佐井大紀

テレビマンが作るドキュメンタリー映画 #3 [バックナンバー]

佐井大紀(TBS) / ドラマとドキュメンタリーの現場を行き来する“自分だけの仕事”

ドキュメンタリーのほうがよっぽどフィクション

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“1990年代AV的な感覚”でドキュメンタリーを撮っている

──佐井さんがこれまで手がけた作品から感じた印象として、クセになるある種の“気持ち悪さ”があります。最近テレビでもフェイクドキュメンタリーや、バラエティや恋愛ドラマの体をしたホラーなど、ひとひねりある番組が増えていると思うんですけど、そういった番組を意識されることはありますか?

僕はすごく好きですよ、フェイクドキュメンタリー。フェイクドキュメンタリー「Q」というYouTubeは毎回観ていますし、テレビ東京の大森時生さんがやっている番組も観ます。ただ僕の場合は、本当のことを取材して「現実の社会はすごく不安定だし、無秩序で怖くない?」という不穏さを出している。みんなが抱いている不安感をフィクションという場所で観られるフェイクドキュメンタリーの作品に比べると、僕の作るものは怖すぎるのかもしれない……。

──確かに、いくら怖くてもフェイクですもんね。

“不安と無秩序に満ちた今の社会で何を安心しているんだ”と思う一方で、1990年代にも、オウム真理教の地下鉄サリン事件や阪神淡路大震災があった1995年に「新世紀エヴァンゲリオン」やJホラーといった不気味なものが流行ったんですよね。1990年代は、アダルトビデオも重要です。当時のAVって、テレクラで出会った地方都市の女性と交渉して映像を撮る監督がいたり、ドヤ街に行ってそこの労働者と撮ったり、社会問題に影響を受けた作品が多く作られていて。僕はそんな“1990年代AV的な感覚”でドキュメンタリーを撮っているのかもしれません。そして、ドキュメンタリーだけ作っていてもダメだし、ドラマだけでも物足りないから、行ったり来たりしてフィードバックさせ合うことが、自分だけの仕事だなと思っています。

──そのほか、佐井さんが立ち上げた「TBSレトロスペクティブ映画祭」も4月26日から始まりました。TBSに収蔵された貴重なドキュメンタリーフィルムをデジタル修復して劇場公開する企画とのことですが、“第1回”ということは今後も続けていくんでしょうか。

「TBSレトロスペクティブ映画祭」ポスタービジュアル

「TBSレトロスペクティブ映画祭」ポスタービジュアル

今後も続く予定で、先々の準備もしていますね。立ち上げたきっかけとしては、僕自身が10代の頃にこういう過去の面白いものを観たかったけど観れなかった、と思っていて。せっかくあるTBSの財産ですし、僕も大きなスクリーンで観てみたいし、映画祭という形で体感できるといいなという気持ちがありました。フィルムは生ものだからなるべく早くきれいにデジタル化してあげないと、どんどん劣化していくんですよ。やると決めたタイミングで腹をくくってやらないといけないし、貴重な素材を後世に残す1つのきっかけにしようと、会社に企画を出しました。倉庫からフィルムを出して高画質デジタル化して傷を消す作業をしています。

──企画が通ったのはこれまでの実績があってこそですね。初回は寺山修司特集ですが、今後はどういう切り取り方をしていきたいですか?

まだ内緒です! ただTBSにはまだまだ貴重なフィルムが沢山残っていますので、ご期待ください。

「あなたは……」場面写真

「あなたは……」場面写真

──テレビの貴重な素材を劇場で観られる機会はこれまであまりなかったですね。

ピンポイントのイベント上映はあるんですけど、ちゃんと映画祭と銘打ったものはないと思います。年に1回、続けていく予定です。僕はドラマを半年から1年に1本のペースで担当しているので、おそらくこのペースが限界だと思います。映画の仕事がトリッキーすぎるので、ドラマの人間としてもちゃんとインパクトある仕事をしないといけないなという個人的な課題もありますね。

木村栄文さんのスタイルを一度やってみたい

──ドキュメンタリーで今後作りたいものはありますか?

