左からガチャピン、ムック、Pちゃん。(c)ガチャムク (c)KITADA TETSUYA/GM

「ポンキッキーズ」がもたらした音楽への“目覚め” (後編) [バックナンバー]

番組スタッフが明かす「ポンキッキーズ」制作の裏側

大切なのは“子供を子供扱いしないこと”

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「ポンキッキーズ」を象徴するあのフレーズ

「P-kiesメロディ」で使用された楽曲は数多あるが、「『ポンキッキーズ』の曲と言えば?」という質問に最も多く挙がるのは、斉藤和義の「歩いて帰ろう」ではないだろうか。今でこそ斉藤は言わずと知れた大人気ミュージシャンだが、当時はまだデビュー2年目の新人。彼もまたブレイク前に「ポンキッキーズ」に見出されたアーティストのうちの1人だ。

「レコード会社から届いた大量の音源の中に斉藤和義さんの曲があったんですけど、それがすごくよくて。『このアーティストいいね』という話になり、後日レコード会社の方に頼んで、小畑が斉藤和義さんと話して番組向けに作ってもらったのが『歩いて帰ろう』です。『朝の番組なのに“帰ろう”でいいのか』という話もあったけど(笑)、聴いていて気持ちいいからいいんじゃない?ということでオープニングに決まりました。斉藤和義さんはデビューしたての頃だったので、当時はまだ世間にあまり知られてなかったと思います」

斉藤和義「歩いて帰ろう」

電気グルーヴの曲が子供番組で流れていたというのも、今考えるとなかなかすごいことですよね。彼らがやっていた音楽は、当時からかなりインパクトがありましたから。『ポポ』はもともと、曲の内容に寄せた映像を作っていたんですけど、寄せすぎてかなりサイケになってしまって。映像的にはすごくカッコよかったけど、さすがにこれを朝から見せるのはまずいんじゃないかという意見が挙がり、SLが走っている映像を使用することになりました。あと、鹿賀丈史さんの『Ja-nay』は、実は鹿賀さんが小畑と同級生だという縁から決まった曲なんです。当時鹿賀さんはフジの『料理の鉄人』でMCをしていたので、その流れもあって出てもらうことになりました」

電気グルーヴ「ポポ」

そして「ポンキッキーズ」を代表する楽曲といえば、やはりなんと言っても「パーパラパッパパラッ パーパッパパッパパラ」から始まるオープニングソング「Welcome to Ponkickies」だろう。この曲は、小畑氏が原曲となるスチャダラパー「GET UP AND DANCE」を聴いて「この印象的なフレーズは子どもたちにも刺さるはず」と感じたことから、オープニングソングとしての使用が決まったという。「多くの人にとって“『ポンキッキーズ』=あのフレーズ”になっている」とまで語る山田氏は、子供番組と音楽の関係性についてこう述べる。

「子供の頃に聴いた曲とかフレーズって本当に残り続けるんですよね。そういう、聴いた人の中にいつまでも残り続ける曲を発信しないといけないなというのはずっと思っていました。それができるのがメディアの力だと思いますし。子供番組に『曲を作ってほしい』と言われて嫌がる人って、実はあまりいないんですよ。アーティストの方も『売れたい』とかそういう気持ちとは別に、『自分の楽曲が次の世代に残ってほしい』という思いを持っているはずで。子供たちに自分の曲を聴いてもらえること、それ自体が財産になりますからね」

「ポンキッキーズ」とほかの子供番組の大きな違い

「ひらけ!ポンキッキ」から「ポンキッキーズ」へリニューアルするにあたって、ほぼすべてのコンテンツを一新しながらも、中には受け継がれたものもあった。その1つが番組で流れるThe Beatlesの音楽だ。

「小畑がすごいのは『ポンキッキ』をリニューアルすると決まったときに、それまでの20年分の映像をすべて観たんですよ。それで『これはいい』と思うものは残して、『ポンキッキーズ』にも受け継いだ。『ポンキッキ』は、スポットと呼ばれる1分以内の短い映像が特徴的で。ストップモーションアニメーションとか紙芝居とかいろんな種類の映像があったんですけど、アクセントとして海外の楽曲を使用していたんです。そこで最も多く使われていたのがThe Beatles。それを受け継いで『ポンキッキーズ』でもThe Beatlesの曲を使用するようになりました。いのっち(井ノ原快彦)がMCをしていた時代や、BSに移動してからもずっと使ってましたね」

またもう1つ、「ひらけ!ポンキッキ」から「ポンキッキーズ」に受け継がれたものとして、子供番組としての特徴的な作り方があるという。そしてその作り方こそが、ほかの子供番組と「ポンキッキーズ」の大きな違いだと山田氏は語ってくれた。

「NHKさんの『おかあさんといっしょ』や『ピンポンパン』と違って、『ポンキッキーズ』には子供が出てこないんですよ。一般的な子供番組は、スタジオに大勢の子供がいて、視聴者はその子供たちと同じ目線で番組を観る。でも『ポンキッキーズ』はBoseさんやピエール瀧さん、ガチャピンやムックがいるだけで、子供はいない。彼らはあくまでテレビの向こう側にいる子供たちに語りかけるようにしているんです。この番組の作り方は『ポンキッキ』から一貫してますね。あと『ポンキッキーズ』は基本的に『お母さんお父さんと一緒に観てください』と言っていました。『番組を子守に使わないでください』と。スタッフの間でも『お母さんお父さんと会話しながら観てもらえるような番組を作らないといけないよね』という話をしていたし、そのためにも、親御さんにも好きになってもらえるような曲を流さないといけないと思っていた。子供の頃に親が車でどんな曲を聴いていたかって、自分の趣味にも影響を与えたりするじゃないですか。親がどんなものを好きかは子供にとってすごく大きいし、自分が好きなものを親も好きだと子供はうれしかったりする。そういう、親子で共有できるものを、『ポンキッキーズ』という番組を通じて発信していきたかったんです」

