この作品を上演するために演劇を続けてきた、松居大悟・玉置玲央を魅了した「ポルノ」の魔力

長塚圭史率いる阿佐ヶ谷スパイダースの旗揚げ公演「アジャピートオジョパ」に新たなエピソードを加え、2002年に上演された「ポルノ」が、ゴジゲンの松居大悟の演出により上演される。坂の多い町・坂上町を舞台にした「ポルノ」は、子供ができない若い夫婦を中心とした、男女7人が織り成す“ハートフルホラー”。今回の上演版では、坂上町の議員選挙に立候補した国旗耕二役を玉置玲央、耕二の妻・美和子役を前田敦子が務める。

このたびステージナタリーでは、所属事務所ゴーチ・ブラザーズの同期で、さまざまな作品を共に立ち上げてきた松居と玉置にインタビュー。互いに高校時代に「ポルノ」を観劇し、同作から衝撃を受けたという2人に、本作にかける思いを語ってもらった。

取材・文 / 興野汐里撮影 / 藤田亜弓

2人をこじらせた「ポルノ」の魔力

──共に1985年生まれで同世代の松居さんと玉置さんは、2010年にゴーチ・ブラザーズへ入所し、松居さんが演出した「イヌの日」(2016年)、「みみばしる」(2019年)、「Birdland」(2021年)でご一緒されました。

松居大悟 玲央は早生まれなので年齢は僕の1つ上なんですけど、事務所に入った時期も近いし、ほぼ同い年のような感覚ですね。「イヌの日」に出演してもらってから、僕が外部作品を演出するときには、ほぼほぼ玲央に参加してもらっています。

玉置玲央 そう考えるとそうか! いつも呼んでもらってうれしいなあ。僕は柿喰う客の劇団員ではあるんですけど、中屋敷(法仁)派閥ではなく松居派閥なんですよ(笑)。

左から松居大悟、玉置玲央。

左から松居大悟、玉置玲央。

──(笑)。そんな盟友とも言える松居さんと玉置さんは、2002年に「ポルノ」を観劇して衝撃を受けたと、今作の上演および出演決定の際にコメントされていました。改めて、当時を振り返っていただけますか?

松居 僕は母に連れられて、地元の福岡で「ポルノ」を観劇しました。三谷幸喜さんやG2さんのようなウェルメイドな作品を観ることが多かったんですけど、「ポルノ」は言っちゃいけないことをずっと言っているし、やっちゃいけないことをずっとやっている。それまでに感じたことのない、胸をかきむしられるような面白さを覚えて、言葉にできない高揚感が心の中にずっと残り続けていました。

玉置 すごくわかる。僕も、それまでは夢の遊眠社とか第三舞台とか、いわゆるエンタメ系の舞台を観ていたんですけど、「ポルノ」を観たときに、「演劇ってここまでやっていいんだ」と新しい価値観を頭にぶち込まれた感じがしました。大人になってから「ポルノ」を観ていたらまた違う感想を抱いていたんでしょうけど、なにせ演劇を始めたばかりの高校時代に観てしまったものだから、心にトゲが刺さって抜けないんです。ある種の“ヘキ”を植え付けられてしまったと言えるかもしれません。

玉置玲央

玉置玲央

松居 そうそう。僕も「ポルノ」を観てから、閉鎖的な作品を好むようになった気がする。

玉置 僕は当時所属していた劇団で、僕たちの面倒を見てくれている大人の方に「阿佐ヶ谷スパイダースの作品は観ておいたほうが良いよ」と教えてもらって観に行ったんですが、その方にしても大悟のお母様にしても、高校生に「ポルノ」を勧めた大人たちもすごいよね(笑)。

松居 そうだね(笑)。単純に、面白そうだからという理由で連れて行ったんだろうなあ。

玉置 おかげで見事にこじらせちゃったよ(笑)。

答えが見つからないほうが面白い

──松居さんと玉置さんが「ポルノ」を観劇した2002年から20年以上の時を経た2026年、お二人の手によって新たな「ポルノ」が誕生します。年齢と経験を重ねた今、思い出深い「ポルノ」という作品と対峙して、どのようなことを感じられましたか?

