パンチライン・オブ・ザ・イヤー2025 (中編) [バックナンバー]
Worldwide Skippa、ZORN、Jinmenusagi、SEEDA……ラップが映し出す社会の空気とパーソナルな痛み
言葉という観点からシーンを振り返る日本語ラップ座談会
2026年3月17日 12:30 5
ダサいものをカッコよくしているところがカッコいい
YAMADA そんな
Jinmenusagi「うそさ」ミュージックビデオ
渡辺 YAMADAさんはなぜこのラインを選ばれたんですか?
YAMADA 「これしかねぇ」って、いわゆるラッパーのクリシェじゃないですか。それと就活を掛けているんですよね。就職活動は、いかに取り繕って自分をよく見せるかっていう側面があるので「平気で嘘をつけるお前なら、ほかの仕事もできるよ」という意味にも掛かっていて見事だなと思ったんです。しかも、Jinmenusagiは自らのヒップホップ道を貫き通したことを誇る一方で、別の道を選択した人たちに対して同じヴァース内で理解を示しているんです。彼はラップゲームに参加している人に向けてこの曲を歌っているのかもしれないですが、リスナーにも同じく刺さる曲だと思いました。
ポーザー 自分が
渡辺 JinmenusagiやKamuiたちがデビューした直後に、
ポーザー 僕もこの「うそさ」は本当に大好きです。特に「皮肉なことにも人間らしさを教えてくれたのはインターネット」はものすごいパンチラインだと思いました。今の20代以下の世代にはこういう感覚の人、少なくないと思うんですよ。ヘッズツイッタラーの人たちはこのラインに沸きに沸いていましたね(笑)。
──ポーザーさんはKamuiの客演曲からもラインを選んでいますよね。
ポーザー Need a Flex「Why do we fall?(feat. Kamui)」の「誰だって最初は無名 / 破れたダチの夢 / 代わりにおれ縫うミシン / 美人を追うように人生夢で生きてる
Need a Flex「Why do we fall?(feat. Kamui)」ミュージックビデオ
渡辺 「縫うミシン」という言葉選びが素晴らしいですね。
ポーザー Kamuiさんは35歳で、もうキャリアも10年を超えようとしているんですね。このラインはそういう人じゃないと言えない重みがあります。あと僕がこのラインを選んだポイントは「美人を追うように人生夢で生きてる羞恥心」で。昔、羞恥心ってグループがいたじゃないですか。
YAMADA 「クイズ!ヘキサゴンII」のですか!?
高久 めっちゃ世代だった(笑)。
ポーザー ですです。羞恥心の「羞恥心」っていう曲に「人生 夢で生きてる」という歌詞があって、Kamuiさんはそこをサンプリングしているんですよ。自分もギリ世代だったので、気付いたときにめっちゃびっくりしました(笑)。
──この曲カッコいいですよね。
YAMADA 羞恥心をサンプリングして、ダサいものをカッコよくしているところがカッコいいですね。
ポーザー 「美人を追うように」のフロウもすごい跨ぎ方をしていて。自分自身、今年で28歳なんですけど、最近になってようやく今30代のラッパーの言っていることがわかるようになってきたんですよね。数年前は「これは俺の話じゃねえな」みたく思っていた自分が恥ずかしいんですけど……。
YAMADA いやいや、そういうものですよ(笑)。
ポーザー 実際、自分みたいなことをやっていた周りの友達や知り合いも、やめていく人が増えてきた時期だったから、Kamuiさんのラインは余計に身に沁みました。
渡辺 Kamui、2026年にもっとたくさんの人に知られてほしいな。
ローソンの前で、2人組のギャルが歌っていたヴァース
渡辺 YAMADAさんが選んだJinmenusagiの「うそさ」のラインも、ポーザーくんが選んだKamuiのラインも、共通した感覚がありますよね。その流れで言うと、高久さんが挙げている
Lunv Loyal「Big Step ft. YTG, Deech, Yvngboi P」03- Performance
高久 「Big Step」は2025年を代表する曲だと思います。僕は特にそのYvngboi Pのラインが好きですね。さっきも話しましたけど、言い方は悪くなりますが、最近はラッパーが多すぎて、僕自身もがんばっていろいろ聴いてはいるものの「……」となることが増えたんです。さすがに「カスか偽物」とまでは思わないけど、クリシェがあふれすぎていて、似たり寄ったりに聞こえるというか。自分の耳の問題なのかもしれないけど……。
渡辺 新しさを感じないことは多くなりましたよね。
高久 そんなときにこの「Big Step」を聴いてブチ上がってしまったんですよ(笑)。東北、関東、九州のカッコいいラッパーたちがみんなカッコいいラップをしていて、おそらくほとんどの人はこれを聴いて「偽物」とは思いませんよね。そういう時代的な側面と、つながり的な面が見えて個人的にすごく好きで、かつ一番盛り上がったのが僕が挙げたYvngboi Pのラインでした。個人的には去年出た中では一番インパクトがあった曲ですね。あとこれは超個人的な体験なんですが、去年HARLEMの近くのローソンの前で、2人組のギャルがYvngboi Pのヴァースをアカペラで楽しそうに歌っていて。
全員 ヤバー(笑)。
高久 ライブがあったのかわからないんですけど、お酒を片手に口ずさんでいたのを目撃したことも、このラインを選んだ理由として大きかったですね。
YAMADA 話は少し戻りますが、私も高久さんと同じように、新曲を聴くことにちょっと疲れた時期があったんです。そんなときに友人が「『SONG WARS』が面白かったよ」と教えてくれたので、軽い気持ちで観てみたら、出ているアーティストたちのクオリティの高さに驚きました(参照:誰の曲が“DOPE”か?注目のヒップホップアーティストが競い合う「SONG WARS」開催)。「え、日本語ラップの若手って今こんなレベルなのか!?」と感動して。私は今年で38歳なんですけど、だんだん若い世代の感覚がわからなくなってきていて。でも日本語ラップは好きだし、なんとか聴いてきたんです。そんな中で、
jellyy「Most Hated」ミュージックビデオ
──番組でjellyyの「Most Hated」に出会ったんですか?
