月刊おもしろ映画宣伝2025年5月号

ビニールタッキーの「月刊おもしろ映画宣伝」 2025年5月号 [バックナンバー]

「日本語吹替」というトピックから広がる宣伝バリエーション

登壇イベントからキャスト発表映像まで

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映画会社は、日々工夫をこらし、作品の魅力をPRしようと努力している。時には評論家や俳優が真面目に作品の魅力を語り、時には他ジャンルとコラボし客層の拡大を図り、時にはダジャレやこじつけでSNSでのバズりを狙い……。そんな施策を日々ウォッチしている“映画宣伝ウォッチャー”ビニールタッキーが、前月気になった映画の記事についてコメントする連載が、「月刊おもしろ映画宣伝」だ。

今月は「スーパーマン」「名探偵コナン 隻眼の残像(せきがんのフラッシュバック)」「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」「バジュランギおじさんと、小さな迷子」「星つなぎのエリオ」「サンダーボルツ*」「パディントン 消えた黄金郷の秘密」について取り上げた。また記事末ではMVP(モスト・ヴァリュアブル・プロモーション)も発表している。

/ ビニールタッキー

「月刊おもしろ映画宣伝」5月号をお届けします。「おもしろ映画宣伝」とは、海外の映画を日本で宣伝する際に発生する面白いPRイベントや不思議なコラボなどの案件をまとめて総称するために私が勝手に名付けた名前です。このコラムはその月にあったおもしろ映画宣伝をピックアップする連載コラムです。今月もご紹介していきましょう!

「スーパーマン」

イベントレポート
ジェームズ・ガン監督の新作映画「スーパーマン」の“スーパーアンバサダー”にチョコレートプラネットが就任。昨日5月20日に都内で行われた公開記念イベントに登壇した。この作品は世界的に知られる「スーパーマン」の最新作。7月11日(金)に日米同時公開される。

新しい「スーパーマン」のアンバサダーにチョコプラが就任! お笑い芸人さんが映画のアンバサダーに就任、という話はよくありますが、今回の場合、チョコプラの長田さんが幼少期からスーパーマンの大ファンで、Instagramでジェームズ・ガン監督をフォローして映画の動向に注目していたという話もあり、一部で話題になりました。やはりもともとの大ファンの方が関わってくれるのは映画ファンとしてもうれしいですね。

「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」「名探偵コナン 隻眼の残像」

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コラボビジュアルには「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」でトム・クルーズが演じるイーサン・ハントと、同じところに傷を負ったコゴロー・モーリ(毛利小五郎)が同じ構図で描き下ろされた。「ミッション:インポッシブル」のキャッチコピー「僕を信じてほしい 最後のお願いだ」と同じように「俺を見てほしい 最高の大活躍だ」というキャッチコピーも入れられている。

劇場版名探偵コナンといえば日本映画界の中でも有数の大ヒットシリーズですが、ここ数年は同時期の話題作とコラボするのが恒例となってきました。今回の「名探偵コナン 隻眼の残像」は「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」とコラボ! 毛利小五郎とイーサン・ハントを"イケオジコラボ"と表現することにクスッと笑ってしまいましたが、テレビアニメ「名探偵コナン」と映画「ミッション:インポッシブル」は1996年にスタートしたということで同期であるという事実にも驚きました。コラボする文脈がちゃんとある! また、毎回述べていますが、こういうアニメと実写、洋画と邦画の垣根を越えたコラボは「みんなで映画館を盛り上げていこう!」という気概が感じられて好きです。

こちらのコラボムービーも楽しくて最高ですのでぜひご覧ください。

「名探偵コナン 隻眼の残像」×「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」コラボムービー

「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」

イベントレポート
映画「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」のプレミアム先行試写会が本日5月1日に東京・ユーロライブで開催され、戦場カメラマンの渡部陽一、タレント・歌手・映画コメンテーターのLiLiCoがトークイベントに登壇した。

ファッションモデルから報道写真家へと転身した20世紀を代表する写真家リー・ミラーの自伝的映画「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」。そのイベントに戦場カメラマンの渡部陽一さんをお呼びするという采配に唸りました。

最初にマイクを握った渡部は「こんにちは。戦場カメラマンの渡部陽一です」とゆっくりと挨拶して観客を和ませる。映画の感想を尋ねられると「当時はいかに武力を全面に出した時代であったのか。そしてそこに従軍するカメラマンが、いかに自分自身の命を差し出すような撮影法を余儀なくされる時代であったのかを強く感じました」「当時のカメラはかなり大きくて、前線では撮影していることが目立ってしまう。戦場でカメラマンが目立つというのは、命を落とすことに直結するんです。当時の戦場報道の背景が、作品の中ににじみ出ていました」と熱を込めながら話した。

