俳優デビュー10周年記念インタビュー 第2回 [バックナンバー]
石橋静河インタビュー |「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」から朝ドラ「ブラッサム」までの歩み、大切なのは“凪に戻る”こと
踊りと芝居がつながった瞬間、琉球舞踊で感じた新しい風、“燕が飛び立ってしまった”あとのヨーロッパ旅
2025年12月2日 11:00 2
2015年にオープンし、今年で10周年を迎えた映画ナタリー。アニバーサリーイヤーを記念して、デビュー10周年を迎える俳優たちにデビューから現在までについての話を聞く連載をスタートした。
初回の松本穂香に続いてインタビューを行ったのは、2026年度後期の連続テレビ小説「
取材・
「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」での学び
──俳優デビュー10周年おめでとうございます。
ありがとうございます。
──10年経って、今はどんな心境ですか?
やっと役者という道具になってきたかなという気持ちです。ものを作る人って、最初は修行の期間があるじゃないですか。弟子入りして、師匠の技術を見て、少しずつ自分で手を動かしていって……修得するまでにはすごく時間が掛かるものだと思うんです。私はもともとバレエやコンテンポラリーダンスをやっていましたが、お芝居に関しては一から現場で学んでいったので、やっと身に付き始めたという感じですね。
──新しい入り口に立っているような?
はい。自分の中で、やっと始まったという感覚です。
──では、そこに至るまでの10年間にどんなことがあったのかを伺っていければと思います。事前に“10年間の10大トピック”を選んでいただきましたが、1つ目は2017年に公開された主演作「
俳優としてまだ右も左もわからない状態でしたし、そんな中で「映画の真ん中をあなたに任せます」というのは衝撃的な出来事でもありました。緊張していたので撮影中は体が全然思い通りに動かなくて、期待に応えられなかった感覚が自分の中ではあるのですが、石井(裕也)監督が何度も何度も演出をしてくれて。懲りずに指導し続けてくれたことは今も強く覚えていますし、絶対に必要な最初の一歩だったと思います。
──その経験は今どう生きていますか?
セリフは脚本家の方が書いていて、自分とは違う人生を歩んできた人の言葉だから、「ありがとう」の一言であってもただ読んでいるだけだと観てる方にその感じが伝わってしまうと思うんです。観客にとって腑に落ちる言葉にするためには、妥協せずに何回も撮る必要があると思いますし、いかに自分の人生を役に重ねていくかが大きく影響してくる。そういったことを学んだ気がします。
監督・三宅唱が役者から信頼される理由
──2つ目のトピックに選んでいただいたのは、日本映画批評家大賞で主演女優賞に輝いた2018年の「
本当に現場が楽しくて、その楽しかった感覚が観ている方にも伝わった気がする大切な作品です。お芝居は自分をさらけ出すことでもあって、カメラの前で演じることは今でも難しい。そんなとき撮る側の方々が「はい、どうぞ」というスタンスなのか、「同じように自分も飛び込んでみるね」というスタンスなのかによって、演者から出てくるものは全然違ってくると思うのですが、三宅(唱)監督はどんなシーンでも必ず先陣を切ってくれました。まず自分が裸になって、心をさらけ出していた印象があって、それが現場全体の三宅さんへの信頼につながっていた気がします。例えるなら一番最初に冷たい湖に飛び込んで「みんな大丈夫だよ。入っておいで」と言うような人で、本当に役者から信頼されている監督だと思います。
──撮影が行われた北海道・函館はいかがでしたか?
