「現代中国映画祭2024」メインビジュアル

中華エンタメを知る Vol. 2(後編) [バックナンバー]

中国映画の“今”を届ける!ディレクター徐昊辰が見据える現代中国映画祭の未来「中国ドラマ同様、映画も良作がたくさんあると伝えていきたい」

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中国映画の注目度が上がったのは中国ドラマの人気上昇が理由

──映画ナタリーでニュースを配信していると、近年中国映画の記事がアクセスランキングで上位になることもあって、注目度が上がってきていると感じます。

それは私も実感しますね。でも日本でここ5年ぐらいの間にヒットしたと言える中国映画は、トニー・レオン(梁朝偉)とワン・イーボー(王一博)が共演した「無名」ぐらいだと思うんです。そう考えると、中国映画の注目度が上がっているのも、やっぱり中国ドラマの人気上昇が理由の1つにあると思います。ドラマの影響で、中国スターのファンがこの5年ぐらいで一気に10倍ぐらい増えた。そこから映画もチェックする流れができたと思います。実際、去年の東京国際映画祭のために、チャオ・リーイン(趙麗穎)や、イー・ヤンチェンシー(易烊千璽)、ホアン・シャオミン(黄暁明)が来日してとても盛り上がりましたが、それはやっぱりドラマ人気の影響もあると思います。

──それにしても来日ゲストが本当に豪華でした。

東京国際映画祭は中国の映画人にとって特別な思い入れがある映画祭なんです。いわゆる世界三大映画祭に次いで重要な映画祭として評価されている。それは、ベルリンやカンヌ、ヴェネツィアが欧米視点、もしくはグローバル視点で作品を選ぶことが多いことに比べて、東京国際映画祭が東洋寄りな部分があるからです。西洋ではそこまで話題にならない作品も、アジアで上映されれば、観客の心を揺さぶる場合がある。そういった意味で、中国の映画業界から見ても、東京国際映画祭は自分たちの作品のワールドプレミアをする場所としてとてもいい場所だと認識しているんです。実際、昨年は中華圏の映画が5本もコンペに入選した。これはすごいことです。

日本に住んでいる中国人がチケット争奪戦に積極的に参加したこともあって、日本のお客さんがチケットを取りづらいという状況もありましたが、とはいえ、やはりああいう熱量は映画祭に必要なものだと思います。

──本当にすごい熱気で、「小さな私」の舞台挨拶後は、劇場前が人で埋め尽くされていました。イー・ヤンチェンシーの来日なので、もっと警備を増やしたほうがいいのではないかと余計な心配をしてしまうほどで。

やっぱりまだ中国のスターが知られていないということなんですよね。トム・クルーズだったらああいう警備にはならないじゃないですか。だからもっとお互いの国のスターをお互いが知っているような状況を作っていけたらと思っているんです。それは日中だけじゃなく、ほかの国も巻き込んでやっていけたらなと。

十数年間、私が映画業界で働いてきて一番感じるのは、アジアの映画人同士の交流が少ないということなんですよね。アジアは昔から多くの名作映画を生み出してきて、世界からリスペクトされている監督もとても多いんですが、相互のコミュニケーションが足りていない。

ヨーロッパはそれぞれの国がローカルな作品を作りつつも、一緒に映画を作ることがもう当たり前になっている。一方、アジアは共同制作の作品が徐々に増えているものの、まだまだ全然交流は足りていない。だから文化交流の力になるような取り組みを、自分ができる範囲で今後もやっていきたいなと考えています。

「ナタ 魔童の大暴れ」は映画というジャンルを超えたものになった

──最後に昨年、また今年の中国映画市場についても少しお伺いしたいです。

去年はほとんどマイナスのニュースしかなかったですね(笑)。一番ヒットしたのは、旧正月に公開された「百円の恋」の中国リメイク作「YOLO 百元の恋」で、私のところにまで「何かリメイクできる日本の作品はないか?」と連絡が来た。日中交流の可能性を感じたのはいいことでした。

ただそのほかヒットしたのは「抓娃娃(じゅあわわ)-後継者養成計画-」ぐらい。「百元の恋」も興行収入は日本円で700億円を超えていますが、監督・主演のジャー・リン(賈玲)さんの前作「こんにちは、私のお母さん」の興収は50億元、日本円で1000億円を超えていましたから、ちょっと物足りない数字だったと思います。

