是枝裕和＆阿部寛「海よりもまだ深く」イベントでダメ息子ぶり反省

母の日である本日5月8日、「海よりもまだ深く」のトークイベント付き試写会が東京・スペースFS汐留で行われ、是枝裕和、阿部寛、樹木希林、ハナレグミこと永積崇が登壇した。

樹木は登場するなり、「さっき来るときタクシーで脇を通ったんだけど、階段に何人も何人も待ってるの。ご苦労様ねえ。もとが取れなかったらごめんなさいね」と謝罪し観客を笑わせた。是枝は「母の日のイベントということで……僕は母親が亡くなって10年くらい経つんですけど、ほとんど母の日に何か贈ったとか記憶がございません。その代わり、自分の映画で母親役をやっていただいた希林さんとここに立ち、自分の母が暮らした団地で撮った映画を上映するというのは何かの罪滅ぼしになってるのかなという気がして特別な日になりそうです」と口にした。

劇中で母親の脛をかじっているダメ男を演じる阿部は、「やってるうちに自分の中でいろんなものが芽生えてきまして。自分のダメなところを思い出しながら演じさせていただきました」と述べる。樹木は撮影現場の雰囲気について言及し「いつも是枝監督の現場はいいんですよ。誰もとがってなくて、私1人がとがってる（笑）」と自虐交じりにコメントした。

是枝が幼少期から20代後半まで暮らしていた団地で撮影したこの映画。彼は本作が第69回カンヌ国際映画祭に出品されることに触れ、「僕が母親と一緒に歩いた遊歩道を希林さんが阿部さんと一緒に歩いているのを見て、タイムマシンで自分の人生の一部に立ち会っているような気がして。自伝ではないんですけど、非常に特別な映画になったなと思います。これを観た外国の方がどう感じるのか楽しみにしています」と真摯に語った。

話はハナレグミが歌う「深呼吸」にも及び、是枝は「レコーディングに一度立ち会わせてもらったんですが、まだ歌詞ができていない状態でメロディを永積さんがハミングしてるだけだったんですけど、それだけで感動しちゃって。この歌で（映画が）終われるのかってうれしくなったんですよね」と微笑む。しかし希林は「私は感動はわかりませんでしたねえ。こういうのが監督は好きなんだなって思いました」とばっさり。すると阿部が即座に「僕は感動しました！ 僕の役を救ってくれるような温かい曲だったので感動しました」とフォローを入れ観客を笑わせた。

団地という狭い空間を舞台にした映画ということで、出演者たちの物理的な距離も近い状態だったという本作。阿部は「至近距離で長いシーンがあったりして。一緒にやっててあったかい気持ちになれましたし、この距離で樹木さんと演技ができてうれしかったです」と感慨深そうに語る。しかし当の樹木は「私は圧迫感がありましたね。だって空気がないところに、こんな息子が来るんだもの！」と長身の阿部にツッコミを入れ、「でも本当に偉かったわよー。団地の小さな風呂にぎゅーっと入ってね」と独特の視点で阿部を褒め、再び観客の笑いを誘った。

また司会者が是枝、阿部、永積の3人に「映画の主人公のように自分がダメ息子だと思った瞬間は？」と質問すると、阿部は「母に贈り物したことがなくて……。劇中での良多もそうですけど、少し冷たく接してしまったこともありました」と回答。永積は「お金を借りたままで返してなくて。帰るたびに『あんたお金返しなさいよ』と言われます」と苦笑いしながら反省する。是枝が「映画の中で息子が母親にお小遣いをあげるシーンが出てくるんですが、そういうシーンを書いている理由が、僕一度だけ母親にお小遣いをあげたことがあって。そしたらすごい喜んで。もっと早くあげればよかったなと思いました」と口にすると、樹木が横から「いくら？」と質問。それに対し是枝が小声で「3万円」と答えると、樹木は一瞬間を置いて「ほお。ちょうどいい」と返していた。

トークの終盤では男性陣が樹木に巨大なカーネーションの花束を贈る演出も。樹木は「こんなお花買うお金があるんだったら、もっと何かあるでしょうに」と憎まれ口を叩きながらも「ありがとうございます」とうれしそうに受け取った。しかし「こんな大きいの1人で持ってどうすればいいの？」とぼやき始め、いきなり客席に阿部とともに降り観客にカーネーションを配り始める。樹木らしい予測不可能な行動に会場はまたも笑いで包まれた。

最後の挨拶で是枝は「出てくるシーンすべてが皆さんの人生の中にもある、何気ない平凡なシーンだと思いますが、それがこういう役者さんが演じることですごくかけがえのないものだと思えるような映画になったのではないかと思います」と述べた。なお映画の上映後は、是枝と永積によるトークセッションが行われたほか、永積が映画の主題歌「深呼吸」を弾き語り、観客を魅了した。

「海よりもまだ深く」は、5月21日より東京・丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー。