台湾映画「赤い糸 輪廻のひみつ」ポスタービジュアル(冥界ファンタジーver.)

ヒット作はこうして生まれた! Vol. 12 [バックナンバー]

「赤い糸 輪廻のひみつ」配給・葉山友美&小島あつ子が語る異例のロングラン上映の舞台裏、“今の台湾映画”への思い

上映を終わらせたくない一心で歩んだ約2年を振り返る

18

162

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 65 89
  • 8 シェア

「赤い糸」は誰かが公開させてくれると信じ切っていた(葉山)

──「赤い糸」の配給でタッグを組むことになるお二人ですが、どういうきっかけで出会ったんですか?

葉山 「台北セブンラブ」を個人で配給しようとしたときに、クラウドファンディングをしたんです。そのときに支援してくれたのが小島さんでした。その直前に小島さんは先ほどお話ししていた書店の本と映像集のクラファンを成功させていて「すごい、こんな人がいるんだ!」と。それで自分も台湾映画で同じようなことができるんじゃないかと思ったのがクラファンを始めたきっかけです。だから、支援者の中に小島さんの名前を見つけて、あの人だ!って。それでお礼をしつつ「困ってます。どうしたら成功させられるんでしょうか?」って会ったこともないのに相談して(笑)。

小島 そこからやり取りするようになってね(笑)。

葉山 小島さんも当時、別の台湾映画を公開させようと動いていたんです。そこから2人で気になる台湾映画の情報を交換するようになりました。「赤い糸」もギデンズの新作だから、2人で注目していたんですが、日本で公開される様子が全然なかった。どうなってるんだろう?と思っていたら、突然、お台場で上映されるらしいという情報が入ってきて。

小島 観光も兼ねたツアーの一環として映画も上映するという企画だったんです。そこに観に行きました。

台湾映画「赤い糸 輪廻のひみつ」場面写真。左からクー・チェンドン(柯震東)演じる孝綸(シャオルン)、ビビアン・ソン(宋芸樺)演じる小咪(シャオミー)

台湾映画「赤い糸 輪廻のひみつ」場面写真。左からクー・チェンドン(柯震東)演じる孝綸(シャオルン)、ビビアン・ソン(宋芸樺)演じる小咪(シャオミー) [拡大]

──最初から、映画はかなり気に入ったんですか?

小島 うーん。要素が多すぎて、1回では消化しきれなかったですね。ギデンズ・コーならではの物語の語り方というか、何回か同じストーリーラインをなぞって、最終的に着地するというのはわかったんですけど、500年前のエピソードとかは全然理解できなかったです。

葉山 字幕が今とは違ったんですよね。話がそもそも入り組んでいる中で、日本人は、牛頭馬頭(ごずめず)とかよく知らない。今はわかりやすくするために「地獄の門番」という字幕を付けているんですが、前提の知識がないとわからない部分も多かった。それでまた観たいなと思って、権利元に連絡したら、上映権以外は他社に売っちゃったけど、上映権はあるよって言われたんです。

小島 その前からギデンズ原作でほかの監督が撮った作品や、ギデンズの過去作の中で気になっているものがいっぱいあって、特集上映ができないかと思っていました。

──確かに「等一個人咖啡」など、日本で観られたらいいなとずっと思っていました。

葉山 そうそう。やっぱりギデンズ・コーの作品は日本でしっかり紹介しないといけないと思っていたんです。ただ新作は高いし、買えないだろうから過去作でと考えて、交渉していた。

小島 それで、結果的に買えたのが大ヒット作「赤い糸」だけでした(笑)。

葉山 正直「赤い糸」は、誰かが公開させてくれると信じ切っていたんですよ(笑)。でも日本では「お台場の上映会で終わり?」みたいな。上映交渉を始めたものの、途中で連絡が途絶えた時期もありました。その頃には劇場も押さえていたので、穴を開けるかもしれないところだったんですが、ギリギリで「OK!」の連絡がきた。

小島 でも実は、特集上映としてシネマートさんに企画書を持っていっていたんです。

葉山 だから、まさか「赤い糸」1本で勝負することになるとは思っていなかった。今、考えれば、特集内の1本という形じゃなく、「赤い糸」をしっかり日本に紹介できてよかったです。

台湾映画「赤い糸 輪廻のひみつ」場面写真

台湾映画「赤い糸 輪廻のひみつ」場面写真 [拡大]

問題はポスタービジュアルとタイトルだった(小島)

──公開に際して、動員数や興行収入など、どういう目標値を設定していたんでしょうか?

