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大根仁インタビュー |「バクマン。」から「地面師たち」へ、ボーダーレスに走り続けた10年

自己模倣からの脱却、メディアの現場を描いてきた理由、刺激を受けた映画・海外ドラマ・YouTubeを語る

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映画ナタリーでは10周年を記念した特別企画を随時更新中。第7弾に登場するのは、ナタリー編集部を舞台にした映画「モテキ」の監督であり、映画ナタリーの記念すべき1本目のニュース記事にコメントを寄せてくれた大根仁。2015年の「バクマン。」に始まり、この10年で実写映画、大河ドラマ、地上波の連続ドラマ、Netflixシリーズ、3Dアニメーションなど、メディアもジャンルも飛び越えながら映像業界の第一線を走り続けている。2024年にはNetflixシリーズ「地面師たち」で注目を浴び、Netflixと独占契約を結んだことでも話題を呼んだ大根だが、そこに至るまでにはどんな道のりがあったのか。自己模倣への危機感から脱却できた理由、メディアの現場を描き続けてきた背景、刺激を受けた印象的なカルチャー、そして映画ナタリーへのアドバイスまで、じっくり語ってもらった。

取材 / 奥富敏晴 構成 / 黛木綿子

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“自分が喜ぶ仕事”から“誰かのための仕事”へ

──大根さんは、主人公・幸世がナタリーで働いている設定の「モテキ」(2011年)の監督ということで、映画ナタリーの記念すべき1本目の記事にコメントをいただいたご縁があります。「モテキ」から4年後、映画ナタリーがオープンした2015年は、「バクマン。」が公開された年でした。そこから2025年まで大根監督がどんな10年を歩まれたのかを、今日はお伺いできればと思っています。

「バクマン。通常版」Blu-rayジャケット(税込5280円 / 発売元:集英社&アミューズ、販売元:東宝) ©2015 映画「バクマン。」製作委員会 ©大場つぐみ・小畑健/集英社

「バクマン。通常版」Blu-rayジャケット(税込5280円 / 発売元:集英社&アミューズ、販売元:東宝) ©2015 映画「バクマン。」製作委員会 ©大場つぐみ・小畑健/集英社 [高画質で見る]

あっという間といえばあっという間だったけど、この10年の仕事を振り返るとけっこうな作品数をやってきたなっていう感じもします。ちょうど今年、サカナクションが「新宝島」10周年企画をやっていて、ああそうか、もう10年かって。映画「バクマン。」のために作ってもらった「新宝島」が、サカナクションのヒット曲でありアンセム的な存在になってありがたいし、歌詞にもちょっとだけ協力したので0.1%ぐらい印税くれないかな?ってずっと思ってます(笑)。

──10年前のご自分と比べて考え方など変わったことはありますか?

20代後半、深夜ドラマから始まってずっといろいろやってきまして。「モテキ」は世間に知られる最初の作品だったと思うんだけど、そこから映画とドラマを並行して、自分のある種の得意技の部分で作ってきたんですよね。具体的な作品で言っちゃえば、「SUNNY 強い気持ち・強い愛」(2018年)までかな。でも、作品を作るごとに縮小再生産というか、自己模倣というか、自分の表現がちょっとすり減ってきてるなという思いがあった。このままだったら50代以降きついなと、自分の中で思うところがあったんです。

ちょうどそのタイミングで大河ドラマの「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」(2019年)とか「エルピス―希望、あるいは災い―」(2022年)のような、いわゆる“オファー仕事”が入ってきて。なので、この10年の後半は、自分が発信して自分が喜ぶみたいな仕事から、オファーを受けて誰かのために役立ちたいと思うような仕事にシフトしていった感覚があります。56歳にもなってこんなこと言うのもなんだけど、職業人としてちょっと大人になったってことなのかなと。

