「JUNK WORLD」監督:堀貴秀×野性爆弾・くっきー!対談|“我流”で生み出す不気味でかわいい何か、巨大セットが待ち構えるスタジオ見学レポートも

堀貴秀が内装業の傍ら、独学で7年の歳月を掛けてほぼ1人で完成させ、国内外の話題を集めたSFストップモーションアニメ映画「JUNK HEAD」。前作の公開から4年を経て、続編「JUNK WORLD」が完成し、6月13日から劇場で公開されている。今回、千葉にある2階建ての工房「やみけんスタジオ」を、お笑い、音楽、絵画と独自のクリエイティブ活動を行う野性爆弾のくっきー!が訪問。堀自ら出迎え、3部作が構想されている「JUNK」シリーズのめくるめく人形たちの世界に誘った。

特集後半には2人の対談も掲載。くっきー!が即興で描き下ろしたオリジナルの“不気味でかわいい”地底生物・マリガンのイラストもお届けする。

取材・文 / 常川拓也撮影 / 間庭裕基

映画「JUNK WORLD」予告編公開中

「やみけんスタジオ」見学レポート

くっきー!が「JUNK WORLD」の工房へ

「やみけんスタジオ」入口

「やみけんスタジオ」入口

もともと堀が内装業のために冷凍倉庫を改築して使用していた自宅兼工場を、「JUNK HEAD」制作時にスタジオとして改造した「やみけんスタジオ」。その名前はNHK「プロジェクトX」のある回で取り上げられた「闇研究」(技術者が会社の承認を得ずに秘密裏に製品開発を進めること)に由来しており、恐ろしい怪物から滑稽な生き物までうごめく不条理なミニチュアの世界が、数名のチームによって精製されている。撮影ブース、録音ブース兼演技スペース、作業場、PCルームが設置され、人形制作からコマ撮り、CG処理まですべてが行われているのだ。小雨が降りしきる中、都内から車で2時間弱掛けて来てくれたくっきー!は、到着するや否や「そそられますね」と挨拶も早々に見学をスタートさせた。

「JUNK HEAD」のあと手狭となった1階には中2階が設置された

「JUNK HEAD」のあと手狭となった1階には中2階が設置された

最初に、堀は別棟の大型テントへとくっきー!を案内。「JUNK HEAD」制作時に、工作や資材の物置に使用するために増設されたスペースで、現在は、前作に登場した「研究室」のセットなどが保管されている。プラスチックの塊を削るところから細かく作り込まれた小さくもリアルなセットを実際に目の前にして、くっきー!は「うわ、すげえな。これ全部作ってんすか?」といきなり驚き。「プロモデラーみたいな感じですやん。これは想像するだけで地獄の作業ですね(笑)」。

大型テントの奥へと向かうくっきー!

大型テントの奥へと向かうくっきー!

「JUNK HEAD」に登場した「研究室」のセットの様子

「JUNK HEAD」に登場した「研究室」のセットの様子

「やみけんスタジオ」へと誘われるくっきー!

「やみけんスタジオ」へと誘われるくっきー!

「これ自力で覚えましたん?」(くっきー!)

次に、堀はPCルームへと案内。前作は粘土をこねるところから始めて石膏で型を取り、人形を作っていたが、今作ではCGと3Dプリンタを積極的に導入したという。キャラクターの原型をすべてPCでモデリングし、人形本体は3Dプリンタで造形。そこから塗装や汚しなどを施していく。モデル造形は0.05mmずつ層を重ねていくため、高さのある人形のほうが積み重ねる回数が増える分だけ時間が必要で、長いときには平気で2、3日は掛かってしまうのだとか。「2日目に失敗してたりすると最悪です」(堀)。

PC画面を楽しそうに見つめるくっきー!

PC画面を楽しそうに見つめるくっきー!

2階には約20台もの3Dプリンタが並ぶ

2階には約20台もの3Dプリンタが並ぶ

劇中で映るのはその一部だが、堀がCGで構築した劇中の舞台を見せると、空間全体が細かく作り上げられていることがわかる。「これ自力で覚えましたん? めちゃめちゃ楽しいやん」とくっきー!。それに対し、堀は「映像は基本的にゼロから覚えました。デジタル上だと簡単にキャラクターを変形させたり、サイズも変えられたり。手作りのときは見えるところまでしかやってなかったけど、どんどん奥の奥まで作れる。手間は省けましたが、いくらでも細部までこだわれてしまう分、結局、作業時間は減らない」と笑う。

マリガンの3Dモデルを変形させる様子を見せてくれた堀貴秀

マリガンの3Dモデルを変形させる様子を見せてくれた堀貴秀

「JUNK WORLD」の人形は全部で216体!

「うわ、すげえ。奥にも歯こんなぎょうさんあったんや。3列あるんですね」。地底生物マリガンの巨大な変異体ボボンボを間近で凝視するくっきー!に、「これはコマ撮りじゃなくて手で動かしてたんです」と説明する堀。ボボンボの顔や手足はワイヤーで動かせるようになっていて、「JUNK WORLD」撮影時は、3~4人体制で各部位を操作していたそう。

ボボンボを動かして見せる堀貴秀(右)

ボボンボを動かして見せる堀貴秀(右)

前作に続いて登場するトリムティの顔には劇中で付いた傷痕も

前作に続いて登場するトリムティの顔には劇中で付いた傷痕も

「JUNK WORLD」に登場するキャラクターたち

「JUNK WORLD」に登場するキャラクターたち

「JUNK WORLD」で制作された人形は全部で216体(78種類)。3Dソフトと3Dプリンタを活用することで、主要キャラクターを2体ずつ作成し、同時に2カ所のシーンを撮影できるようになった。工房には「JUNK WORLD」の住人たちや印象的なセットがずらっと並び、「間近で見たほうがデカさもおお!ってなりますね」と興味津々のくっきー!。ギュラ教団の小型戦闘機のディテールに注目し、「チャンバー入れてますやん! 2ストってことですよね(笑)。何このこだわり(笑)。面白い」と興奮。地下世界の大事な食料であるクノコの精巧さや伸び具合には笑いが止まらない。

クノコを手にしたまま堀貴秀(左)と記念写真を撮るくっきー!(右)

クノコを手にしたまま堀貴秀(左)と記念写真を撮るくっきー!(右)

小型戦闘機のチャンバー部分に注目するくっきー!

