映画2作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌」より

ツッパリ、シャバい、ボンタン狩り…「ビー・バップ・ハイスクール」不良用語の手引き

直撃世代には懐かしく、若者にはタメになる!?

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映画「ビー・バップ・ハイスクール」が、1作目の劇場公開から40周年を迎える。同作には時代を反映した不良用語が数多く登場。直撃世代には懐かしい単語でも、現代では耳慣れないフレーズも多いはずだ。ここでは作中に登場するキーワードと用法、時代背景などを解説。「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズを視聴する際の予習・復習に役立ててほしい。

/ 藤谷千明

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ツッパリ

映画1作目「ビー・バップ・ハイスクール」では、転校してきた赤城山忠治と横浜銀一の古典的な不良スタイルを見てヒロシとトオルが「ダサい」と一蹴する

映画1作目「ビー・バップ・ハイスクール」では、転校してきた赤城山忠治と横浜銀一の古典的な不良スタイルを見てヒロシとトオルが「ダサい」と一蹴する [高画質で見る]

ヒロシとトオルは自他ともに認める「ツッパリ」である。ツッパリとはいわゆる不良少年(少女)のことを指し、虚勢を張ったりいきがったりするさまが語源とされている。

80年代は不良といえばツッパリの時代だった。1981年に横浜銀蝿「ツッパリHigh School Rock'n Roll(登校編)」(作詞・作曲:タミヤヨシユキ)が売上枚数50万枚を超え、翌1982年にリリースされた、

つっぱることが男のたった一つの勲章だって この胸に信じて生きてきた

というサビでおなじみ嶋大輔の「男の勲章」(作詞・作曲:Johnny)も37万枚のヒットソングになり、ツッパリの衣装をまとった猫、「なめ猫」(正式名称:「全日本暴猫連合 なめんなよ」)グッズが一世を風靡したのも80年代である。

映画1作目「ビー・バップ・ハイスクール」よりサッカーのシーン。ヒロシとトオルがこうして普通の高校生のような青春を楽しむシーンも数多い

映画1作目「ビー・バップ・ハイスクール」よりサッカーのシーン。ヒロシとトオルがこうして普通の高校生のような青春を楽しむシーンも数多い [高画質で見る]

「ビー・バップ・ハイスクール」原作マンガの連載が週刊ヤングマガジンで始まったのは1983年のこと。なお法務省が公開している犯罪白書(令和6年版)によれば実社会で校内暴力事件の発生件数がピークに達したのもこの年だ。ヒロシとトオルが従来のツッパリと異なる点は「番長」の座には興味をしめさず、暴走族のように集団で群れるわけでもない。自由気ままに青春を謳歌するスタンスである。ただ、喧嘩っ早く調子に乗りやすくさらに女の子に弱いため、結果的にトラブルを呼び込んでしまうのだが。80年代後半以降、同じく不良少年を意味する言葉である「ヤンキー」が浸透していくにつれて徐々に「ツッパリ」は後退していった。

ツッパリファッション

「不良の基本はまず外見だ!」、1作目で不良の心得を説くトオルのセリフにあるように、ツッパリ少年のアイコンである変形学生服には、校則に違反しつつも独自のルールが存在する。1作目では「ボンタン、使用生地・タキシードクロス、W巾1m40cm」などトオルが仕立てを詳細に解説しているシーンがあるが、ムック本「『ビー・バップ・ハイスクール』血風録 高校与太郎大讃歌」(名和広著、タツミムック)に掲載された変形学生服記事によると、70年代以前の変形学生服はフルオーダーが主流だったため、その名残だという。また、ツッパリ少女は順子たちのようにスカートが長く、これは後のコギャルとは対照的である。

学ラン

映画2作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌」より。ヒロシは短ラン、トオルは中ラン、順子のスカートは長く、セーラー服の胸当てがない

映画2作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌」より。ヒロシは短ラン、トオルは中ラン、順子のスカートは長く、セーラー服の胸当てがない [高画質で見る]

