映画「楓」予告編公開中

「楓」は物心ついた頃から自然と心の中にあった曲

──オファーを受けたとき、率直にどんな印象を受けましたか？

スピッツの「楓」は、初めて聴いたのが“どこ”で“いつ”かもわからないくらい、物心ついた頃から自然と心の中にあった曲なんです。だから「楽曲を原案に映画化するってどうなるんだろう？」と難しさを感じる一方で、受け手によって受け取り方が変わるという点に面白さを感じ、楽しみにしていました。

──本作では1人2役に挑戦されています。どのように役と向き合ったのでしょうか？

1人2役は以前にも演じたことがありますが、今回はとても自然に、自分の中にある2つのキャラクターを引き出す感覚でした。涼は引っ込み思案で少し奥手。以前の僕の“陰キャ”な部分を呼び起こしました。「もっとはっきり言えば済むのに」と思うようなところです。一方の恵は好奇心旺盛で、今の自分に近い。いろんなことに挑戦する姿勢も似ています。「はっきり言うなあ」と思う部分も、まさに自分のキャラクターそのままでした。

──亜子役の福原遥さんとは、2022年配信のAmazon Originalドラマ「星から来たあなた」以来の共演となりました。

本当にまっすぐで、心配になるくらいピュアな方です。どんなにピュアな人でも、人間なので少なからず裏表があるものですけど、彼女の場合、「そんなの裏じゃない（笑）」と思うほどまっすぐ生きていて、素敵な方だなと思います。

──行定勲監督とは今回が初タッグとなりましたが、ご一緒されてみていかがでしたか？

監督が「恋愛映画はヒューマンドラマである」と考えていたところが印象的でした。最初の本読みのときにそう話されていて、僕も同じようにラブストーリーは“人の心”を描く作品だと思っているので、共感できる監督とご一緒できたのはありがたかったです。また、涼と恵は作り込みすぎず、自然に演じ分けてほしいとアドバイスをいただきました。

──世界遺産であるテカポ湖といったニュージーランドの美しいロケーションが非常に素敵でした。撮影で印象的だったことは？

初日です。本来は撮影予定じゃなかったのですが、「今日は天気がいいから撮りたい！」となって、ノーメイクのまま福原さんと見つめ合うシーンを撮りました。とても印象に残っています。結果的にすごくきれいな画が撮れて、ほかの日だったら撮れなかったと思いますね。

物を撮るより、人の表情を撮るのが好き

──涼はカメラマンという設定で、劇中にはカメラや思い出の写真が印象的に登場しますが、普段からカメラを持つことはありますか？

この作品をきっかけに、初めてカメラを買って撮り始めました。僕は物を撮るより、人の表情を撮るのが好きなんだなと気付きました。

──普段は撮られることのほうが圧倒的に多いと思いますが、“撮る側”として何か感じられたことは？

役の中では人物ではなく物を撮っていたんです。でも、オフのときにスタッフさんにカメラを向けると、みんな少し照れたり笑ったりしてくれる。その自然な表情がすごくよくて。「ピースして」ってお願いするとしてくれたり。その瞬間を写真に収めるのがとても楽しくて、人の笑顔や照れた顔、ライブ感を残すのが写真の魅力だと感じました。

──その一瞬を逃さずに残せるのも、デジタルの進化です。どうしても残しておきたいプライベートなデータも存在するのでは？

僕が高校生のときにiPhoneが登場したんです。だから高校の前に撮った写真や、人生で一番「あ、懐かしい！」と思える時期の写真がほとんどなくて……。

──デビューの前の写真ですね。

そうなんです！ だから写真は芸能界に入ってからのデータしか残ってなくて（笑）。小さい頃の映像は家族が撮ってくれたホームビデオくらいです。それをこの間、DVD化したんですよ。あの画質のままだけど、ちゃんと残っていて懐かしかったです。これ（机の前に置かれたSANDISK Extreme® ポータブルSSDを手に取り）にはどれくらいのデータが入れられるんですか？

──2TB入ります。Blu-rayの120分映画ならおよそ100本分です（※編集部注：Blu-rayのデータ量によって異なる）。

えっ、そんなに!?

──ちなみにこのシリーズ（SANDISK Extreme® ポータブルSSD）には8TBモデルもあります。

へえー！

──では、改めまして映画「楓」の見どころを教えてください。

僕はやっぱり「楓」の楽曲が流れるシーンですね。聴いた瞬間に浄化されるような、魂が静まるような感覚があって、そこが映画のクライマックスだと思います。「楓」という物語の中で作られた1つの解釈として、人間らしさや弱さを感じてもらえたらうれしいです。“幸せな嘘”をつく人間の姿も、物語の味わいの1つです。

──最後に読者へ向けてメッセージをお願いします。

この映画を通して一番伝えたいのは、映画は1つの解釈に過ぎないということです。「楓」という楽曲にもいろんな解釈があって、スピッツのファンの間でも受け取り方はさまざま。僕たちも、自分たちなりの解釈を映像として表現しましたが、それは解釈の1つに過ぎません。観てくださった方が、この映画で感じた気持ちで楽曲を聴き返すと、また違った景色が見えてくると思います。

遠慮や余白といった日本的な情緒を軸にしたかった

──本作は、行定監督にとって「世界の中心で、愛をさけぶ」から20年後に挑戦される恋愛映画となりました。楓の花言葉の1つである“遠慮”を物語の核として捉えられたようですが、改めてその意図を教えてください。

