韓国映画「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」が6月13日に全国で公開される。
パク・サンヨンの連作小説「大都会の愛し方」の1編「ジェヒ」を原作とする本作は、他人の目を気にせず自由奔放に生きるジェヒと、ゲイであることを隠して生きるフンスの物語。社会の“普通”になじめない2人が心に傷を負いながらも特別な関係を築き、自分らしい生き方を見つけるさまが描かれる。ドラマ「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」、「破墓/パミョ」のキム・ゴウンがジェヒ、ドラマ「Pachinko パチンコ」のノ・サンヒョンがフンスを演じ、「女は冷たい嘘をつく」のイ・オニが監督を務めた。
映画ナタリーでは、主人公たちと同様にルームシェア経験のある蛙亭・イワクラ、男性ブランコ・浦井のりひろ、俳優の北原里英に、映画を鑑賞して掘り起こされた相棒との思い出についてコラムを執筆してもらった。また、本作の“裏の主役”とも言えるK-POPアーティスト・miss Aの代表曲を中心に、物語を彩る音楽について解説したコラムも掲載している。
文 / 岸野恵加(音楽コラム)、脇菜々香(作品紹介)
映画「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」予告編公開中
弱さもみっともなさも全部「ありのままでいい」自分らしさを認め合える“人生の相棒”はいますか?
大学時代のある日、男性とデートをしているところをジェヒに見られてしまったフンス。ゲイであることを隠して孤独に生きていたフンスは「人生終わった」とあきらめるが、予想に反してジェヒは驚くことも、周囲に言いふらすこともなかった。一方学内では、SNSにアップされたヌード写真がジェヒではないかとうわさに。他人の目を気にしないジェヒは教壇の前に堂々と立ち、Tシャツをめくって自分ではないことを証明するのだった。彼女の大胆な行動に感服したフンスが「飲みに行こう」と誘ったことで、正反対な2人の特別な関係が始まる。
そんな中、我が子のセクシュアリティを受け入れられないフンスの母は、祈ることで“治そう”としていた。耐えきれなくなったフンスはジェヒのアパートに入り浸るようになり、ある出来事をきっかけに同居を始めることに。互いを偽名でスマホに登録し、都合の悪いときは「同居人」の存在を口実に利用し合う2人。それぞれの恋に悩み、ときには衝突もしつつ、“自分らしさ”を認め合いながら唯一無二の絆を深めていく。
本作では、お酒と恋愛がすべてだった20代から、仕事や結婚など現実的な悩みを抱える30代までの2人の関係が描かれている。大学を卒業したジェヒは就職、フンスは兵役へ。除隊後再び共同生活を始めるも、フンスは作家になる夢に挫折し、恋愛にも行き詰まっていた。自由を愛するジェヒも、束縛の強い恋人ジソクとの関係に息苦しさを感じながら抜け出せないでいる。やがて、そんな2人の友情を揺るがす大きな転機が訪れる。
キャラクター紹介
ジェヒ(演:キム・ゴウン)
あんたらしさがなんで“弱み”なの?
