左から高橋正紀、渋谷紀世子、野島達司。

「ゴジラxコング 新たなる帝国」をもっと楽しむ!ゴジラ×コング×ナタリー 第3回 [バックナンバー]

「ゴジラ-1.0」でアカデミー賞受賞、白組のVFXスタッフが「ゴジラxコング」を鑑賞

とんでもないクオリティだし、妥協がどこにもない

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スケール感をわからなくしているのもうまい(野島)

──ゴジラとコングのバトルシーンはいかがでした? ゴジラが背負い投げをしたり、コングがアッパーカットを繰り出す描写もありましたが。

渋谷 「-1.0」のゴジラとはスピード感が圧倒的に違いますよね。コングもゴジラも1つひとつの動きが俊敏で、アクションがリアル。コングのパンチもそりゃ重いだろうなと感じるものだったから、あれをあのスピードで繰り出されたらって考えただけで「うわー痛いだろうなー」と感じました。

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」場面写真

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」場面写真

──特に後半は鉄のプロテクターを右手に着けていますしね。

渋谷 そうそう、さらに強化されちゃった。

野島 スケール感を前半と後半で分けているというさっきの話とも関連しますが、エジプトのシーンでもそれが一貫されていて。ピラミッドが小さく見えると言うか、ゴジラやコングとどっちがでかいんだ?となりました。

渋谷 コングが登場する前は、ピラミッドも人との対比で見せていたからね。

野島 あれが普通の街だったら、ゴジラもコングも超でかく見えちゃうはずなんだけど、あそこではスケール感をわからなくしているのもうまい。コングが地下にもう一度戻るシーンなどを入れたりして。

渋谷 で、大きさを忘れたところでもう一度出てくるから……。

野島 めちゃめちゃ大きい!っていう。あの、サイズ感のタメがいいんですよ。

──ローマのコロッセオの中でゴジラが丸まって寝ているシーンもいいですよね。あの場面は、東京タワーに繭を作った東宝映画の「モスラ(1961年)」を彷彿させます。

渋谷 すごくチャーミングでした。ローマに行って、コロセッオの前を通ったら、ゴジラがいい感じに丸まって寝ている姿を想像しちゃうかもしれない。

──登場シーンは少なかったですが、今作のモスラはどうでした?

野島 光っているのがいいな、光り続けてほしいと思ってました。そもそも、どういう原理なんだ?みたいな感じもしましたけど。僕、怪獣は全然詳しくないけれど、羽がすごく横長なのが意外といいなと。

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」より、モスラ。

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」より、モスラ。

高橋 僕たちが知っているモスラとはちょっと違うよね。

野島 もうちょっと、蝶々っぽいと言うか、蛾っぽいですよね。なんか、すっと横に広い感じがよくて。

高橋 モスラはそうしたほうがカッコいいと考えたんじゃない?

野島 きれいでした。

渋谷 生物感をかなり優先したんでしょうね。

高橋 寄りもすごくよくできている。ある意味、ちゃんと見たのは初めてかもしれないけど、モスラの顔ってこうなってるんだ?と思ったから。

野島 ただ、寄りのカットって、全部同じアングルじゃなかったですか?

渋谷 ああいう“ザ・モスラ”みたいなアングルがあるんじゃないのかな? ただ、私は昆虫が苦手だから、今回のモスラを見たときに「うわー、けっこうリアルに虫だ!」とドキドキしちゃって。それくらいリアルだった。

都市の崩壊もあるし、砂も溶岩も氷も煙も出てくる(渋谷)

──エジプトの砂の表現についても聞きたいです。

高橋 砂のVFXは水と同じくらい難しいんですけど、ピラミッド絡みのシーンはかなりリアルでした。素材はすごくても設定やレイアウト次第で絵画っぽくなっちゃうことも多いし、その条件をきれいにそろえるのは簡単ではないんですよ。でも、そこがうまくいっていたような気がします。

