4月に香川・旧金毘羅大芝居(金丸座)で行われる「第三十八回 四国こんぴら歌舞伎大芝居」の製作発表記者会見が、去る1月27日に東京都内で行われた。
1985年に初めて開催された「四国こんぴら歌舞伎大芝居」は、1835年に建築された日本最古の本格的芝居小屋、香川・旧金毘羅大芝居(金丸座)で行われている興行。コロナ禍の影響で、2019年の公演から開催が見送られてきたが、昨年2024年に5年ぶりに再開された。今回は「四国こんぴら歌舞伎大芝居」に10年ぶり8回目の登場となる
会見には、萬壽、獅童、時蔵、萬太郎、そして金丸座が建つ琴平町の片岡英樹町長、金刀比羅宮の琴陵泰裕宮司、松竹の山根成之取締役副社長・演劇本部長が出席。片岡町長は、昨年襲名披露をした萬壽と時蔵が10年ぶりに、そして獅童と萬太郎が初めて金丸座の舞台に立つことに「こんぴら歌舞伎ファンから『今から非常に楽しみにしている』という声をたくさんいただいております。江戸時代の芝居小屋の世界を、観客の皆様方にご堪能いただけるよう、私共も精一杯お接待してお迎えさせていただきます」と喜びを噛み締めた。琴陵宮司は「コロナ禍を経て、昨年こんぴら歌舞伎が見事に復活を遂げたこと、“歌舞伎大好き宮司”として非常に喜んでおります」と言葉に思いを込めた。
山根副社長は「琴平町を歩いていたとき、『獅童さんはいつ来るんだ』という声を多くいただきました」と明かし、昨年、東京・歌舞伎座で行われた萬屋一門の襲名公演「六月大歌舞伎」で、獅童が「魚屋宗五郎」を初役で勤めたことに触れ「せっかく初役でなさったので、できればいろんなところでおやりになれれば、というお話をする中で、4月に琴平町に来ていただけることになりました」と経緯を話す。これを受けて獅童は「宗五郎は(尾上)菊五郎兄さんに教えていただきましたが、お兄さんから『こういった世話物の作品は1回(演じた)だけで手に入るものじゃないから、何回も何回もやったほうがいいよ』『なるべく間を空けず、すぐやったほうがいいよ』とアドバイスをいただきまして。1年も経たないうちに、またこうしてやらせていただけることは非常にありがたく思っています」と感謝を口にし、「(『四国こんぴら歌舞伎大芝居』出演の)お話をいただいたあと、萬壽の兄さんに『時蔵くんと萬太郎くんも一緒に連れて行きたいのですが』と報告に伺ったのですが、そこで『俺も行くよ』と言ってくださったのが、僕は本当にうれしくって。歌舞伎界には(本名の)“小川家”の人数だけは一番多く、僕自身、小川家で芝居がやりたいという気持ちがずっと強くございました。それが昨年の6月歌舞伎座公演で実現し、そして今回こんぴら歌舞伎でも小川家大集合でお芝居をさせていただけることを、今から楽しみにしております」と笑顔を見せた。
萬壽は、今回の「魚屋宗五郎」で、宗五郎の妹を酒に酔って殺してしまった磯部主計之助を勤めることに「最終的に、怒って屋敷にやってきた宗五郎に対し、謝るという役どころですが、最後獅童に手をついて謝らないといけないのか……と(笑)」といたずらっぽい目で獅童を見つめ、周囲の笑いを誘う。「私は(宗五郎の妻)おはまも随分とやっております。2000年に、天王寺屋のお兄さん(中村富十郎)の宗五郎で、私がおはまをやったとき、主計之助を勤めていらっしゃったのが二代目(中村)吉右衛門のお兄さん。そのときが初役かと思いますが、本当に素晴らしく、お兄さんの主計之助を思い浮かべながら勤めたい」と真摯に語る。「蜘蛛の拍子舞」で妻菊実は葛城山女郎蜘蛛の精を勤める萬壽は、本演目を「大物中の大物」と表現し「私が尊敬しております6代目(中村)歌右衛門のおじさまが、ご自身の勉強会で復活上演された作品で、“妖怪変化もの”の女方が演じる舞踊としては、大変なものです。最近では(坂東)玉三郎のお兄さんがよくおやりになり、シネマ歌舞伎にもなっています。金丸座に合っている演目かと思うので、劇場の力を借りながら一生懸命勤めたい」と意気込みを述べる。
獅童は、今回初役で紙屑買久六を勤める「らくだ」について「琴平町の方々は、明るいお芝居がお好きだということを聞いて、先日襲名した澤村精四郎くんと一緒にできる、面白いお芝居がないか探している中で、本作に決まりました。私の子供2人(中村陽喜、中村夏幹)も出演いたしますので、少しでも町の方に喜んでいただけたら」と話す。記者から陽喜と夏幹の「四国こんぴら歌舞伎大芝居」出演に向けた反応を問われると「(2人から)『セリフはあるの?』と聞かれました(笑)。結構出たがりなので」と目を細めた。