小型戦闘機のチャンバー部分に注目するくっきー!

輸送機に乗るキャラクターたちの顔は全員、制作スタッフの顔を3Dスキャンして出力したものだそう。調査隊のモースとテリアが食事する部屋の壁には、堀自身が20代の頃に描いた絵画が飾られていたりと、遊び心も込められていた。

くっきー!お気に入りのキャラクターは…?

「JUNK WORLD」でお気に入りのキャラクターは?と問うと、くっきー!は主人公のロボット、ロビンが姿を変えた“異界ロビン”を挙げた。「めちゃめちゃかっこええ。エリザベス朝みたいな、なんとも言えん時代感。この見た目の感じでスカートっちゅうのもいいですね」と言うと、堀は「スカートにすれば歩かせなくて済むんですよ」とその意外な理由を明かす。「そうか! 袴の理論や。足の動きバレへんようにしてるんですね」とくっきー!も深く納得。あとは、「ギュラ教の教祖プリオンもビジュアル的に好き」だそう。

“異界ロビン”とくっきー!

“異界ロビン”とくっきー!

マリガン変異街の巨大セットに感嘆

巨大なセットに圧倒されるくっきー!

巨大なセットに圧倒されるくっきー!

「すげえな、やべえっすね」と「JUNK WORLD」最大の5m×9m、「変異街」のセットの鮮烈な眺めに衝撃を受けるくっきー!。廃墟となった街並みが表現され、真っ赤な泡状の肉片のような物体が一面を覆う。くっきー!が「何で作ってはるんですか? 発泡スチロール?」と聞くと、「◯◯◯の◯に重曹などを混ぜると膨らむんですんよ」(※編集部自主規制)という堀から発せられた思いも寄らない回答に驚き。「ヤバいな(笑)」とくっきー!はちょっぴり引きながらも感嘆を隠せない。

地下都市カープバール「変異街」の巨大セット

地下都市カープバール「変異街」の巨大セット

「変異街」の奥で何やら見つけたくっきー!

「変異街」の奥で何やら見つけたくっきー!

周囲の建造物も鉄やコンクリートではなく、発泡スチロールやダンボール、紙で制作されていることに再び目を丸くし、くっきー!は「ほんまや。超職人。汚しのプロですね」と称賛。堀の内装業の経験が見事に生かされたセットは、数人の手によって4、5カ月程度でできたそうで、「いや、めちゃめちゃ速ないですか仕事。えぐ速やな」と驚きっぱなしだ。「予算もないんで、凝るとこは凝って。適当なところは適当で」と謙遜する堀だが、作り込まれた空間は圧巻。床板はマンホール部分を取っ手にすることで簡単に取り外せる仕様に。そのためカメラの位置も自由自在で、ダイナミックに動かすことが可能となっている。セットの奥には数々のロボットの残骸が積まれたゴミ捨て場も。中には10万馬力の某少年ロボットに似た姿もあり、何回観ても発見が生まれるようネタが隅々に施されていた。

ゴミ捨て場には「JUNK HEAD」にも登場したあのロボットが

ゴミ捨て場には「JUNK HEAD」にも登場したあのロボットが

我流で生まれた壮大な「JUNK」3部作

操り人形作家になろうと木彫りの人形を作っていた頃に、自身の造形物で「コマ撮りもできるかも」と考え始めた堀。そしてハリウッド映画のメイキングなどで研究を重ね、独自のストップモーションを実現させた。「人に教えてもらわんとやる我流。好きなキャラ動かしたいって究極のオタクですよね」と、くっきー!は驚きを何度も口にしていた。スタジオを巡る中でその中心にいたのが、「JUNK」シリーズの主人公であり、工房内の各部屋で異なる姿や表情を見せたロボットだ。

朽ちたロボットの姿

朽ちたロボットの姿

前作では体を失った人間パートンが頭部を移植される<ボディ>だったこのロボット。「JUNK WORLD」でも主人公ロビンがボディを入れ替えるロボットとして登場し、時には廃棄され、時には神と崇められ……次元を行き来する中で置かれた立場も、姿形もさまざまに変わっていく。「SFだからできる面白いこと。SFなら体を乗り換えるというアイデアも使え、非日常的な見たこともないものを見せられる」と堀は語る。

「やみけんスタジオ」の様子

「やみけんスタジオ」の様子

多種多様で奇怪なマリガンが観る人の度肝を抜く一方、1000年以上に及ぶ壮大な3部作を至ってシンプルな見た目のロボットの物語として見せる「JUNK」シリーズ。これまでに培ってきたあらゆる職人技と創造的ビジョンを注ぎ込む堀の姿、そして「やみけんスタジオ」で生み出されるストップモーションの魔法は、くっきー!を大いに刺激した。