他人に流されず、自分らしさを保つのって難しい。モデル、俳優、エッセイスト、雑誌編集と多彩に活躍し、自らの好きを突き詰める菊池亜希子にも、20代の頃に人前で悔し涙があふれた過去があったという。
Xiaomi Japan「今こそが、わたしのスペシャル。」のプロジェクトでは、自分らしく生きることの魅力を発信。菊池にはLeicaと共同開発のカメラシステムを搭載したXiaomiのスマートフォンで、自分の暮らしやスタイルが見えるような写真を撮ってもらった。子供たちとの夏休みを捉えた4枚の写真を手がかりに、彼女が大事にするものを聞いた。
取材・文 / 奥富敏晴撮影 / 清水純一
グラグラだった20歳の頃の自分
──菊池さんが一番悩んでいた時期はいつですか。
考えたんですけど、意外となくて。モデルを始めて最初の頃が悩んでいたかなとは思うんですけど。
──10代の学生時代にデビューされてます。
モデルを始めたのは16歳ぐらい。20歳の頃はこの世界でこれからもやっていきたい気もするし、大学で勉強していた建築の道に進みたいかもという思いもあって。その当時、いろんなモデルの方が登場していた、雑誌の人気連載があったんです。カメラマンの方がインタビュアーで。すごくリアルな、生身のポートレートを撮られて、モデルは自分の全部を赤裸々に語って、丸裸にされるみたいな。それは、もうものすごく覚えています。
──何があったんですか。
自分のことを話せば話すほど、自分がグラグラなことに気が付いて。悔しいのはもちろん、いろんな意味で涙が止まらなかった。当時はモデルをしながらエッセイの執筆を始めた頃で、そういう二足のわらじを履くことに自信を持てていなかったんですよね。自分でも中途半端な気がしているときに、「自分や“好き”の気持ちを正当化して逃げてるだけじゃない?」というようなことを言われて。
──なかなか厳しいですね。
そうですよね。でも、すごく痛いところを突かれた、というか。自分でもなんとなくあいまいにしていたところを指摘されて何も言えなかった。すごく悔し涙があふれて。そのときの悔しさは今もバネになっているかもしれません。
自分がたどり着くところには“心を掛けたい”
──そこで「じゃあ自分はグラグラだから1本に絞ろう」となる人もいると思うんですけど。菊池さんはモデル、俳優、雑誌編集など、今も本当に幅広く活躍されてます。
悔しかった思いがずっとあるから、それぞれの仕事に120%の力で応えたい、応えなきゃいけない、という気持ちでやってきたのかな。落ち着いて振り返ったりもなかなかできないけど、20代、30代の頃はもう考える暇もなく全力投球だったような気がしています。
──そういった悔しい記憶があることは、うらやましくもあります。今は悔しい思いをしないために、事前に回避する能力が求められるような気もして。
いろいろと効率よく生きるのが当たり前ですもんね、それを否定する気はまったくないんですけど。悔しいと思うためには、じっくりやるというか、1つひとつのことにしっかり悩むというか。自分が選んだものに、その結果にたどり着くまでにどれほど考えたか。ものすごく泥臭いこと言っていますね(笑)。
──そんなことありません。
今はポンっと生まれたものに、多くの人が影響を受けるし、心を動かされることも大いにある時代。でも言葉を1つ、ほんの短い文章を考えるだけでも、簡単に1時間も掛かったりするんですよね。私は自分がたどり着くところには、ちゃんと心を掛けたい。そうするしか方法を知らないというのはあります。
──なるほど。
40代になって、体力の限界を感じたり、いろいろ迷ったりすることもあるんですけど。結果的にというか、気が付いてみれば、日々、10年前にがんばっていた自分、そのときの自分に引っ張ってもらっているなと感じています。突き詰めて考えたり、こだわったり。一生懸命何かに向き合ったこと、そこで付けた力は10年後の自分に絶対届くと思います。
アルバムをせっせと作った学生時代
──今回そんな菊池さんのスタイルを知るために「Xiaomi 15T Pro」で写真を撮っていただきました。菊池さんは普段から写真を撮るのがお好きなんですよね?