- 恋に猪突猛進、あだ名は“惚れっぽいイカれ女”
- 飲み代のためならスクーターも売り払う
- 束縛の強い恋人との関係に息苦しさを感じつつ抜け出せない
蛙亭・イワクラ「ジェヒにとってのフンスが私にもいる」
これからの人生の親友になる映画に出逢えました。
一人だと感じてしまう時、世の中に合わせられない事に心を擦り減らしてしまう時、そんな時に自分は自分のままでいていいんだと心の底から思える作品でした。
学生時代、自分もジェヒのように他人のことを気にせず過ごそうとしていた事を思い出しました。
自分のやりたい事や言いたい事を言うと周りから、「変だよ」「女の子なのになんでそんなに落ち着きが無いの? みんなちゃんと同じ事出来てるよ」などと、世の中の普通に自分が入れていない事をクラスメイトや先生から言われ、理解されない苦しみはあるけどそんな低いレベルに合わせたくないし、下に見てるならバカのふりをして合わせればいいのにそれさえも出来なくて、普通になりたかったけどなれなくて悩んで苦しんでいたけど、その姿は強そうに見えるから非難されてもいい存在となってしまって。
でも、ジェヒにとってのフンスが私にもいて、今もずっと親友でありのままの私を受け入れてくれるし、苦しみは共有したし、性別なんか何も関係ない関係性を築いて、多くの人に理解されなくてもたった一人だけの親友のおかげで生きられました。
ジェヒとフンスの出逢いは大学で、20歳から33歳まで描かれていましたが、自分が20歳の頃は芸人になる為の養成所の費用を貯める為ひたすらアルバイトをしていました。
21歳から芸人を始めて35歳の今も芸人です。この14年間の芸人生活で出逢った芸人仲間が私の人生の宝物です。
世の中から変だと言われる人間がたくさんいて、お互いの変な部分が自分の個性だと認め合えて、そこに性別も何も無く、友情があって、世間からは認めてもらえない男女の心の繋がりがあります。
わたしが親友を一人挙げるなら、さや香の新山です。
同期で、お互い良いことも悪いことも全て言葉に出して伝え合えて、良い事をしたら褒めあって、悪い事をしたらはっきり最低だよと伝え合ったり。
すみません、悪い事をした事があるのは私だけです。
新山がいなくてもわたしは生きていけるけど、時々生きたくないと思う時に一緒にごはんを食べて、お酒を飲んで、思い切り泣いて。
すみません、泣くのはいつも私だけです。
新山と一緒に映画館に観に行って、帰りにプデチゲを食べたいです。
プロフィール
イワクラ
1990年4月10日生まれ、宮崎県出身。NSC大阪校34期生の同期である中野周平と2012年にコンビ・蛙亭を結成した。2021年、2023年の「キングオブコント」ファイナリスト。単独ライブ「まわる」が7月に東京・大阪で開催される。俳優としての出演作には「劇場版ほんとうにあった怖い話~事故物件芸人3~」、ドラマ「MADDER(マダー)その事件、ワタシが犯人です」などがある。
男性ブランコ・浦井のりひろ
「月一回近況報告をする相手から、コンビの相方になった瞬間」
素晴らしい映画だった。人生が動くとき、上手くいかないとき、そばにいてくれる相棒の存在は、何よりも得難いものであると思う。人生で「相棒」と呼べる人はどれくらいいるだろうか。親友、パートナー、バディ。呼び方やポジションはいろいろあるだろうが、私の場合はひとまず相方の平井になるのだろう。
18歳、大学一年生の時、滋賀県にある2大学が共同で運営していた演劇サークルにそれぞれの大学から入り、一緒に2時間強の演劇を上演し、私があっさりサークルを辞め、学祭の時だけ戻ってコントをしていた。平井とは話は合ったが大学も違う上に私が京都の大学のサークルに入った事もあり、会うのは月に一度、お互いの面白かった映画や舞台などをおすすめし合う、マクドナルドでの近況報告会だけだった。文化サークル長の仕事が上手くいかず琵琶湖のほとりで先輩に2時間説教された、彼氏がいる人を好きになってしまい告白したが「彼氏がいるので」と断られた、ようやく彼女ができたが付き合って3日後に「元カレとヨリを戻した」と電話で告げられショックのあまりベランダで吐いた、などなど小スケールのかわいそうなエピソードをよく聞いていた。今でもここに書くくらい印象深い。