実際に戦場で写真を撮影している人だからこそ語ることができる感想です。LiLiCoさんも主演・プロデューサーのケイト・ウィンスレットとリー・ミラーの似た部分を取り上げたり、モデル出身ならではのリーの独自性を語ったりと、とても興味深い話が多いイベントでした。

「バジュランギおじさんと、小さな迷子」

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インド映画「バジュランギおじさんと、小さな迷子」が、5月30日より東京・キネカ大森、名古屋・ミッドランドシネマ名古屋空港、一部地域のイオンシネマにて再々上映されるとわかった。2019年に封切られた同作はスマッシュヒットを記録し、2024年4月に再公開。スクリーンにかけられるのは3度目となる。

こちらは正確にいうとおもしろ映画宣伝ではないかもしれませんが、興味深いという意味でのおもしろさを感じましたので取り上げました。特に興味深いと感じたのが以下の部分です。

物語の舞台であるカシミールは、インドとパキスタンそれぞれが領有権を主張している地域。同作が製作された2014年当時は両国間に交流があったものの、2016年と2019年に起こった軍事衝突により、2国間の関係は悪化している。カビール・カーンは同作について「分断が進む現実に対する私なりの“反発”だ。この現実に、私は映画という形で向き合う必要があると感じた」と語っている。

インドとパキスタンの分断に対する"反発”が込められているという本作。2国間の緊張が極めて高まっている今、こうして再々公開に踏み切った配給会社さんの矜持を感じるニュースでした。今年7月には上映権が切れてしまうという話もありますので、私もできるだけ劇場に駆けつけたいと思います。

「星つなぎのエリオ」

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渡辺直美が、ディズニー&ピクサー最新作「星つなぎのエリオ」のUSオリジナル版と日本版の両方で声優を担当することがわかった。ディズニー&ピクサー作品のUSオリジナル版で日本人が声優を務めるのは、ピクサー・アニメーション・スタジオのクリエイター以外では初めて。さらに日本版声優も同時に務めるのは日本人初となる。

これは快挙! ピクサー・アニメーション・スタジオの日本人クリエイターがUSオリジナル版で声優を務めたことはあったようですが、それ以外で初となったのが渡辺直美さん! ワールドワイドに活動範囲を広げられてから早速の朗報にうれしくなりました。日本語吹替はオリジナル版の声や演技をもとに自分なりの表現をする作業だと思いますが、今回はそのオリジナル版の声も担当するということで「自分の発した言葉がキャラクターを形成することになる」という緊張感があるという話に確かにそうだよな…と深く頷きました。「星つなぎのエリオ」がまた1つ楽しみになりましたね。

「サンダーボルツ*」

イベントレポート
映画「サンダーボルツ*」の公開を記念したイベント、「ROAD TO THE AVENGERS!『サンダーボルツ*』前夜祭イベント」が本日5月1日に東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズで開催。日本版声優の田村睦心、白石充、梶裕貴、特別ゲストの加藤浩次、秋元才加、佐藤景瑚JO1)が登壇した。

吹替声優さんが集う公開記念イベントはよくありますが、最新作に携わった声優さんと過去作に携わったゲストさんが一堂に会して語り合うという形式は面白いと感じました。それだけMCUというシリーズが1つの文化になっている証拠ですし、「サンダーボルツ*」という映画自体が持つ“新旧キャラ大集合”感とも合致していると感じました。

また、吹替に携わった人たちが座談会のように今後の予想などを語り合う、という形式ができるのもMCUという長大で複雑なシリーズならではの特色だと感じました。ぱっと見は普通の公開記念イベントのように見えますが、日本語吹替に力を入れている日本だからこそできる特徴的なイベントだな、と感心しました。

「パディントン 消えた黄金郷の秘密」

イベントレポート
映画「パディントン 消えた黄金郷の秘密」の公開前夜祭が本日5月8日に東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズで行われ、日本語吹替版キャストの松坂桃李古田新太、三戸なつめ、吉田羊が登壇した。

映画「パディントン」シリーズの最新作「パディントン 消えた黄金郷の秘密」のイベントです。個人的に注目したのはパディントン役の松坂桃李さんとブラウンさん役の古田新太さんが語ったこの部分です。

前作から続投となった松坂と古田は別作品の現場で「パディントン」の話をしていたという。古田は「パディントンとお父さんの声が、今回も桃李と俺になるかはわかりませんでしたから。パディントンが賀来賢人になるかもしれないし」とジョークを飛ばす。松坂は「ここ取られるかあ……」とぼやいていた。

