辻コースケ

これのドラムを聞け!5秒だけでもいい Vol. 18 [バックナンバー]

辻コースケの“永遠のテーマ”を体現する曲は

「聴いているすべてのものに生命を吹き込むようなプレイ」

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楽曲のリズムやノリを作り出すうえでの屋台骨として非常に重要なドラムだけど、ひと叩きで楽曲の世界観に引き込むイントロや、サビ前にアクセントを付けるフィルインも聴きどころの1つ。そこで、この連載ではドラマーとして活躍するミュージシャンに、「この部分のドラムをぜひ聴いてほしい!」と思う曲を教えてもらいます。第18回は、パーカッショニストの辻コースケさんが登場。ライブでは大地を揺るがすようにジャンベを打ち鳴らす辻さんが「聴いているすべてのものに生命を吹き込むようなプレイ」と絶賛する曲とドラマーは?

構成 / 丸澤嘉明

ドラムフレーズが好きな曲とその理由

Rainbow「Difficult to Cure / 治療不可」(ドラム:ボビー・ロンディネリ)

10代のとき、1つ上の先輩がバイク事故で死んだ。
とてもショックだった。
ショックすぎてレコード店に駆け込んだ。
“この気持ちを晴らしてくれる音楽”を求めて。
「治療不可」
完全にジャケ買い。タイトル買いである。
アルバムのタイトル曲でもある「Difficult to Cure / 治療不可」はベートーベンの第九(交響曲第9番)をロックアレンジしたインスト曲だった。
ひと言でダイナミック!
曲のコンセプトがダイナミックならボビー・ロンディネリのドラミングはイントロからエンディングまでずっとダイナミック!
フィルイン、フレーズの1つひとつがダサい! ダイナミック!
ダサい大技を大胆に連発するダイナミック!
大まじめに。ひたすらまっすぐ伸びやかに。押し寄せるダイナミックビート!
ダサいはカッコいい!
めちゃくちゃカッコいい!
ダサいは楽しい!
めちゃくちゃ楽しい!
次のフレーズが楽しみでずっと聴いてしまう。
何度も繰り返し聴き続けた。
多感な少年時代、どうなってしまってもおかしくない状況をポジティブな方向に吹っ飛ばしてくれたボビー・ロンディネリのロックドラム。
そんなプレイヤーにわたしもなりたい。

Rainbow「Difficult to Cure / 治療不可」

リチャードマークス「One Man」(ドラム:ジェフ・ポーカロ)

ジェフ・ポーカロの“間”が僕は一番好きです。
曲の中の“間”をどのようにコントロールし、グルーヴしていくか……
永遠のテーマであり、その思考がドラマーの個性を形成しているのだと思います。
この曲はフレーズ、アクセント、タイム感において
“ザ・ジェフポーカロ”を存分に感じることができます。
1.2.3.4.……
2拍目、4拍目のスネアの圧倒的な強さと包容力。歌と楽曲全体を引き立たせるグルーヴとノリの大きさはリリースから30年経った今でも飽きることがありません。
1992年に急逝したジェフ・ポーカロに捧げる曲として収録された「One Man」。
皆の心に生き続ける数々の伝説を築き上げたその男を讃える歌。
ジェフ・ポーカロ本人が演奏しているところがまた……伝説の物語を感じざるを得ません。

リチャードマークス「One Man」

ミック・ジャガー「Throwaway」(ドラム:サイモン・フィリップス)

8ビートの気持ちよさといったらコレです。
その疾走感はいったいどうしたら出せるのだろうかと高速道路に乗るたびよく思い出す。
東京ドームのこけら落としとして行われた公演でも1曲目を飾ったこの曲。
その公演の模様は当時民放テレビで放送され、録画したビデオテープを100万回観ましたが、今はYouTubeで観ることができます。
レコーディングのギターはジェフ・ベック。
ジェフ・ベックとサイモン・フィリップスと言えば、ジェフ・ベックの1980年リリースのアルバム「There and Back」で超絶エグい演奏を聴くことができますが。
まずイントロからジェフ・ベックがいきなりカッコいい!
そのギターにピタリと並んで疾走するビートと絶妙なフィルイン!
ミック・ジャガーの圧倒的な個性とも相まって、強くて爽快なロックサウンドを生み出しています。
ちなみに僕が初めて手に入れたフットペダルは当時のサイモン・フィリップスモデル、TAMAのツインペダルでした。
今現在、立って演奏してるし、素手だし。。
あれは無意味だったのかといえばそんなことはない。
一見、無駄なこと。無意味に感じることこそ大事だと思うのです。
きっとジャンベのフレーズに生かされている……のかも。。