その頃の私には焦燥感だけがあった。大学に通っていない事。それを親に黙っている事。そんなろくでもない状態にもかかわらず、役者か芸人になりたいと思っている事。そして芸人になるとすれば、平井を誘おうと思っている事。しかし何も言わなかった。平井が内定を取った事を聞いていたからだ。
ある日の月一マクド会で、突然平井が告げた。
「俺、NSC行こうと思ってる。」
驚いた。そんなそぶりは一度も見せたことが無かったからだ。
聞けば平井はずっと芸人になりたくて、高卒でNSCに入ろうとしたという。しかし踏ん切りがつかず、大学を卒業してからNSCに入ろうと思っていたが、本当に芸人になりたいのか確かめるために就活をしたらしい。知らなかった。思えば喫煙者だという事もその頃に知ったのだった。
「…実は俺も行こうと思ってて。」
恐る恐る打ち明ける。
「そうなん? じゃ組んで入るか。」
あっさりと決まった。月一回近況報告をする相手から、コンビの相方になった瞬間であった。
それから15年が経つ。お互い少しずつ変化していく。平井は煙草をやめ、体を鍛え、飲み友達がたくさんできた。私はコンタクトから眼鏡になり、体重が増え、人生の伴侶を得た。色々あったが、今でも互いの距離感は、月一マクド会の頃から変わっていない。この映画もよかったと、平井におすすめするであろう。
プロフィール
浦井のりひろ(ウライノリヒロ)
1987年12月3日生まれ、京都府出身。大学の演劇サークルで出会った平井まさあきとコンビ・男性ブランコを結成し、2011年にデビュー。「キングオブコント2021」「M-1グランプリ2022」では決勝に進出した。2024年10月から「オールナイトニッポンPODCAST 男性ブランコのおしゃべりマレット」が配信中。2025年6月から7月にかけて京都、福岡、名古屋、東京の4会場で単独公演「だえーん!」を開催する。
男性ブランコ 浦井のりひろ (@uraidanbura) | Instagram
北原里英「ルームシェア=ゴミ出し問題は国境を越えるのか!」
若さと体力。この2つがある、ということがどれだけ尊いことか。そしてその時期にできた友達がどれだけ大切か。どんどん大人になっていくにつれ、より思う。
例えばわたしにとっては、それはAKB48のメンバーである。とてつもなく忙しかった、だけど仕事の後にご飯に行けたしお酒も飲めたし、ほぼ寝なくても次の日歌って踊ることができた。あれこそ若さと体力の賜物である。そしてその時期にできた親友たちは、わたしの結婚式でとんでもなく泣いていた。その姿をふと思いだす、そんな映画だった。
この映画における親友は、性別を超えている。友情に性別は関係ないけれど、まだまだ無視もしきれない時代だと思う。それを痛いほどに感じた。局面で、男だから女だからが付き纏う。だけどその中で、ちゃんと前を向いて、生きていく。性別や年齢関係なしに、この映画は誰にとっても、心当たりがあると思う。こんなにおしゃれじゃなかったかもしれないけど、確かにこの痛みに覚えがあるなあ、と。
そして気づけば、なに泣きだろう? 悲しい、嬉しい、など一言では表せられない涙が流れている。素敵な映画だ…。
余談だが、映画の中でルームシェア中にゴミ出しで揉める場面がある。これには引くほど心当たりと身に覚えがある。テラスハウスに住んでいるときに、ゴミ出しで揉めた。男女6人湘南ゴミ出しの乱。とても記憶に残っているので、自分の書いた小説「おかえり、めだか荘」(20代後半の女性4人がルームシェアをしながら自身の夢や恋や葛藤と向き合っていく小説。絶賛発売中!)の中でも唯一の実体験として登場させた。それくらい、ルームシェア=ゴミ出し問題と思っているのだが、この作中にも出てきて、この問題は国境を越えるのか!と少し嬉しかった。
プロフィール
北原里英(キタハラリエ)
1991年6月24日生まれ、愛知県出身。AKB48やNGT48のメンバーとして活動し、2018年にグループを卒業した。俳優としての主な出演作に「サニー/32」「映画 としまえん」「神さま待って!お花が咲くから」「恋愛終婚」、ドラマ「フルーツ宅配便」などがある。2023年に初小説「おかえり、めだか荘」が出版された。
2人の友情を物語る「Bad Girl Good Girl」に涙
