第34回東京国際映画祭のトークシリーズ「アジア交流ラウンジ」が本日10月31日に東京・東京ミッドタウン日比谷で行われ、女優の
アジアを含む世界各国・地域を代表する映画人と第一線で活躍する日本の映画人が語り合う同企画。第1回では同映画祭コンペティション部門の審査委員長として来日しているユペールと「ドライブ・マイ・カー」で第74回カンヌ国際映画祭の脚本賞など4冠を獲得した濱口のトークが実現した。
フランスでも公開された「
「ハッピーアワー」は濱口が神戸の即興演技ワークショップで見出したほぼ演技経験のない女性4人を主役に据えた5時間17分の長編。ユペールはノンプロという事実に関して「本当なんでしょうか?」と改めて確認しつつ「プロの俳優にとっては悲しいことでもありますが、本当に素晴らしい。プロはもう辞めてしまわなければならない。彼女たちは自分が女優という意識がないから、一種のイノセンスを持っていられる。プロは演技のクセが付いてしまう。演技におけるイノセンス、それはプロがいつも取り戻したいと夢見るものです。そのイノセンスこそ彼女たちが素晴らしい証拠」と続けた。
ユペールは「ハッピーアワー」において1人の女性が常に目線が下に向いていたことに触れ「濱口監督の映画では俳優たちが考えていることがはっきりと表に出てきます。視線が下を向いているからこそ、彼女が考えている何かに意識が向いてしまう。彼女の思想の動きを感じるのです」と指摘。スクリーンにおいて登場人物が考えていることを画として示すことの重要性を説き「これを最初に私に言ったのはジャン=リュック・ゴダールでした。彼が『スクリーンにおいて彼女が考えていることがわかる』と言ったのです。残念ながら、私のことではありませんでしたけど。そして俳優が考えるだけでは不十分。それを監督がスクリーンで示す、見えるようにしなければならない。これが監督の仕事だと思います」と続けた。
映画制作において「俳優は常に不安の中にいる。それを取り除く準備を絶えずしている」という濱口は、ユペールに「カメラの前に立つときの不安。そのときの精神状態」について質問。ユペールは「私はカメラの前に立つことを怖いと思ったことは一度もありません。演技をしなければならないこと、それは私にとって熱くも冷たくないし怖くもない。あえて言えば、どうでもよいのです。私自身は何も考えないでいいわけですから。役をやることの喜びだけを考えていればいい」と回答する。
濱口が「カメラの位置が俳優に与える影響」を尋ねた場面では、ユペールは「カメラの位置によって監督は俳優に話しかけている。俳優はカメラの位置に対して多大な感受性を持っています。カメラが遠ければ体の動きを、近ければ視線を捉えている。カメラの位置が演技指導になっている。監督の選択、すなわち映画言語が正しければ自ずと決まります。このシーンでどのように演技をすればいいのか?と疑問に思うことはあります。大半の場合、カメラの位置を見ればどう演技をしなければならないかわかります」と語った。
ほかにも映画に対する信頼の問題や濱口と演劇との関わり、ユペールが「これまで出演した映画の中でもっとも情熱を掻き立てられた経験」と語るホン・サンスとの思い出などの話題も展開。最後に視聴者からは「ユペールさんは濱口監督の映画に出演される予定はありますか?」という質問も。濱口は「そんなことは2人に任せておいてください」とお茶を濁し、ユペールは「人前で結婚することはしたくないです」とほほえんでトークは幕を閉じた。
濱口が監督を務めた短編集「偶然と想像」は12月17日より東京のBunkamuraル・シネマほか全国で公開。ユペールが市政に悩む市長役で主演を務めた最新作「約束」は、11月11日開幕のフランス映画祭2021 横浜で上映される。なお第34回東京国際映画祭は11月8日まで開催中だ。
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