小沢健二 featuring スチャダラパー「今夜はブギー・バック (nice vocal)」、スチャダラパー featuring 小沢健二「今夜はブギー・バック (smooth rap)」。

小沢健二とスチャダラパー「今夜はブギー・バック」の30年を語る

記念ライブに向けてコラボ新曲も制作中

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1994年3月9日にリリースされ今年で30周年を迎える「今夜はブギー・バック」。小沢健二スチャダラパーによるこの曲はシンガーとラッパーのコラボによる日本初のヒット曲として知られるほか、発表以来さまざまなアーティストにカバーされるなど、30年を経た今も色褪せることない名曲として多くのリスナーに愛され続けている。

そしてこのたび30周年を記念して4月26日に東京・NHKホールにて小沢健二とスチャダラパーのツーマンライブの開催が決定。さらに2組のコラボによる新曲が制作中であることも明らかになった。

音楽ナタリーではこれを受けて小沢健二とスチャダラパーにインタビューを行い、名曲誕生の知られざる裏側を語ってもらった。なお取材は小沢も以前住んでいた都内のマンション=通称「ブギーバックマンション」にあるスチャダラパーのプライベートスタジオにて行われた。

取材・/ 大山卓也

「ブギー・バック」は「踊り返して」

小沢健二 今「ブギー・バック」30周年に向けていろいろやってるんだけど、こないだこの4人で話してるときに「ブギー・バック」の意味が案外伝わってないことがわかったんですよ。ANIも「そういえばどういう意味だっけ?」とか言ってて(笑)。

Bose 小沢くんも当時うちらに説明したことないでしょ。「ブギー・バック」って歌詞が出てきたのも制作のホントに最後のほうだったし。

小沢 「ブギー」は「踊る」って意味だから「ブギー・バック」は「踊り返す」。「今夜は(踊って誘うから)踊り返して」っていう。そんな話をぼーちゃん(Bose)とこないだ電話でしてたら、「おどりかえして」の7文字から和歌を連想して、その場で百人一首の札を作ってみた。そしたらぼーちゃんが上にキャップを描いてきて(笑)。ANIとSHINCOに見せたら笑ってくれたので今回の告知ビジュアルはこれ。ほかの3人の札もあるんだよ。

「今夜はブギー・バック」30周年イメージビジュアル

「今夜はブギー・バック」30周年イメージビジュアル

小沢 そもそも「ブギー・バック」の歌の部分はバカっぽいディスコの曲名がどんどん出てくる内容なんだけど、それもイマイチ理解されてないみたいで。「Ultimate Breaks & Beats」にも入ってるロイ・エアーズの「The Boogie Back」って曲があって、その言葉がパワーがあるからタイトルになっただけで、要は“ディスコソングあるある”というか、ああいう曲って「ジューシー・フルーツ」とか「プッシー・キャット」とか言ってすぐエロい方向に持っていくよね、みたいな話だから。

Bose 小沢くん自身、最初笑っちゃって歌えなかったもんね。「くだらねー(笑)」とか言って。それくらい変な歌詞って感じだった。

小沢 本気で言ってるわけじゃないってことが意外と伝わってなくて驚くんだよね。「ブギー・バックは今聴くと女性観が古臭い」とか思うかもしれないけど、70年代のディスコの曲のタイトルばかりだから、むしろ90年代の自分らこそ当時「うわー古臭い! わら!」って思いながらやってたわけで。

Bose 「94年はそんな感じだったんですね」なんて言われるけども。

ANI そんなわけない(笑)。

小沢 でも本当にそんなことがあったと思ってる人もいるんだよ。俺らがブーツでドアをドカッと蹴ってピザを食ってるもんだと思ってる。

Bose そのあと「てな具合に行きたいっスね」「なんてね」と言ってるわけで、実際に蹴ってはいないからね(笑)。マッチョなラップの歌詞の世界をパロディにして“あるある”でラップしてるだけ。

SHINCO 当時観てたラップ映画(「Krush Groove」)の字幕の翻訳の面白さというか、「I'm Fresh」が「俺は新鮮だ」とか「Fat Boys」が「デブボーイズ」になってたりする、そういうのを面白がってた。

Bose 「ゲップでみんなにセイハロー」ってやってたりしてね!(やってないけど)っていうのがオモロかったわけでね。

「今夜はブギー・バック」ジャケット裏面

「今夜はブギー・バック」ジャケット裏面

“こんな曲”ってどんな曲なんだ?

