左から高橋正紀、渋谷紀世子、野島達司。

「ゴジラxコング 新たなる帝国」をもっと楽しむ!ゴジラ×コング×ナタリー 第3回 [バックナンバー]

「ゴジラ-1.0」でアカデミー賞受賞、白組のVFXスタッフが「ゴジラxコング」を鑑賞

とんでもないクオリティだし、妥協がどこにもない

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「モンスター・ヴァース」シリーズの第5弾にあたる映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」が、4月26日より全国で公開される。

「ゴジラvsコング」のアダム・ウィンガードが監督を務めた同作は、ハリウッド版の「ゴジラ」シリーズと、「キングコング:髑髏島の巨神」の世界観がクロスオーバーしたもの。2021年公開の「ゴジラvsコング」の続編にあたり、怪獣たちの歴史と起源、そして人類の存在そのものの謎が明らかになる。

このたび、第96回アカデミー賞で視覚効果賞に輝いた「ゴジラ-1.0」の制作に携わった白組に所属するVFXディレクターの渋谷紀世子、3DCGディレクターの高橋正紀、エフェクトアーティスト / コンポジターの野島達司に、同作を鑑賞してもらった。

取材・ / イソガイマサト 撮影 / 佐藤類

\特設サイト「ゴジラナタリー」公開中/
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映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」予告編第2弾

“人間が出てこない群像劇”が面白い(高橋)

──まずは「ゴジラ×コング 新たなる帝国」をご覧になった感想からお聞かせください。

渋谷紀世子

渋谷紀世子

渋谷紀世子 怪獣バトルがてんこ盛りの映画だなって感じました。そこにフォーカスを当てていたので、集中して入り込むことができましたね。

高橋正紀 僕は逆に、もっと“怪獣推し”なのかなと考えていたんです。そしたら意外にも、人間の群像劇をゴジラやコングに置き換えて描いていたじゃないですか? セリフをしゃべらない怪獣たちを巧妙に利用して、髑髏島の先住民・イーウィス族の少女ジアがコングとテレパシーでしゃべるという設定も取り入れている。そこがすごくうまかった。

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」より、イーウィス族の少女ジア。

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」より、イーウィス族の少女ジア。

渋谷 そのあたりは前作からやっていることだよね。

高橋 そう、そこがすごくいい。ゴジラとコング推しの映画だとみんな思うだろうだけど、実際は“人間が出てこない群像劇”。そこを僕はすごく面白く観ましたね。

野島達司 僕はもう、普通にクオリティが高すぎだろうと思いながら観ていました。

渋谷 ノジ(野島)はそこがやっぱり気になるんだね。

野島 まさに「ハリウッド映画はこうでなくちゃ!」っていう感じですよ。圧倒的なクオリティと物量で、水とかいっぱい出てきちゃうし。何も意味がなさそうなシーンでも水が出てくるから驚きました。

渋谷 ゴジラが何気なく海に飛び込んだり、コングが水辺ではしゃいだりするからね。

野島 あの水の表現1つだけで、チャリチャリチャリーンって課金しちゃう感じです(笑)。

──皆さんが目を見張ったり、驚いた具体的なシーンを教えてください。

高橋 自分たちも同じ仕事をしているからわかることですけど、この映画を観て、キーライト(主光源として被写体を照らすライト)が強いところはやっぱリアリティが出しやすいんだなと改めて感じました。特に、ゴジラとコングが戦うブラジルのシーンになると、抜けている空とのコントラストも出て、途端にリアリティが増すんですよ。それと比べると、フルCGのジャングルなどは立体感がちょっと乏しい。VFXをやっている人なら必ずそこが気になるはずだし、あの一連を設定の通りやるのはすごく難しい。ハリウッドの人たちも、僕たちと同じ苦しみを味わっているんだなということが観ていてわかりました。

野島 ただ、コングたちが暮らしている地下空洞のジャングルはライティングが超不思議で。よくあの設計で、自然に見せているなと。太陽もないし、空もない。本当は奥からしか光が来ないから真っ暗になっちゃうはずなんだけど、たぶん地上と同じようなライティングも絶妙な配分で混ぜてるんでしょうね。普通に考えたら、大変な作業ですよ。