「楓」の話をいただく前、国外でドラマの仕事をしていたんですが、そこで感じたのは、海外の現場ではスタッフも役者も“自分を強く押し出してくる”ということ。あまり余白を求めないんです。世界中どこでもそういう傾向がある。海外で撮影していると、日本的な常識や情緒が通用しない場面が多々あります。でも日本には「奥ゆかしさ」という言葉があるでしょう。以前、韓国でこの言葉を使ったら「そんな言葉は翻訳できない」と言われました（笑）。そこで改めて考えたんです。「日本らしさってなんだろう？」「情緒の違いなのかな」と。ちょうどその時期が「楓」の製作中で、「これは完全に日本映画だ」と思いました。自分の心を明かさない2人がいて、互いに譲り合ったがために不器用に遠回りする。そういう奥ゆかしさや遠慮のある世界。そこにこそ日本人のリアルがあると感じたんです。ラブストーリーは人間ドラマです。でも2時間で人間ドラマを描くには、どうしても都合の部分が出てくる。それをリアルに見せるためにも、遠慮や余白といった日本的な情緒を軸にしたかった。「楓」の脚本を読んだときに、「これで日本人のリアルを表現できる」と確信しました。

──マンガや小説の映像化は数多くありますが、楽曲を原案とするうえでどんな難しさがありましたか？

一番難しかったのは、スピッツというバンドが持つ“スピッツらしさ”を損なわないことでした。特にデビュー当時から聴いているファンにとって、スピッツは彼らの人生とともにある存在ですから。彼らの曲は一見、美しくて心地よい。でも歌詞の世界を掘り下げると、思いもよらない場所に連れて行かれる。それが草野マサムネさんという希代の音楽家の世界観なんです。そこに正解も間違いもない。受け手が自由に感じ取ればいい。“スピッツの楽曲を映画化する”ことにはもちろんプレッシャーもありました。あれだけ有名な曲を映像にして、「なんてことしてくれたんだ」と言われては困る。スピッツの名を汚すことになりますからね。でも、スピッツという存在はもっと懐が深かった。彼らの楽曲には、いくつもの解釈が共存できる。僕らはそのうちの1つを純度高く描けばいいと思いました。「純度高く」というのは、とても大事なことなんです。スピッツの音楽って、どこか捻れていて、一筋縄ではいかないのに最終的には深淵をのぞき込んでいるような感覚になる。その“純度の高い視線”こそ、草野さんが持っている独特の世界かもしれません。

──観客それぞれの思いを投影してほしいという意味で、エンドロールに「楓」を流されたのでしょうか。

そうですね。エンドロールで「楓」が流れることで、この曲から生まれた物語を最後に回収してくれるかなと思いました。再び音楽が観客の心を包み込む。その瞬間、もう一度クライマックスが訪れるような感覚になればいいなと思いました。まさに“着地点”として。

──福士さんの演技を見て感じたことは？

「ここまで泣けるんだな」と驚きました。俳優であれだけ嗚咽するほど泣くのは、なかなかないことです。自分の分身がいなくなった喪失感をこらえきれず、感情があふれていく。僕が意図していたことではあるけれど、あそこまで表現できるのは本当にすごいと思いました。印象的なシーンでしたね。

デジタルで記録が残せる時代って面白い

──行定監督はフィルム時代からデジタル時代までの過渡期を経験されています。その両方を知る立場から、デジタルのよさについて教えてください。

フィルムの頃はロールチェンジの時間が本当に煩わしかった。俳優が一番いいテンションのときに止まってしまうんです。でも今は持続的に撮れる。途中から「やってみよう」もできる。撮影が途切れないのは大きいです。

──デジタル撮影は「中断がない」というのが1つの強みなんですね。

そう。あと、データ保存の観点では、バックアップも含めて全部ラボにつながっているのは非常に機能的だと思う。明らかにフィルム時代にはなかったことですよ。これ（SANDISK Extreme PRO® ポータブルSSDを手にしながら）に入れて渡せるのは、本当に便利です。フィルム時代は、それを運ぶことも含めて相当シビアでした。一方、デジタル撮影は確認体制もしっかりしているので、ピントの甘さも減りました。

──なるほど。技術やストレージの進化は、映画製作の現場を大きく変えているんですね。こうした変化は、今後の映画作りにどんな影響を与えていくと思われますか？

フィルムの時代には「失敗できない」という緊張感があって、それがいい効果を生んでいました。でもデジタルでは、気軽に「試してみよう」と言える。実際、今回の撮影もテストなしの本番でしたから。1テイク目って、撮り返せない“生の瞬間”があるんですよね。だから僕も「とりあえずやってみよう」と。

──デジタルが広げた可能性ということですね。

昔ながらのやり方だったら「ちょっと1回、芝居見せてくれよ」みたいなことがありましたけど、今は変わってきていますよね。デジタルのよさは、きっちり作り込まれた芝居だけじゃなくて、演者の衝動的な瞬間もリアルに捉えられるところだと思います。そして、こうした信頼できるメディア（SANDISK Extreme PRO® ポータブルSSDなど）があることで、思わぬ形で誰かが未来に残してくれる可能性もある。マニアックな人や研究者がふと保存してくれて、時を越えて再び価値が生まれることもあるんじゃないかと思うんです。そういう意味では、デジタルで記録が残せる時代って面白いですよね。

──改めて映画「楓」に込めたメッセージについて教えてください。

久しぶりにラブストーリーを撮ったな、と改めて思いました。日本人は特に心の内側の思いを表に出すのが難しいと思うんですが、この映画は少しずつ心の奥を見せていく物語になっています。観る人それぞれが、自分の経験と重ね合わせて「ああ、自分もそうだったな」と思える瞬間があると思います。共感だけでなく、“可能性”を感じてもらえる物語ですね。誰もが持っている「言い出せなかった真実」をどう受け止めるか、その感情と向き合うことが、この映画のテーマの1つです。恋愛や人生の胸の痛みを、この作品を通じて感じてもらえればと思います。