ヒット作はこうして生まれた! Vol. 12 [バックナンバー]
「赤い糸 輪廻のひみつ」配給・葉山友美&小島あつ子が語る異例のロングラン上映の舞台裏、“今の台湾映画”への思い
上映を終わらせたくない一心で歩んだ約2年を振り返る
2025年11月15日 12:15 18
小咪(シャオミー)は長澤まさみさんにやってもらおう!(葉山)
──そこからもトークショーなどいろいろと施策を展開されていますね。
葉山 トリウッドの支配人の方が「君たちがトークしてみたら?」と提案して下さったんです。どこに需要あるんですか?と思ったんですが、自分たちだったらギャラも必要ないしなと(笑)。
小島 お客さんが来てくれるなら、いくらでもやります!という感じだったよね。
葉山 2人でいろいろとぶっちゃけ話をしたりしましたが、その後
小島 2024年の夏から上映館がガクッと減っていたんです。映画って公開して半年ぐらいが限界なんだなと思いました。我々がそこから先できることはなかった。
葉山 劇場に売り込んでも、「もう半年も前に東京で公開されてるんでしょ? 今からはちょっと……」という反応でしたね。
小島 もともと最初のファーストランのときにもいろんな劇場に声は掛けていたんです。でも「台湾映画はお客さんが入らないから」と、門前払いだった。
葉山 結局、アジア映画や台湾映画、ギデンズ・コー監督の作品に思い入れがある映画館のみの展開だったんです。「ギデンズ・コー監督の新作なら上映したい」と言ってくれる劇場さんのおかげで、半年間上映できました。
小島 「あの頃、君を追いかけた」を上映していた劇場にも当たっていったんですが、あの作品ですら地方ではあまり入っていなかったようで……。薄々わかってはいたんですが、台湾映画ってあまり認知されていなくて、上映するのが難しいんだなと思いました。
葉山 「赤い糸」は大ヒット作で、台湾の大作なのに、それでもダメなのか……とあきらめモードになりました。でも映画パーソナリティの伊藤さとりさんが「面白かった」と発信してくださったり、お客さんも「最高なのにもう観れないんだ……」って残念がってくれて、やっぱり終わらせたくないと思ったんです。だから当時は血迷って、もうこれは吹替版を作るしかない!って。
小島 ある日突然、「今から怖いこと言うんだけど。吹替版を作らない?」って言われて(笑)。
葉山 「小咪(シャオミー)は長澤まさみさんにやってもらおう! そしたらお客さん来るはず!」なんてね。
小島 ただそこはさすがに私がストップを掛けてしまったんです。吹替版の制作期間と上映権利切れの時間を考えるとペイできないと思った。
葉山 私が長澤まさみさんがいいって言ってるしね(笑)。
一同 (笑)
葉山 ただやっぱり「赤い糸」は絶対日の目を見るべき映画だし、なんとかしたい。台湾にゆかりのあるスターに吹替してもらって、舞台挨拶にも登壇してもらって、全国にアピールするしかない!と最後の手として、もうそれしか思い浮かばなかった。
小島 確かに、「赤い糸」の少年マンガ要素とか、ファンタジー要素を考えると、アニメ好きにアピールするというのは1つの正攻法ではあったと思うんです。ただいかんせん時間がなかった。
葉山 実際お金もないしね……。
小島 すでに新作ではないから、スターの稼働がないとなかなか劇場も決まらないと思います。
葉山 吹替案も消えて、これで終わるんだなと。復活させる案が浮かばないまま年を越すことになりました。
小島 ただその頃にドリパス(※)が動き出したんです。東京での上映が終わってしまって、観る術がない中で、もう1回観たいと思ったお客さんが声を上げてくれた。
※編集部注:ドリパスは、リクエストの多い映画を映画館で上映できるオンデマンドサービス
葉山 年末だったこともあって「2024年のベスト映画」に挙げてくれる人がいっぱいいたことも追い風になりました。ドリパスで900位くらいだったところから突然30位くらいに上がって。そこから「公式も投票しています!」ってお客さんに呼びかけるようになりました。そんなことをしながら、東京の名画座にも営業をかけたんですが、上映する機会には恵まれなかった。だからカフェを借りて上映会をしようという案も出ていました。
小島 実際にそういう企画で声は掛けていただいていたんだよね。
葉山 そうしたら、ある日、「赤い糸」をずっと推してくれている映画評論家のくれい響さんから「池袋の新文芸坐が上映してくれそうだよ」という電話が掛かってきたんです。くれいさんから電話が掛かってくることも初めてだったのでびっくりしたんですが、「この映画が大好きだから、支配人に話していたんだ。ドリパスが盛り上がっているのも後押しになって、上映してくれそうだよ」って。もちろん名画座は当たっていたんですが、新文芸坐はキャパが大きすぎて無理だろうと思い、営業には行っていなかったんです。
小島 だからお話をいただいても、席が埋まるのか不安だったんです。まったく入らなかったら私たちもつらいし、劇場さんもつらい。何より怖かったのは、「赤い糸」はこんなにすごい作品なのに、日本で上映するのは難しかったと証明されてしまうことでした。そうなればこれから先、台湾映画は今まで以上に日本で配給が付かなくなってしまう。私たちも買えなくなるし、ここが限界なのかというのを知ることになったらと、不安だったんです。
葉山 2025年3月の時点で東京では半年以上ぶりの上映だったし、お客さんがどういうテンションで待っていてくれているのかもわからなかったんです。だから一か八かみたいな感じでした。
小島 でもふたを開けてみたら、チケットはすぐに完売だったんです。
葉山 まじか!?って思ったよね。
──そこでこの作品は来る!という手応えをはっきり感じたんでしょうか?