実際データで見ると去年の興行収入は一昨年と比べると2割減だったので、かなり深刻な状況だなと。中でも特に厳しいのは洋画の興収ですね。ハリウッド映画に全然お客さんが入らない。中国国内でどんどんヒット作を生み出してもハリウッド映画の不振を補填するのはやっぱり難しいんです。

そんな中で、日本映画は大健闘でした。すべてアニメではありましたが、1億元を超えた映画が7本もあった。日本のアニメは中国でもハリウッドに次ぐブランド力を持っています。ただ、洋画の不調を埋めるようなところまではきていない。洋画の不振が響いて中国映画市場もよくない状況で、さらに中国の経済成長も少し止まっていたので、みんな映画業界の今後について悲観的になっていました。でも、今年の「ナタ2(ナタ 魔童の大暴れ)」の大ヒットでちょっと状況がわからなくなったんです。

──とんでもない興収を積み上げています。

150億元(約3000億円)を突破して、ちょっと恐ろしい状況ですね(笑)。2024年の日本映画市場の年間興行収入が約2069億円ですから、「ナタ2」1本だけでそれを超えてしまっている。もうここまでのヒットになると、映画というジャンルをはるかに超えたものになっていると思います。

これは「ナタ1(ナタ転生)」がヒットした際に、中国アニメへの信頼度が高まって、アニメは大人も観るもの、と意識が変わったことが原因の1つだと思います。それまではアニメに抵抗がある人もいました。また中国のCGレベルが世界トップレベルまで成長したことも要因の1つ。だから今後、中国ではアニメ映画がどんどん増えていくと思います。実際、「ナタ2」は技術面だけではなく、物語やテーマ性も本当に素晴らしく、個人的に今年必見の1本だと思っています。

ただ1つ不安な要素もあって、そもそも「ナタ2」は80億元ぐらいまでは興収を伸ばすだろうと予想されていた作品なんです。出来もいいですし、旧正月映画はそのほかにライバルが「唐探1900」ぐらいしかなかった。だから、かなりお客さんも入るだろうなと。

ところが、実際は予想をはるかに超えて150億元まで伸びた。これは実は「アメリカ映画の興収を超えようぜ!」といった、違う要素が加わったからなんです。まず全米歴代興収記録を持つ「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」を超えようという流れになって、すぐにバーっと超えて。そして世界興収ベストを狙っていこうという話になった。これは今の中国社会を反映するような出来事とも言えると思います。

映画の興行収入どうこうより「アメリカを超えようぜ!」みたいな雰囲気で、かなり変な状況。中国国内でも批判的な声が上がっているんです。とはいえ「ナタ2」が興収全体の何%を占めるのか、そしてそれがどう中国で評価されるか? 結論が出るのは、まだ先のことです。

ただ現時点では、「ナタ2」がなければ今年の中国映画市場は決していい状況ではないと言えると思います。ほかの国と変わらず映画市場に元気がない。どうやって観客を映画館に呼び戻すかが課題です。中国の人は映画を観ることに、もう飽きちゃっている。だから、映画を観るという行為以外に、観客が楽しめるものがないと中国の映画市場はうまくやっていけないのではないかと思います。そういう意味では日本の映画会社はとても上手。何十年も前から入場者特典を始めている。この体験型の映画鑑賞が今でも効果を発揮しているのはすごいことです。

──飽きているというのは、映画鑑賞が一時的な流行りのようなものだったんでしょうか?

そうです。中国の映画文化は若いんですよ。僕はいつも言っているんですが、中国では「スター・ウォーズ」はヒットしないんです。2008年、2009年から映画市場が成長を始めたので、みんな「スター・ウォーズ」をリアルタイムで体験していないんです。これまでヒットしたハリウッド映画はマーベルだけ。

映画鑑賞というものを新鮮に思う感覚が十何年続いていたんですが、それがコロナで壊されてしまった。実は配信プラットフォームの台頭は中国では大きな影響はないんです。もともと海賊版で観るという文化があったからあまり関係ない。映画鑑賞そのものに飽きてしまって、今は体験型のエンタテインメントに気持ちが向いているんだと思います。

──なるほど。

中国はやっぱり変化が早くて激しいんですよね。日本のように毎年「ドラえもん」の映画をやって、興行収入もしっかりあるというような状況を中国で作るのは極めて難しい。

例えば映画祭ではそのとき、その瞬間でしか体験できないという魅力を提供できますが、一般公開の映画ではそういったものを観客に提供するのはハードルが高い。それをどう作っていくかが中国映画市場の大きな課題だと思います。

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