トンボ学生服のサイトによれば、男子の詰め襟学生服を「学ラン」と呼ぶようになった源流をたどると明治時代までさかのぼるという。学ランひとつとっても長ラン、中ラン、短ランと大きく分けて3種類ある。これは丈の長さをあらわしており、70年代は長ラン、中ランが主流で、「ビーバップ」の時代になると短ランが「かっこいい」とされるようになる。なお、先述のムックによれば、短ランが広まったのは堀越高校在学中の郷ひろみが通学時に着用していたことがきっかけとのこと。さらにムックの著者である名和氏によると、1974年放送のドラマ「高校教師」で、番長役を演じた中村俊夫(現・中村ブン)が、短ランにボンタンという出で立ちで出演しており、こちらのドラマもまた、短ランを世に広める一因にもなったと考えられるという。

ボンタン

映画2作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌」より、山田敏光(左)、藤本輝男(右)

映画2作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌」より、山田敏光(左)、藤本輝男(右) [高画質で見る]

そして変形学生服といえば、ズボンはボンタンである。大学の応援団が着用し始めて広まったというのが通説で、ズボンの形が柑橘類の文旦の皮のように大きく膨らんでいることから、そう呼ばれるようになったという説もある……というように、明確な発祥を特定しにくく、不良文化がメディア発信の文化ではなく、当時の若者たちから生まれたボトムアップ型の文化であることがうかがえる。

2作目「高校与太郎哀歌」の代名詞とも呼べるのが「ボンタン狩り」だ。文字通りズボンを脱がせて奪うのだが、生徒の大半が不良という城東の存在を観客に鮮烈に印象付けた。トオルはナンバー2のテルに、ヒロシは番長の山田にボンタンを奪われてしまう。「ボンタンよこさんかい!」「城東のボンタン狩りじゃあ!」などのセリフも印象深く、マネをしたファンも多いのではないだろうか。

リーゼント・ソリ

映画2作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌」より。ヒロシとトオルの髪型はリーゼント

映画2作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌」より。ヒロシとトオルの髪型はリーゼント [高画質で見る]

髪型もこだわりや個性が発揮されるポイントのひとつだ。リーゼントには長い歴史があり、厳密には「リーゼント」とは両サイドの髪を流し、後頭部の中央で合わせたスタイルを指すが、ここでは逆立てた前髪とサイドを後ろに流した、80年代日本の不良少年のリーゼントの話をする。80年代の不良といえばリーゼントであった。

1作目のトオルによる「リーゼントまたはパーマ、必ず剃りこみはいれるべし」という解説や、「ビー・バップ・パラダイス」(作詞・作曲:都志見隆)の歌詞に

そり入れて ヤキ入れて ガンとばして ワンツーパンチ

とあるように、ソリも重要とされている。なお、「ヤキを入れる」は暴力制裁を加える、「ガンを飛ばす」は相手を睨みつけるという意味。

カバン

映画6作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎完結篇」より。教科書1冊入る余地がない薄さのカバン

映画6作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎完結篇」より。教科書1冊入る余地がない薄さのカバン [高画質で見る]

セリフで言及されてはいないものの、作中に登場する不良たちの通学カバンは現代の感覚からするとほぼ全員尋常じゃない薄さである。当時のツッパリファッションにおいて通学カバンは薄ければ薄いほど良いとされ、インターネットもない時代に、カバンを薄くする技術が全国の不良たちの間で共有されていた。

シャバい

映画2作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌」より、トオルに対して「シャバい」「シャバ僧」と煽るテル(左)

映画2作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌」より、トオルに対して「シャバい」「シャバ僧」と煽るテル(左) [高画質で見る]

元は仏教用語である「娑婆」が転じて、刑務所からみた外の世界のことを指す「シャバ」が任侠映画などで多用され、それが形容詞化したのが「シャバい」であり、「ビー・バップ・ハイスクール」における「シャバい」とは「ツッパリとしてかっこよくない」という意味になる。2作目「高校与太郎哀歌」でボンタン狩りに遭ったトオルに対して、城東のテルが「シャバい」「シャバ僧」を連呼し煽っていたように、基本的に相手をバカにする言葉。作中でも「シャバい」ことは何よりもダサいこととされており、「シャバ僧」は屈辱的な烙印である。