渋谷 それにしても、エフェクトがてんこ盛りだったね。都市の崩壊もあるし、砂も溶岩も氷も煙も出てくる。

野島 僕はなんだかんだ言って、木や葉がいちばんヤバいと思いました。コングが歩くたびに揺れなきゃいけないから。

渋谷 ワサワサって揺れるもんね。

高橋 俺は野島と違って、映画を観るときはあまりクオリティを意識しなくて。仕事柄、もちろん見ることは見るんだけど、あまり気にしない。でも、ローマの最初の戦いのときだけは、ゴジラがぶつかって破壊される建物に目が行きましたね。あのとき、壊れるものにどれくらい影響しているのかな?と。うち(白組)がやるなら、どこまでやるんだ?とも考えたし、意外と遠くのほうまでは壊れていないのを確認したときは、これはうちが広い画で同じようなものを撮るときの参考になるなと感じましたね。

渋谷 それで言うなら、私は氷の杭みたいなものがガンガン地面から突き出してくるところですね。

野島 あれ、人には当たらんのか?って感じました。

渋谷 でも、刺さりそうになりながらものすごい勢いで逃げている人たちの作り方は、めっちゃ参考になる。そのときの恐怖感をどうやって出すのか、みたいなカット構成にはどうしても目が行きますね。

高橋 うまく避けているけど、実際は何もないグリーンバックの前で演技しているのがわかるから、もっと避けたほうがリアリティがあるのかな?と考えたりもする。役者さんにやってもらうわけだから難しいところだけどね。

渋谷 私は監督から届いたプロットを見て、それをどう撮影に落とし込んでいくのかをみんなと相談しながら固めるのが仕事なので、そういうところにどうしてもフォーカスしちゃうんですよ。

──ほかにも、実写とVFXがうまくマッチしていたシーンはありますか?

野島 全部ですね。ゴジラやコングが人や街と絡むところはすべてグリーンバックだろうけど、どこまでがセットでどこからがVFXなのかわからないです。

渋谷 人が触るところはセットだろうけれど、確かに遺跡のシーンとか、どこまで実際に作っているのかな?

高橋 僕たちはCGにしちゃおうという発想にすぐなるけれど、そこに実際にあるもののほうが絶対にリアルに見えるはずなんですよ。もちろん、セットのクオリティもあるだろうけれど。そうなったときに、ハリウッドの映画人たちはセットで撮るのか、CGにするのかという判断を、何を基準に決めているのかな?と気になって。僕はそこを知りたいですね。

白組に入ってから映像を作る楽しみがわかった(渋谷)

──ところで、皆さんがVFXのお仕事することになったきっかけは?

渋谷 私は「バック・トゥー・ザ・フューチャー」や「スター・ウォーズ」を映画館でリアルに観ていた世代で。テレビのメイキング番組や本を見るうちにVFXに興味を持つようになりました。

──映画監督ではなく、特撮のほうの仕事に憧れたわけですね。

渋谷 そうですね、小さな頃は周りの人たちから「絵がうまい」と評されていたんですけど、それを今言われると恥ずかしい。本当に絵が上手な人はレベルが全然違うんですよね。山崎の絵を初めて見たときもヤバい!って思ったし、白組にはそういう子がゴロゴロいるから、私は監督やデザインをする方向には気持ちが向かなくて。ただ、白組に入ってから映像を作る楽しみがすごくわかったし、入社したときから山崎とずっと一緒なので、自分たちの作りたい映像を作るにはどうしたらいいんだろう?と自然に考えるようになっていきました。それでずっとやってきた感じですね。

奥から渋谷紀世子、高橋正紀、野島達司。

奥から渋谷紀世子、高橋正紀、野島達司。

高橋 僕は逆に映画監督志望だったんだけど、当時はどうしたら映画監督になれるのかわからなかったし、そういう学校もなくて。そんなときにCMか何かを観て、VFXを手がけていた白組の存在を知ったんです。それで映像に携わりたかった僕は白組に飛び込んだんだけど、それからなんだかんだ、30年近くやってきましたね。

──野島さんはまだ25歳の若さですが、きっかけは?

渋谷 映像に興味を持ったのはいつだっけ?

野島 幼稚園くらいじゃないですか? 親にお古のスチルカメラをもらったのが最初で、そこから写真や動画をずっと撮っていたから、小学校の友達は、僕に対して“カメラを永遠に触っているやつ”という同じ印象を持っているんじゃないかな。それで、途中からパソコンをいじり出して、中1くらいから撮った映像に合成するようになりました。

渋谷 中学の頃に、趣味で合成をやってたんですよ。

──作品になっているんですか?

