末満健一のライフワークである「TRUMPシリーズ」の最新作、ミュージカル「キルバーン」のBlu-ray / DVDが、3月25日にポニーキャニオンより発売された。
「TRUMPシリーズ」は、永遠の命を持つ吸血種“TRUMP”の伝説に翻弄される吸血種“ヴァンプ”の姿を描くゴシックファンタジー。2009年にスタートした同シリーズは、連綿と続くヴァンプたちの物語が複雑に絡み合いながら展開し、舞台・テレビアニメ・コミック・小説でメディアクロス展開するなど熱狂的なファンを生み出している。
ステージナタリーでは、2025年9・10月に上演された「TRUMPシリーズ」の最新作ミュージカル「キルバーン」のパッケージ化に際し、本作の音楽面から作品の魅力に迫る。特集の後半では、音楽を手がけた和田俊輔が、「TRUMPシリーズ」への思いをつづった。
構成・文 / 大滝知里
女性キャストが中心にいた「TRUMPシリーズ」のミュージカル作品
2009年にスタートした「TRUMPシリーズ」は、さまざまなメディア、多様なスタイルで未曾有の広がりを見せてきた末満健一の代表作。“ミュージカル”とうたわれた作品には、演劇女子部ミュージカル「LILIUM -リリウム 少女純潔歌劇-」(2014年 / 2023年に「LILIUM -リリウム 新約少女純潔歌劇-」のタイトルで再演)、ミュージカル「マリーゴールド」(2018年)、ミュージカル「ヴェラキッカ」(2022年)と過去3作あり、ミュージカル「キルバーン」はそれらに続く、「TRUMPシリーズ」4作目のミュージカルだ。周囲との関係を遮断して生きる母娘の悲しい物語が展開したミュージカル「マリーゴールド」では壮一帆、田村芽実を母娘役に据え、物語に似合う重厚なミュージカルナンバーが並んだ。一方で、ミュージカル「ヴェラキッカ」では共同幻想のユートピアの中で、美弥るりか扮するノラ・ヴェラキッカに向けられる人々の愛情が、ビッグバンドサウンド風のジャジーな楽曲を交えて洒脱に描き出された。また、森の奥深くにあるサナトリウムを舞台に、“繭期”(編集注:人間で言うところの思春期)の少女たちの姿を追ったミュージカル「LILIUM -リリウム 新約少女純潔歌劇-」では、少女たちの揺れる思いが繊細で柔らかい音楽と共に捉えられ、観客へと届けられた。これまでの、女性キャストを中心に置いたミュージカル作品とは異なり、ミュージカル「キルバーン」は主演にロックバンド・SOPHIAのボーカリストである松岡充を迎え、共演には近年ミュージカル作品でも頭角を現す若手・小林亮太、そしてボーカルデュオ・CHEMISTRYの堂珍嘉邦らをキャスティング。その顔ぶれからも、鼓膜と心にガツン!と響く新作ミュージカルが期待された。また、本作は2020年に上演が発表されたものの、新型コロナウイルスの影響で開幕前に上演中止となった経緯があった。そのため、再始動に大きな期待が寄せられていた。
舞台は、永遠の命を持つTRUMPである不死卿ドナテルロ(松岡)が棲む不気味な館。そこでは夜ごと、狂気の宴が催されていた。ドナテルロはシラン(倉持聖菜)とリンドウ(池田晴香)に命を狙われているが、何度殺されてもよみがえる不死の身体を持っている。そんなドナテルロを美少年グスタフ(小林亮太)は慕い、支えていた。そこに、血盟議会の議員であり、裏社会でも暗躍するポピー(宮川浩)が、オリーブ(フランク莉奈)、マルメロ(山崎樹範)、ダリ(堂珍嘉邦)を従えてやって来る。ポピーは、ある要求と引き換えに、ドナテルロに永遠を生きる花嫁ソフィ(内田未来)を差し出して……。
“脳天突き破るヒャッハーミュージカル”と銘打たれたミュージカル「キルバーン」だが、不死卿ドナテルロを軸にした物語には、「TRUMPシリーズ」らしい怪しげな雰囲気が漂う。近年、「TRUMPシリーズ」の音楽を一手に引き受けている和田俊輔は、“ヒャッハー”“退廃的”という相反する魅力を、27もの楽曲を書き下ろすことで表現した。
不死卿ドナテルロが降臨!人物のアンバランスさを秀逸に表すタイトル曲「キルバーン」
ミュージカル「キルバーン」のために書き下ろされた27曲には、ドラムのビートが先導するアップテンポな楽曲から、ロックバンド風、美しいピアノの旋律のスローナンバー、アコーディオンの音色が跳ねるワルツまでバラエティに富み、それらが畳み掛けるように演奏される。中でもハイライトとなるのは、ヴィジュアル系バンドさながらのアグレッシブさを放つタイトル曲「キルバーン」だ。ドラムとギターが互いを追いかけるように共鳴し合う同曲で、松岡扮するドナテルロが王者の風格で登場すると、重厚感ある歌声に観客の注意が惹きつけられる。楽曲が1本調子で進むのではなく、オリエンタルな様子の変拍子が挟まれたり、突然メロさのあるメロディに変わったりと、1曲の中でさまざまな表情を見せるナンバーには、ドナテルロという役の背景にある“不安定さ“が見え隠れする。そんな楽曲を、松岡は「私はここに生きている」とファルセット混じりに歌ったかと思えば、「血よ我と共に歩め」と地を這うような声色で服従を促して宗教的な熱狂を作り上げたりと、歌手として培った技術と表現力によって歌いこなし、観客を沸かせた。
