
ビニールタッキーの「月刊おもしろ映画宣伝」 2025年4月号 [バックナンバー]
意表を突かれたようでいて、理由を知ると納得できる
違う界隈をつないで生まれる相乗効果
2025年5月12日 19:00 3
映画会社は、日々工夫をこらし、作品の魅力をPRしようと努力している。時には評論家や俳優が真面目に作品の魅力を語り、時には他ジャンルとコラボし客層の拡大を図り、時にはダジャレやこじつけでSNSでのバズりを狙い……。そんな施策を日々ウォッチしている“映画宣伝ウォッチャー”ビニールタッキーが、前月気になった映画の記事についてコメントする連載が、「月刊おもしろ映画宣伝」だ。
今月は「
文
「月刊おもしろ映画宣伝」4月号をお届けします。「おもしろ映画宣伝」とは、海外の映画を日本で宣伝する際に発生する面白いPRイベントや不思議なコラボなどの案件をまとめて総称するために私が勝手に名付けた名前です。このコラムはその月にあったおもしろ映画宣伝をピックアップする連載コラムです。今月もご紹介していきましょう!
「Flow」
主役の猫の声を担当したのは、本作のサウンドデザイナーであるグルワル・コック・ガラスの愛猫Miut。このたびYouTubeで公開された映像には、Miutがのどを鳴らしながら不思議そうにレコーディング機材を見つめる姿や、話しかけるように発する鳴き声、爪を研ぐ様子などが映し出された。
まずはほっこりするレコーディング風景から。「Flow」の主役である猫の声は確かにリアルだなーと思っていたのですが本当に猫の声をそのまま録音しているとは知りませんでした。アニメのレコーディング映像というのはいろいろ見てきましたがこんなにシンプルかつかわいいものは初めて見たかもしれません。猫以外にも劇中に登場する犬は
映画「Flow」主演猫声優のレコーディング風景
「サンダーボルツ*」
麒麟・川島と田村真子アナMCの「ラヴィット!」(TBS系)発のヒップホップグループ・赤坂サイファーと、「アベンジャーズ/エンドゲーム」など数々の作品で知られるマーベル・スタジオが初めてスペシャルタッグを組むことが本日4月2日の「ラヴィット!」生放送内で発表された。
これまで赤坂サイファーは、梅田サイファーとコラボした「Love it Wednesday feat. 梅田サイファー」とchelmicoとコラボした「Say What?」の2曲をリリース。昨年8月に東京・代々木第一体育館で行われた音楽イベント「ラヴィット!ロック」にも出演した。今回、赤坂サイファーには見取り図、 アルコ&ピース、 ロングコートダディ、 令和ロマン・ケムリの7名がメンバーとして参加。彼らは、来月5月2日(金)に劇場公開されるマーベル最新作「サンダーボルツ*」とコラボする。
これは意表を突かれた企画です。以前「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」のPRで見取り図の二人がオリジナルラップを披露したことがありますが、「サンダーボルツ*」もお笑い×ヒップホップ×MCUのスペシャルなタッグとなりました。見た目も芸風も個性豊かな赤坂サイファーとサンダーボルツ*はある意味共通項があるのかもしれないな……と思いました。
「アマチュア」
ラミ・マレック主演のスパイスリラー映画「アマチュア」と、さいとう・たかをによるマンガ「ゴルゴ13」の特別ビジュアルが完成。あわせて、さいとう・プロダクションより「アマチュア」への応援コメントが寄せられた。
こちらも意表を突かれました。殺しのプロフェッショナル・ゴルゴ13と映画「アマチュア」をつなげるという発想が見事です。さいとう・プロダクションから特別に寄せられた応援コメントも素晴らしいのでぜひご覧ください。
「さいとう・プロダクションが日々制作を続ける『ゴルゴ13』というキャラクターは、高額の報酬で標的の狙撃を請け負うプロですが、非常に安い額で依頼を受けることがたまにあります。そんな時彼は、情にほだされたりしているのではなく、ただ依頼人がその額を用意するのにどのくらいの犠牲を払ったのかという『本気度』を計っている気がします。その意味で、確実なプロに依頼するのではなく自らの手による復讐を誓った本編の主人公の『本気』には敬意を表します」とコメント。「そして以下に、命のやりとりに関するゴルゴのセリフを引用して主人公へのエールとしたいと思います。『この世界は、病的な用心深さと、それ以上の臆病さを持ちあわせている奴だけが、生き残れる資格を持っているのだ…………』」と続け、チャーリーが繰り広げる予測不能な復讐劇に向けてメッセージをつづった。
まさにプロのコメントです。しかも的確なゴルゴのセリフを引用するスマートさ。ほれぼれしました。
ラミ・マレックが主演を務めるスパイスリラー映画「アマチュア」の特別映像がYouTubeで公開。スパイ知識に関して“アマチュア”な山里亮太( 南海キャンディーズ)と、元警視庁公安部外事課で“スパイのプロ”である勝丸円覚が対談する様子が収められている。
映画「アマチュア」といえばこの対談もありました。この連載でも何度も取り上げている「その道のプロならではの視点で映画を解説してもらう」系のPRです。特にこの映画はアマチュアのスパイが奮闘する話なので「プロらしさ」よりも「訓練を受けていないアマチュアらしさ」について焦点が当てられていて面白かったです。
映画「アマチュア」特別映像(山里亮太と元公安外事課・勝丸円覚が対談!)
