
ビニールタッキーの「月刊おもしろ映画宣伝」 2025年3月号 [バックナンバー]
来日イベントの雰囲気がいいと、その映画の印象もよくなる
こういうニュースだけ見ていたい
2025年4月9日 19:00 3
映画会社は、日々工夫をこらし、作品の魅力をPRしようと努力している。時には評論家や俳優が真面目に作品の魅力を語り、時には他ジャンルとコラボし客層の拡大を図り、時にはダジャレやこじつけでSNSでのバズりを狙い……。そんな施策を日々ウォッチしている“映画宣伝ウォッチャー”ビニールタッキーが、前月気になった映画の記事についてコメントする連載が、「月刊おもしろ映画宣伝」だ。
今月取り上げたのは「
文
「月刊おもしろ映画宣伝」3月号をお届けします。「おもしろ映画宣伝」とは、海外の映画を日本で宣伝する際に発生する面白いPRイベントや不思議なコラボなどの案件をまとめて総称するために私が勝手に名付けた名前です。このコラムはその月にあったおもしろ映画宣伝をピックアップする連載コラムです。今月もご紹介していきましょう!
「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」
香港映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」のキャストと監督が、3月26日発売のanan 2440号「推し旅 2025・春」特集のバックカバーに登場。2号連続で撮り下ろし写真が掲載される。
まだまだ勢いが止まらない「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」! この連載でも何回か取り上げましたがついにananのグラビアに登場です! この映画が今年のトレンドの潮流の1つになったという実感が湧きます。ファンの熱意に俳優の皆さんが応えてくれて、さらにメディアが後押しするという、いい相乗効果が生まれていてうれしい限りです。これはまだまだ盛り上がっていくでしょう!
「デビルズ・ゲーム」
全国で公開されている韓国映画「デビルズ・ゲーム」のメイキング写真と、同作を鑑賞した犯罪心理学者・出口保行のコメントが到着した。
本作を鑑賞した出口は「人には『思い込み』があります。これが時として判断を狂わせる。本作は最後まで視聴者を困惑させ続けます。思い込みを二転三転させることで一層深い闇に引きずりこみます」とコメントした。
連続殺人事件を追う刑事とその犯人の体が入れ替わってしまうボディチェンジ・アクションスリラー「デビルズ・ゲーム」。このかなり特殊な設定の映画を犯罪心理学者の方に観てもらってコメントをいただくという発想にグッときてしまいました。コメントの内容も本作を鑑賞した人なら「その通り!」と思わずひざを打ちたくなるような視点で唸りました。さすがです。
「ロングレッグス」
ホラー映画「ロングレッグス」の公開直前イベントが3月12日に東京・ユーロライブで行われ、作品名にちなみ“脚が長い人代表”の田中卓志( アンガールズ)と、ホラー好きなモデル・タレントのゆめぽてが出席した。
まずアンガールズ田中卓志さんが出席した理由が「脚が長い人代表」というところに驚きました。その理由ならもっとほかに選択肢があったのでは……と思っていると真の理由が明らかになります。
ステージが暗転し、「クックー」というロングレッグスのセリフを再現しながら田中が登場。ロングレッグスの声を吹き替えたバージョンの予告編が公開されていたものの、吹替担当が誰なのかは明かされていなかったが、今回のイベントで田中であることが発表された。田中は「声を収録したとき、始めはスタッフさんから『もう少しニコラス・ケイジっぽくしてください』と言われたんですが、やってみたらニコラス・ケイジに似すぎて、逆にダメで。なので田中っぽくナレーションしました」と振り返る。SNS上では田中と津田健次郎のどちらかだろうと推測が二分していた。これに対して田中は「うちの奥さんからも低音の部分は津田さんに似てるって言われて、家でやらされたんですよ。『お嬢ちゃん、やっと会えたね』って」と低音ボイスを交えながらほほえましいエピソードを語る。
なんと予告編でニコラス・ケイジの声を吹き替えていたのが田中さんということでした。ご本人が言及している通り、声だけ聞いてみると確かに津田健次郎さんに似ている箇所があって驚きました。田中卓志さんと津田健次郎さんにつながる部分があるという発見があった点でもナイスな宣伝だと感じました。ぜひ皆さんもよく耳をすませて聞いてみてください。
映画「ロングレッグス」予告編(吹替版)
「BETTER MAN/ベター・マン」
ロビー・ウィリアムスの半生を描いた映画「BETTER MAN/ベター・マン」の公開前日祭イベントが、本日3月27日に東京・TOHOシネマズ 日本橋で開催。ウィリアムスの大ファンであるお笑い芸人の永野、競技人生最後の演技プログラムでウィリアムスの代表曲「Angels」を使用したプロフィギュアスケーター・ 織田信成、タレント / TikTokクリエイターのおじゃすが登壇した。
ロビー・ウィリアムスの半生を描くミュージカル映画のイベントに登壇したゲストがお笑い芸人、プロフィギュアスケーター、TikTokクリエイターというカオスっぷりで思わず目を見張ります。しかしゲストの皆さんがそれぞれの視点でロビー・ウィリアムスの魅力や音楽について語っていて、幅広い層に愛される人だということがよく伝わりました。ぱっと見の印象で判断してはいけないということを改めて痛感しました。
「ANORA アノーラ」
第97回アカデミー賞で作品賞など5部門に輝いた「ANORA アノーラ」の来日記念舞台挨拶が、本日3月8日に東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズで行われ、監督のショーン・ベイカーとプロデューサーのサマンサ・クァンが出席。花束ゲストとして女優の 梶芽衣子がサプライズ登壇した。
3月も来日イベントが複数あって楽しい月となりました。「ANORA アノーラ」の来日イベントにはサプライズゲストとして梶芽衣子さんが登場。これはすごい!