そうですね。基本的にほぼ毎日撮ってます。10代の頃にモデルのお給料で最初に買ったのがデジタルカメラでした。ちょうどデジカメが普及し始めた頃(2000年前後)で、写真を使って遊ぶみたいな感覚でしたね。学校のプリンタで粗い写真を出力したり、建築学科の課題で風景を撮ったり、10代のときからすごく身近です。もっとさかのぼったら、おじいちゃんが写真好きで、カメラを借りたりもしていましたね。
──どんな写真を撮っていたんですか?
街中に転がっているような文化を考える考現学という学問があるんですけど、大学の先生には「とにかくカメラ持って街に出なさい」と言われて。街の主役になるような建物じゃなくて、途中の路地とか、面白い看板とか、ビルのタイルとかを撮ってましたね。自分が見つけた!みたいな気持ちで。
──当時の写真は残っていますか。
今思うと、すごく恥ずかしくて。時間がいっぱいあったのでいろんな街を歩いて、例えば、雨に濡れて、干からびた(週刊少年)ジャンプになぜか心惹かれて(笑)。いろんな角度から撮りまくった写真が残ってるはずです。発表とかはしていないんですけど、ジャンルごとにアルバムをせっせと作っていましたね。
──ジャンルは例えばどういうものがあったんでしょう。
自分にしか伝わらないような「乙女系」や「ときめき系」とか(笑)。あとは「考現学」とか。当時のアルバムを振り返ると、その時期の私のブームみたいなものが写真の色味とか、被写体の色にも表れていて。パステルカラーを探して撮っている時期があったり、逆光を狙って哀愁漂う“光と影”みたいな写真を撮ろうとしていたりとか。
──あまり人は撮らなかった?
そうですね。きっと自分が被写体として撮られる仕事もしているので、それはもうプロに敵わないみたいな気持ちがどこかにあって。でも、子供が生まれてからはすごく撮るようになりました。やっぱり、そのものに対する熱量、愛の強さみたいなものって、写真に強く出ますよね。
菊池亜希子の暮らしをのぞく4枚
──今回撮影された4枚もお子さんの写真です。1枚目は「火点し頃(ひともしごろ)」というタイトルを付けていただきました。
暗くなる前の夕方の時間帯を、火を灯す頃、火点し頃って言うらしいんです。ちらほら、家の明かりがついていたり、ついていなかったり。何かの小説で読んでから、すごく好きな言葉ですね。このあと一瞬で暗くなってしまうんですけど、自分の心が敏感になって、いろんな感情が込み上げてくる時間帯な気がします。子供は一番忙しない時間でもあるんですけど。
──学校や遊びから帰ってきたり、ごはんを食べたり。
自分が子供の頃の記憶もすごく残っています。お母さんが台所で夕飯を作っている匂いを感じて、近くで遊んでいたんだけど、帰ってくるみたいな、そういう時間。この日は夏休みで。7歳の娘はバレエを習ってるんですけど、近くの知り合いのビルの屋上で「踊って」と言って踊ってもらいました。
──続いては娘さんが空を見ているような写真。表情が見えないので、いろいろと想像させられます。
まだカメラをお借りして数日で、被写体に寄ってみたり、 明るさを調整したり、いろいろ試しているときだったんですけど。やっぱり子供は動きが速いので追いきれないときもあって。夕方で暗くなってきてシャッター(スピード)を低めにしていたので、ちょっとブレてしまっています。でも、このブレちゃう感じも、きれいに撮れるんですよね。
──夏の終わりも感じるような1枚ですね。
やっぱり、子供もちょっとセンチメンタルなんですよ。学校の友達が恋しい、先生に会いたいとかもあるけれど、ずっと「夏休みが終わっちゃう!」と言っていて。私は夏の終わりが誕生日(8月26日)なので、子供の頃はいつもちょっとセンチメンタルな誕生日だったなと(笑)。
