「A・NUMBER」は、イギリスの劇作家キャリル・チャーチルが作劇を手がけ、2002年にイギリス・ロイヤルコート劇場で初演された作品。今回は、
本作では、人間のクローンを作り出すことが技術的に可能になった近未来を舞台にした物語が展開する。ある日、35歳のバーナード(戸次)は、ひょんなことから自分がクローン人間であり、同じ遺伝子を持ったクローン人間が自分のほかに複数名存在していることを知ってしまう。父・ソルター(益岡)にクローンとして自分を作り出した理由を問いただすと、ソルターは「亡くなった実の息子を取り戻したかったから」と告白。しかし実の息子は生きていて、ソルターとバーナードの前に姿を現し……。
舞台には数脚の椅子と、机が置かれており、そこが1つの部屋であることが暗示されている。その空間で、ソルターと3人の息子たちは次々に対峙し、衝突や対話を繰り広げることで、彼らの過去が次第に明らかになっていく。
戸次は、ソルターに息子として愛され育てられたクローン人間のバーナード、ソルターから見放された“オリジナル”のバーナード、そして、ソルターには秘密で作られていたバーナードのクローン人間・マイケルの3人を、同じ顔の別人として演じわける。クローン人間のバーナードを演じるときは、失望感に満ちた表情や落ち着きのない仕草で、彼を繊細で神経質な男として立ち上げる。“オリジナル”のバーナードを演じるときは、乱暴な態度から一転、甘えるようにソルターにもたれかかり、その緩急ある演技で役の持つ底知れなさや深い孤独感を表現。また戸次は、妻と子を愛する教師マイケルを、穏やかな声色と佇まいで朗らかに演じ、陰鬱な雰囲気を持つ2人のバーナードとマイケルの対比をより鮮やかなものにした。
益岡はソルターを、愛情と無責任さを併せ持った父親として巧みに演じあげる。クローン人間のバーナードの戸惑いや怒りを受け止めようとする芝居からは父性を感じさせるが、“オリジナル”のバーナードと対峙するシーンでは彼と目を合わせようとせず、優しげな口調で自己保身の言葉を口走る演技で、ソルターの無思慮さを浮き彫りにした。
開幕に際し、戸次と益岡のコメントが到着。戸次は「私が演じる3人の息子たちは、遺伝子が同じでも性格が違って、益岡さん演じる父親とそれぞれが異なる親子関係になっています。僕自身、ある息子を演じているときに、父親だと思って接しているからこそ、声が大きくなるし、涙も出る。そういった部分がこの作品の魅力だと思います。益岡さん以外の人がソルターを演じることが想像できないぐらい、2人で一緒になって1シーン1シーンを作ってきた自信と自負があります」と述べる。
益岡は「会話劇ならではの動きではない感情のダイナミズムがある作品ですし、戸次さんが演じる3人の息子たちが全く違うところにも作劇的な面白さがあります。親や遺伝子は一緒でも環境やいろんなことが違うとこんなにも人間は変われる自由があるということも感じますし、仮に最新技術で作られたクローンであっても、人間の可能性、環境によって自分を変えられる、飛び越えることができるんだなっていう、そういった広くて大きい節理を感じる部分もある作品です」と作品の魅力に触れた。
上演時間は約1時間15分で、東京公演は10月16日まで。そのあと本作は、21日に愛知・青少年文化センター(アートピア)、23日に宮城・電力ホール、26日に北海道・共済ホール、29日に兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールで上演される。なお10月14日18:00開演回のライブ配信が決定。詳細は公式サイトを確認しよう。
戸次重幸コメント
私が演じる3人の息子たちは、遺伝子が同じでも性格が違って、益岡さん演じる父親とそれぞれが異なる親子関係になっています。僕自身、ある息子を演じているときに、父親だと思って接しているからこそ、声が大きくなるし、涙も出る。そういった部分がこの作品の魅力だと思います。益岡さん以外の人がソルターを演じることが想像できないぐらい、2人で一緒になって1シーン1シーンを作ってきた自信と自負があります。あと、膨大なセリフ量、かつ難解な芝居である「A・NUMBER」で、48歳の戸次重幸と66歳の益岡徹さんが役者の限界に挑戦していることも見どころかもしれません。お客様にとっても少し難しい内容かもしれませんが、何とか都合をつけて2回以上観て頂きたいです(笑)。それだけの価値がありますし、噛めば噛むほど味の出る、見れば見るほど理解が深まる作品になっています。紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAは客席と舞台の距離も近いので、舞台を肌で感じに来てください。
益岡徹コメント
どんな舞台でも初日は独特な気持ちになるもので、わくわくとか、お客さんの前で初めて演じることへの“おののき”みたいなものは付き物だと思うんですけれども、登場人物が2人で、どのシーンも2人で構成されていることもあり、緊密かつ濃密な稽古期間でした。最初は、もっと深淵なところに劇のポジションがあると思っていたんですが、意外に身近な人間が起こしてしまうこと、例えば判断ミスや愚かなところ、すぐお金のことを考えてしまうとか、そういった面白さも徐々に感じています。会話劇ならではの動きではない感情のダイナミズムがある作品ですし、戸次さんが演じる3人の息子たちが全く違うところにも作劇的な面白さがあります。親や遺伝子は一緒でも環境やいろんなことが違うとこんなにも人間は変われる自由があるということも感じますし、仮に最新技術で作られたクローンであっても、人間の可能性、環境によって自分を変えられる、飛び越えることができるんだなっていう、そういった広くて大きい節理を感じる部分もある作品です。
「A・NUMBER」
2022年10月7日(金)~16日(日)
東京都 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
2022年10月21日(金)
愛知県 青少年文化センター(アートピア)
2022年10月23日(日)
宮城県 電力ホール
2022年10月26日(水)
北海道 共済ホール
2022年10月29日(土)
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
作:キャリル・チャーチル
翻訳:浦辺千鶴
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パン子🐷子残念♡子fantan @pan_1965
【公演レポート】戸次重幸、益岡徹との二人芝居「A・NUMBER」に「2人で一緒になって作ってきた」と自信(舞台写真あり / コメントあり) https://t.co/vLD4sXfsE4