倍賞千恵子が“富士山より美しい山”に登る、山田洋次は木村拓哉に「君は柴又にいたのか」

映画「TOKYOタクシー」のアジアン・プレミアが第38回東京国際映画祭内で開催。本日10月29日に東京・ヒューリックホールで行われた舞台挨拶にキャストの倍賞千恵子、木村拓哉、監督の山田洋次が登壇した。

フランス映画「パリタクシー」をリメイクした本作は、タクシー運転手の宇佐美浩二が、85歳の高野すみれを乗せたことから始まるヒューマンドラマ。東京・柴又から神奈川・葉山へと向かいながらすみれの思い出の地を巡るうち、彼女の壮絶な過去が明らかになっていく。倍賞がすみれ、木村が浩二を演じた。

同映画祭においてオープニング作品・クロージング作品と並び、映画祭の中盤を盛り上げるセンターピース作品に選ばれた本作。木村は「ここは、映画祭の中で1番大きな会場。800名以上の方にこの映画を受け取っていただけたことに興奮しています」と笑みをこぼし、「今はご家庭でもスイッチ1つでいろんなコンテンツを選べる時代。でも映画館という特別な環境に身を置いて、スクリーンで作品を観ていただけるというのは、僕にとってスペシャルで一番うれしいこと。今はそのうれしさと同時に、いろんな国の方がどんな価値観でどんな恋愛観でこの映画を観てくださったのか興味が湧いています」と伝えた。

山田も「映画は劇場のスクリーンで、映画を愛する人と観るのがいいなと改めて感じています。撮影するときもスクリーンで観てもらうものだと、自分にいつも言い聞かせてきました。こんな大きな劇場で観てもらうことは滅多にない。うれしいです」と喜ぶ。倍賞は「たくさんの方に観ていただけてうれしいですし、山田作品に出演できてうれしい。今後ともよろしくお願いします」と山田に笑顔を向け、「みんなで1つの山を登ったと思っているんです。『TOKYOタクシー』は形はない山。でも、富士山より美しい山に登ることができた。私にとって忘れられない作品になりました」と思い入れたっぷりに口にした。

イベント中には、本映画祭で特別功労賞を授与された山田にトロフィーが贈られる場面も。山田は「長生きしたので、長い間、映画を撮ってきてしまいました。そのことで、このような賞をいただけた。戸惑いながらもそのように思っています」と話し、「70年近く前、助監督として映画界に入ったときは、日本映画の黄金時代だったと思います。まだテレビも普及していなかったので、映画は娯楽の王座にあった。その頃の映画界は豊かでゆとりがあったと思います。今は厳しい時代で映画人もとても苦労しながら撮っている。ときどきかわいそうだと思うこともあります。こういった時代だからこそ、作品を鑑賞し、映画をたたえる映画祭が催されることに感謝しています」と述べた。そんな山田に花束を渡しつつ、倍賞は「山田さんの熱い思いが伝わってきました。いつも『いくよ、本番いくよ、いくからね』って言いつつ、なかなか本番にいかないんですが（笑）。これからも映画を撮ってください」とメッセージを送る。

木村は、幼少期に「男はつらいよ」シリーズの舞台でもある柴又に住んでいたことがあったそう。「映画の撮影で人だかりができているのを、何やってんのこれ？って見ていた1人だったんです。それを監督に言ったら、『そうなのか、君はいたのか』という言葉をいただきました（笑）」と明かし、「監督が『パリタクシー』をご覧になって、東京版を作りたいと思ってこの作品がスタートしたと聞いて。監督は常にいろんなことに愛情があって、興味や欲をお持ちだからこそ現役なんだなと思ったんです。そして、それが今回の特別功労賞にもつながっているんだろうなって。こういう先輩がいるとやる気が出ます！ この映画を受け取ってくださった皆さんも、生きていく力、現役でいられる力を持っていただけるんじゃないかと思います」と伝えた。

「TOKYOタクシー」は11月21日より全国でロードショー。