変わりながら残っていく、新たな「野田版 研辰の討たれ」にそれぞれの思い

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松竹創業百三十周年「八月納涼歌舞伎」第三部にて上演される「野田版 研辰の討たれ」の取材会が昨日7月17日に東京都内にて行われ、脚本・演出を手がける野田秀樹と、守山辰次役の中村勘九郎、平井九市郎役の市川染五郎、平井才次郎役の中村勘太郎、粟津の奥方萩の江 / 姉娘およし役の中村七之助、蔦屋長三郎役の中村長三郎、家老平井市郎右衛門役の松本幸四郎が登壇した。

「野田版 研辰の討たれ」稽古の様子。

「野田版 研辰の討たれ」稽古の様子。

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「野田版 研辰の討たれ」の取材会より。左から中村七之助、中村勘太郎、中村長三郎、中村勘九郎、野田秀樹、松本幸四郎、市川染五郎。

「野田版 研辰の討たれ」の取材会より。左から中村七之助、中村勘太郎、中村長三郎、中村勘九郎、野田秀樹、松本幸四郎、市川染五郎。[拡大]

「野田版 研辰の討たれ」は、十八世中村勘三郎とのタッグで新しい歌舞伎を生み出してきた野田の脚本・演出により、野田版歌舞伎の第1弾として2001年に東京・歌舞伎座「納涼歌舞伎」で初演された作品。2005年には歌舞伎座と大阪・大阪松竹座にて、十八代目中村勘三郎襲名披露狂言として再演され、その後シネマ歌舞伎化された。

野田秀樹

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再演から約20年ぶりの上演となる今回の座組について、野田は「ずっと彼(十八世勘三郎)とやってきたので、みんなもきっとそうだと思うんだけれど、稽古をしていると彼の面影をちょっと追ってしまう部分があったんです。でも稽古が進んでいくうちにやはり新しいものになっているなという気がしております。若い人たちも非常に良くて、新鮮な舞台になっていると思います」と述べる。今回、初役で辰次役を勤める勘九郎については「声だけ聞いていると『勘三郎じゃない?』と思うときもある(笑)」と述べつつ、「勘九郎さんが勘太郎時代の役を今の勘太郎さんが演じていて、幸四郎さんが染五郎時代に演じていた役を今の染五郎さんが演じているので、みんな世代交代しているのに自分だけ生き残っちゃって申し訳ないなって」と話して、場を和ませた。さらに「歌舞伎というのはこうやって変わりながら作品が残っていくんだなと思いますし、私は20年かけてその歴史的なものを観ることができ、非常に得した気分です」と笑顔を見せた。

中村勘九郎

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続けて勘九郎があいさつ。「野田さんがおっしゃった通り、前回は襲名のときに『研辰』をやっているんですけど、そのときにうちの父が『これが古典になって残っていったらいいね』みたいな話をしていて……」と言ったところで野田が「いや、『こんなくだらないことをやっているのが古典に“なっちゃう”んじゃないですか』って笑いながら言ってたの」と補足すると「ああ、そうだそうだ!」と勘九郎も即座にうなずき、再び大きな笑いが起きた。

勘九郎は続けて「ただぶっちゃけ、自分はやらないかなと思っていたんですね。何しろ再演のとき、辰次というキャラクターが父に憑依しているような感じで父の身体に全部が入っていて、これはすごいなと感じていたので。でもお話をいただいて、こうやって新世代の皆様と作り上げるというのは本当に楽しいです」と感慨を述べた。

松本幸四郎

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幸四郎は「今回お話をいただいたときに九市郎役だと思ったのですが、家老の役だと言うことで……(笑)」と笑顔を見せる。また初演・再演を振り返り、「初演のとき、染五郎はまだ生まれていなくて、ああ、もうそんなに昔の作品なのかと思うと衝撃的です。当時は生きている作家・演出家の方の歌舞伎に出るのは珍しいことでしたし、すべてがキラキラしていて『見たことがないものを俺たちが生むんだ!』というパワーがあった気がします。そんな作品が、人が変わってまた上演できる、お客様に観ていただけるのはとてもうれしいことです」と思いを語った。

市川染五郎

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染五郎は「小さい頃から映像で観ていた作品で、あのセットの中に自分がいることも、父がやっていた役を自分がやることも、本当に夢のような、信じられない気持ちです。野田さんの作品はテンポが大事だと思うので、それにきっちりと乗って作品を作れるようにがんばりたいなと思っています」と意気込みを語った。

中村七之助

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「初演のときの稽古を今でも鮮明に覚えております。初日、うちの父親に非常に怒られて、でも野田さんが『僕が演出家だから!』って父親にダメ出ししたんです(笑)」と話したのは七之助。「私は今回、憧れの、大好きな(中村)福助のおじさまが演じられた奥方萩の江役をやらせていただくんですけれども、『あっぱれじゃ!』と言っているのが自分でも不思議な感じがします(笑)。こんな素敵な作品にまた携わることができて本当にうれしいです」と話した。

