松本穂香

俳優デビュー10周年記念インタビュー 第1回

松本穂香インタビュー|10年の活動を振り返り、当時の自分にエールを贈る「幸せな瞬間もこの先たくさんあるからね」

「ひよっこ」「この世界の片隅に」「桜のような僕の恋人」…出演作をたっぷり語る

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加藤拓也は「年々すごみが増していて、どこに行っちゃうんだろう?」

──続いて、加藤拓也さんが作・演出を担った主演舞台「ぽに」を挙げていただきました。5年ぶり2度目の舞台だったとのことですが、加藤さんは同世代としてどんな存在なのか聞いてみたいなと思っていました。

公演レポート

すごいです。普通の人間ではないと思っています(笑)。加藤さんとは「平成物語」というドラマがきっかけでつながり、劇団た組「心臓が濡れる」という舞台を初めて観たときに涙が止まらないほど衝撃を受けて、そこから劇団と加藤さんの大ファンなんです。ずっと自分で普通にチケットを買って通っていたので、「ぽに」のお話があったときは、尊敬している分すごくプレッシャーが大きくて……。ほかにはないセリフの書き方で、「あっ、えっと」「あっそうですね。うん」といった話し言葉も全部書いてあるので、まず覚えるのが大変でした(笑)。同世代だけど飛び抜けている方ですし、何を考えているかわからない。この前ごはんに行かせてもらったときも、話していると同世代な感じはあるんですけど、底知れないというか。一緒にお仕事をするとなっても簡単に「はい」とは言えない緊張感もあるし、大ファンだからこそ身構えます。

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──そんな関係の中で、食事に行かれるのは意外でした。

誘っていただいたときは「なんで?」と(笑)。自分の中では「ぽに」もうまくできたかと言われると「どうだったかな?」という思いがあったし、加藤さんにどう思われているかもわからなかったので、連絡をいただけることはすごくうれしかったです。ただ、今も「ぽに」ってなんだったんだろう?と考えることがあります。

──作品の余韻が残っていらっしゃるんですね。加藤さんから、次にどんなオファーがあるのか楽しみです。

私はしばらく無理かもしれないと思っていて……(笑)。恐れ多いというか、お話をいただいても、「ファンとして関わらせてください」と言ってしまうかも(笑)。舞台を観に行くたびに言い表せないような気持ちになりますし、年々すごみが増していて、どこに行っちゃうんだろう?と感じています。

相手役の中島健人に「やっぱりこの人すごいな」

──続いて、2022年にNetflixで配信された映画「桜のような僕の恋人」の話題に移ります。主演映画も多数ある中で、この作品を10大トピックに入れたのはなぜですか?

ほかにはない演出方法だったり、私の台本には中島健人さん演じる(朝倉)晴人のシーンが書かれていなかったことなどが印象的だったからです。

イベントレポート

──セリフが書かれていない?

主人公2人には「会えない」「相手のことがわからない」という時期がある作品だったので、相手だけが出演するシーンはお互いの台本が空白になっていたんです。私が演じた有明美咲は急速に老化していってしまう役柄だったのですが、その姿で中島さんと鉢合わせないように現場でスタッフさんがすごく配慮してくださいました。プロモーションに関しても、渋谷駅の広告など、あれ以上の規模はないんじゃないかなという宣伝の仕方で、なかなかない経験をさせていただいたなと思います。

──同作の撮影時にもっとも悩んだこと、または楽しかったことはありますか?

最終段階の特殊メイクには確か3~4時間ぐらい掛かっていて、(メイク中に)寝て起きたらおばあちゃんの姿になっているので、頭が付いていかないというか。役としても心は20代の設定でしたが、理解するのが難しかったですね。あとは、相手役の健人くんに「やっぱりこの人はすごいな」と思うタイミングがたくさんあって。「お互いの写真をチェキで撮り合って、会わない間はこの写真を見よう」と提案してくれたんです。

──共演者を巻き込んで役作りをされるんですね。

小さなかわいいチェキ用のアルバムを2つ用意してくださり、私は晴人くんの写真、健人くんは美咲の写真をアルバムに入れて持っておくという。2人で「ちゃんとのめり込んでお芝居を作ろう」とやっていましたし、そんなことをした役者さんは今まで健人くん以外いないんじゃないですかね。本当にすごい人だなと思いました。

松尾スズキのシュールな世界観がすごくツボ

──舞台「ふくすけ 2024-歌舞伎町黙示録-」は、コントドラマ「松尾スズキと30分の女優2」以来の松尾スズキさんとのタッグでした。松本さんにとって、松尾さんの現場はどんな場所ですか?