初夏でしたが、東京と比べるとまだ寒くて。山も海もあって空気がきれいですし、ごはんもおいしくて、そういうゆったりした場所で時間を積み重ねていけました。シーンが少ない映画なので、1つひとつの撮影にたっぷり時間を掛けてトライアンドエラーを繰り返していました。
──当時、ナイトクラブのシーンがリアルだと話題になっていました。
普通は音楽が鳴っていない中で「クラブで踊っている演技をしてください」と言われますが、この映画ではものすごい音の中を録音部の方がマイクを持って一緒に踊っているくらい、リアルな空気を撮ることに徹していました。ライブシーンでは
──カラオケのシーンでは石橋さん演じる佐知子が「オリビアを聴きながら」を歌いますが、選曲は石橋さんご自身によるものだとか。
確か撮影前に三宅さんやプロデューサーさんと下北沢かどこかのカラオケに行って、「曲どうする?」という話になって。そのときはキャロル・キングなども歌った気がしますが、函館に着いたあと、最終的には恋愛の歌である「オリビアを聴きながら」がなんとなく佐知子に合っている気がして決めました。
踊りと芝居がつながった「未練の幽霊と怪物」
──3つ目のトピックは、能をモチーフにした舞台「未練の幽霊と怪物ー『挫波』『敦賀』ー」です。2020年は新型コロナウイルスの影響で延期、一部が演奏付きのリーディング形式でオンライン上演されました。
作・演出の
──実際に翌年2021年に劇場公演が実現しました。
エンタメって作ってすぐに出して、どんどん消費されていくような部分もある気がするのですが、この舞台ではゆったりとした時間の中、お芝居をすること・踊ることで満ちていくような感覚がありました。本来は芸術ってこういうものなのかもしれないと体感できて、お芝居を続けていく中で岡田さんと出会えたことはすごく幸運だったなと思います。
──「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」のときは体が思い通りに動かなかったとおっしゃっていましたが、この舞台をやっていた頃に能楽師である安田登さんの「日本人の身体」という本を読んで刺激を受けたそうですね。
はい。自分は小さい頃からクラシックバレエを習っていて、コンテンポラリーダンスでもう少し自由な踊りを経験してからお芝居を始めました。なのでずっと自分の体と向き合ってきた自負があったんです。お芝居も身体表現だし、習ってきたことが生かせると思っていたのですが、全然そんなことはなかったというのが最初のいくつかの作品で。バレエの体の癖が自分の中に残っていて、緊張すればするほどその癖が出てきてしまい、演じるうえでのノイズにしかなりませんでした。なのでお芝居を始めてから何年かはまったく踊らなかったですし、癖を直すために内股や背筋を曲げて歩いたりしていたのですが、「未練の幽霊と怪物」で久しぶりに踊りと向き合うことになって。そのときに出会ったのが「日本人の身体」で、タイトルの通り日本人の身体性についてとてもわかりやすく書いてありました。バレエは西洋のもので、でも自分は東洋人で日本でお芝居をしていて……みたいなことから今まで自分が葛藤してきたことが、この本を読んで腑に落ちたんですよね。
──小さな頃からやってきた踊りと、現在進行系でやっているお芝居を本がつなげてくれたんですね。
そうですね。なので舞台にも新しい意識で取り組むことができて、役者人生においてターニングポイントになった作品です。
「近松心中物語」で自分の明るさを取り戻した
──4つ目は
江戸時代の大阪が舞台で、和装でのお芝居でした。普段は当たり前のように洋服を着ていますが、着ているものが異なれば動きも考え方も変わるということがうまく表現できず、焦りが募る稽古期間だったのを覚えています。求められているのは重心がちょっと低い動きで、稽古のときは軽い浴衣を着ていてなかなかうまくいかず悩んでいたんですが、劇場入りしたあと重い着物を着てカツラを着けてお芝居をしたとき、「これだ」とガチッとハマった感じがして。そこからはずっと楽しかったです。
──演じたお亀という役についてはいかがですか?
とても明るい役でしたが、それまでに演じてきたのは何かを抱えている役や苦しんでいる役が多くて、私自身もそういうイメージで見られることがありました。「石橋さんって笑うんですね」と言われたこともあって、やっぱり作品というフィルタがかかっている状態で見られてしまうんだなと。しかもある種の洗脳というか、自分はもともと暗い人間なんじゃないかと感じるようになってきた節もあって。そんなときにお亀というとんでもなく明るい女性を演じたことで、自分には本来明るいところがいっぱいあって、それがいろんな役を演じるうちにわからなくなっていたことに気付きました。
──「未練の幽霊と怪物」では封印していた踊りを掘り起こして、「近松心中物語」では見失っていた自分の明るい部分を再認識できたんですね。
はい。お芝居を通して自分に立ち返りつつあった時期だと思います。
役を深く感じることができたドラマ「前科者」
──次に挙げていただいたのは2021年放送のドラマ「前科者 -新米保護司・阿川佳代-」です。恐喝および傷害罪で懲役2年の刑罰を受けた斉藤みどりを演じられましたが、役とはどう向き合いましたか?
「この人は罪を犯した悪い人です」と単純に思いながら演じることはできなくて、役に入り込むためには、なぜそういう行動をしてしまったのか、どういう正義があるのかを理解する必要があったのですが、そこはつかみやすかった気がします。社会的に罰せられる行動をしてしまった背景には、育児放棄をされていたという過去があって。撮影の直前に友達が薦めてくれた「プリズン・サークル」というドキュメンタリーを観たのですが、島根県の刑務所内で行われている更生プログラムを追った作品で、それもすごく参考になりました。お芝居って、その人がどういうことを大事にしていて、何が好き・嫌いかということを理解していないとできないですが、みどりに関してはそれを深く感じ取ることができました。重いものを抱えている役ではありましたが、途中からは有村(架純)さん演じる保護司の助けになっていくし、とっても明るいところもある人物だったので、そのダイナミックさが面白かったです。
──仲間をすごく大事にするキャラクターでもありましたよね。
そうですね。やっぱり岸(善幸)監督がドキュメンタリー出身の方なのでリアルであることを大切にしていて、正義が悪を倒してハッピーという物語ではなく、いろんな人の人生をさまざまな側面から真摯に描いている。そのためのお芝居をする環境も整えてくださいましたし、人間にきちんと寄り添っている素晴らしい作品だと思います。
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