一方、「TRUMPシリーズ」を通してさまざまなキャラクターに異なるアレンジで歌われて来た重要なナンバー「TRUE OF VAMP」は、ミュージカル「キルバーン」ではダリ役を演じる堂珍が、真っすぐに伸びる清涼な歌声で歌い上げた。「TRUMPシリーズ」の世界観を表す「TRUE OF VAMP」は、ピアノとドラムを中心に展開。ゆったりとしたリズムの中、一つひとつの言葉をしっかりと届けるように歌う堂珍の歌唱は、まるで「TRUMPシリーズ」でヴァンプたちが憧れてきた“吸血種の始祖”という存在の大きさを代弁するかのようで、楽曲にドラマチックな広がりを持たせた。
そのほか、グスタフ役の小林が、絵本のページをめくるように歌い始める牧歌的なオープニングナンバー「ニゲラとビンカ」や、1980年代の日本のアイドルを彷彿とさせるポップさがチャーミングなポピー役・宮川の「愚美⼈ポピー」、ブロードウェイで上演されるようなガールズミュージカル調のポップさで明るさを見せるオリーブ役のフランクの「最高に有頂天」、そして山崎扮するマルメロのおかしみが愛らしく立ち上がるワルツ「笑えない道化師」など、実に多彩な楽曲が取りそろえられた。ソロナンバーだけでなく、デュエット曲も多く盛り込まれた本作では、松岡と堂珍が激しく対峙するナンバー「不協和音」で、お互いの主張が食い違う様を“デュエット”を超えた“バチバチの歌バトル”で表現。また、堂珍と内田も、シンバルの打音に急き立てられるように言葉数多く歌う「命の終わりを」で声を合わせるなど、ミュージカル「キルバーン」の物語のうねりにぴたりとはまる楽曲群が次々と披露された。
本作のミュージカルとしての成功には、ジャンルミックスのキャスティングの面白さも関係している。ミュージカルの世界を知りながらも、軸足を歌の世界に置く松岡と堂珍が、曲単位で世界観を立ち上げていくのに対し、ミュージカル畑の俳優たちは“憑依”に似たような入り込み方で楽曲の魅力を押し広げる。そのどちらをも堪能できるのが、今回のミュージカル「キルバーン」の魅力の一つと言えるだろう。
音楽と物語、それぞれの気持ちよさがミュージカル「キルバーン」を形作る
ジェットコースターのような楽曲群が続いた前半に対し、不死卿ドナテルロの核心に近づく後半では、どっしりと聴かせるようなシリアスなナンバーが増える。そのクロスポイントになるような楽曲が、10分近い大曲「罪と罰」だ。ピアノの音色に導かれるように始まり、プリミティブな太鼓の音も聴こえる同曲では、ドナテルロとグスタフがたどった長い道のりが、絵巻ものを広げていくかのように歌われる。これまで毒々しさのあった松岡の歌声は無垢なそれに変わり、狂気的なパフォーマンスを見せていた小林は穏やかさを取り戻し、作品の重心が音楽から物語へとシフトしたことを感じさせた。
ミュージカル「キルバーン」は、「TRUMPシリーズ」のこれまでのミュージカル作品とは違う、はっちゃけた明るさと力強さがある。本作は前述の通り、2020年に上演される予定だったが、新型コロナウイルスの影響で開幕前に上演中止となった経緯があった。コロナ後、「TRUMPシリーズ」としては2024年に舞台「マリオネットホテル」が上演されたものの、ミュージカル「キルバーン」には「TRUMPシリーズ」の魅力である中世ヨーロッパ風のゴシックなテイストはそのままに、当時の鬱屈とした思いを発散させるかのようなエネルギーが詰まっている。また物語上の点と点が線で結ばれる腹落ち感が「TRUMPシリーズ」の魅力でもあるが、ミュージカル「キルバーン」では、音楽と物語が生み出す快楽に、劇世界を肌で感じる喜びがかけ合わさり、「TRUMPシリーズ」の新境地に踏み込んだ。
なお、Blu-ray / DVD が発売される3月25日には、ミュージカル「キルバーン」の楽曲群が、各音楽配信サービスよりダウンロード配信される。こちらの音源はBlu-ray / DVDに収録されたものと同じとなるが、配信アルバム化されるにあたり、より聴きやすい仕上がりに編集された。こちらも併せてチェックしよう。
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和田俊輔が語るミュージカル「キルバーン」の音楽