ミック・ジャガー「Throwaway」

Metallica「Battery」(ドラム:ラーズ・ウルリッヒ)

高校生の頃、Metallicaの曲は難易度が高いにもかかわらずコピーに挑戦するバンドがたくさんいた。
でもたいがい歌詞の中にちょいちょい出てくる「バッテリー!」がなければなんの曲を演奏しているのかわからないのでした。
ラーズのドラミングは速い、強いだけではない。
メロディラインならぬドラムラインというべきリズムのストーリーを作り上げる天才。
イントロから歌の展開、サビ、エンディングまでが高度に構築されたリズムのストーリーになっている。
ワイルドかつ知性とプライドを感じさせるMetallicaの楽曲。
やってみたくなるんだよね。
できないんだけどさ。

Metallica「Battery」

Led Zeppelin「天国への階段」(ドラム:ジョン・ボーナム)

まずは4分黙って聴いてください。
4分経過したあたりでおそらくスナッピーのスイッチがオンになり、ザァーという音が入ってきます。
まるで生命が息づき始めたかのように。
その数十秒後、ボンゾ(ジョン・ボーナム)の登場!
今回の選曲が、なぜスタジオ盤の「LED ZEPPELIN Ⅳ」ではなくBBCライブの音源かと言うと、この臨場感が大好きなのと、僕が初めて聴いた洋楽がツェッペリンで、それもライブ盤だったから。
とにかくライブのボンゾのドラムが衝撃です。
仲間に、楽曲に、聴いているすべてのものに生命を吹き込むようなプレイ。
永遠のテーマです。

自分が演奏の際、意識していることに通じてきますが、
自然現象のようになれたらいいな。
乾いた大地には雨を降らせ、寒気には熱を。
生命に風を吹きかけるような響きを。
いつも目指しています。
今日はアイツの音を聴いて、なんか得したなと思われたらありがたいよね!
聴きにきてくれい!
よろしくね。

Led Zeppelin「天国への階段」

自身でドラムフレーズをプレイする際に意識していること

自分のフレーズへのこだわりは……
これがパッと浮かんでこないのです。
以前はあったかもしれませんが忘れてるくらいなのでそもそもたいしたこだわりはなかったのだと思います。
ただ、歌モノの曲を演奏していて自然に浮かんでくるのはジェフ・ポーカロのフレーズが多いです。誰も気付いてはくれませんが。

自身のプレイスタイルに影響を与えたドラマーや最近気になるドラマー

パーカッショニストとなり、特にソロ演奏をするようになってからは、打楽器以外のフレーズに注目するようになりました。
連続してループできる=ずっと聴いていられるフレーズ。
そして“間”の使い方です。
ループフレーズで影響を受けているのはAC/DCのサイドギター、マルコム・ヤング。
GONTITIのゴンザレス三上さん、チチ松村さんは違う種の“間”の達人同士。それぞれのフレーズが独立していて、合わさったゴンチチワールドは異次元です。
あとは立川志の輔さん、立川談春さんなど噺家さんや中川家さん、サンドウィッチマンさんの漫才にも“間”とフレーズ、声のトーンやアクセントの使い方で影響を……自分はしゃべるわけではないのですけど。。

注目しているドラマーはAsoundのManawくんと中村達也さん。
Manawくんのフレーズとタイム感、ずっと聴いてたいです。
中村達也さんはバンドでもセッションでも1人でもやるというスタイルにとてもシンパシーを感じていますし、カッコいいから好きです。

辻コースケ

1973年生まれ。1995年にアフリカ・ケニアに渡り、パーカッションと出会う。4度のケニア修行を経て2004年にソロパーカッショニストとしての活動を開始し、現在まで8枚の作品を発表。GOMA&The Jungle Rhythm Section、CaSSETTE CON-LOS、Orquesta Nudge! Nudge!、POINTER BROTHERSのメンバーとしても活動するほか、大友良英、勝井祐二(ROVO)、Caravan、曽我部恵一、照井利幸、堂珍嘉邦、仲井戸"CHABO"麗市、渡辺俊美などさまざまな音楽家と共演している。近年では2024年3月にリリースされた清春のアルバム「ETERNAL」に参加。現在清春の全国ツアーに帯同している。
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記事初出時、本文に誤字がありました。お詫びして訂正します。

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