──なんとなく自己模倣への危機感を抱いていたところに、たまたま「いだてん」のオファーが来たんですね。

はい。まったく違うテーマやアプローチの作品に携われたおかげで手数が増えたし、幅が広がったと思います。

──宮藤官九郎さんや渡辺あやさんのような、ほかの方の脚本で撮ることで、大根監督の表現の幅が広がってきたんでしょうか。

そうですね。それがしょうもない脚本だったら、もっと腐っていたかもしれない(笑)。宮藤さんや、あやさんの素晴らしい脚本で本当によかったなって思います。作品に呼んでくれたプロデューサーにも感謝しているし、いい企画に出会えたっていうのは大きいですね。自分は監督の仕事って究極2つしかないと思っていて。1つは脚本より面白くすること、もう1つは役者を魅力的に撮ること。

──なるほど。

自分の企画・脚本を自分の演出でやっていた頃は、自分が書いた脚本より面白くしようっていう意識はあったんです。でもこの2作品ではお二人の素晴らしい脚本があって、それをもっと面白くすることができたと思えたのが、すごく大きかった。「いだてん」のときは長いスパンだったし、サブ演出だったし、いろいろバタバタで余裕がなかったけど、「エルピス」のときは確実に、撮っているときから思ってました。「俺、これで演出家生命が10年ぐらい延びたな」って。

──放送後ではなく、撮っているときから手応えがあったんですね。

ありましたね。あと「エルピス」がでかかったのは、「モテキ」が2011年の震災の年で、「エルピス」が2023年。長澤まさみちゃんと12年ぶりに仕事して、また違う魅力を引き出せたという点で、自分の中の成長を感じられたところですね。

「モテキ」から「エルピス」まで、メディアの現場を描き続けた12年

──今回これまでの作品を観直してみて、「モテキ」から「エルピス」までの12年が大根監督の1つの大きな流れなのかなと感じていて。大根監督が手がけた映画のうち「モテキ」「バクマン。」、「SCOOP!」(2016年)、「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」(2017年)の4本と、ドラマ「共演NG」(2020年)、「エルピス」は、ネット・出版社・テレビ局とすべてメディアの現場を舞台にした作品ですよね。大根監督がいわゆる“業界もの”に惹かれる理由はなんでしょう?

「モテキ 通常版」Blu-rayジャケット(税込5170円 / 発売元:テレビ東京・電通、販売元:東宝) ©2011映画「モテキ」製作委員会

「モテキ 通常版」Blu-rayジャケット(税込5170円 / 発売元:テレビ東京・電通、販売元:東宝) ©2011映画「モテキ」製作委員会 [高画質で見る]

たまたまって言っちゃえば、そうなんですけどね。誰かが“すべての映画は青春映画である”って言ってたけど、基本的にはどれも大人になりきれない、なんらかのモラトリアムを抱えた人たちの話じゃないですか。でも、いずれ社会に向き合わなきゃいけない時期が来たり、すでに向き合っていたりする中で、出版社とかテレビ局とか自分に近い業界が描きやすかった。やっぱり「半沢直樹」みたいなものは撮れないわけですよ(笑)。経験値としてないから。でも自分が知っているところなら、リアリティを持って嘘をつかずに撮れる。「モテキ」に関しては、久保(ミツロウ)さんと映画用に新しい話を考えていたときに、「幸世の成長を描かなきゃいけない」「じゃあ、もう就職させようよ」「どこにする?」となって、身近にあったナタリーにした。ナタリーはドラマ版「モテキ」でも協力してもらって、俺も内情を知ってたし、描きやすかったんですよね。「モテキ」のムードにすごく合うというか、幸世が就職するならこういうところだろうと。

──ナタリーにいる自分がこう言うのもあれなんですけど、「モテキ」はすごく浮かれた感じのポップカルチャーを描いているじゃないですか。それが12年経って、同じメディアであっても、まったくしゃれにならないような政治と現実を描く「エルピス」という作品が生まれた。その流れが社会の変化を象徴しているとも感じました。