野島 いくつかは残っていますね。今観るとヤバいですけど……。

高橋 いや、よかったですよ。

渋谷 大学時代には作った映像をTwitterにアップしていて。それを見た私が釣り上げたという。

──それはどういう作品だったんですか?

野島 最初は「Minecraft」というゲームの爆発するキャラクターを、ただ単に実写に合成して。そいつから逃げている人の上にさらに大きなやつが降ってくるという映像を作りました。

高橋 実はそれがよくて合格したんですよ。野島はめちゃくちゃ恵まれていて。だって、最初の仕事が「劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」(2018年)だもんね。僕があの作品でVFXディレクターをやったときに、コンポジター(2Dや3Dの原画や実写映像をデータとして合成し、整理する技術者)が1人足りなくて。

渋谷 ちょうど新しい人を入れたくて、うちのスタッフにSNSでいい子がいないかリサーチかけてもらっていたのですが、ピックアップしてもらった子たちの中でノジがダントツでよかったんです。それで、Twitterで「(白組のある)調布に遊びに来ない?」とダイレクトメッセージを送って、見学に来てもらいました。

──完全にスカウトですね。

渋谷 そうですね。当時、ノジはデジタルハリウッド大学の1年生で映像を学んでいたんですが、春休みだったし、今話した高橋の仕事があったので「じゃあ、アルバイトしてみる?」と言って。それが最初でした。

──そのときは純粋に「うれしい」という気持ちだったんですか?

野島 いや、別に、暇な大学生だったからなんですけど、めちゃくちゃいい機会でした。

高橋 最初に会ったとき、野島はちょっとツンデレだったよね(笑)。俺が「やりたい?」って聞いたら、「頼んでくれたらやります」という感じで。若者にありがちですけど。

野島 緊張していただけなんじゃないですか? わからないですけど。

渋谷 アメリカのアカデミー賞の授賞式のときも感じたけど、ノジは緊張しているのか、そうじゃないのかわからないときがあるよね。顔にうまく出さないから、緊張していないように見えるけど、実は緊張していたりするし。

高橋 そこがいいんですよ。僕は好印象。「やりたい!」って子はたくさんいるんだけど、実際にやるとそんなに楽じゃないし難しいから、どこか奥ゆかしい、「別にいいんですけど」みたいな感じがちょうどいい。

──皆さんがアカデミー賞の視覚効果賞を獲られたから、「自分もやりたい」という人たちが今後はいっぱい出てくるんじゃないでしょうか?

渋谷 そうなってほしいですけどね。今はどうしてもゲームとアニメーションが強いんですよね。

高橋 そう、VFXは人気がないんです。

野島 やっぱりアニメはみんな観ているし、人気がある。一番身近な仕事をしたいだろうし、そういうものって輝かしく見えるはずなんですよ。それに比べて、映画の実写の合成は裏方中の裏方で、どういう人がやっているのか? そもそも人がやっているのか?みたいに、ちょっと想像ができないと思います。

渋谷 まだまだ周知されていないってことか!

野島 僕はそこが問題だなと感じていて、「ブランディングだ」とずっと言ってるんですけどね。

──でも、アカデミー賞で一気にスポットが当たりましたからね。

渋谷 VFXの業界に活気が出るといいですね。

野島 ちゃんと人が作っているんだよというのは伝わったかな(笑)。

フルIMAXの作品を作りたい!(野島)

──最後に、これは夢の話としてお聞きしますけど、「ゴジラ」の次の作品もやることになったら、皆さんはそれぞれ、どんなことに挑戦してみたいですか?

野島 もっと解像度の高い映像を作りたいですね。「-1.0」は大きな画面で観るとけっこうヤバいですから……。

──解像度が気になるのはやっぱり水ですか?