YAMADA いえ、番組で披露していたのは「Guap / Ballout」でしたね。その曲が大好きになり、ディグっていく中で「Most Hated」にたどり着きました。このような剥き出しの感情は若い世代にしか出せないと思ったんです。私自身は若い人と接する機会がどんどん減っているので、こういった曲から今の社会の空気を理解する入り口になった感覚があって、このラインを選びました。
渡辺 ポーザーくんに質問なんですけど、配信は若者たちの居場所になっている感じなんですか?
ポーザー だと思いますね。「SONG WARS」を配信しているdominguap(参照:アングララッパーの新たな登竜門、山梨在住のストリーマーdominguapが仕掛けるTwitch企画「MOB SONG WARS」の舞台裏)が言っていましたが、視聴者はかなり若い子が多いようです。主にアングラと呼ばれる超若い子を取り上げているから、自然と視聴者もそういう世代が多くなるようで。「RAPSTAR 2025」のサイファーに出ていたh1rukaは、もともとdominguapの配信の視聴者だったんですよ。dominguapの「1時間で曲を作ろう」という企画にh1rukaが曲を送ってきたり。「RAPSTAR」のサイファーでもdominguapのTシャツを着ていたのがアツかったです(笑)。
渡辺 ネットネイティブの子たちが自分らでコミュニティを作って、その中で自分の生きがいを見つけられるのって素晴らしいと同時にすごく合理的に感じます。
メンタルヘルスは外からではわからない
ポーザー ちょっと話が前後しますが、Lunv Loyalからの東北つながりで、VCE NAVA(ヴァイスナーヴァ)の「flame」から「親2人飯も食えてるけど満たないハート / 自殺した友達だって貧乏じゃなかったっしょ」というラインの話をしたいです。
YAMADA 私もこのラインすごく好きです。
VCE NAVA「flame」
ポーザー VCE NAVAは青森の人で、去年会いに行ってきたんですね。街を案内してもらったんですが、中心地から住宅地の距離がすごく短くて。青森市であったイベントをリハから観させてもらったんですが、そこで地元の若手ラッパーに話を聞くと、やはり小さい世界で回っている感じというか。悪い言い方をすると地方都市的な閉塞感があって。
高久 わかります。それってLunv Loyalがラップしてきた東北の寒さや、ちょっと暗い雰囲気、閉塞感のある土地、というイメージとも重なるなあと思いました。
渡辺 ポーザーくんはなぜこのラインを選んだんですか?
ポーザー 「貧乏ではなかったけど自殺してしまった」という部分に、今の日本の闇があると思ったからです。痛みと言いますか。そういうことを言う若いラッパーがあまりいないんですよ。年末に出たSieroの「THE GOAT TAPE 4」がまさにそういう作品だったんですが、パンチラインとして1行だけ抜くのが難しくて選べない。
渡辺 同感です。私もどこかのタイミングでSieroについて話そうと思っていました。
ポーザー 僕自身、父の同級生に家族ぐるみで仲よくしていた方がいたんです。奥様もお子さんもいて、いわゆる普通の家庭だと思っていたんですが、その方は自死されてしまって。メンタルヘルスは外からではわからない。だからこそ、VCE NAVAがSieroのように曲で言及していたことにハッとさせられて、このラインを選びました。
<後編に続く>
- 宮崎敬太
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1977年神奈川生まれのインタビュアー / ライター。K-POPや日本語ラップを中心にオールジャンルで執筆している。
Dina @Koralan111
@natalie_mu Skippaほんま異次元すぎる