テレビ局を舞台にしたドラマ「エルピス―希望、あるいは災い―」では、長澤まさみ演じる女性アナウンサー・浅川恵那が冤罪事件の真相を追う姿が描かれた ©カンテレ

テレビ局を舞台にしたドラマ「エルピス―希望、あるいは災い―」では、長澤まさみ演じる女性アナウンサー・浅川恵那が冤罪事件の真相を追う姿が描かれた ©カンテレ [高画質で見る]

そうですね。どちらも長澤まさみが出ているのが、円環構造というか。まさみに始まり、まさみに帰結し、新たな扉を自分の中で開くっていう。彼女とは「10年にいっぺんぐらいは一緒にやろうか」みたいなことを話しています。

──「エルピス」が1つの臨界点のような気もしたんですけど、今後またメディアを描きたいお気持ちはあるんですか?

今決まっている作品の中にはないですね。最初から狙っていたわけじゃないから、やりきったっていうのも変だけど。そういえば「モテキ」の頃にナタリーで働いていた、リアル幸世くんみたいなあの彼はまだいるの?

──僕が入社したときには、もういなかったですね。

そうか、やっぱりいねえんだ(笑)。少し話はそれるけど、自分は、わかりやすくバツッと終わるものじゃなくて、その先もまだ世界が広がっているような、オープンエンディングの作品が好きなんですよ。「バクマン。」で言えば、連載打ち切りになったけど、高校卒業してさあ次は何描こうかみたいなところで終わるし、「モテキ」は幸世とみゆきがキスしてハッピーエンド的な感じになってるけど、あの2人があの先そんなにうまくいくわけないなとかさ(笑)。自分が作った作品に関しては、あのキャラクターたちは今どうしてるかなと、たまに考えるんですよね。

──マンガやアニメのキャラクターだと近いことをよく聞きますが、やっぱり実写の作品でも考えるものなんですね。

うん。こう見えてロマンティストな面もあるので(笑)、そんなことも考えますよ。「SCOOP!」の野火は今副編集長ぐらいになってるのかなとか、「エルピス」のあの3人はどうしてるのかなとか。そう考えると「モテキ」の幸世は、あのあとナタリーでしばらく働いたけど、まあ辞めるんだろうなって。なんかカルチャー系もやりつつ、それだけじゃ食えないからコタツ記事を書いてるフリーライターになってるんだろうなとか妄想しています(笑)。

──すごくいい話を聞きました。ありがとうございます。

映画・海外ドラマ・YouTube、大根仁が10年間で観てきたもの

──この10年で大根監督がどのような作品を観てきたかもお伺いしたいです。

どの表現も完成はしないと思うんですけど、映画に関しては常にアップデートしているというか、本当に完成しない表現物だなと思ってます。だからこの10年というか、今を振り返ると、昨日観た「ワン・バトル・アフター・アナザー」(2025年)にしたってまだ観たことのない話ってあるんだ!!って本当に打ちのめされたし、単純におもしれー!と。特にアメリカ映画はまだまだ完成しないし、どんどん先に進む。いわゆる作家的な監督の作品──ポール・トーマス・アンダーソンやデヴィッド・フィンチャー、ウェス・アンダーソンもそうだけど、なんでこんな企画にこんなに金が出るんだろうって本当に思う。「罪人たち」(2025年)とか、日本であんな“前半はブルース音楽で、後半はゾンビもの”みたいな企画書出したらその場でゴミ箱に捨てられますよ(笑)。この10年の流れで見ると、そういう「NOPE/ノープ」(2022年)とか「罪人たち」みたいにジャンル分けが不可能で、ものすごく製作費が掛かっている映画が増えてきた感じがします。それが商業として成立していることに、アメリカ映画の奥深さを感じますね。