私もお二人の吹替が好きでしたので久しぶりの続編で声優交代があったらどうしよう、と危惧していたのですが、続投と聞いてホッとしました。実際ご本人たちも心配していたという話を聞いてやはり同じような気持ちなんだなと感じました。その映画に愛着が湧くと出演者にも愛着が湧くのはもちろん、日本語吹替キャストにも愛着が湧くということがあります。様々な事情や経営判断によって過去作から日本語吹替キャストが交代してしまうということがありますが、愛着を持っているファンもいるし、役者さん本人たちも愛着を持っているということを改めて知らしめるニュースだと感じました。

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映画「パディントン」といえばもう1つ印象に残った宣伝がありました。各界の著名人からの応援コメントの1つにくまモン(熊本県PRキャラクター)からのお祝いメッセージがありました。

くまモン(熊本県PRキャラクター)お祝いメッセージ
映画の公開おめでとうだモン!
2013年にイギリスで一緒に過ごした時間はたいぎゃ楽しかったモン!
今回の映画みたいに、次はボクもパディントンと一緒に大冒険したかモン☆
また会える日を楽しみにしてるモーン!

いいコメントですねえ。映画の1作目が英国で公開されたのは2014年のことなので映画の前から知り合いであることをさりげなくアピールするくまモンさん、PRキャラクターとしてさすがの風格です。

そして最後は私が勝手に決める今月のMVP(モスト・ヴァリュアブル・プロモーション)。今月はこちらです!

「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」

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映画「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」の日本語吹替キャストが明らかに。森川智之津田健次郎ら7名が前作から続投する。YouTubeでは森川が吹替キャスト招集の指令を受ける特別映像が公開された。

今月のMVPは「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」の吹替キャスト発表の特別映像です! この気合いの入った映像をご覧ください。

映画「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」特別映像(吹替キャスト発表)

映像には、神妙な面持ちで収録スタジオへとやってきた森川が、目の前のモニターを介して吹替キャストの招集というミッションを与えられる場面を収録。IMF風の指令となっており、「例によって、君、もしくは君以外のメンバーの吹替収録ができなくても当局は一切関知しない」「このメッセージは5秒後に自動的に消滅する、成功を祈る」とシリーズおなじみのフレーズのあと、ヘッドホンから白煙が立ちのぼる。場面が切り替わったミキサー室には、津田の姿が。森川が「ガブリエル! まずはお前を見つけに行く!」と高らかに宣言し、それに呼応するように津田も「もう公開だ!急げイーサン!!」と呼びかけるのだった。なお「トップガン マーヴェリック」でアイスマンに声を当てていた東地宏樹が指令の声を担当している。

「ミッション:インポッシブル」シリーズのお約束の「自動的に消滅するメッセージ」を吹替キャスト発表でやるという見事な宣伝です。森川さんも津田さんもノリノリで演技している感じが最高です。しかも「トップガン マーヴェリック」の東地宏樹さんを指令の声にキャスティングするという目配せっぷり。ちなみに「トップガン マーヴェリック」公開の際は森川さんによる気合いの入った吹替キャスト発表がありました。さらに言うと映画「ツイスターズ」では「トップガン マーヴェリック」のグレン・パウエルが出演しているので予告編のナレーションを森川さんが担当するということもありました。今回も文脈のある宣伝ということで大いに楽しめました。このように普通に見ても楽しいうえにファンならニヤリという文脈が込められている宣伝は素敵ですね。

今月は「日本語吹替」に関する話題が多かったと感じました。「星つなぎのエリオ」の渡辺直美さん、「サンダーボルツ*」「パディントン 消えた黄金郷の秘密」の吹替キャストの登壇イベント、そして「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」の吹替キャスト発表映像。それぞれ毛色の違う宣伝でしたが、眺めていて感じたのは日本語吹替から広がる話題の多彩さでした。専門の声優さんやゲスト声優さんが作品やキャラクターに対して抱いている深い思い、吹替で参加している立場だからこそ語れるシリーズの変遷や将来の期待などの話題、海外俳優の専属声優のようなポジションの方が、その俳優さんとほぼ同一視されて宣伝やナレーションなどに携わるお仕事などなど。「日本語吹替」というトピック1つだけで、様々な話題が生まれますし、様々なバリエーションの楽しい宣伝ができるということを感じました。そしてキャストの皆さんが本当に愛着とプロ意識を持ってお仕事をされているということを改めて知りました。日本語吹替に感謝したいと思います。

以上、月刊おもしろ映画宣伝2025年5月号でした。次回もお楽しみに!

ビニールタッキー

ビニールタッキー

ビニールタッキー

映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集する。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催。

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ビニールタッキー @vinyl_tackey

映画ナタリーさんでの連載コラム「月刊おもしろ映画宣伝」5月号が公開されました!今回は「日本語吹替」というトピックから広がる様々な宣伝のバリエーションの話を中心にご紹介しました。いやー日本語吹替って本当に面白いものですね。ぜひご覧ください!https://t.co/JgDMvGY3Jo

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