ミュージカル「ミセン」でインターンを演じる、左から糸川耀士郎、内海啓貴、前田公輝、清水くるみ。

テンミニ!10分でハマる舞台

ミュージカル「ミセン」まもなく開幕!井川荃芬プロデューサーが放つ、“リアルが大人に刺さる”物語

世界を見据えた作品、その成長を応援して

PRミュージカル「ミセン」

新作ミュージカル「ミセン」が、1月10日に大阪・新歌舞伎座でプレビュー公演を迎える。本作は、ユン・テホ原作による韓国のWEBTOON発のマンガ「未生(ミセン)」を、韓国・日本のクリエイティブスタッフがチームとなって立ち上げる、ホリプロ制作のオリジナルミュージカル。2024年12月末には衣裳付き通し稽古が行われ、初日に向けての熱気が高まる中、プロデューサーの井川荃芬に作品への意気込みを聞いた。

取材・/ 大滝知里

人生のさまざまな段階における“終わりのない可能性”を伝えたい

ミュージカル「ミセン」出演者の稽古場での様子。左上から時計回りに、石川禅、安蘭けい、前田公輝、あべこうじ、橋本じゅん、鏡の前でポーズを決めるあべと前田、おちゃめな姿を見せる前田。

ミュージカル「ミセン」出演者の稽古場での様子。左上から時計回りに、石川禅、安蘭けい、前田公輝、あべこうじ、橋本じゅん、鏡の前でポーズを決めるあべと前田、おちゃめな姿を見せる前田。

韓国の囲碁用語では、碁盤上で生かされていない石のことを“ミセン(未生)”と呼ぶ。未生は死に石に見えても、手筋次第で生かすことができる、“どっちにも転べる状態”の石のこと。ミュージカル「ミセン」では、囲碁のプロ棋士になる道を諦め、大手貿易会社にインターンとして入社したさえない青年チャン・グレ(前田公輝)が、失敗を繰り返しながら、同期の支えや上司からの叱咤激励を受け、囲碁の考え方によって起死回生し、自らの人生を切り拓いていく様が描かれる。

プロデューサーである井川は、ミュージカル「ジェイミー」やブロードウェイのヒット作「カム フロム アウェイ」、実話を元にした家族ドラマ「COLOR」など、観る者の心に訴えかける、大小さまざまな規模の作品を手がけてきた。井川はマンガ「未生」の紹介文を読んだときに「なんとなく“これは”」と直感が働いたそうで、「実際に読み始めたら、グレたちのインターン世代、そして中堅、管理職に響く、哲学的な言葉がたくさんありました。現代もののミュージカルには、若者を主体に夢や希望を描く作品が多いですが、自分と同じように働いて劇場に足を運ぶ観客がリアルに共感できて、エネルギーをもらえる作品を作りたかった。『ミセン』では、自分の選択次第で新たな人生を歩める、人生における“終わりのない可能性”を伝えられると思っています」と舞台化の経緯を語る。さらに、「弊社のオリジナルミュージカルは2015年初演の『デスノート THE MUSICAL』から始まりましたが、『デスノート THE MUSICAL』は、主題である“正義とは何か”が、演劇で描くことに適しているという思いから企画されました。舞台作品には普遍的なテーマがしっかりと存在していることが重要だと、プロデューサーとして舞台制作に関わりながら感じています」と続けた。

「ミセン」の設定を生かすため、韓国クリエイター陣と協働

ミュージカル「ミセン」東京公演ビジュアル

ミュージカル「ミセン」東京公演ビジュアル

今回は、パク・へリムが脚本・歌詞、チェ・ジョンユンが音楽、オ・ルピナが演出を担当し、翻訳・訳詞を高橋亜子、振付・ステージングをKAORIaliveが務める。韓国のクリエイティブスタッフ起用の理由を井川は「韓国の設定のままで上演するのが望ましいと思っていた」からと言い、「ルピナさんは若いですが、人間ドラマを丁寧に見せつつ、現実を飛び越えるミュージカルのエンタメ部分もしっかりと両立できる力量があり、へリムさんの脚本は、ドラマの本筋と歌唱シーンの構成が絶妙で、作品の情感を何倍にも膨らませてくれる。ジョンユンさんの楽曲にいたっては、一度聴いただけで口ずさめるまでの完成度に落とし込んでくれています」と説明。楽曲については、これまでのオリジナルミュージカルの創作時は作曲家と随時、作曲過程からシェアしてきたが、「ミセン」では、ある程度完成された状態になってから昨年7月末に行われた韓国でのワークショップで初めて楽曲を聴いたことを明かした。