──「罪人たち」のようなジャンルを超えていく感じの作品は、日本では難しいんですかね。

企画書や脚本の字面だけだと伝わりづらいしね。でも自分はそういったジャンルミックス的な作品には興味があって。「地面師たち」(2024年)で言うと、犯罪集団の話がメインだけど、刑事ものでもあるし、詐欺でだまされる側には「日曜劇場」的な“サラリーマンもの”の側面もある。「罪人たち」のように前半と後半がまったく違う、音楽でいうビートチェンジみたいなものは、もうちょっとテクニカルな面の経験も積まないといけないけど、今後やっていきたいと思ってます。

Netflixシリーズ「地面師たち」で、“だまされる側”として登場した大手デベロッパー「石洋ハウス」の青柳(演:山本耕史)。Netflixシリーズ「地面師たち」独占配信中 ©新庄耕/集英社

Netflixシリーズ「地面師たち」で、“だまされる側”として登場した大手デベロッパー「石洋ハウス」の青柳(演:山本耕史)。Netflixシリーズ「地面師たち」独占配信中 ©新庄耕/集英社 [高画質で見る]

──それは楽しみです。アメリカ映画以外だといかがですか?

最近はチャイナノワールが自分にフィットしますね。中国映画で犯罪系のものっていうか、ハードボイルドっぽい感じ。今年観た中だったら「ブラックドッグ」(2024年)とか、ちょっと前だったら「鵞鳥湖の夜」(2019年)や同じ監督が撮った「薄氷の殺人」(2014年)とか。

──「地面師たち」に通ずるところもありますね。海外ドラマだと、この10年で何が印象に残っていますか?

繰り返し観たのは「FARGO/ファーゴ」シリーズ(2014年~2024年)ですね。特に2と4がすごかった。それから「メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実」(2021年)、あと圧倒的だったのは「チェルノブイリ」(2019年)。どの作品も長尺である意味がちゃんとあって、映画にはできない・やれないことが詰まっていて、「地面師たち」を作るときにすごく影響されています。

──YouTubeにはあまり触れていないでしょうか。

FC東京の試合を分析するチャンネルとかはよく観てます。それは単純にサポーターだからなんだけど、マニアックな変なやつも好きで、「生きて山から帰るには【山岳遭難解説】」はチャンネル登録してますね。よくできていて、28万人近く登録者がいる。あと「アンジャッシュ渡部がいつか地上波のグルメ番組に出ることを夢見てロケハンする番組」は、もはや地上波に戻んなくてもいいよ!っていうぐらい面白いし、クオリティも高い。YouTubeのこういったバラエティ的なものってちゃんと制作会社も入ってるし、テレビと遜色ない作りになってきていますよね。映画とかドラマに対するカウンターがNetflixとかアマプラ(Prime Video)とか配信のメディアだとしたら、既存のテレビのバラエティに対するカウンターってどう考えてもYouTubeじゃないですか。

──そうですね。

あとは吉田豪さんがやってる「猫舌SHOWROOM・豪の部屋」とか、わざと詐欺に引っかかって詐欺師を追い詰める「ピロの火遊び」、スーツくんの「スーツ 旅行」も観てますね。最近の大ヒットは上出遼平さんが立ち上げた「健康チャンネル」。未解決事件を再捜査・再検証する内容なんだけど、攻めすぎというか腹のくくり方がハンパない。

──やっぱり、めちゃくちゃいろんなものをご覧になっていますね。10年前と比べて観る量は増えてますか?

そうですね。YouTubeならではの産物って死ぬほどあるから。本当に沼じゃない? 気付けば3~4時間とかずっと観ちゃうから気を付けてますけど。この10年の映像メディアの変化で言うと、作り手の変化はジャンルが増えたってことでしかないかもしれないけど、観る側の視聴環境は圧倒的に変わったなと思いますね。テレビモニタだけじゃなくPCやタブレット、スマホでも観られるって、作り手側からするととんでもないことなんだけど。

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「地面師たち」は日本の決定打と言える作品にしたかった

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BoB @kingcurtis

調べたら(クレヨンしんちゃん除き)バクマンから地面師まで全コンテンツ鑑賞済だわ。無自覚ながら大根仁フリークだった https://t.co/fr8OYjW2tV

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