小沢 93年にクアトロ(渋谷CLUB QUATTRO)で俺とスチャダラが対バンしたときにドラム(青木達之)、ベース(井上富雄)、ピアノ(中西康晴)にSHINCOが入った形でやってみたのがいい感じで、だから「ブギー・バック」も最初はArrested Developmentみたいな曲をイメージしてたよね。

小沢健二とスチャダラパーが競演したイベント「SEVENDAYS VOL.5」のフライヤー。(提供:トーマス・アレックス)

小沢健二とスチャダラパーが競演したイベント「SEVENDAYS VOL.5」のフライヤー。(提供:トーマス・アレックス)

Bose そう、最初はもっとオーガニックというかアーシーな感じで、うちらの「彼方からの手紙」っぽい曲を一緒にやるイメージだった。

小沢 それで最初はジョージ・ベンソンの「Breezin'」みたいにおしゃれなギターを入れてちょっとメロウな感じでって考えてたんだけどなんか合わなくて、そしたらスチャダラからラップの歌詞がFAXで送られてきた。そのあとすぐ3人はレコーディングでロンドンに行っちゃうんだけど。

Bose 締め切りもあるしラップは先に書いちゃおうってことで歌の部分を空けて書いたのよ。それが「心のベスト10 第一位はこんな曲だった」から歌のパートにつながるムチャぶりの構造になってて。

小沢 「じゃあ“こんな曲”ってどんな曲なんだ?」って考えてたら、あのコード進行とメロディができた。

Bose 小沢くんが打ち込みのデモを作ってきたんだよね。ビートはあったんだっけ?

小沢 なかった。でもとりあえず「Impeach The President」(The Honey Drippers)のリズムで作っておけばあとはどうにかなると思ってて、結果SHINCOが別のビートを持ってきてあのうねる感じが生まれたから、やっぱあんま計算してやるもんでもないんだなってのは思ったよね。

(と言いながら小沢、持参したMacbookで当時のデモ音源を再生する)

ANI え、あるの?

SHINCO 小沢くん物持ちいいよねー。

Bose あ、これはちょっと遅いね。

小沢 BPM90だからね。これにSHINCOがビート入れてテンポがちょっと速くなる。

Bose ラララで歌ってるけどこの時点でメロディは完全にできてるのね。

ANI MTRで作ってたんだっけ?

小沢 うん、4トラックのテープMTRで。

Bose このバージョンもいいじゃん。ギターは入ってないんだ?

小沢 これ鍵盤で作っててギターは後付けなんだよね。いつもはギターで作るけどこれはベースから作ってる。ピアノとかはそのあとスタジオに入って中西さんとか呼んでいろいろ弾いてもらって。

ANI そこで録った素材をみんなで「ここ使おう」とか話しながら組み立てていった。

小沢 ソニーのPCM-3348っていう何千万円もする機材にサンプラーの機能が付いてて、あれでピアノとかループさせるとすごくいい音になる。そうやってサンプリングしたのを2小節パターンでループ組んでいって、その作り方が「Eclectic」につながっていくのよ。

最初の歌詞は「天使たちのシーン」みたいな感じ

SHINCO 歌詞はだいぶ紆余曲折があったよね。最初の歌詞は全然違ってたでしょ。

小沢 「こんな曲だった」のあとに切ない感じの歌が入るといいのかなと思って書いてたんだけどね。

Bose 確かにラップと歌は別モノでいいわけだからそういう世界もあったかもしれない。最初の歌詞は小沢くんの1stアルバムっぽい雰囲気だったよね。

小沢 「天使たちのシーン」みたいな感じだった。でもやっぱりラップの雰囲気と合わなくて、じゃあこっちもバカっぽくしようと思って書いたのがあの“ディスコあるある”の歌詞。結局自分1人が満足すればいいわけじゃないから、やっぱりスチャダラに笑ってもらいたいし4人で楽しくやりたくて、それでこのマンションの自分の部屋にMtumeの「Juicy Fruit」とかそういうディスコのレコードをいっぱい並べて、そのタイトルをつなげて歌詞を書くみたいなことをやったのよ。Cerroneの「Rocket in the Pocket」って曲から「誰だってロケットがロックする」とかさ。そしたらすごくいいのができた。その感じはスチャダラに引き出してもらった部分かな。普通にやるとああいうバカっぽいのにはなんないから。

