本作。愛娘を殺された父親が、パリで働く日本人の心療内科医の協力を得て復讐を遂げようとするさまが描かれる。柴咲コウが心療内科医・新島小夜子役で主演を務め、復讐に燃えるアルベール・バシュレにダミアン・ボナールが扮した。

濱口竜介

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黒沢にとって濱口は、東京藝術大学大学院で教鞭を執っていた際の教え子。黒沢の監督作「スパイの妻」では、濱口が野原位、黒沢とともに脚本を手がけた。濱口は「私は『蛇の道』のオリジナル版も大好きなんです。最初に観たときは、“世界で一番嫌な話”だと思いましたね(笑)。今回のリメイク版も楽しみにしていましたが、また“世界で一番嫌な話”が誕生したなと。でもある種の爽快感と言いますか、突き抜け感も強く感じました。『何があろうと物事は淡々とこのように進行していくのだ』という厳然たる事実を見せつけられたような思いです」と感想を口にする。

黒沢清

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さらに濱口は「まずは天気の話から始めてもよろしいでしょうか」と切り出し「小夜子のアパートにルンバがありましたよね。そのルンバが動き、机に当たって往復する際に光が当たっていました。あれは照明でしょうか?」と問いかける。黒沢は「あれはたぶん、自然光ですね。ルンバがどこに行くかわからないので、何テイクか撮っているうちに自然に光が入ってきました」と回答。驚く濱口に黒沢は「“小夜子が自分の部屋にいる”、シーンによっては“夫から連絡が入る”と脚本に書いてあるけど、そのとき小夜子が何をしているのがいいか思いつかなかったんです。そんなとき“何もしてない”という選択肢が浮かんで、どう表現しようか考えたときにルンバがいいと思いました」と説明した。

左から濱口竜介、黒沢清。

左から濱口竜介、黒沢清。[拡大]

いくつか具体的なシーンを挙げながら劇中の天気について質問した濱口は「改めて伺いたいのですが、黒沢さんにとって“偶然”ってどのくらい大事なものなのでしょうか? 黒沢さんは作り込んでいくスタンスなのかと思っていたのですが、実際のところはどうなんでしょう」と尋ねる。黒沢は「そんなに作り込んでないです」ときっぱり答え、「偶然、晴れていたら晴れで撮りますし、雨が降っちゃったから雨のシーンになったところもあります。なるべく『偶然のままでいいんだ』と考えて撮っています。今はデジタル技術で、雨が降っていても晴れているように(映像を)変えられるんですよ。ただ僕は偶然を生かしたいから、そのときの天候はなるべく生かす。でもちょっとだけいじる、って感じで作っていきましたね。現場の曇りを生かしつつ、手前の人間だけは明るくするとか」と語った。

黒沢清

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続けて濱口が「やはり現場で起きたことが信頼できるのでしょうか。物語に奉仕するよりも、その場で起きたことに従うことが基本ですか?」と問うと、黒沢は「映画学校の講義みたいだね」と笑みをこぼす。そして「映画とはなんだろう?ということに触れる悩ましい問題ですね。正直に言いますと僕は古い人間なので、撮影現場で撮ったものは一回限りの貴重なものだから、可能な限り大切にするという考えが染み付いていて。フィルムで撮っている時代は、そうだったんですよ。でも全然違う考え方もありますよね。僕の経験上ですと、フランスの方はあとから加工できると考える方が多かった。後ろに映った人を消したりね。でも僕は『たまたま映ったならいいじゃない』と思ってしまって、“消す”という発想にはなりません。セリフも、多少脚本と違っても俳優が現場で言ったことなら貴重だと思います」と言葉を紡いだ。

濱口竜介

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濱口は「柴咲さんの目が作品を占めていますよね。きっと、勘のいい方なんだろうと思いました。余計なことが一切なくて、その場で黒沢さんのビジョンとどう共鳴するか探っているように見えました。威厳を持って映画の中に存在していた。ダミアン・ボナールさんも本当に素晴らしい。急に笑い出すところが怖くて、とても好きでした」とメインキャストを称賛。黒沢は「お二人には感謝しかないですね。ダミアンは座ってぼーっと成り行きを待っているシーンが多いんですが、本当にうまく演じてくれた。『この人、本当に何をするかわかってないんだ』というのが全身から滲み出てくるようで」と回想する。また黒沢は「オリジナル版とは異なり、今回はメインの2人を男女にしたことで、ときどき“怪しい感じ”になるというか。このあと2人はどうなっちゃうんだろう?っていう、微妙な気配は自然に漂ってきたのかな」と話した。

最後に濱口は「劇映画とリアリティについてどう考えていますか?」と質問を投げかける。黒沢は「わりとどうでもいいこと」と返答。続けて「あることをすごく変だと言う人もいれば、『あるある』と思う人もいる。リアリティほど怪しい言葉はない。映画を作るにあたってリアリティの基準を設けるために監督はいますから」と述べ、「リアリティは面白さと関係がないことだと思う。とはいえ、監督が信じるリアリティはワンカットごとに追求していくべきだと思います。それが作家性とか個性になっていくんじゃないですか。なんだかまた講義みたいになっている……(笑)」と締めくくった。

「蛇の道」は全国で公開中。

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西森路代 @mijiyooon

読んだ。「とはいえ、監督が信じるリアリティはワンカットごとに追求していくべきだと思います。それが作家性とか個性になっていくんじゃないですか」と。

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