舞台挨拶の終盤、ベイカーとクァンを祝福するために梶が花束を持って壇上へ。日本映画に造詣が深いベイカーは、本作の役作りの参考として、アノーラ役のマイキー・マディソンに梶の主演作「女囚701号・さそり」を渡していたという。思ってもいないサプライズに、ベイカーは口をあんぐりと開けて梶から花束を受け取ると、満面の笑みで喜びをあらわにする。
「ANORA アノーラ」の参考資料の一つに「女囚701号・さそり」があったという話は聞いたことがありましたが、そこに目を付けてサプライズゲストとして梶さんをお呼びするという采配は見事です。ショーン・ベイカー監督があんぐりと口を開けるのも納得です。
「ミッキー17」
「パラサイト 半地下の家族」以来の来日となるポン・ジュノと、「スノーピアサー」「Okja/オクジャ」の製作も手がけてきたチェ・ドゥホ。2人を迎えるべく、日本からはポン・ジュノ作品ファンの俳優・ 町田啓太、世界に名を馳せる芸人・ とにかく明るい安村がゲストとして登壇した。
3月はポン・ジュノ監督の来日もありました。町田啓太さんに加えてとにかく明るい安村さんの「安心してくさい」芸披露には驚きましたが、監督も爆笑されたとのことで一安心。
舞台挨拶の最後には、サプライズゲストとして「ゴジラ-1.0」を監督した山崎貴が壇上へ。山崎は「本当に面白かった。どんなにハードルを上げても大丈夫。社会的な問題も内包しているけど、まずはめちゃくちゃ面白い」と前のめりで感想をまくし立てる。それに対し、ポン・ジュノは「『ゴジラ-1.0』も楽しく拝見しました。今回の映画にも少し怪獣が登場します」とコメント。山崎は「『グエムル 漢江の怪物』は当時悔しい気持ちで観ました。怪獣映画に家族の物語を入れるというのは、あの映画から学んだ部分でもあります」と尊敬の思いを伝える。ポン・ジュノはほほえみながら「『ゴジラ-1.0』も人間と歴史がしっかり描かれていて感銘を受けました。これからも怪獣映画をいっぱい作っていきましょう」と返し、お互い刺激を与え合う様子を見せた。
さらには山崎貴監督のサプライズ登場! 個人的に「グエムル 漢江の怪物」が大好きなのでポン・ジュノ監督の「これからも怪獣映画をいっぱい作っていきましょう」という言質が取れたことに感動&感謝です! 山崎貴監督ありがとうございます!
「白雪姫」
ディズニーが贈る実写映画「白雪姫」のプレミアムライブが本日3月5日に東京・六本木ヒルズアリーナで開催。来日した白雪姫役のレイチェル・ゼグラーとプレミアム吹替版で白雪姫役を務めた 吉柳咲良が登壇した。
実写映画「白雪姫」からは白雪姫役のレイチェル・ゼグラーが来日。この日東京はかなり寒かったんですが「私はニューヨーク出身なので寒いのも雪もへっちゃらなんです。白雪姫だからちょっとぐらい雪が降らないと!」と明るい話題に変えてしまうところはまさに白雪姫!という感じでグッときます。
イベント中盤には、ゼグラーと吉柳が本作の劇中歌「夢に見る ~Waiting On A Wish~」を歌唱。2人には会場から大きな拍手が贈られた。ゼグラーは「才能あふれる咲良さんと共演できてうれしいです。2021年から『白雪姫』に携わっているので、この楽曲は何度も何度も耳にしてきているんです。でもそこに新しいものを咲良さんがもたらしてくれました。まったく新しい楽曲のように自分の耳に響いてきたのは、咲良さんの才能によるものだと思っています」とたたえる。吉柳は胸がいっぱいの様子で「オーディションを受けたときからレイチェルさんの歌声でこの曲を聴き続けてきたんです。今ここで聴けることが幸せですし、一緒に歌わせていただけるなんて!」と口にした。
来日イベントは数多くありますが、ゲスト本人が生歌まで披露してくれるというのはなかなかないような気がします。それだけこのイベントを大切にしてくれているということが感じられてうれしくなります。吹替の吉柳咲良さんも本当に心から感動していることが伝わって、見ているこちらまで心が満たされるような気持ちになるイベントでした。
「デーヴァラ」
巨大ザメを操る海の勇者デーヴァラを描くインド映画「デーヴァラ」が、本日3月28日に全国で公開。「RRR」で知られる主演のN・T・ラーマ・ラオ・Jr.(NTR Jr.)が来日した際、東京・しながわ水族館でサメとの対面が実現した。
インド映画「デーヴァラ」からはNTR Jr.が来日。劇中で巨大サメを操るシーンがあるということからサメとの対面が行われたとのこと。素晴らしい企画力です。