松尾スズキと30分の女優2」のときは、松尾さんもたぶん私のことをあまり知らなかったし、私もどういう感じなんだろう?と思いながら一緒にお芝居をさせてもらったと思うのですが、ものすごく面白くて。その中の1作「第十一回WOWOW歌舞伎 春の大犬自慢踊り『世情犬絵見栗捨』」では舞ったり、犬の絵を見せたり見せなかったり、あのシュールさがすごくツボでした。「人は叱られているとき、何を考えているのだろう」という作品で松尾さんがスチームパンクおじさんという役を演じているときも、一緒にお芝居をしながら「こんなに面白いおじさんいるんだ!」と衝撃でした。ブリッジ(場面と場面のつなぎ)のタイトルコールは、松尾さんがカンペに書いたことをその場で言って撮影したのですが、その瞬発力に感心してくださって、それが「ふくすけ」につながったのかなと思っています。

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──1カ月の舞台公演期間、1つの役を演じ続けるのはどういった感覚なのでしょうか。

奇抜な舞台でしたし、飽きなかったです。私は、ホスト狂いのホテトル嬢・フタバ役だったのですが、松尾さんからは「ろれつが回っていなくてふらふらしてる感じ」と演出を受け、声も変えて演じました。面白いけれど、体現するのは難しかった。でも、周りの人には「稽古中のフタバと最終日のフタバが全然違う」と言ってもらえて、稽古と本番の長い期間があったからこそ味わえる経験なのかなと感じました。

松本穂香

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──舞台期間中のこだわりやマイルールはありましたか?

「ふくすけ」のときに、松尾さんから「もっと声を大きく」と言われて。周りの人たちは舞台経験者ばかりでしたし、もっと声を出さなきゃと思って、まずはプランク(おなか周りを鍛えるトレーニング)を習慣付けました。ふらふらしている役ですし、ヒールも履いていたので、けがをしないことを目標に体幹を鍛える体作りをルーティンにしていましたね。

大泉洋のアドバイスを本番で実践したら、本当に笑いが起きた

──9つ目のトピックは、月9初主演作であり、鈴鹿央士さんとダブル主演した「嘘解きレトリック」です。“月9主演”という響きは、最初どう感じられましたか?

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びっくりしましたね。責任も感じましたし、正直「私で大丈夫?」とも思ったのですが、本当に丁寧に作っていただいた作品でした。監督も西谷弘さんや鈴木雅之さんなどレジェンドが集まっていて! 「この世界の片隅に」の時期の自分だったらできなかったであろう、いろんな経験を経た今だからこそ納得してお芝居ができたなと思う作品です。

──単独主演で、戦争を題材にした作品のほうが大変なのでは?と安易に考えてしまうのですが、「嘘解きレトリック」で演じられた浦部鹿乃子役の難しさは、どんなところにあったのでしょうか。

嘘が聞き分けられるという特殊な性質は持っているのですが、等身大のキャラクターなんです。また、ミステリーものではありつつ派手な作品ではないので、人と人とのつながりや会話が大事になってくる。そういう、小さいところにいろんなものを宿さなければいけないドラマだったので、その目線を持てていたあのタイミングだったからこそ楽しめたし、いい作品になったのかなと思いますね。

──今年は、三谷幸喜さんの作品にも初出演を果たされました。舞台「昭和から騒ぎ」はいかがでしたか?

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楽しかったです! 現場もすごく平和で、三谷さんと大泉(洋)さんの掛け合いは裏でもあのまんま(笑)。シェイクスピア作品が題材ではあるのですが、カーテンコールの際に大泉さんがお客さんにも言っていた「なんの中身もない舞台です」「楽しいだけの芝居でしょ?」みたいなのってすごくいいなと思って。特にコメディは難しいし、どうやって舞台に立ったらいいんだろう?と悩みましたが、このときも「稽古中のひろこと本番のひろこが全然違うものになったね」と言っていただいて、成長の実感を得られました。周りの先輩方からいろんなアドバイスもいただいたんです。「このセリフは止めないで一気に言ったほうがいいんじゃないか」とか。

──そこまで具体的に言ってくれるんですね!