葉山 この作品いけるかも?と2023年の冬に思いましたが、我々の力不足で、映画のポテンシャルを生かせないまま1年強という時間が過ぎてしまった。でもようやく、あのタイミングで皆さんの口コミの力が弾けて、実を結んだんだと思います。配信もソフト化の予定もない作品なので、どうにか劇場で観るしかないと、お客さんも盛り上がってくれた。新文芸坐が完売したから、各地で上映しましょうかという流れにもつながっていきました。その頃には、私たちもお客さんの前でトークすることに、躊躇しなくなっていたんです。劇場に営業をかけるときに、「1人でもお客さんが来てくれるなら私たちが行きます!」とアピールしたら「来てくれるんだったら上映しましょう」と言ってくれる劇場さんもあった。
小島 ファーストランで上映してくれた京阪神の劇場がもう一度上映したいと言ってくれたほかに、新たに上映してくれる劇場さんもあった。「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」が日本でヒットしていたことも追い風になったと思います。
葉山 「赤い糸」を観ている人が、「トワウォ」のエモさと通じるものがあると、SNSで薦めてくれたんです。「トワウォ」のファンの方が「赤い糸」も観てくれました。
小島 「トワウォ」だけでなく、インド映画のファンにも刺さってくれたと思います。物語の中で描かれる輪廻転生だったり、ジャンルミックスという部分との親和性が高かった。
葉山 今年の春から、今まで、ずっと途切れることなく上映できているのは本当にお客さんの口コミのおかげなんです。ただ、きっかけ待ちではあったと思います。最初から「赤い糸」は皆さんに愛される力があったのに、かわいそうな思いをさせてしまったんです。
小島 私たちでは、魅力を十分に引き出すことができなかったんですよね。
葉山 多くの劇場に上映してもらう配給力というのが大事だと痛感しています。ファーストランから多くの方に観てもらうことができれば、そこからもっと速く、作品の魅力が広がっていたと思います。
──この作品の一ファンとしては、お二人が配給されたからこそという部分も非常に大きいのではないかと感じています。どんな人が配給しているのか顔が見えて、お二人の作品への強い思いに触れることができたことで、より「赤い糸」を応援したいなという気持ちが増していったように思います。
葉山 “顔の見える配給”ではありますよね(笑)。ひたすらSNSをがんばったり、積極的に登壇したり、必死だったんですが、そこに響いてくれた方がいたのなら本当によかったと思いますね。
小島 でも難しいところで、あくまでも作品は作品としてあるべきで、私たちの色を付けてはいけないと思っているんです。黒子に徹することができるのであれば、そうするべき。ただ何より「赤い糸」に興味を持ってもらいたくて。もし私たちの話を聞きたい人がいるのであれば、登壇しようとやってきました。
葉山 「赤い糸 輪廻のひみつ」は観たあと、誰かと気持ちを共有したくなる映画だと思います。我々がこの映画のファンとして、率先してお客さんと気持ちを共有することで、作品が盛り上がればいいなと。「赤い糸」、ギデンズ・コー監督、そして台湾映画がこれで少しでも盛り上がればうれしいです。
小島 監督にも日本での状況は報告していて、ロングランを喜んでくれています。こうやって盛り上がれば絶対に次の作品へとつながっていく。台湾映画の魅力が、今まで広まらなかったのは、日本に作品が入ってきても、作品同士がつながっていかなかったからだと思います。ある監督の新作が日本で上映されて、そこで興味を持っても、過去作が日本では権利切れで観られないということも多い。その人の作家性を知っていくことができないんです。
葉山 「あの頃、君を追いかけた」ですら、今は日本で観られない。台湾映画ファンの1人として、そういう状況を変えていきたいと思っています。もっと日本で台湾映画が観られるような環境を作っていきたい。ギデンズ・コー監督の新作が2月に台湾で公開されるんですが、この流れの中で、日本でもドーンと公開されてほしいです。
──しかもすぐに日本に来てほしいですよね。
小島 そうなんです! 時間を開けずに来てほしい。
葉山 結局我々の目標というのは、とにかく台湾映画を盛り上げて、1本でも多く台湾映画が日本で公開される状況を作ることです。「赤い糸」を公開させたことで、少しでもその土壌作りができているといいのですが……。
小島 実際、「赤い糸」を観て
葉山 それがすごくうれしいんだよね。「赤い糸」を観て、ワン・ジンを知った人が「鬼才の道」も観て、そこから今度は「返校 言葉が消えた日」を振り返るという流れもできている。お客さんが、台湾映画には面白いものがたくさんあるんだと知ってくれれば、日本の配給会社だって買おうと手を上げてくれるかもしれない。
小島 我々の観たいものが、しっかり入ってくるという状況を作っていきたいですね。
──11月末で上映が終わってしまうのは本当に寂しいですが、また劇場に足を運びたいと思います。
葉山 ラストスパートで、“怒涛の上映ラッシュ”が始まっているので、私たちも最後までできることはやろうと思っています。「赤い糸」を私たちが配給することになったのはミラクル。この作品を愛して下さった方々の気持ちだけでここまでやってこれました。私たちはお礼を言うだけです。
バックナンバー
関連記事
伊藤さとり(映画評論家・映画パーソナリティ) @SATORIITO
ここまで長くお付き合いとなった映画はないんじゃないかな。私はただただこの映画が好きで、配給をする葉山さんと小島さんが好きで、出来る限りの応援をしていたけれど、二人は恩返しみたいにインタビューに名前まで出してくれ。『#赤い糸輪廻のひみつ』は映画の魅力と人の魅力で繋がる熱き作品です。 https://t.co/x54FOODZzV