玉置 正直なところ、「この時代にこの作品を上演して大丈夫かな?」という思いもありました。でも、僕たちが高校生の頃に「ポルノ」を観て頭をガツンとぶん殴られたような衝撃を、今の若い方にも体感してもらいたい。現状、「『ポルノ』という作品は、改めてどこがどう面白いんだろう?」と探りながら稽古しているんですが、答えが見つからないほうが面白いのかもしれないと思っていて。

松居 そうだね。「ポルノ」を観劇した当時は演劇をやっていなかったけど、その後20年くらい演劇をやってきたから、培ってきた経験や技術に頼れば「ポルノ」という作品をロジックで説明したくなる気がして。「圭史さんはきっとこういう意図で書いたんだろうな」というのも少し理解できそうだけど、たぶん「ポルノ」はそれをしないほうが良い戯曲だと思うんです。

松居大悟

松居大悟

玉置 自分もそう思う。あと、当時僕らが感じたロマンを追求したほうが良いのか、それとも捨て去ったほうが良いのかということも稽古中によく考えるなあ。

松居 僕と玲央はあのとき受けた衝撃を忘れられないから、どうしても追体験するように作ってしまうけど、座組のほかのメンバーはそうではないからね。みんなが迷子にならない程度には、旗を振って目的地を示せたらと思っています。

──本作には、玉置さんのほか、前田敦子さん、鳥越裕貴さん、ヨーロッパ企画の藤谷理子さん、小野寺ずるさん、岩本晟夢さん、ゴジゲンのうぇるとん東さんが出演します。初めて「ポルノ」という戯曲に触れた方もいらっしゃると思うのですが、キャストの方々はどのような反応をされていましたか?

松居 みんな面白がってくれましたね。特に前田さんは戯曲を読んですぐにやりたいと思ってくださったようで、本当にありがたかったです。前田さんは意外とファンキーなものを求めているのかな。

玉置 あっちゃん(前田)とは共演経験があって、素敵な俳優だということはよく知っていたんですが、「ああ、彼女は『ポルノ』を面白がってくれる人なんだ」とわかって、さらに信頼度が増しました。あっちゃんをはじめ、キャストみんなで戯曲を読み解いていけば、きっと面白い作品に仕上がると思います。

松居 みんなそれぞれ面白がるポイントが少しずつ違うのも面白いよね。あえてバラバラのまま突き進めたら良いんじゃないかなと思う。

左から松居大悟、玉置玲央。

左から松居大悟、玉置玲央。

玉置 そうだね。僕と大悟は圭史さんの作品や阿佐ヶ谷スパイダースの作品にたくさん触れてきているから、そのときに観た風景や先輩方のお芝居がどうしても印象に残っているんだけど、自分の記憶にある「ポルノ」と、座組のみんなが作っている「ポルノ」に差異があることも僕はすごく面白く感じていて。この前の稽古で、ずるが好き勝手やっているのを見て、「そうそう! こういう感じが良いんだよ! 最高だよ、ずる!」と思いました。

松居 良い意味でみんな無責任になれたらもっと面白くなる気がするよね。

玉置 今回の「ポルノ」は、僕と大悟とプロデューサーの時田曜子、ゴーチ・ブラザーズの同期3人を軸にした企画なので、キャスティングに関しても3人で相談して決めたんですが、本読みをしてみて、「やっぱりこのメンツしかいないな!」と思いました。どう言い表すのが良いか難しいんですけど……柿喰う客の玉置玲央より「ポルノ」の玉置玲央のほうが面白い、ゴジゲンのうぇるとん東より「ポルノ」のうぇるとん東のほうが面白いみたいな、それぞれのキャリアで一番輝く瞬間を作ることができるんじゃないかという予感がしています。

松居 もうすでに俳優たちに役が近づいていっている感じがするし、「ポルノ」という作品を通して、俳優たちの本性というか、本来の能力を見せられる気がするよね。

玉置 (松居を真っすぐ見つめて)……という演出をつけます! この人が!

松居 がんばるよ(笑)。

2人だからこそ知っている、互いの魅力&ウィークポイント

──玉置さんはこれまで、松居さんが演出した「イヌの日」「みみばしる」「Birdland」に出演しています。玉置さんさんから見た、“演出家・松居大悟”の魅力を教えてください。

玉置 大悟は、作品にも俳優にも寄り添ってくれて、俳優本人が一番輝ける方法を取ってくれる演出家です。作品を作る過程において、座組で話し合う機会を必ず作ってくれるから、みんなの中で共通認識を深めて齟齬を減らすことができる。ちょっと語弊があるかもしれないんだけど、優しい演出家であると同時に臆病な演出家でもあって。自分が所属している柿喰う客の現場は演出家がグイグイ引っ張っていくことが多いんですが、柿喰う客はもともとそういう“船”だから、それはそれで良いんです。けれど、「たまには甘やかしてよ!」と思うときもある(笑)。そのぶん、大悟は甘やかしてくれるんですよ。でも、甘やかすって責任を伴うことだと思うんです。一歩踏み外してしまったら作品のクオリティに影響するし、お客様の不満足にもつながってしまうから。甘やかしてくれるけど、最後はしっかりと締めてくれるところは昔からずっと変わらないですね。本当に愛しい演出家です。

玉置玲央

玉置玲央

──玉置さんがおっしゃったように、松居さんご自身としても作品や俳優に寄り添うことを意識されているのでしょうか?