──続いては「宿題」という写真。これは夏休みの宿題ということですよね。
実はこれを撮った日が本当の夏休みの最終日です。近所のカフェで撮らせてもらった1枚ですね。ほかに娘の男の子の友達もいたんですけど、男子は宿題そっちのけで遊んでしまっていて、娘は宿題をもう終わらせて、絵を描いていますね。この梨は一緒にごはんを食べていた友達がくれたんです。それがすごくきれいだったので。
──最後の1枚もお子さんの手が写ってます。
こっちは下の子の手なんです。近所に駄菓子屋さんがあって、そこで買ったお菓子を公園で食べているところです。あの歯にくっつくやつ(笑)。写真を撮ったあとに気付いたんですけど、すごくバランスよく食べてた。市松模様みたいになってるのがいいな、と。
──あ、本当ですね。規則的に食べている。
こだわってますよね。子供って大人が気付かないようなこだわりがあるときがあって。この駄菓子だったら勝手に食べると「そこから取らないで! 今1個置きに食べてるのに」みたいな。そういう謎のこだわりの強さは大事にしてほしいなと思ってます。
──こうしてお話を伺うと、写真1枚1枚に菊池さんなりの物語や愛の強さがあるんだなと感じます。
そんな、かしこまったものでもないですけど(笑)。情緒的というか、その前後に物語性がありそうな写真は好きですね。自分で撮るのは全然上達しないんですけど、そういう視点はずっと変わってないです。
──特に手が印象的な写真が多いですよね。
やっぱり手の力は絶対にあって、“手当て”って本当に効くと思うんです。7歳の娘は最初の思春期みたいな時期で、学ぶことも多いけど戸惑うこともある。やっぱり、それが体に出るときもあって。おなかがちょっと痛いときに、私が手を当てて「“手当て”って言うんだよ」と教えたら、それですごく元気が出た(笑)。「また手当てしてほしい」って言われますね。
──手とか人肌って強いですね。そもそも菊池さんは人の背中を押すタイプですか?
いえ、あまり背中押すタイプではない。ないんですけど……さするタイプというか(笑)。
──さする、ですか。
さすろうと思ってさするわけじゃないですけど、この人は今すごい何かに悩んでいるなとか、しんどいだろうなと感じることは誰でもあるじゃないですか。というか誰もが常に何かしらを抱えている。そういう人と会ったときに、押すまではしないけれども、いったん、ちょっとさすったりします。人肌に触れることは、ものすごく力がありますよね。
プロフィール
菊池亜希子(キクチアキコ)
1982年8月26日生まれ、岐阜県出身。モデルとしてデビュー後、映画やドラマに出演しながら、エッセイ、イラスト、雑誌編集など幅広く創作活動を行う。編集長を務めた「菊池亜希子 ムック マッシュ」はvol. 1~vol. 10の累計が56万部を超える。主な出演作に映画「森崎書店の日々」「グッド・ストライプス」、ドラマ「カルテット」(TBS)、「恋せぬふたり」(NHK)、「キャスター」(TBS)など。著書は「好きよ、喫茶店」(マガジンハウス)、「ありが10(とう)ふく、みせて!」(扶桑社)ほか多数。第78回カンヌ国際映画祭の監督週間に選出された映画「見はらし世代」が10月10日に公開。
菊池亜希子 (@kikuchiakiko_official) | Instagram
ヘアメイク / 茂木美鈴スタイリング / 伊藤信子衣装協力 / ブラウス ロワズィール(税込4万6200円)、パンツ イムズ(税込2万4000円)、シューズ コンバース(税込1万5400円)、そのほかスタイリスト私物