本作は、茶道教室に通い続けた約25年の日々をつづった森下典子のエッセイ「日日是好日―『お茶』が教えてくれた15のしあわせ―」を映画化したもの。黒木演じる主人公の大学生・典子が茶道を通して生きる喜びに触れ、成長していくさまを描く。茶道の師となる“武田先生”に
クランクインから2週間ほど経った12月上旬、撮影は神奈川・横浜市内にて行われた。この日の舞台となる武田先生の茶道教室は、民家が並ぶ路地に立つ木造の空き家を改築したロケセットで、玄関先には「表千家」と書かれた札が掛けられている。「エルネスト」「追憶」など数々の映画を手がけた原田満生が美術を担当しており、1階の壁をぶち抜いて茶室を増築し、もともと庭だった部分には路地を作った本格的なもの。家を囲む塀や向かいの民家、電柱も新たに作り、汚しをかけて使い込まれたように完成させた。さらに、春夏秋冬をそれぞれ6つに分けた“二十四節気”を繊細に表現するため、美術を細かく変化させている。茶庭の草花、茶道具や茶菓子、掛け軸などをシーンに合わせ、季節ごとに総入れ替えするこだわりぶりだ。
この日撮影されたのは、柄杓を握り込んだ典子の手を見た武田先生が注意をする場面。着物姿の黒木は歩き出す前に「右足からでしたっけ?」と注意深く確認する。カメラが回り、黒木が樹木の前に座ると静謐な空間に緊張感が漂った。武田先生が「あなた、前から思ってたけど、やけにごつく見えるのよ。もう少し、優しく持てない? 10年以上も稽古してるんだから、そろそろ工夫というものをしなさい」と冷静ながらも厳しいセリフを放つ。武田先生が茶室を出ると、1人になった典子が自分の手をじっと見つめる姿がカメラにアップで捉えられる。カットがかかると樹木は「もうちょっときつく言う?」と監督やスタッフに確認していた。
アドバイザーとして毎日撮影現場に来て、茶道や演者の身のこなしを細かく指導している森下は、撮影前から樹木の稽古を担当。森下は樹木の点前について「あっという間に上達されて驚きました。自分が習っている先生に雰囲気が似てらっしゃる」と語る。そして撮影を目の当たりにした感動を「文章で書いたものが立ち上がっていくのを見せていただくのはなかなかない経験」と伝えた。
黒木は茶道を習った感想を「森下さんのように長く続けて、あそこまで行くには時間がかかるなと思います。ちょっとだけでも触れられて面白かったです」、樹木は「形はらしくはできるけど、真髄は長くやってみなければ得られないだろうと思いましたね。時間をかけなければわからない日本独特のもの」とそれぞれコメント。役者の仕事と茶道に共通する点を記者に尋ねられた樹木は「役者の基本である、力まないで自然に気持ちで受け止めるところと共通する部分はあるわね」と話し、黒木は「自分の気持ちが出てしまうところが似てますね。シンプルだからこそ、できなくなったり迷ったりするところも似ている」と思いを述べた。
樹木は初共演の黒木を「優れた役者だなと思います。感じるものは表情だとか声や姿に出てくる。いい役者さんが増えるのはいいもの」と称賛。黒木は「恐縮です。本当にうれしいですね」と感激し、「そんなに2人でしゃべるシーンはないんですが、空気と一緒にぐわっとあふれてくるものがあります。楽しくしてくださいますし、一緒にできて光栄です。カッコいい女優さんだなって思いますね」と樹木との共演を喜んだ。
樹木は黒木に「脱ぐシーンでもあるのかと思って楽しみにしてたらないじゃない! 着替えるところとかないの? 過激なシーンがないから大森ファンからは苦情がくるんじゃないかしら」とお茶目にツッコミを入れつつ、「いい脚本になってるなと思った。(劇中で描かれる)典子の年齢は人によっては踏み惑う時期でもあるから、こういう作品があるといいわね」と語る。そして、「風や空気、日差しと茶室の佇まいを見てほしい。美術ががんばってる。プロデューサーが涙を流すほどセットにお金をかけたそうなんです」と続けた。黒木は「お茶をやっている時間は豊かな時間だと思うので、映画を観に来てくれる人の2時間がそういうものになったらいいなと思います。登場人物の誰かしらに共感できると思うし、いろんな観方ができると思います」とアピールした。
「日日是好日」は、2018年に全国ロードショーを予定している。
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