昨年末には衣裳付き通し稽古も行われた。井川は「立場的に客観的に観るのは難しい」と前置きしつつ、「衣裳付き通し稽古で観たキャラクターの舞台上での見え方がイメージと違い、衣裳を大幅に変更する決断をした場面がありました。このようなことはあまりないのですが、できる限りのことはしようと思って」とギリギリまで模索する姿勢を見せる。しかし関係者からは概ね好評で、高橋をはじめとする目の肥えたプランナーたちが「ミセン」の“新しさ”を評価したという。井川は“新しさ”の一端に、オ・ルピナとKAORIaliveによるコラボがあるとにらんでおり、「私はKAORIaliveさんの群舞がすごく好きで、『キングアーサー』では群舞を作ってほしくてオファーしたくらい。今回、ご覧になっていただけたらきっとわかると思いますが、ある場面で、歌もセリフもないけれど、演出意図的に登場させたい人物がいて、KAORIaliveさんがその人物に付けてくださった振りが、とんでもない技術を必要とするダンスなんです(笑)。でも、物語の流れと踊りに乖離がなく、お二人の力を相乗効果で見せられるシーンに仕上がりました」と自信のある笑みを浮かべた。

ミュージカル「ミセン」衣裳付き通し稽古の様子。

ミュージカル「ミセン」衣裳付き通し稽古の様子。

世界を見越した作品の成長を応援して

国境を越えたクリエーションであり、長い準備期間を経て、いよいよ幕が上がるミュージカル「ミセン」。初日を待ち望む観客に期待してほしいことを問うと、井川は「この作品が持つ“リアルさ”に深く共感していただけると思います。観終わったあとに明日が少し明るくなったり、家族に電話をしてみようと思えたり、たとえ忙しない日常に心が沈んでいたとしても、“次の一手を打ちにいこう”と勇気を奮い立たせてくれる作品です」とアピールする。過去には蜷川幸雄演出の「NINAGAWA・マクベス」「ハムレット」「ムサシ」「海辺のカフカ」、そして初の海外ライセンス作品「デスノート THE MUSICAL」など、ホリプロは国外に視野を向けて舞台を生み出しているが、井川は「ミセン」もそれに続く作品として期待をかける。「『ミセン』は日本でスタートしますが、もちろん海外での上演も見越しています。ぜひ大阪・愛知・東京で『ミセン』の世界初演を体験し、一緒に作品の成長を応援していただけたらうれしいです」と語った。

ミュージカル「ミセン」公式サイト

新作ミュージカル「ミセン」

2025年1月10日(金)〜14日(火)
大阪府 新歌舞伎座

2025年2月1日(土)・2日(日)
愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール

2025年2月6日(木)~2025年2月11日(火・祝)
東京都 めぐろパーシモンホール 大ホール

スタッフ

原作著者:ユン・テホ
著作権者:SUPERCOMIX STUDIO
脚本・歌詞:パク・へリム
音楽:チェ・ジョンユン
翻訳・訳詞:高橋亜子
演出:オ・ルピナ
振付・ステージング:KAORIalive

出演

チャン・グレ:前田公輝
オ・サンシク課長:橋本じゅん
アン・ヨンイ:清水くるみ
ハン・ソギュル:内海啓貴
チャン・ベッキ:糸川耀士郎
パク・ジョンシク課長:中井智彦
キム・ドンシク課長代理:あべこうじ
居酒屋店長 / 協力会社社長:東山光明
チェ・ヨンフ専務:石川禅
ソン・ジヨン次長 / グレの母:安蘭けい
(以下、五十音順)伊藤かの子 / 岡田治己 / 加賀谷真聡 / 加藤さや香 / 工藤彩 / 熊澤沙穂 / 田村雄一 / 俵和也 / 照井裕隆 / 永松樹 / 早川一矢 / MAOTO
スウィング:加藤文華 / りんたろう

※1月10日はプレビュー公演。

公演・舞台情報

井川荃芬(イカワカオル)

大阪府生まれ。演劇プロデューサー。2008年、ホリプロ入社。マネジメント業を経験後、公演事業部に異動。数々の舞台制作に携わる。主な担当作品に「デスノート THE MUSICAL」「ビリー・エリオット」「メリー・ポピンズ」「スクールオブロック」「スリル・ミー」「ジェイミー」「キングアーサー」「カム フロム アウェイ」「COLOR」など。また、2025年8月には「ある男」のミュージカル化も控える。

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