お互いのありのままの姿を受け入れ合う、ジェヒとフンス。ふたりの生き様をそのまま音楽に昇華したかのようなK-POPの名曲が、「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」では大事な役割を果たしている。miss Aの「Bad Girl Good Girl」である。
「Bad Girl Good Girl」は、4人組ガールズグループ・miss Aが2010年7月にリリースしたデビュー曲。発売後わずか22日で音楽番組の1位を獲るという当時のガールズグループ最速の記録を残し、この年のチャートや音楽賞を席巻した。その後、TWICEやITZYなどmiss Aの後輩も含め多くのグループが幾度となくカバーし、NiziUを生んだ「Nizi Project」やILLITを輩出した「R U Next?」ほか、オーディション番組の課題曲として近年もたびたび採用されている。根強く愛され続け、のちのガールクラッシュ(女性に憧れられる女性像)隆盛の礎となったといえる1曲だ。
歌詞では、女性が他者からの偏見に立ち向かう姿を描写。冒頭から繰り返される「You don't know me. You don't know me. So shut off, boy.(私のことなんて知らないくせに。知らないくせに。だから黙って、坊や)」というフレーズや、「겉으론 Bad girl 속으론 Good girl / 나를 잘 알지도 못하면서 내 겉모습만 보면서 한심한 여자로 보는 너의 시선이 난 너무나 웃겨(外見はバッドガール 中身はグッドガール / うわべだけしか知らないくせに 軽蔑してるようなあなたの視線が笑える)」というサビのリリックなどでは、外見や振る舞いだけで判断してくる社会への反発が、毅然とした姿勢で歌われている。まさに、理不尽な目線に苦しむジェヒの胸中を言語化したかのようだ。
「Bad Girl Good Girl」は、「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」の劇中に2回登場する。最初はジェヒとフンスが心を通わせ始めた21歳の頃。そして2回目は終盤の重要なシーンで、2人の友情を物語るように使用されており、その美しさに筆者は涙を堪えきれなかった。後者ではフンスがダンスを披露しているのだが、撮影に向けてレッスンを受けたノ・サンヒョンは「撮影は時間が限られていて急いで進める必要があったが、間違えないように全力を尽くした」と語っている。不器用だが懸命な踊りにフンスの真心がよく表れており、なんとも愛おしい名シーンである。
このほかにも「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」では、全編が親しみやすく心地よい音楽に包まれている。音楽監督は、韓国ヒップホップの黎明期を支え、映画「狩りの時間」やドラマ「D.P. -脱走兵追跡官-」シリーズなどで知られる音楽プロデューサーのPrimaryが担当。そして「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」や「わかっていても」など多数の作品でOSTの名曲を残してきたサム・キムや、ジェヒと同じくフランス在住経験を持つステラ・チャンなど、感性豊かな歌声がジェヒとフンスの青春に寄り添い、観客の没入感を高めてくれる。ジェヒとフンスの人生を見守りつつ、素晴らしい音楽にもぜひ注目してほしい。
歌詞引用元:miss A「Bad Girl Good Girl」作詞:J.Y. Park(パク・ジニョン)
Pontaパス会員特典【au推しトク映画】「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」が土日平日いつでも1100円
対象劇場:全国のTOHOシネマズ、ローソン・ユナイテッドシネマ グループ、コロナシネマワールドほか
料金:一般・大学生 1100円 / 高校生以下 900円
※別途、追加料金が必要な特殊上映や特別席あり
対象:Pontaパス会員、同伴者1名まで
利用条件:会員ならいつでも、公開期間中何度でも利用可能
事前購入:各劇場の公式サイト
利用方法:映画「ラブ・イン・ザ・ビッグシティ」auクーポンサイトより、クーポンコードをダウンロード