時蔵は「毛谷村」で一味斎娘お園、「魚屋宗五郎」でおはま、「蜘蛛の拍子舞」で源頼光を勤める。「毛谷村」について「(お園は)とても気の良い役ですし、この『毛谷村』というお芝居自体が芝居小屋に合っていると思います」と語りつつ、1月に東京・新国立劇場 中劇場で行われた通し狂言「彦山権現誓助剣」で、お園を初役で勤めたことに触れ「今回、弟(萬太郎)が初役で(主人公の毛谷村)六助を勤めますが、私は一足先にお園を勤めさせていただきましたので、4月は少しでも彼の力になってあげられるようにと思っております。言いたいことを言い合える仲ですので、兄弟でしか出せないような色がでたら」と意気込みを述べる。またおはまについては「獅童さんが『魚屋宗五郎』をなさったときは、七之助の兄さんがおはまを勤めていらっしゃいましたが、いずれは僕も獅童さんとやってみたいなと思っておりましたので、早々にかなってうれしい」、「蜘蛛の拍子舞」については「先ほど父も申しましたが、女方の出し物としてはかなりの大曲。父に負けないよう、心して勤めたい」とそれぞれ語った。
萬太郎は「子供の頃から出たいと思っていた金丸座に初めて出演がかないまして、こんなにうれしいことはありません。そして『毛谷村』の六助という、いつかやってみたいと思っていた大きなお役を、こんぴら歌舞伎で勉強させていただけることも、役者冥利に尽きます」と言葉に力を込める。また、自身も出演していた1月の通し狂言について「出る側としては、近々で上演してくれたのは非常にありがたい。1カ月、何を見ていたんだと言われないように気を引き締めて挑みたい」と述べ、「(六助の家に預けられる一味斎孫弥三松役を勤める)夏幹くんが観に来てくれて。終演後に楽屋で『なっちゃん、4月はおじちゃんと一緒にやるんだよ』って言ったら、夏幹くんは何も言わず、ウンと力強く頷いたあと、グータッチしてくれて(笑)。すごく頼もしいなと」と愛らしいエピソードを明かし、会場の笑いを誘う。「『蜘蛛の拍子舞』で碓井を勤めるのは、今回が2度目でございましす。実はさきほど父が申しておりましたシネマ歌舞伎になった公演に、私は出ていたのですが……本当に未熟な十代の頃でしたので、思い出したくもないぐらい苦い苦い思い出でございます(笑)。今回はリベンジの気持ちで、ちょっとでも成長した姿をお見せできれば」と言葉に力を込めた。
また会見では、獅童から琴平町のおすすめの場所を問われた萬壽が、片岡町長に「おいしい焼肉屋さんがあったんだけど、まだありますか?」「資生堂パーラーもありましたね」「ボーリング場はなくなったんですよね」と楽しげに尋ねる場面も。さらに萬壽が「公演が早く終わったから、昔はボーリング大会をやったんですよ。私、実はそれで優勝したの(笑)」と報道陣に打ち明けると、会場は和やかな雰囲気に包まれた。
公演は4月4日から4月20日まで。
「第三十八回 四国こんぴら歌舞伎大芝居」第一部
2025年4月4日(金)〜20日(日)
香川県 旧金毘羅大芝居(金丸座)
スタッフ
二、「新皿屋舖月雨暈 魚屋宗五郎」
作:河竹黙阿弥
出演
一、「彦山権現誓助剱 毛谷村」
毛谷村六助:
一味斎娘お園:
一味斎孫弥三松:中村夏幹
杣斧右衛門:澤村精四郎
微塵弾正実は京極内匠:中村錦之助
二、「新皿屋舖月雨暈 魚屋宗五郎」
魚屋宗五郎:
女房おはま:中村時蔵
酒屋丁稚与吉:中村陽喜
召使おなぎ:上村吉太朗
小奴三吉:澤村精四郎
父太兵衛:河原崎権十郎
浦戸十左衛門:中村錦之助
磯部主計之助:
「第三十八回 四国こんぴら歌舞伎大芝居」第二部
2025年4月4日(金)〜20日(日)
香川県 旧金毘羅大芝居(金丸座)
スタッフ
二、「眠駱駝物語 らくだ」
作:岡鬼太郎
演出:今井豊茂
出演
一、「蜘蛛の拍子舞」
妻菊実は葛城山女郎蜘蛛の精:中村萬壽
源頼光:中村時蔵
碓井貞光:中村萬太郎
坂田金時:中村錦之助
二、「眠駱駝物語 らくだ」
紙屑買久六:中村獅童
手斧目半次:澤村精四郎
酒屋丁稚金太:中村陽喜
酒屋丁稚平太:中村夏幹
半次妹おやす:上村吉太朗
家主佐兵衛:河原崎権十郎
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コスモス @tanaka1964_a
久しぶりに「こんぴら歌舞伎」行きたいな~
【会見レポート】中村獅童、“小川家大集合”の「こんぴら歌舞伎」に喜び 10年ぶり出演の中村萬壽は演目に自信 https://t.co/lAo09B0Eo7