松居 そうですね。たとえば映画の現場だと、瞬時に芝居やカメラアングルを決めて、OKかNGかを決めなければいけないから、寄り添える時間がほとんどないんです。一方で演劇は約1カ月間、同じ場所に集まって、顔を突き合わせることができる。もちろん指示したくなることもあるし、指示したほうがキャストもスタッフも安心するかもしれないけど、決めないことを決めることができて、できるだけみんなで話し合って作品を豊かにしていきたい。どの現場であっても、そんな気持ちで作品を作りたいと思っています。

玉置 ゴジゲンで公演を打つときも、その心がけは変わらず?

松居 ゴジゲンは脚本を書き始める段階から、「今、こういうことに興味があって、こういう話を書きたいと思ってるんだけど、どうかな?」というところから相談して、それをもとにエチュードをするから、別の現場以上に話し合いの時間を持つことが多いかな。

松居大悟

松居大悟

──2025年に上演されたゴジゲンの最新作「きみがすきな日と」は、実際にあったゴジゲン内でのエピソードを織り交ぜた自叙伝的な作品でもあったので、たくさん話し合いの機会を持たれたのだろうと感じました。では、松居さんが外部作品を演出する際に毎度キャスティングしてしまうほど厚い信頼を置く、“俳優・玉置玲央”の魅力についてもお聞かせいただけますか?

松居 玲央は、キャストだけでなく、さまざまなセクションの方に寄り添って、良いムードを作ってくれる俳優ですね。話し合いの場の空気が停滞したら新しいアイデアを出してくれるし、稽古でもいろいろなことをどんどん試してくれるから、玲央の変化に伴ってみんなの雰囲気も変わって、良い意味で作品が固まっていかないんです。芝居に対して、誰よりも柔軟な考えを持っている玲央だけど、実はちょっと弱点がありまして。玲央は人の話をしっかりと聞きすぎて、全部を取り入れようとしてしまい、どうしたら良いかわからなくなっていることがあるんです。何でもできそうで、意外と混乱するところもあるから、可愛らしいんですよね。本人は周りにバレないように処理しているつもりかもしれないけど、バレバレです(笑)。

玉置 ははは! これをしっかり指摘してくれる演出家は松居大悟だけなんですよ。別にSOSを出しているわけじゃないんだけど、「どうした? 大丈夫か?」と声をかけてくれる。それがすごくありがたいし、うれしい。だから僕は松居大悟という演出家が大好きなんです。

松居 すべての演劇の現場に1人ずつ玲央がいてくれたら安心だよな(笑)。

──素敵なご関係ですね。そんなお二人を中心にしたカンパニーが「ポルノ」をどのように立ち上げるのか、今から非常に楽しみです。

玉置 「ポルノ」という作品に出会ってから20年以上経って、この作品に取り組むことができるのは、僕たちにとっていわゆるエモい出来事なんですけど、エモーショナルになりすぎないように気をつけていて。まずは、この時代に、この座組で作る「ポルノ」を大切にしたい。このメンバーでできることを精一杯やっていれば、おのずと面白い芝居ができるんじゃないかなと思っています。

松居 個人的には「ポルノ」を上演するために演劇を続けてきたんじゃないか、と感じるほどに思い入れが強い作品なので、少しでも気になっている方がいたらぜひ観に来ていただきたいです。数年後、伝説的な公演だったと言われるような、皆さんの記憶に残る作品にできるようがんばります。

左から松居大悟、玉置玲央。

左から松居大悟、玉置玲央。

プロフィール

松居大悟(マツイダイゴ)

1985年、福岡県生まれ。劇作・演出家・映画監督。ゴジゲン主宰。2008年にゴジゲンを旗揚げして以降、すべての作品の作・演出を手がける。映画「アフロ田中」(2012年)で長編映画初監督。その後、映画「ワンダフルワールドエンド」(2015年)がベルリン国際映画祭に出品された。映画「私たちのハァハァ」(2015年)、映画「アイスと雨音」(2018年)、映画「くれなずめ」(2021年)、テレビドラマ・映画「バイプレイヤーズ」シリーズ(2017~2021年)などを手がけたほか、映画「ちょっと思い出しただけ」(2022年)で東京国際映画祭 観客賞・スペシャルメンション、映画「リライト」(2025年)でヌーシャテル国際ファンタスティック映画祭 観客賞を受賞した。

玉置玲央(タマオキレオ)

1985年生まれ。東京都出身。柿喰う客所属。近年の主な出演作は、柿喰う客 新作本公演2024「殺文句」、「舞台『Take Me Out』2025」、二兎社公演49「狩場の悲劇」、映画「夢の中」「風よ あらしよ 劇場版」、NHK大河ドラマ「光る君へ」、テレビドラマ「キャスター」「しあわせな結婚」など。2026年5月には自身が執筆した戯曲「どくはく」の演出を手がける。また6月には柿喰う客 20周年記念公演「サバンナの掟」、柿喰う客 2026年新作本公演「真ッ逆様」への出演が控える。