野島 すべてです。でも、開拓の余地はあると思っているんですよ。

渋谷 まあ、「アルキメデスの大戦」(2019年)で本格的にエフェクトを始めて、気合いを入れてやらなきゃいけないという形で臨んだ「ゴジラ-1.0」があって、みたいな流れですからね。今後もこのマシンのスペックでは足りないとか、エフェクトざんまいをやるためには強化しなきゃいけないところも増えてくるはずだけれど、ノジには存分にやらせてあげたい。

野島 ハリウッド映画がそうであるように、日本映画もどんどんエフェクトだらけになるでしょうからね。

高橋 野島が今言ったみたいにエフェクトが普通になってくるだろうけど、僕はキャラクターに情熱を注ぎたい。日本にはロボットにしても何にしても、感情移入できるコンテンツがたくさんあるじゃないですか。「ゴジラ-1.0」もそれでうまくいったところもあるし、自分たちの手で作らせてもらって、そこが日本の強みになるということを実感したから、クオリティはもちろんハリウッドを追いかけますが、日本のコンテンツをもっと世界に発信できる面白いものにしていきたい。僕たちはどうしても技術的なところに目が行きがちだけれど、映画館に行く意味がある、IMAXで観る意味があるエンタテインメントを作りたいんですよね。

野島 僕はフルIMAXの作品を作りたい!

渋谷 自分で自分の首を絞めそうだけど、私も今、それを言おうと考えていた。でも山崎さんにそんな話をしたら、「みんなで死にたいのか?」と言われるだろうな。

野島 僕は「IMAXでやりたい」とずっと言ってるけど、山崎さんからは「あれは大変なんだ」とダメ出しされていて。でも、アメリカでIMAXのプロモーション映像を見せてもらって帰ってきたときは「IMAX、やるぞ!」みたいに熱が入っていたんですよ。そのうち冷めちゃうかもしれないけれど、それくらいすごかったみたいですね。

渋谷 山崎は表現したいもののジャンルが幅広いし、そこが強みだと思うけれど、内容というより、技術的な観点からIMAX(で作る可能性)はあるかもしれないですね。「ゴジラ」以外のものを撮っても面白いだろうし、戦時中の銀座を知っている知り合いのおばあちゃんが「ゴジラ-1.0」を観たいと言ってくれたように、IMAXの映画にふさわしいいろいろな要素を盛り込めば、世代の違う多彩なお客さんが足を運んでくれるはずですから。でも、山崎の「ゴジラVS」ものも観てみたいかな。どんな映画を作るのか、やっぱり気になります。

渋谷紀世子 プロフィール

1970年生まれ、東京都出身。1989年に映像制作会社・白組にミニチュアメーカーとして入社し、伊丹十三の監督作「大病人」にデジタル合成として参加。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ、「永遠の0」「STAND BY ME ドラえもん」「海賊とよばれた男」「アルキメデスの大戦」「ゴーストブック おばけずかん」「ゴジラ-1.0」など、歴代の山崎貴の監督作すべてでVFXディレクターを担当している。好きなゴジラ作品は「ゴジラ-1.0」。

高橋正紀 プロフィール

1968年生まれ、東京都出身。1990年に白組に入社し、映画、テレビドラマ、CM、ゲームムービーなど多くの映像制作に携わる。近年の主な参加作は映画「海賊とよばれた男」「DESTINY 鎌倉ものがたり」「劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」「アルキメデスの大戦」「キネマの神様」「ゴーストブック おばけずかん」「ゴジラ-1.0」など。2004年より、倉敷科学芸術大学の特別講師を務めている。好きなゴジラ作品は「ゴジラ-1.0」。

野島達司 プロフィール

1998年生まれ、東京都出身。2019年にコンポジターとして白組に入社後、映画「アルキメデスの大戦」「STAND BY ME ドラえもん 2」などのVFX制作に参加した。西武園ゆうえんちのアトラクション「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」、映画「ゴーストブック おばけずかん」からエフェクト作業に携わり、2023年公開の映画「ゴジラ-1.0」では、ゴジラが海を泳ぐシーンの波の動きや飛沫のシミュレーションを手がけた。好きなゴジラ作品は「ゴジラ-1.0」。

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」ポスタービジュアル

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」ポスタービジュアル

2024年4月26日に公開される、「モンスター・ヴァース」シリーズ第5弾。アダム・ウィンガードが監督を務め、レベッカ・ホールブライアン・タイリー・ヘンリーダン・スティーヴンスらキャストに名を連ねる。

※高橋正紀の高は、はしご高が正式表記

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開田あや @ayanekotunami

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