「Mr.ノボカイン」
クエイドの誕生日である本日4月24日に公開された映像には、ノボカインが大好きな彼女のために全力で無茶をする様子が収められ、ノボカインの親友ロスコーが投げたナイフの行先には、“R15+映倫マーク”が重ねられた。そしてポスタービジュアルには、絶体絶命の状況に置かれるも笑顔を欠かさないノボカインの姿に、「イタくな~い」との言葉も添えられている。
個人的にとても楽しみにしている映画「Mr.ノボカイン」ですが、特に気になっているのがこのポスタービジュアルや「イタくな~い」といったポップな国内宣伝です。使用しているビジュアルや予告編の映像は元と同じなのですが、キャッチコピーや色使いなどでかなりポップでエグめのアクションコメディだということを印象付けています。こういう「本来の作品の魅力をさらにデコっていく」系のローカライズはけっこう好きなので今後も注目して行きたいと思います。
映画「Mr.ノボカイン」予告編(祝!R15認定 メガ盛編)
「異端者の家」
ヒュー・グラント主演の映画「異端者の家」と、きぬた泰和が代表を務める「きぬた歯科」がコラボレーション。パロディポスターが到着した。
どうして……?となったのですが、記事の内容を見て納得しました。
きぬた自らが登場する巨大な看板を首都圏に270カ所以上設置し、ネット広告全盛の時代に逆行する宣伝手法が話題を呼んで、年商18億円以上をたたき出すきぬた歯科。2024年に出版されたきぬたの著書のタイトルが「異端であれ!」であることから、今回のコラボが実現した。ビジュアルにはきぬたと同歯科のキャラクター・きぬたぬきが捉えられており、「異端者の歯科」「扉を開いたら、治る」のテキストも確認できる。
そう来ましたか。 きぬた歯科さんといえば昨年の映画「#スージー・サーチ」とのコラボで話題になりました。当時この連載で取り上げた際に「院長には今後もコラボのオファーが来そうな気がします」と書いたんですが本当に来ましたね。しかしホラー映画と病院のコラボはなかなか肝が据わっています。きぬた歯科さん、あなどれませんね。
「マインクラフト/ザ・ムービー」
映画「マインクラフト/ザ・ムービー」の日本語吹替版に山寺宏一、 安元洋貴、 生見愛瑠、 村瀬歩、 斉藤貴美子、 狩野英孝、 HIKAKIN、SEIKINらが参加することがわかった。
さらに、ピグリン軍団を率いるブタの女王・マルゴシャに朴ろ美、クーリッジ扮するマーリーン副校長に 安達忍が声を当てることも明らかに。このほか吹替版には「マインクラフト」のゲーム実況で人気の動画クリエイター・ドズル社、日常組、カラフルピーチのメンバーが参加している。
いやー素晴らしい! 映画ファンなどの間で何かと話題になるゲスト声優ですが、今回の「マインクラフト/ザ・ムービー」については映画の持っているハジケたイメージと、この多種多様なゲスト声優の組み合わせがベストマッチだと感じました。特に映画のメインの客層である子供たちにとってYouTuberやゲーム実況者はかなり親しみのあるゲストです。実際に私も吹替版を観に行ったのですが、劇場で子供たちが「今の声って〇〇じゃない?」とひそひそ話したり上映後の吹替キャスト一覧を見て「あー、あの人だったんだ!」と盛り上がっていたりしてとても楽しかったです。まさに宣伝効果を感じた瞬間でした。
そして最後は私が勝手に決める今月のMVP(モスト・ヴァリュアブル・プロモーション)。今月はこちらです!