葉山 赤字にならなければいいというのが当初の目標でした。とにかく自分たちも楽しめて、この作品を観たいと思っている人に届けられればいいかなって。

小島 「赤い糸」は台湾では大ヒットしたけれど、日本の配給会社が手を挙げなかった作品。なので当時、もしかしたら日本では難しいと判断されたかもしれない?と思っていたんです。

葉山 そうそう。自分たちでわかりやすい字幕を付けたときは、この映画、最高じゃん!と思ったけれど、“日本のみんなが受け入れてくれる最高”なのかどうかははっきり言って自信はなかった。

小島 東京、大阪、そのほか主要都市を回って、終わりというイメージでした。

葉山 結果としてヒット作の「赤い糸」が自分たちのところに回って来たけれど、個人配給だし、自分たちのやれる範囲で上映できればいいかなと思っていました。もちろん、たくさんのお客さんに観てもらいたい気持ちはあったんですが、当時の私たちはこの作品のポテンシャルをよくわかっていなかった。

小島 それもあって、最初にターゲットをしっかり絞り切ることができなかったんですよ。

葉山 そう、台湾映画に興味がある人っていうふわっとしたものだったんですよね。

小島 日本ではミニシアターで上映することになりましたが、本来、この映画は、ミニシアターに来る人をターゲット層とするような映画ではないかもしれないとも思っていました。台湾で、「赤い糸」はそれこそシネコンでかかるような超娯楽大作なので。

葉山 本来は超大衆向け作品だけど、日本ではそういうふうに売っていくことはできない。だから、もうはっきり言ってターゲットはわからん!みたいな(笑)。ただ、初日を迎えて1週間ぐらい経った頃から、「この映画、最高じゃん」「今年のベストが現れました!」という感想をSNSで見かけるようになったんです。そこで、私たちも「やっぱりこの作品って最高だよね?」って。

小島 ようやくそこで、受け入れてもらえるんだと実感しましたね。

葉山 試写会も開かなかったので、封切り後に初めて、一般のお客さんの感想を知ることになったんです。感想はかなり好意的なものが多くて、そのときにようやくこの映画のポテンシャルがわかって、自分たちがやれることは精一杯やらなくてはダメだと思いました。

小島 当時、映画は好評だったんですが問題も抱えていて、それがポスタービジュアルとタイトルだったんです。「このビジュアルとタイトルはなんなんだ?」という感想が多かった。

葉山 おそらく公開されてすぐ観に来てくれた人は台湾映画が好きな人だったと思います。現地のポスタービジュアルも、原題が「月老」だということも知っていた。だから「なんでそれをそのまま使わないの? 悪編だね」と。

小島 そう思わせてしまうことは、私たちとしては一番避けたかったんです。

葉山 でも、一番避けたいところにいってしまって、ガクッときました。もちろん「月老」という原題も大事にしたかったし、台湾のビジュアルをそのまま使う手もあったかもしれないけれど、3人のキャラクターの話でもあるし、犬も出てくるしと、いろいろアピールできるよう考えて最初のポスターを作って、気に入ってくれた人もいるにはいたんですが、総じて厳しかったですね。

台湾映画「赤い糸 輪廻のひみつ」ポスタービジュアル

台湾映画「赤い糸 輪廻のひみつ」ポスタービジュアル [拡大]

小島 最初に作ったものが、あの方向性のデザインになったのは、作品そのものが本来は大衆向けの娯楽作だったからというのも大きな理由の1つなんです。

葉山 だからあのデザインは台湾の方にはウケがよかったんですよ。でも、日本のミニシアターにあのポスターが貼ってあってもスルーされてしまう。

小島 自分が観る作品ではないという判断をされてしまうものだったんですよね。

葉山 ただビジュアルには疑問を持ちつつも、口コミのよさを信じて観に行ってくれた人は「うわさ通り、面白かった」と言ってくれました。その頃には、この映画のためにやれることはなんでもやってみようと思っていましたし、新ビジュアルを作ることも考えていたんです。でも、すでに公開から1カ月ほどが経ってしまっていた。そんなときに声を掛けてくれたのが、下北沢トリウッドさんです。支配人がギデンズの「あの頃、君を追いかけた」が大好きな方で、「うちでロングランしようと思ってるよ」と言ってくれた。2024年の4月から上映していただけることになったんですが、そのタイミングで新しいビジュアルを作ることにしました。