Bose うちらも無責任にラップ書いて、あとは小沢くんがなんとかしてくれるだろうと思ってたしね。

小沢 こっちもそう。インピーチのリズムでBPM90ってめちゃくちゃ普通だけどスチャダラに投げればどうにかしてくれるだろって。

Bose あのときに発見したよね、人とやるときは無責任に投げればいい(笑)。

小沢 最後のほうの歌詞とか笑うためにあるからね。ひどすぎて歌えない(笑)。でもそれがそのときの感じだったのよ。

ANI 「よくなくなくなく」とかもそういう感じ。あの頃なんか流行ってたっていうかみんな普通に言ってた気がする。

Bose 完全に覚えてるけど、うちの弟の彼女が「あれよくなくない?」って口癖みたいに言ってたの。うちら界隈それをよく真似してたんだよね。

「今夜はブギー・バック」のプロモーション用フライヤー。(提供:トーマス・アレックス)

「今夜はブギー・バック」のプロモーション用フライヤー。(提供:トーマス・アレックス)

そんなキラキラした世界じゃない

小沢 俺の中ではやっぱり92年って年が大きかったのよ。なんにもやってなくて、とにかく時間があった頃。

Bose なんせずっと遊んでたよね。川辺ヒロシ(TOKYO No.1 SOUL SET)と小沢くんと青山のMIX(クラブ)あたりにずっといた。

小沢 その頃に酔っ払ったSHINCOが「あとから振り返って『92年はすごかった』ってことになんのかね?」って言ってたのをすごく覚えてて、そういう時間をパッケージした曲がちゃんと形になって結実したのがよかった。この曲はホントに嘘がなくて、嘘だらけだから嘘がないというか、実際ブーツでドア蹴ってるわけじゃないのに、ちゃんと自分たちの歌になってるし。

Bose そんなキラキラした世界じゃないのよ。汚い実家でラップ書いてるんだから(笑)。でも聴いた人はそういうのわかんないもんね。

小沢 ディスコの曲名のつぎはぎで歌詞書いてるとも思わない。

Bose そもそもテクニックとかもないから自分たちに何ができるかも見えてなくて、この曲に関しては運とか偶然とかがめっちゃ作用してると思う。だいたいうちらの仲のよさがないとできなかった曲だし。だからほかの人がこれ歌ってるの聴いたとき最初は変な感じだった。「オレスチャアニ」とか「BOSE MY MAN」みたいなフレーズもあるのにねって。

ANI カラオケで歌われると思って作ってないからね。

Bose でもヒップホップってそういうもんだから。とはいえ、これがヒップホップかっていうとさ、そういうのに照れたりする部分も曲の中にちゃんと入ってるわけで。

「LIFE」はドラムがデカすぎる

Bose 最初に冗談半分で言ってたのは「ザ・ベストテン」のスポットライトのコーナーに出てくるような曲、1回だけ出て次の週には消えていく変な曲みたいのをなんとなくイメージしてた。自分たちが好きな曲ってそれこそNice & Smoothとかもそうだけど、どこかヘタウマ感があって、そういうのがカッコいいと思ってたからね。

小沢 Nice & Smoothの「Cake & Eat It Too」みたいな、ああいう感じをやりたかった。

Bose うん、あれも「ブギー・バック」も全然真ん中じゃないでしょ。音の感じにしてもキックがすごいデカかったりして完全にズレてるんだけど、でも「ブギー・バック」は聴いてたみんなの勝手な解釈があの変な曲を真ん中に寄せていってくれた感じがある。

小沢 「LIFE」も真ん中を作ろうとは思ってなかったのに今聴くと普通に聴けちゃうみたいな、そういうのがうれしいんだよね。

SHINCO 「LIFE」はドラムがデカすぎるからね(笑)。世の中で流行ってるほかの曲と並べたときの違和感がすごい。

小沢 それは俺の私生活を知ってればわかるじゃん。そういうのばっか聴いてるんだからそうなるよって。マスタリングのとき「こんなに低音鳴らしてもラジオでは聞こえないよ」と言われて、そこを頑固に「それでいいんです」って。

Bose うちらの曲もそうだよ。コンビニとかテレビとかでかかるともうカスカスでなんにも聞こえない。

小沢 それで全然いいの(笑)。そうやって「ブギー・バック」を作ったことで「LIFE」につながる勢いをもらった気がする。あの頃「爆音でかかり続けてるよヒット曲」(「ドアをノックするのは誰だ?」)っていう歌詞は自分の曲のことだと思いながら書いてたし。