今はTBSレトロスペクティブ映画祭をどう維持していくかっていうところに一番の関心があって、少なくとも全国5カ所で開催できる目途が立っているので、毎年この映画祭をやれればそれでいいって気持ちもありますが、また1カ月ぐらい経ったら「次は何を撮ろうかな」となっているかもしれないです。あとは音楽の仕事をやりたいですね。ラジオに出たり、ザ・ビートルズに関する文章を書いたりする仕事が少しずつ増えてきているので、音楽関連もいろいろやっていくことが今年・来年のテーマかなという感じです。

──最後に、佐井さんが気になったテレビ局発のドキュメンタリーを教えてください。

去年(2023年)、NHKで「哲学的街頭インタビュー」という番組が放送されていたんです。僕が作った「日の丸」をもしかしたら観てくれて、こういう街録をやってみてもいいかもと思ったのかなって。観て、反応してくれる人もいるのかもという手応えを感じました。

NHKの「ニッポンおもひで探訪 ~北信濃 神々が集う里で~」は、長野県飯山市の集落を俳優の宍戸開さんが訪ねるドキュメンタリーなんですけど、ふたを開けてみたらそこはもう廃村になっていて、なくなってしまったお祭りを、その村に昔住んでいたおじいさん・おばあさんで再現するという構成。テレビマンユニオンの今野勉さんが伊丹十三さんと1970年代に作った「天が近い村」っていうドキュメンタリーがあって、その番組ではある村の婚姻の歌を撮影しようと訪ねたら「お祝いの歌を撮るなら結婚式を全部やってしまったほうがいい」と村人たちが善意で結婚式を演じてくれて、その事実も最後に打ち明ける。それと同じことをやっているんですが、このように50年も前のものを現代で踏襲することもあるから、僕がやったことも一部の作り手に間接的に作用していくのかもしれないし、狭い範囲内だけどわりといい循環を作れているのかもしれないという思いはありますね。僕の勘違いかもしれないですけど(笑)。

──そうやって時を超えて影響を与え合い、面白い番組が生まれるといいですよね。

あとドキュメンタリーとしては、木村栄文さんのスタイルを一度やってみたいですね。実在の人物を俳優さんが演じることでフィクションとドラマが混ざるような作り方なんですけど、三國連太郎(「記者ありき 六鼓・菊竹淳」)とか高倉健(「むかし男ありけり」)といった名優と組んだ作品がいくつかあるんです。自分はドラマ制作部で役者さんと近い距離にいるので、どこかのタイミングでやってみたいなと思っています。

佐井大紀(サイダイキ)プロフィール

1994年生まれ。2017年にTBS入社。ドラマ制作部にて「Get Ready!」「Eye Love You」などのプロデューサーを担当する傍ら、東京・新国立劇場で上演した朗読劇「湯布院奇行」の企画や、ラジオドラマの原作など活動は多岐にわたる。ドキュメンタリー監督としては、「TBSドキュメンタリー映画祭2022」で上映された「日の丸 ~それは今なのかもしれない~」が、「日の丸~寺山修司40年目の挑発~」として劇場公開されたほか、「カリスマ~国葬・拳銃・宗教~」「方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~」などを手がける。2024年4月26日からは、企画・プロデュースを担った「TBSレトロスペクティブ映画祭」が全国で順次開催中。

TBSレトロスペクティブ映画祭 概要

東京都 Morc阿佐ヶ谷ほか全国で順次開催中
<上映作品>
「あなたは……」(デジタル修復版)
「日の丸」(HDリマスター版)
「中西太 背番号6」
「サラブレッドーわが愛ー大障碍の記録ー」(HDリマスター版)
「勝敗 第一部・第二部」(デジタル修復版)
「日の丸~寺山修司40年目の挑発~」
「カリスマ~国葬・拳銃・宗教~」

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てれびのスキマ/戸部田 誠 @u5u

佐井大紀(TBS) / ドラマとドキュメンタリーの現場を行き来する“自分だけの仕事” https://t.co/a7Yw3gq1dH

佐井「取材している人間が相手を俎上に載せて、こちらが聞きたいことを聞いて、こちらの意思で編集しているじゃないですか。だから矢面に立つべきなのは作っている側の人間」

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