NTR Jr.は初めて近距離で本物のサメを見たそうで「最高でしたね。『デーヴァラ』のサメはVFXだったから、本物のサメの迫力はヤバかったね! 近くで歯を見たときに、これ以上はちょっと寄りたくないなと思いました」と伝える。また対面したサメがシロワニだったことに対し、「英語名がサンドタイガーシャークなんでしょう? なんてピッタリなんだろう! 僕は昔、ヤングタイガーと呼ばれていたし、海岸のシーンが多い『デーヴァラ』には砂がよく出てくるしね!」と共通点を見出して喜んだ。
めちゃくちゃ楽しそうじゃないですか! やはりゲストの方が楽しんでくれている宣伝はこちらも楽しい気持ちになるので最高ですね。それが例えサメであっても作品とのつながりや共通点があればなおのこと。こういうニュースだけ見ていたいという気持ちになりました。
そして最後は私が勝手に決める今月のMVP(モスト・ヴァリュアブル・プロモーション)。今月はこちらです!
インド映画「デーヴァラ」のジャパンプレミアが本日3月24日に東京・新宿ピカデリーで開催され、主演のN・T・ラーマ・ラオ・Jr.(NTR Jr.)、監督のコラターラ・シヴァ、 キンタロー。が登壇した。
「デーヴァラ」強し! サメに続いて見事MVPです! こちらはジャパンプレミアで起きた最高の一幕が決め手となりました。
本作のダンスシーンに話題が及ぶと、デーヴァラの扮装に身を包んだキンタロー。が踊りながら登場。キンタロー。が「Japanese NTR Jr.」と名乗ると、NTR Jr.は「そのわりにはヘアスタイルがデーヴァラと違うね」と笑顔でツッコミを入れる。続いて本作のヒットを祈願し、キンタロー。が「デーヴァラ」のダンスを踊ることに。やがて隣で見学していたNTR Jr.がキンタロー。に合わせて踊り出し、ファンは大喜び。NTR Jr.は「(キンタロー。が)踊っているのを見ていたら、もう止まらなくなって」とはにかんだ。
最初はキンタロー。さんの異様に迫力のある扮装に度肝を抜かれたんですが、もう1つの持ち味であるキレッキレのダンスが始まるとそばで見ていたNTR Jr.も合わせて踊り始めるという事態が! ファンの大歓声も納得の素晴らしい一幕です。キンタロー。さんのダンスがちょっとした一芸披露ではなく明らかに練習を重ねてきた本気のダンスだったのでNTR Jr.にも本気度が伝わったのだと思います。ダンスを踊る者同士の言葉ではないコミュニケーションに感動しました。これは文句なしにMVPです!
NTR Jr.がキンタロー。と踊る!インド映画「デーヴァラ」ジャパンプレミア
3月はアカデミー賞や春休みもあり、話題作が立て続けに公開されるということで来日イベントが多かった印象です。そんな中で印象に残ったのは来日ゲストが本当に楽しんでいる様子でした。例えば「ANORA アノーラ」の梶芽衣子さんや「ミッキー17」の山崎貴監督の登壇など、サプライズ登場を楽しんでいる様子がうかがえます。さらに言えば「白雪姫」のレイチェル・ゼグラーの歌唱や「デーヴァラ」のNTR Jr.のダンスなど、ゲストが持ち味を披露する場があったのも印象的でした。もちろん自身の映画のプロモーションというお仕事で来日しているわけですが、せっかく日本に来てくれたのですから楽しんでほしいという気持ちがあります。来日イベントの雰囲気がいいと、その映画の印象もよくなるような気がしました。来日したゲスト、ファンや観客、そして映画を送る側、みんなが笑顔になれるような宣伝が一番いいな、と改めて感じました。
以上、月刊おもしろ映画宣伝2025年3月号でした。次回もお楽しみに!
ビニールタッキー
映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集する。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催。
ビニールタッキー (@vinyl_tackey) | X
第9惑星ビニル
バックナンバー
ビニールタッキー @vinyl_tackey
映画ナタリーさんでの連載コラム「月刊おもしろ映画宣伝」3月号が公開されました。3月は楽しい来日イベントが目白押しでした!その宣伝内容には様々な工夫や努力が感じられました。そんな話を中心に書きました!ぜひご覧下さい。
https://t.co/gQtGd1x6m4