──そういう経緯があったんですね。

葉山 ビジュアルを作るうえで、一番参考になったのは、「この映画はジャンルミックスなのが面白い」というお客さんの感想でした。実は、そこが1番宣伝するうえで困った部分でもあったんです。ジャンルミックスだからこそターゲットを絞り切れなかった。もちろん私たちも、作品の魅力はわかっていたんですが、いかにわかりやすく届けるかというのが宣伝としての正解。そういう方向を目指していかないと、1つのビジュアルに絞り切れないと思ったんです。

小島 そうだね。

葉山 でも、私たちが悩んでいたそのポイントこそが、この作品の1番の魅力だということに改めて気付いた。じゃあ、それを逆手にとって、ジャンルごとにポスタービジュアルを作ろうと思いました。純愛要素、ホラー要素、アクション要素、動物要素、少年マンガ要素すべてを、1枚のポスターで説明するのは難しい。だったら、1つひとつの要素をビジュアルに落とし込んで、それぞれ全然違う映画に見えるようなものをあえて作ったら面白いなと。そんなこと、この映画じゃないとできない。でもデザイナーさんは「せめてロゴは統一したほうが……」って(笑)。

小島 「いやいや、ロゴも変えてください!」ってね(笑)。

葉山 そう。あえて違う映画に見えるようにロゴも変えてもらいました。それぞれのビジュアルを見たときには、本当に同じ映画なの?って戸惑うけれど、観終わったら、本当だ!と思ってもらえるものを目指しました。お客さんにどのビジュアルが好きかをXの投票で選んでもらったんです。1位を獲得したのが、冥界っぽさがよく出ている今のポスターです。全種類ポスターを刷るのは印刷費のことを考えると難しいけれど、ポストカードなら作れるので、来場者特典にすることにしました。結果として、私たちが1番困っていた部分が1番の売りになっていったんです。

台湾映画「赤い糸 輪廻のひみつ」6種のポスタービジュアル

台湾映画「赤い糸 輪廻のひみつ」6種のポスタービジュアル [拡大]

小島 台湾映画好きな人って、青春映画的要素を期待してる人が多かったり、基本的にホラーは苦手という傾向がわりとある気がして。だから、そういう要素を掛け合わせた説明が当初はとにかく難しくて、悩みの種だったんです。

葉山 予告編も最初はもうちょっとホラー要素が長く入っていたんですよ。

小島 アクション要素もね。

葉山 でもいろいろ入れると、この映画ってどういう映画なの?ってわけがわからなくなっちゃう。

小島 ファンタジー要素もあって、牛頭馬頭はいかにもコスプレ受けしそうなキャラクターなんですが、予告編でいきなり見せられるとある一定層はもう絶対来てくれないと思っていました。

葉山 結局公式でどう説明すればいいか、正解がわからなかった。そんな中で、お客さんが「ジャンルミックスが面白い」ということを発信してくれたおかげで、この作品の魅力が広がっていったんです。

小島 公式が同じように言っても、お客さんには響かなかったと思います。

葉山 「赤い糸」はうまく魅力を表現するのが難しい。だからこそ、お客さんが「とにかく説明できないけど、最高だから観に行って!」と熱く語ってくれました。それを受け取った方が、劇場に観に行ってくれる流れができた。ただそれでもトリウッドの40席を埋めるのは大変でした。

次のページ
小咪(シャオミー)は長澤まさみさんにやってもらおう!(葉山)
©2023 MACHI XCELSIOR STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.

読者の反応

伊藤さとり(映画評論家・映画パーソナリティ) @SATORIITO

ここまで長くお付き合いとなった映画はないんじゃないかな。私はただただこの映画が好きで、配給をする葉山さんと小島さんが好きで、出来る限りの応援をしていたけれど、二人は恩返しみたいにインタビューに名前まで出してくれ。『#赤い糸輪廻のひみつ』は映画の魅力と人の魅力で繋がる熱き作品です。 https://t.co/x54FOODZzV

コメントを読む(18件)

関連記事

ギデンズ・コーのほかの記事

あなたにおすすめの記事

このページは株式会社ナターシャの映画ナタリー編集部が作成・配信しています。 赤い糸 輪廻のひみつ / 台北セブンラブ / 海角七号 君想う、国境の南 / GF*BF / 紅い服の少女 第一章 神隠し / 紅い服の少女 第二章 真実 / 日常対話 / 狼が羊に恋をするとき / ギデンズ・コー / クー・チェンドン の最新情報はリンク先をご覧ください。

映画ナタリーでは映画やドラマに関する最新ニュースを毎日配信!舞台挨拶レポートや動員ランキング、特集上映、海外の話題など幅広い情報をお届けします。