そうなんです。大泉さんは楽屋に来て「あそこ、こういう言い方にしたらどうかな?」と伝えてくれたりするんですよ。アドバイスを本番で実践したら本当にその場面で笑いが起きて、すごいなと思いました。

10年前の自分に「幸せな瞬間もこの先たくさんあるからね」

──ここまで、それぞれのトピックについてお聞きしてきましたが、10年間を通してご自身にもっとも影響を与えた出会いについても教えていただきたいです。

やっぱり事務所の先輩方です。山口紗弥加さんとは、NHKの夜ドラ「ミワさんなりすます」で共演させていただいたのですが、どんなシーンでも私の想像を超えてくる面白いセリフ回しやお芝居にすごく刺激をいただきました。普段はすごくチャーミングで少女みたいなかわいらしさもあり、人として素敵だなと。あと有村さんは私の中で“無敵”の存在で、ずっと憧れながら追いかけています。先輩なのに、会うと「えっ? かわいすぎるな……」と言ってしまうぐらい(笑)。皆さん人としてやわらかくて、見た目だけじゃなく人としてかわいくて平和なところが素敵だなと思いますし、そんな女優さんになりたいなと思います。

──すごくいい職場環境ですね。

いい事務所だと思います!(笑)

──活動期間のうち数年は、コロナ禍で思うように作品作りができない時期もあったかと思います。

「今から撮影する番組、もう1人が来れないかも」とか「スタッフさんに感染者が出ちゃった」といった理由で、メイクまでやったけどバラシ、みたいなこともありました。混乱の時期だったなと思いつつ、やっぱりみんな働きすぎだったので、休む時間も大事なんだなと、いったん“ゼロになれる時間”でもあったのかなとも思いますね。映画やドラマを娯楽としておうちで楽しめた時期でもありました。

──最後に、10年前のご自身に伝えたいことを教えてください。

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18歳の私かあ。「この先いろんなことで傷付くこともあるだろうけれど、泣くことないよ」みたいな……いや、違うな(笑)。「いろいろあるけど、幸せな瞬間もこの先たくさんあるから、あんまり力みすぎず無理しないで」って感じですかね。

──それはこの10年間で意識が変わってきた部分なのでしょうか?

そうですね。最初の頃はとにかくやりすぎなくらい必死だったのですが、それって精神的に健康じゃない面もあったと思うので、ほどほどなバランスも大事だとだんだん気付いてきました。もちろんがんばるのも大事だと思うんですが、まずは自分の体や心を大切にしないといけないなと今は思います。

松本穂香(マツモトホノカ)プロフィール

1997年2月5日生まれ、大阪府出身。2015年に「風に立つライオン」で長編映画デビュー。2017年放送の連続テレビ小説「ひよっこ」で注目を集め、翌2018年にはオーディションで役を射止めた日曜劇場「この世界の片隅に」で連続ドラマ初主演。そのほかWOWOWオリジナルドラマ「グラップラー刃牙はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ」、「リエゾン-こどものこころ診療所-」、夜ドラ「ミワさんなりすます」に出演し、2024年10月期の「嘘解きレトリック」で月9初主演を果たした。主演映画には「おいしい家族」「わたしは光をにぎっている」「酔うと化け物になる父がつらい」「君が世界のはじまり」「みをつくし料理帖」「恋のいばら」、出演舞台には「COCOON PRODUCTION 2024『ふくすけ 2024-歌舞伎町黙示録-』」、シス・カンパニー公演「昭和から騒ぎ」などがある。

<衣装協力>
ジャケット Ameri(税込2万9700円)、パンツ Ameri(税込2万4200円)
問い合わせ先:AMERI VINTAGE(03-6712-7965)

ブーツ HENRI EN VARGO(参考商品)
問い合わせ先:アポロ(03-3806-6571)

イヤカフ(右耳 / 税込1万1000円)、イヤカフ(左耳 / 税込1万3200円)、リング(右手人差し指 / 税込1万2100円)、リング(左手人差し指 / 税込2万2000円)、リング(左手中指 / 税込1万4300円)
問い合わせ先:TEN.(092-409-0373)

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松本穂香 2015~2025年の活動年表

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健人くんと共演した「桜のような僕の恋人」の撮影時の話もしてくださっています

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