「P-kiesメロディ」の楽曲を収録したオムニバスアルバム「ポンキッキーズ・メロディ」のジャケット。「参加者の中で所属アーティストが最も多いから」という理由でEPICレコードジャパンからリリースされた。

「P-kiesメロディ」の楽曲を収録したオムニバスアルバム「ポンキッキーズ・メロディ」のジャケット。「参加者の中で所属アーティストが最も多いから」という理由でEPICレコードジャパンからリリースされた。

今、子供番組が果たすべき役割は……

小畑氏が「多種多様な価値観を持ってほしい」という思いとともに「ポンキッキーズ」を立ち上げてから30年。今では多くのアーティストが「ポンキッキーズ」からの影響や当時番組を視聴していたことを公言している。STUTS、PUNPEE、Awich、常田大希(King Gnu、millennium parade、PERIMETRON)、岡崎体育、Avec Avec、Seiho 、DJみそしるとMCごはん、NegiccoのMeguと同グループのプロデューサー・connie、清浦夏実(TWEEDEES)、福富優樹(Homecomings)、原田晃行(Hi,how are you?)、ササノマリイ、メイリン(ZOMBIE-CHANG)、テンテンコ……思いつくまま挙げてみても、ジャンルや活動しているシーンは見事にバラバラだ。音楽を愛するスタッフによる実直な姿勢が、多くの子供たちにポップミュージックへの“目覚め”をもたらし、そこで蒔かれた種がさまざまな形で実を結んだということだろう。しかし、当の小畑氏本人は「音楽を好きになる子供たちが増えてほしい」という期待は持ちつつも、それが音楽業界にまで影響を与えるとは思っていなかったとのことだ。一方の山田氏は「当時観ていた子供たちに何を残せたかはわからないけど」と謙遜しながら、「ポンキッキーズ」という番組がもたらした影響について感慨をにじませる。

「いろんなタイプの曲を流していたので、それが誰かの何かのきっかけの1つにはなったんじゃないかなと思います。あるインタビューで、『ポンキッキーズ』で流れていた『パレード』を聴いて山下達郎さんの音楽に目覚めました、と言っている方がいて。そういうのを見ると『よかったな』という気持ちになりますね。そしてそれは、小畑が当時選んだものがズレていなかったということだと思います。時代の先を行きすぎていてもダメで、大事なのは“その時代に合ったいいものをどう発信していくか”。その見極めが、メディアに力があるときにできていたということなのかもしれないですね」

「メディアに力があるときにできていた」。裏を返せば、メディアの持つ影響力は30年前と比べて弱体化していると受け取ることもできるはず。そんな時代に、子供番組はどのような形で存続していくべきなのか。そして、かつての「ポンキッキーズ」的な役割を果たしているコンテンツはあるのだろうか。我々の問いに小畑氏は「『ポンキッキーズ』とは違いますが、Eテレでいくつか素敵な番組があります。現在は、少子化の議論を踏まえ子供に対する意識は高まっていますが、依然としてテレビ番組ではその状況は変わらないように思えます」と率直な答えを返してくれた。また、現在もガチャピン・ムックに関するプロジェクトに携わっている山田氏は、今子供番組が果たすべき役割や自身が思い描く理想をこう語る。

「少子化の今、子供たちとどう接するか。家族に向けてどう働きかけるか。みんなが『子供を作って育てたい』と思える社会をどうやって作っていくか。そのことは真剣に考えないといけないし、そのためにも親子で楽しめるものを発信していく必要がある。そういう点において、Eテレさんの番組だったり、テレビ東京さんの『シナぷしゅ』だったり、すごいと思う番組はちゃんとあります。音楽の使い方など『ポンキッキーズ』をオマージュしていただいているなと感じることもありますし、中には『ポンキッキーズ』のスタッフだった人が関わっている番組もあったりして。番組が終わっても、そういう形で“『ポンキッキーズ』イズム”が受け継がれているのはうれしいですね。理想は『ポンキッキーズ』を観て育ったミュージシャンたちによる番組ができること。『ひらけ!ポンキッキ』から『ポンキッキーズ』へ。そして新たな子供たちへ。そんなふうにバトンを渡していけるのが一番の理想です」

30年前、「ひらけ!ポンキッキ」が持っていたバトンは下の世代に確かに受け渡された。それは前編でのBoseの「子供の頃『ひらけ!ポンキッキ』がすごく好きだった」という言葉にも表れているはずだ。そして今は「ポンキッキーズ」から影響を受けたアーティストが、それぞれの場所で活躍し、また新たな影響を与え続けている。かつて「ポンキッキーズ」が蒔いた種は、これからも芽吹き続けていくのだろう。

左からガチャピン、ムック。(c)ガチャムク

左からガチャピン、ムック。(c)ガチャムク

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