京都・東京・愛知で行われる「狂言ござる乃座《萬斎×釣狐》」、ならびに、11月に東京で行われる「万作を観る会 芸歴九十年記念公演」の上演に向けた
「狂言ござる乃座《萬斎×釣狐》」は、「狂言ござる乃座」の70回目の東京公演を記念し、萬斎が大曲「釣狐」の連続公演に挑む公演。10月19日に行われる東京公演以外は、万作が1993年に試演した、特殊演出となる「釣狐 白狐之伝」が披露され、アドとなる猟師を、京都公演では野村太一郎、東京公演では野村裕基、愛知公演では野村又三郎が勤める。「万作を観る会 芸歴九十年記念公演」では、満93歳を迎えた万作が「翁」にて三番叟を舞う。
萬斎が「釣狐」を連続公演で勤めるのは、約18年ぶりのこと。このことについて萬斎は「『釣狐』は、“人間を演じている狐”という、普段四つ足の狐が身体を垂直に立てているような身体性が求められるので、演じ手の身体の調整がすごく難しいんです。ですので、『釣狐』に挑むときには、『釣狐』用に身体を作り直さないといけない。そしてせっかく身体を作り直すのであれば、『釣狐』用になっている身体の状態で、同時期にまとめて上演したい……という思いからの、連続公演です(笑)」とちゃめっ気たっぷりに笑みを浮かべる。また「野村家には、“猿に始まり狐に終わる”という言葉がありまして、『釣狐』はよく“卒業論文”と呼ばれています。後進の弟子たちや、息子の裕基も『釣狐』を披き、“卒業論文”が増えてきた中で、私は父が示してくれた、1つレベルの違う『釣狐 白狐之伝』を踏襲できればと思っております。父が工夫していたことに加え、文献を読み新たに発見したことや、私自身の経験も含めて上演できれば」と意気込みを述べる。
萬斎が60歳の節目ではなく、58歳で「釣狐」を勤めることについては「(『白狐之伝』は)父が復活させたものですので、父が元気なうちに教わりたいという気持ちがまずあります。そして、60歳になると“三老曲”という老人がシテとなる作品を勤められるようになるので、60歳の節目の公演はそちらの曲を演じてみたいなと(笑)」と明かしつつ、「体力任せや勢いでやるのではなく、線の美しさであったり、白狐の美しさや神々しさを表現できるような、年齢相応の『釣狐』を披露できたら」と語った。
万作は「3歳で初舞台を踏んでから、90年になりました。これまでも節目節目で三番叟を舞ってきましたが、今回がおそらく最後ではないかなと。三番叟は、“舞う”だけではなく、特別に“踏む”とも申せるのですが、今回は“踏み納め”のつもりで勤めさせていただきます」と言葉に力を込める。記者から、93歳で三番叟を勤めることへの感慨を問われると「90歳を過ぎて、三番叟をやった人はいないんじゃないかな(笑)。90歳になっても舞台に出て、お客様に鑑賞していただけるというのは、幸せなこと」と微笑む。
なお、本公演の「翁」には、万作と、シテとなる翁太夫を勤める観世流宗家の観世清和のほか、清和の息子・観世三郎太、そして裕基も出演する。このことに万作は「偶然にも、三郎太くんと裕基は同い年でございますので、そういった若い方々と舞台を踏めることを活力にし、若々しい三番叟を舞い納めたい」と笑顔を見せる。そんな万作に対し、萬斎が「私が60歳を目前に老成し、90歳を過ぎた父が若々しさを目指しているというのは、なんだか面白いですよね(笑)」と言及すると、万作は照れ笑いを浮かべた。