一般的には90年代以降あまり使われなくなっていた「シャバい」だが、不良・アウトロー系マンガの世界では脈々と受け継がれており、近年においてはヤンキーがあえて真面目な「シャバ僧」を目指すマンガ「ナンバMG5」(作:小沢としお)が間宮祥太朗主演で実写ドラマ化され、独自のルビ表現で知られるマンガ「忍者と極道」(作:近藤信輔)にて、「虚無い」を「シャバい」、「弱者男性」を「シャバゾウ」と読ませてSNS上でバズを呼んだことも記憶に新しい。

与太郎

映画2作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌」より。ヒロシとトオルに喧嘩をやめて普通の学生生活を送ってほしい今日子に対して順子が「バカはバカなりに、与太郎は与太郎なりに生きるしか道がねえだろうが!」と平手打ちして一喝するシーンは、2人の女性の立場を象徴している

映画2作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌」より。ヒロシとトオルに喧嘩をやめて普通の学生生活を送ってほしい今日子に対して順子が「バカはバカなりに、与太郎は与太郎なりに生きるしか道がねえだろうが!」と平手打ちして一喝するシーンは、2人の女性の立場を象徴している [高画質で見る]

「高校与太郎哀歌」「高校与太郎行進曲」「高校与太郎音頭」……映画のサブタイトルに登場する「与太郎」とは、落語に登場する類型的なキャラクターのひとつで、間が抜けているうっかり者、ふざけている者、役に立たない愚か者のことである。そこから不良やヤクザの隠語となった。……なのであまり良い言葉ではないが、落語における与太郎はトラブルを呼び込むもののどこか憎めない愛嬌のある人物として描かれる。「ビーバップ」においてもその意味が込められているのではないだろうか。

鼻割り箸

割り箸を鼻に突き刺す「鼻割り箸」や、ヒロシとトオルの椅子に置かれた画鋲がじわじわと刺さる描写など、「ビーバップ」シリーズに登場する身近なものを使った暴力シーンは、観客に鮮烈な印象を残し、語り草になっている。

48グループのアイドルらが不良を演じたドラマ「マジすか学園」でも、松井玲奈演じるゲキカラが指原莉乃演じるヲタに対して鼻に鉛筆を突き刺す「ビーバップ」をオマージュするシーンがあるように、後の多くの作品にも影響を与えている。

喫茶店

80年代半ば、喫茶店は「不良のたまり場」の定番であった。「ビー・バップ・ハイスクール」も例外ではなく、シリーズを通してヒロシとトオルがバカ話や口喧嘩をしたり、2作目「高校与太郎哀歌」では城東の番長・山田敏光がボンタン狩りに浮き足立つナンバー2のテルに釘を刺すシーンなど、しばしば喫茶店が登場する。ロケ地となった店舗はファンの間でも認知されており、聖地巡礼よろしく足を運ぶ者も多いのだとか。また、彼らは未成年だが当たり前のように喫茶店で喫煙しており、それを咎める店員もいない。そういった描写もこの時代特有といえる。

舎弟

映画1作目「ビー・バップ・ハイスクール」より、ヒロシとトオルの舎弟3人衆。左から横浜銀一、兼子信雄、赤城山忠治。1作目から6作目まで通して登場する

映画1作目「ビー・バップ・ハイスクール」より、ヒロシとトオルの舎弟3人衆。左から横浜銀一、兼子信雄、赤城山忠治。1作目から6作目まで通して登場する [高画質で見る]

元は弟分を指す言葉だが、「ビーバップ」1作目でヒロシとトオルの舎弟になりたいというノブオが仁義を切るポーズを取っていたり、ノブオを舎弟にしたと知った(勝手に「舎弟だ」と言い張ってるだけなのだが)今日子の「ダメよ、そんなヤクザみたいなことしちゃ!」のセリフからうかがえるように、ヤクザや不良集団の上下関係において下の身分の者をそう呼ぶことが多い。