山寺宏一が本日4月24日に東京・新宿ピカデリーで行われた映画「マインクラフト/ザ・ムービー」の公開前日3D吹替プレミアに出席。「声優生命を懸けてもいいです。もしこれが面白くなかったら、僕が入場料を全部お返ししたい“ぐらい”の作品……しませんよ! 」と熱量たっぷりに映画の魅力を伝えた。
舞台挨拶には、謎のキューブの力で異世界へとやってくるギャレット役の安元洋貴、しっかり者のナタリー役の生見愛瑠、四角いブタの軍団のボスであるチャンガス役の狩野英孝、現実世界に逆転送される村人・ニットウィット役のHIKAKINも登壇した。
今月は映画「マイクラ」が強かった! MVPはマイクラの映画を宣伝するうえでこれほど的確な人はいない!という人たちが登壇したこのイベントです。
海外では観客が上映中に絶叫して盛り上がるため、映画館が異例の注意喚起を行ったことでも話題となった。大の「マイクラ」好きである狩野は「絶叫しちゃいますよ。興奮しますよ。ここであれくるの? あのアイテムがここで使われるの?みたいな感動がちりばめられている」と太鼓判を押す。さらに「マイクラのゲームをしているときに必要なテクニックも映画に詰め込まれている。ここでバケツの水を……とか。共感できるポイントも楽しいです」と力説した。
10年以上「マイクラ」をプレイしているHIKAKINも「マイクラ初心者が観ても、ガチ勢が観ても、細かいところまで素晴らしい。めちゃくちゃ楽しかった」と絶賛。村人は「ふぅん」といったため息にも聞こえる独特な声が特徴で、HIKAKINは普段からモノマネをしていたそう。「光栄なんですけど、吹替版では本家の声と、僕の声が両方あるんです。よーく聴くとわかると思います」と伝え、さらに「村人はエンドロールが流れ始めてからが本番」と意外な見どころを明かした。
ゲームを映像化した映画を語るならそのゲームが大好きな人たちに語らせるのが一番!という当然のことを、ゲスト声優という形式をあわせながらちゃんと実現した素晴らしい一例です。一方、山寺宏一さんや安元洋貴さんは吹替声優ならではの視点からアフレコの楽しさや大変さを語っていてとても興味深い内容でした。ハリウッドでは今後もゲームの映画化企画は山ほどあるようなので、日本に入ってくる際には映画「マイクラ」の例が活かされるといいな、と思いました。
今月の宣伝を改めて振り返ると「意表を突く」宣伝が目立った印象があります。「サンダーボルツ*」と赤坂サイファー、「アマチュア」とゴルゴ13、そして「異端者の家」ときぬた歯科。見た瞬間は少し驚くかもしれませんが、よく見ればどれも納得できる宣伝でした。「マインクラフト/ザ・ムービー」とHIKAKINさんや狩野英孝さんの組み合わせもゲーム実況を知らない人には意外に映るかもしれませんが、知っている人には納得の人選です。このように違う界隈と界隈をつないで相乗効果を生むような宣伝が「意表を突く」宣伝ということなのかもしれません。そしてこういう宣伝こそが、さまざまな層に向けて映画の情報を広めることに大きく貢献しているのだと感じました。
以上、月刊おもしろ映画宣伝2025年4月号でした。次回もお楽しみに!
ビニールタッキー
映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集する。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催。
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映画ナタリーさんでの連載コラム「月刊おもしろ映画宣伝」4月号が公開されました。今回は「意表を突かれたようでいて、理由を知ると納得できる」宣伝を中心にご紹介しました。全く違う”界隈”と”界隈”を繋ぐ宣伝のおもしろさをご堪能下さい!
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