唐田えりか

俳優デビュー10周年記念インタビュー 第3回 [バックナンバー]

唐田えりかインタビュー |「人のために本気で生きてみよう」自分の心と向き合った役者が再び羽ばたくまで

濱口竜介との出会い、「もうクビにしてください」と伝えた休業期間、人生を懸けて臨んだ「極悪女王」

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2015年にオープンし、今年で10周年を迎えた映画ナタリー。アニバーサリーイヤーを記念して、デビュー10周年を迎える俳優たちにデビューから現在までについての話を聞く連載をスタートした。

松本穂香、石橋静河に続く第3回では、唐田えりかにインタビューを実施。尊敬する濱口竜介との出会い、「もうクビにしてください」と伝えた休業期間、人生を懸けて臨んだNetflixシリーズ「極悪女王」など、波乱の10年を振り返ってもらった。

取材 / 奥富敏晴 構成 / 小澤康平 撮影 / 湯本浩貴 スタイリング / 道端亜未 ヘアメイク / 中山友恵

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「榮倉さんが所属している事務所じゃないとダメだ」謎のプライドがあった学生時代

──俳優デビュー10周年おめでとうございます。まずはデビューのきっかけを教えてください。

高校生のとき、地元である千葉のマザー牧場でアルバイトをしていたんですが、家族で来ていた今の事務所(フラーム)のマネージャーさんにスカウトしていただきました。

デビュー当時の唐田えりか

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──もともと俳優業に興味があったんですか?

姉が2人いて、いろんなファッション誌が周りにある環境で育ってきたのと、小学生のときからお年玉で安いカメラを買って写真を撮るのが好きだったので、漠然とモデルになりたいと思っていました。東京でスカウトしていただいたこともあったんですが、雑誌Seventeenの専属モデルだった榮倉奈々さんに憧れていて、「榮倉さんが所属している事務所じゃないとダメだ」という謎のプライドを持っていたんです(笑)。でも落ちたときのことを考えると怖くて、自分で事務所に応募することもできずにいました。そんなときにフラームのマネージャーさんに声を掛けていただいて、ビビッと来たと言いますか、直感でここかもしれないと。所属してすぐにお芝居のワークショップに参加するようになり、最初はモデルになるためにはお芝居のレッスンも必要なんだなと思っていたんですが、半年くらい経ってふと事務所の先輩方を見渡したとき、役者しかいないことに気付きました。

──(笑)。最初は俳優志望ではなかったんですね。

はい。演技が向いていると思ったことはなかったので、最初のうちは正直お芝居に対して後ろ向きでした。セリフや役を自分の中に落とし込む方法も全然わからなかったです。

──しかしその後、たくさんの映画・ドラマに出演することになります。そんな唐田さんの10年を振り返るにあたって、事前に“10年間の10大トピック”を選んでいただきました。

唐田えりかが選んだ10年間の10大トピック

唐田えりかが選んだ10年間の10大トピック [高画質で見る]

──1つ目はback numberの「ハッピーエンド」ミュージックビデオへの出演です。

オーディションを受けて出演させていただいたのは19歳のときだったと思います。私の世代はみんなback numberさんの曲を聴いていて、憧れのバンドでもありましたし、自分のことを知っていただく大きな機会になりました。そこから10年近く経ちますが、今でもこのミュージックビデオが好きだと言ってくださる方は多いです。

──僕は今回初めて観たんですが、透明感がすごいですね。

10代ならではの雰囲気ですよね。今はもうこの感じは出せないです(笑)。

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濱口さんに出会っていなかったら、100%俳優を辞めていた

──2つ目には韓国での活動開始、4つ目には韓国ドラマ「アスダル年代記」への出演を選んでいただきました。これらはあわせて伺いたいので、先に3つ目のトピックである映画「寝ても覚めても」について聞かせてください。

もともと役者志望ではないですし、その頃は気持ち的にいっぱいいっぱいで、「寝ても覚めても」のオーディション2日前に電話で母に「仕事を辞めたいと思ってる」と伝えていました。オーディションはお芝居をするよりもおしゃべりをする時間のほうが長くて、濱口(竜介)監督に「お芝居は楽しいですか?」と聞かれても「楽しくないです」と言っちゃうような精神状態でした。でもおしゃべりを続けていくうちに、濱口さんが誠実に私と向き合ってくれていることが伝わってきて、自分が考えていることを全部見透かされているような感覚にもなったんです。オーディション後には「この監督の作品に出たい」と思っていました。

唐田えりか

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──どんなことを話したんですか?

普段何をしてるか、どんなことに興味があるかといった普通の世間話です。

──でもその濱口さんとの会話で、唐田さんの中の何かが変わった。

そうですね。出演が決まってからも役作りやお芝居の仕方がわからなかったんですが、濱口さんは「一緒に役を作っていきましょう」と言って、どうやったら自然に感情が出てくるか、役を作るうえで何が必要なのかを細かく教えてくれました。それからはセリフが完全にセリフじゃなくなるという瞬間があって。

──どういうことでしょう?

台本を全部読んでいるのに、自分が言葉を発したあとに物語がどうなっていくかがわからなくて、役が完全に自分ごとになるような感覚があったんです。そこで初めてお芝居というものに触れることができた気がして、「できないからやめたい」というマイナスな感情が「できないから知りたい」という気持ちに変化しました。

──意識が180度変わったんですね。

濱口さんに出会っていなかったら、100%俳優を辞めていたと思います。私のすべてを変えてくれた存在です。

──濱口監督は、俳優が感情を一切入れずにセリフを読み合う“本読み”の時間を設けることで知られています。実際に体験してみていかがでしたか?

