明治末期の北九州の港町・若松。玉井金五郎と谷口マンは仲間の労働者の近代化を目差して闘った。金五郎の背中には、昇り龍と菊の花の入れ墨があり……。
本公演では、脚本を劇団桟敷童子の
佐々木愛コメント
「エデンの東」などで知られ、かつてアメリカ映画の巨匠と呼ばれたエリア・カザン監督は、移民として十代でアメリカ大陸に渡った祖父の実像を「アメリカアメリカ」という作品に実らせた。最下層の港湾荷役労働者で働き通した男は、家族を持ち、子供たちに教育を与えた。そして、その孫がエリア・カザンだ。
「花と龍」の原作者・火野葦平もまた、港湾荷役労働者からたたき上げた両親のもと、北九州の若松に生を受ける。早稲田大学文学部に進学し、従軍、若くして芥川賞作家となり、……そして戦後に筆を折り、公職追放も受ける。
やがて、日本が民主主義の国となり、再びペンを持つことが許された時、彼が挑んだのが父と母の物語「花と龍」であった。無類の演劇好きだった火野葦平は、私たち文化座に「陽気な地獄」と沖縄を舞台とした「ちぎられた縄」を書き下ろして話題となった。
戦時下、激戦地を巡って従軍作家として活躍した火野と、旧満州で抑留生活を経験した文化座の創始者・佐佐木隆は、演劇の場で感嘆し合い交流を重ねた。が、火野は1960年、日米安保条約が調印された五日後に死を選んだのだった。
「父や母のように美しく生きられないかもしれないが……」と、語っていた火野の言葉と、火野の甥で祖母マンに育てられた中村哲医師がアフガニスタンで凶弾に倒れたことを考えると、玉井金五郎一家の夢と野望は今もなお脈々と息づいているように思える。私たちは今、その続きの時代を生きているのだ。
劇団文化座公演166「花と龍」
2024年2月23日(金・祝)~3月3日(日)
東京都 俳優座劇場
原作:
脚本:
演出:
出演:津田二朗、青木和宣、鳴海宏明、佐藤哲也、米山実、沖永正志、白幡大介、高橋美沙、高橋未央、
※高橋美沙の「高」ははしご高、神崎七重の「崎」は立つ崎(たつさき)が正式表記。
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マダム ヴァイオラ @drama_viola
なんです、この渋い企画は。 https://t.co/BE9LOKSQQ3