中村勘太郎

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中村長三郎(右)、中村勘太郎。

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勘太郎は「小さい頃からずっと観ていた作品で、憧れていた才次郎役をできるのがうれしいですし、毎日毎日稽古を楽しくやっています」と力強く答える。長三郎は「僕も兄と一緒に小さい頃から『研辰』を観てきました。今回、僕も出られると聞いて『そんな役があったかな?』と思ったら新しい役で。緊張はしていますが憧れの作品に出させてもらうことは本当にありがたいです」と落ち着いた口調で語った。

「野田版 研辰の討たれ」稽古の様子。

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野田は「勘太郎くんは16歳ぐらいだろうと思って役に就けてしまったのですが、あとで14歳だと知って、14歳の子にこの役を任せてしまい、きっと本人は大変だよな……という思いがずっとありました。でも稽古3日目に化けたと言いますか、パッと変わって。きっと家で相当稽古を……」と言ったところですかさず勘九郎が「いやいや! やってないです。もうそれは! 自分がやられてイヤだったから、やってないです!」と力強く否定して、会場はさらに大きな笑いで包まれた。

「野田版 研辰の討たれ」稽古の様子。

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勘太郎、長三郎、染五郎ら若い出演者の奮闘ぶりについて野田は「これが血なのか若さなのかわからないですが、若い役者でなければ出ない、汚れてしまった年寄りには出せないものが出ていて(笑)、とてもいいです。それに、今こんなふうに言ってますけど、勘九郎さんも時々舞台上で自分の役を忘れて勘太郎くんにダメ出ししていて。その姿がちょっと、24年前の七之助さんにいきなりダメ出しした勘三郎さんの姿と重なりました」としみじみ語った。

「野田版 研辰の討たれ」稽古の様子。

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「野田版 研辰の討たれ」稽古の様子。

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最後に作品の魅力を問われると、勘九郎は「このお芝居自体は昔からあるものですが、そこに赤穂浪士の討ち入りの話が入ったり、紅葉の話が入ったりと、野田さんがお書きになった部分は、作品を本当に深くしたと思います。また24年前のときにもこの作品をやる意味として感じていた“群衆の怖さ”といった部分が、今はより濃く感じる時代になってしまいました。そのこと自体はあまりよろしくないことではありますが、でもだからこそ、この作品を今やる意味があるんじゃないかと思います」と言葉に力を込めた。

勘九郎の言葉に頷きつつ、野田は「個人的には、辰次が最後に紅葉を見ながらしゃべっているセリフが、やはり勘三郎さんとオーバーラップしてしまいます。初演のときにはそういうことは感じなかったのですが人の生き様、生きる姿を感じてしまいますね」と思いを語った。

公演は8月3日から26日まで歌舞伎座にて。なお「八月納涼歌舞伎」では第一部で「男達ばやり」「猩々」「団子売」、第二部で「日本振袖始」「火の鳥」、第三部で「野田版 研辰の討たれ」のほか「越後獅子」が上演される。

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松竹創業百三十周年「八月納涼歌舞伎」第三部

2025年8月3日(日)〜26日(火)
東京都 歌舞伎座

スタッフ

二、「野田版 研辰の討たれ」

作:木村錦花
脚色:平田兼三郎
脚本・演出:野田秀樹

出演

一、「越後獅子」

角兵衛獅子:中村橋之助
同:市川男寅 / 中村福之助 / 中村虎之介 / 中村玉太郎 / 中村歌之助 / 市川青虎

二、「野田版 研辰の討たれ」

守山辰次:中村勘九郎
平井九市郎:市川染五郎
平井才次郎:中村勘太郎
粟津の奥方萩の江 / 姉娘およし:中村七之助
八見伝内 / 番頭友七:市川中車
役人町田定助:坂東巳之助
妹娘おみね:坂東新悟
湯崎幸一郎:中村橋之助
蔦屋長三郎:中村長三郎
小平権十郎:中村吉之丞
女中お駒:中村歌女之丞
お酌の太郎:澤村宗之助
高橋三左衛門:大谷廣太郎
宮田新左衛門:市川猿弥
からくり人形 / 番人番五郎:片岡亀蔵
家老平井市郎右衛門:松本幸四郎
僧良観:中村扇雀

公演・舞台情報

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松竹演劇部 @shochiku_stage

【#歌舞伎座】「#八月納涼歌舞伎」
[WEB掲載情報📱]

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公演情報はこちら▶️ https://t.co/taqYfXuVin

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8/3(日)初日~8/26(火)千穐楽💚
#歌舞伎 #kabuki

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