「ドライブ・マイ・カー」の劇中にはそういうシーンが出てきますよね。「寝ても覚めても」のときはワンシーンに1時間掛けることもあったし、半日以上ひたすら棒読みをする日もありました。本読みを繰り返したあと、実際の撮影では感情を乗せてセリフを言うんですが、自分1人で発したときは意味を成さなかった言葉が、相手に届けることで意味を持つことを実感しました。なぜそういう感覚になったのかは自分でも理解しきれてはいないんですが。そこからは別の現場に行っても1人でお芝居をしないということを心がけていますし、相手に何を届けられているだろうと考えるようになりました。セリフもすべて棒読みで覚えるようにしています。

──すべての作品でですか?

そうですね。覚えるときに抑揚を付けてしまうと、そのパターンでしかセリフを言えなくなってしまう気がしていて、どんな状況にも対応できるように柔軟でいたいと思っています。

大好きだったキム・ウォンソク監督作に出演

──それでは韓国の話に移っていきたいと思います。2017年に韓国の芸能事務所・BHエンターテインメントと契約されましたが、きっかけはなんだったんでしょうか?

小学生のときからBIGBANGが好きで、K-POPをずっと聴いてきました。映画やドラマも含め韓国のエンタメが大好きなんですけど、2016年にそういう話を事務所の社長にしたら、日本ではフラームに所属しているハン・ヒョジュさんが韓国で「W-君と僕の世界-」というドラマを撮影してるから見に行ってみようと言ってくださって。そのときが初めての韓国で、旅行気分で楽しんでいたんですが、ヒョジュさんが所属しているBHエンターテインメントの方と挨拶する機会がありました。そこからインスタなどをチェックしていただくようになり、1年後にスカウトしていただきました。

──そして2019年のドラマ「アスダル年代記」に出演することになるんですね。

「アスダル年代記」の監督であるキム・ウォンソクさんはドラマ「ミセン-未生-」「シグナル」「マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~」を手がけてきた方で、昔から大好きだったので本当にうれしかったです。ドラマ「太陽の末裔 Love Under The Sun」が好きなのでソン・ジュンギさんとご一緒できることにもワクワクして。それまで演じてきた役柄とは異なる、部族の長という強い女性役にチャレンジできたことはいい経験でした。

唐田えりか

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自分と向き合ってくれる人がいたから、今生きていられる

──その後、2020年初頭から約1年半、俳優活動を休業します。

あの期間、会社の人以外とは誰とも会っていなくて、2年くらい携帯も持っていませんでした。ノートに「正」の字を書いていて、それを見て「あの日から何日経ったな」と今日が何月何日なのかを把握していました。

──すごいですね。

家族とは会社の電話を使って話していましたが、姉から「最近コロナっていうウイルスが流行っているから気を付けて」と教えてもらいました。

──社会と切り離された環境で生活していたんですね。どのように過ごしていたんでしょうか。

最初の半年間は一歩も外に出ず、映画やドラマは一切観ないで本だけを読んで過ごしていました。事務所の社長から1週間に1冊小説を渡してもらって、読み終わったらその本がどういうメッセージ性を持っているのかをペンで書き出していきました。自分なりに登場人物の相関図を作ったり、映画化されたら誰が演じるのかを考えたりもしてましたね。

──どういう経緯で始めたんですか?

会社の掃除や事務作業など自分にもできることをお手伝いしながら、社長から課題を与えてもらっていた感じです。役者以前に1人の人間として成長できるよう、社長は毎日私と向き合ってくれて、あのとき1人ぼっちだったら絶対にこのお仕事を続けてこられなかったです。あの時間があったから今お芝居ができているし、生きていられるとも感じます。

──読んだ本について自分なりにまとめていた経験は、演じることに役立っていますか?

脚本を読んだときに大事なポイントをつかめるようになりました。そこに向かっていくためにはどういう感情が必要なのかも整理できるようになりましたね。

──俳優を続けるという道筋はどのように見えていったんでしょうか。

役者を辞めたい、辞めようと思ったことは何度もありました。でも事務所の人たちがこんなにも親身になって支えてくれているのに、もしここで逃げたら、たぶん私は一生逃げ続ける人間になると思ったんです。「もうクビにしてください」と泣きながら社長に伝えたこともありましたが、社長は「クビにする選択肢はありません」とはっきり言ってくれて、ここまで誠実に自分と向き合ってくれる人が目の前にいるんだから、がんばってみようって。それまでは自分本位の人生だったんですが、人のために本気で生きてみようと思わない限り、何も変えられないと強く思いました。家族に対しても迷惑を掛けてしまったんですが、私が辞めたら、きっとさらに生きづらい人生を背負わせてしまう。それを払拭するためにもがんばらないといけないという気持ちでした。

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人生を懸けて臨んだ「極悪女王」

読者の反応

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Jmerije @Jmerije

@eiga_natalie 唐田えりかさん、10周年おめでとうございます!
休業中に「クビにしてください」って言っちゃう正直さ、なんか可愛くて笑いました
これからも人生懸けの演技、楽しみにしてます!

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