Bose そういえば当時「ラブリー」のクラップ(手拍子)録りに行ったね、朝4時とかに。今からスタジオ来れるの川辺ヒロシとスチャダラしかいないって。

小沢 いろいろ手伝ってもらったよね。「ブギー・バック」と「ラブリー」は同時に作業してたからどっちも振り切れた曲になってる。あとスチャダラは友達としては知っててもアーティストとしての顔は普段見れないじゃん。「ブギー・バック」を一緒に作りながら、それを近くで見れたのすごくよかったな。3人ともギラッとする瞬間があるから。

ANI まあそれは真面目にやってたからね(笑)。

小沢 そうやって「ブギー・バック」が盛り上がってる中で「LIFE」を作れたのも気持ちよかった。「LIFE」は出す前からすごく自信があって、発売後えらいことになるのはわかってたからリリース前に2週間休みをとってヨーロッパに逃げてたくらい。それで「LIFE」以降は実際このマンションに知らない人がどんどん来るようになっちゃって、部屋に帰れなくなって新宿のパークハイアットにずっと泊まってるとか、今思えばすさんだ生活に(笑)。

ANI そういえば「ブギー・バック」作ったあとくらいだよ、うちら(ANIとSHINCO)親に実家出てけって言われたの。

SHINCO うん、その前から部屋は探してたんだけど全然見つからなくて。

小沢 そのとき俺が「上の部屋が空いてるよ」って教えて。

SHINCO じゃあとりあえずここ住むかって。

小沢 それで「ブギー・バック」のリリース前にANIとSHINCOが引っ越してきて、P'PARCOにもここから行ったしね。「LIFE」の曲は全部このマンションで書いてて「LIFE」の中ジャケにも当時の部屋が写ってるし「愛し愛されて生きるのさ」のビデオは屋上で撮ってる。だから今日もこの部屋に入ってきて、この床を30年見てるんだなって変な気持ちになったもん(笑)。

1994年、池袋にオープンしたP'PARCOのキャンペーンポスター。(提供:トーマス・アレックス)

1994年、池袋にオープンしたP'PARCOのキャンペーンポスター。(提供:トーマス・アレックス)

もっとぐしゃぐしゃに混ぜてやりたい

Bose スチャダラのライブでも「ブギー・バック」はやるけど、小沢くんと一緒にやってる回数なんて超少なくて、なんなら小沢くんより多く歌ってる人いるよね。ハナレグミ永積崇)とかよっちゃん(中納良恵 / EGO-WRAPPIN')とか。

小沢 俺の場合はお客さんがみんなラップ覚えて歌ってくれるから余裕(笑)。ギター弾いてればいい。

Bose それね、お客さんがみんなでラップパートを歌うっていうのはさすがに想像を超えてた。向こうのライブとかだとRun-D.M.C.の曲をみんなが歌ってるとかあるけどさ。

ANI Chicの「Good Times」の途中で「Rapper's Delight」になって客みんな歌うみたいなやつだ。

小沢 それで今回「ブギー・バック」30周年のタイミングでちょうど「NHKホール使えるよ」って言われたから、今一緒にやったらすごくいいだろうなと思って。それで実際取りかかってみたらライブでやる新曲の作業もすごく楽しいし。

Bose まだできてないけどね(笑)。でも新曲はお互いまたムチャぶりしながら面白がってやれてる。今の小沢くんと一緒にやるとき、それこそ「流動体について」みたいな曲にうちらがラップ入れるみたいなこともできるわけじゃん? でもそれとは全然違うものになってて。

SHINCO お互いに普段やんないことをやってるよね。

ANI 「ロッキー」における「クリード」みたいな?

Bose 「バットマン」に対する「ジョーカー」みたいな、そんくらいの曲。そんで今は4月のNHKホールをどうやってやるかを考えてるところ。

小沢 順番に出てきて対バン形式っていうのじゃなくて、もっとぐしゃぐしゃに混ぜてやりたいよね。めちゃくちゃ面白いことになりそうじゃない?

Bose せっかくだから混ざってんのがいい。グッズとかも一緒に作るし、変なことやりたい。

小沢 全席に巨大なおしゃれTシャツが付いてくるのは決まってるから。横幅は広いけど丈が短くて着やすいやつ。

Bose スーツ着てるおじさんも上から着れるし、女の子が着てもかわいいんだよね。

ANI オモロいよね。30年続けてきたおかげでこんなこともできるって。

Bose 30年残るつもりで作ってなかったなあ。

ANI やっぱりみんなが育ててくれたなってのは思うよね(笑)。

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津田大介 @tsuda

すごく面白かった。 https://t.co/HJhrZ567Oy

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