話は、今年1月に大阪・大槻能楽堂で行われ、万作、萬斎、裕基の3人で三番叟を舞った「大槻能楽堂 創立九十年記念公演」に。万作は「3人での三番叟は、萬斎の『3人の翁があるんだから、3人の三番叟があってもいいのでは』というアイデアから、彼自身が演出してくれたもの。私は、2人の三番叟を演出したことはありますが、3人というのは過去にない新しい形式でした。私自身、戦後に武智鉄二さんと新しい試みを始めたときは、明治生まれの方々に嫌がられました。それを乗り越えて、今があるわけです。先日も、中村鷹之資さんとうちの裕基が能楽堂で、お能の囃子方で三番叟を舞いましたが、そういったコラボレーションも、昔ならありえないこと。時代の推移を感じますし、僕にとっても、ありがたい時代になりました」と話す。萬斎も「そういった“新たな伝統”は、父たちが開拓してくれた」と感謝の念を述べつつ、「親和性や必然性がない限り、無理やり新しいものを生み出す必要はないと思っています。ただ、シェイクスピア作品だったり、私が手がけている『鬼滅の刃』だったり、そういった能狂言と相性の良いコンテンツを、能ならでは、狂言ならではのアプローチで立ち上げて、さまざまな方に関心を持っていただくことは大事なこと。私自身、これまでさまざまな領域で旅をしてきましたが、今の時代にそういった経験が生きているように感じています」と述べた。
「狂言ござる乃座《萬斎×釣狐》」の京都公演となる「
「狂言ござる乃座《萬斎×釣狐》」
狂言ござる乃座 in KYOTO 19th
2024年10月12日(土)
京都府 京都観世会館
出演
舞囃子「安宅」
金剛龍謹
狂言「樋の酒」
狂言「釣狐 白狐之伝」
狂言ござる乃座 70th Anniversary
2024年10月19日(土)、2024年10月24日(木)
東京都 国立能楽堂
出演
舞囃子「善知鳥 翔入」
梅若紀彰(19日公演) / 片山九郎右衛門(24日公演)
狂言「舟ふな」
野村万作 / 三藤なつ葉
狂言「釣狐」(19日公演)
野村萬斎 / 野村裕基
狂言「釣狐 白狐之伝」(24日公演)
野村萬斎 / 野村裕基
狂言ござる乃座 in NAGOYA 27th
2024年12月15日(日)
愛知県 名古屋能楽堂
出演
狂言「隠狸」
野村裕基 / 野村万作
素囃子「安宅 滝流之伝」
竹市学 / 後藤嘉津幸 / 河村眞之介
狂言「釣狐 白狐之伝」
野村萬斎 / 野村又三郎
万作を観る会-芸歴九十年記念公演-
2024年11月17日(日) ※公演終了
東京都 国立能楽堂
出演
「翁」
翁:観世清和
千歳:観世三郎太
三番叟:野村万作
面箱:野村裕基
舞囃子「安宅 滝流」
観世銕之丞
一調「道明寺」
大槻文藏
大鼓:亀井広忠
小舞「鶉舞」
三宅右近
小舞「貝尽」
野村又三郎
狂言「棒縛」
太郎冠者:野村遼太
次朗冠者:中村修一
主:飯田豪
舞囃子「枕慈童」
宝生和英
狂言「太鼓負」
夫:野村萬斎
妻:高野和憲
参詣人:深田博治 / 野村裕基 / 飯田豪 / 岡聡史
祭頭:石田幸雄
稚児:三藤なつ葉
舞人:野村太一郎
巫女:内藤連 / 中村修一
傘持:破石晋照
沓持:福田成生
警固:月崎晴夫 / 野村遼太
太鼓打:竹山悠樹
※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
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柏木ゆげひ(朝原広基) @kashiwagiyugehi
野村萬斎、父・野村万作から受け継ぐ「釣狐 白狐之伝」に意気込み 93歳の万作は三番叟を“踏み納め”(ステージナタリー9/29) https://t.co/Fm8SKAWywh 「京都・東京・愛知で行われる『狂言ござる乃座《萬斎×釣狐》』、ならびに、11月に東京で行われる『万作を観る会 芸歴九十年記念公演』の上演に」