「仁義なき戦い」

1973年に公開されたヤクザ映画「仁義なき戦い」の名台詞が「ビーバップ」には度々登場する。例えば、「高校与太郎哀歌」での「お前ら『仁義なき戦い』で菅原文太が松方弘樹に言うシーン知っとろうが」とたずねた新田に対して、トオルとヒロシが息ぴったりに「狙われるもんより狙うもんの方が強いんじゃ」と答えるシーン、「与太郎行進曲」のヒロシの「てめえこそ吐いたツバ飲まんとけよ」など、当時の不良にとって基礎教養であるかのごとく引用されている。

先公

映画5作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎音頭」より。左から校長、教師の遠藤、蟹江

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教師のことをバカにした表現。類似語として、警察のことをバカにした「ポリ公」がある。

「ビーバップ」の舞台である愛徳高校では教師は基本的に全員ナメられている。教師たちは「愛徳はかつて進学校だったが生徒数の増加でこんな現状になっている」と度々ボヤいており(ヒロシとトオルは2年「F」組である)、日本の若者人口比率が高く、校内暴力が盛んだった時代を感じさせる。また、喫茶店の項目で「店員は未成年喫煙を咎めない」と書いたが、ヒロシやトオルは学校の屋上でも当然のように喫煙しており(防火バケツはあるので火事には配慮している)、「高校与太郎音頭」では成績向上を校長からノルマづけられた教師・蟹江がトオルを丸め込むために一緒に屋上で喫煙している始末である。

ダブり

映画5作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎音頭」より。居眠りをするトオル(中央)

映画5作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎音頭」より。居眠りをするトオル(中央) [高画質で見る]

ヒロシとトオルは進級できず留年した「ダブり」である。ダブりの語源は英語のdoubleから。「次にダブったら除籍」と作中で繰り返し言及されており、進級は2人の学校生活にとって生命線なのである。

マブい

美しい、素敵な、といった意味で、主に女性に対して使用される。類語に「ハクい」がある。なお、「マブダチ」は親友のことで、2025年に放送されたアニメ「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」に登場する、2機1組のバディを組むM.A.V.(マヴ)戦法の由来は、このあたりの文化に起因しているのではないだろうか。

コーマンズ

映画3作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎行進曲」より。左から前川新吾、ヒロシ、トオル、菊永淳一

映画3作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎行進曲」より。左から前川新吾、ヒロシ、トオル、菊永淳一 [高画質で見る]

「コーマン」は女性器の俗称をさらに呼び替えたものであり、「コーマンする」はセックスすることの隠語となっている。「ビーバップ」シリーズにおいて定番の下ネタワードだが、とくに3作目「高校与太郎行進曲」では頻出。常に女を切らしたことのない北高の前川、そしてコーマンを求めるトオル、ヒロシ、立花商業の菊永という4人で「ザ・コーマンズ」を名乗る。

ヒロシとトオルを気に掛ける少年課の鬼島刑事相手にどこへ行くのか尋ねられた際には「コーマンです!」とはしゃぎ、激怒させている。

七夕野郎

映画4作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎狂騒曲」より。当時の流行ファッションであるアイビールックのトオル(右)

映画4作目「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎狂騒曲」より。当時の流行ファッションであるアイビールックのトオル(右) [高画質で見る]

七夕野郎とは 女にかまけている男 という意味であり それが転じて、女にうつつをぬかし 男との大事な事を忘れるマヌケをいう

4作目「高校与太郎狂騒曲」はこの「七夕野郎」の解説で始まる(黒バックに白文字で仰々しく)。シャバ僧ファッションで女性と遊園地デートに挑むトオル、女子大生と付き合うことになり振り回されるヒロシ、彼らの周囲で飛び交う「七夕野郎!」は、4作目を象徴するフレーズで、ファンの間でも愛されている。また、サイプレス上野とMIC大将による同名ユニットが存在するが、もちろん「ビーバップ」が由来とのこと。

PrimeVideoチャンネル「東映オンデマンド」にて「ビー・バップ・ハイスクール」全6作品配信中

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