渋谷 最初のうちは、おっ、何、この光は?って思ったけど、それがだんだん気にならなくなる。むしろ、空のディテールを感じるようになったし。

高橋 実際は地底だから、最初のうちは天井のあたりは黒身で。それをライティングでだんだんそっちに処理していったんだなという印象でしたね。

とんでもないクオリティだし、妥協がどこにもない(野島)

──野島さんは、先ほどもちょっと話に出た、水絡みで印象に残るシーンもあったんじゃないですか?

野島 そうですね。水のシーンはどこのVFXスタジオがやったんだろう? WETAデジタルなのか? スキャンラインVFXなのか?と思いました。本当に細かいディテールまで表現されていて。あの1カットを作るだけでも相当なコストがかかるはずだから、どうやってやるんだ?という感じでした。

野島達司

野島達司

──ご自身も「ゴジラ-1.0」でやられたじゃないですか?

野島 僕たちはいろいろ制約があって、あんなに重さを感じる表現はできなかったんです。それに、お金を掛ければできるというものでもないし、その仕組みの開発のところから未知の部分が多かった。たぶん、WETAなどの内部で開発されたテクノロジーやノウハウで作られたものなんでしょうね。

──ゴジラが飛び込んだり、泳いだり、橋を破壊したり、水絡みのシーンはいっぱいありました。

野島 めっちゃありましたね。最初のほうのシーンで、コングとミニコングのスーコが水辺で水を飲んでいるときに襲われたと思うんですけど、あそこでもちゃっかり水に入るし。シチュエーションとは何の関係もないから「あっ、ここで入るんだ?」となって。入るまでは、水は(視覚効果的には)水じゃないんですよ。ただの板と同じような表現で済むから。なのに、急に水に変わったから驚きました。

──なんで、ここでわざわざこんな面倒なことをするんだ?と。

野島 でも、そのあと水から怪獣が出てきたので、それならしょうがないって感じでした。あの水に入るシーンだけでもとんでもないクオリティだし、妥協がどこにもないんですよ。あれをどうやって成立させているんだろう?

高橋 僕たちはすぐにコストを考えちゃうからね。やりたいことがまず前提にあるんだろうね。

野島 僕たち日本人は、このカットをよくするためには、こっちのクオリティはちょっと落とさないといけないとか、バランスを考えながらやるけれど、この映画はすべての画がいい。いくらでもクオリティの高いカットを増やしてやるぜ!みたいなものを感じましたからね。

──それができるのがちょっとうらやましい、みたいなところもありますか?

高橋 うらやましいですよね。確かに水に入らなくても描けるシーンだけど、それをわざわざ水でやったんだということを見せつけられるわけですから。

エフェクトの厚みや奥行きがものすごい(渋谷)

──コングが引きちぎった怪獣の臓物で汚れた身体を洗う、滝のシーンはいかがでした?

野島 滝はギリギリ、僕たちでもいけますね。すべて霧みたいにして。水って体積があるから、それがヤバいんですよ。

渋谷 重みと表面上の輝きなどなど、ディテールの違う多くの要素の集合体という形であの水辺は作られているわけですからね。

──ゴジラが泳いでいるシーンはどうでしたか? ご自身もやられましたけど。

野島 全部すごいです。水の切り方とか、飛び上がったときの水のサイズも全然違うから、「ゴジラ-1.0」とは比べられない。「-1.0」のゴジラはそもそもあんなスピードで泳がないんです。今回のゴジラはすごいスピードで泳ぐじゃないですか? 水がすごく高いところまで上がったし。

高橋 でも、泳ぐところは、野島がやったものも全然悪くなかったよ。

渋谷 そう。そこは私も負けていないなと感じて。

高橋 「負けてない」と言うと語弊があるけど、がんばってるんじゃないかな。

野島 でも、がんばってやっとあのカット数ですから、あんな映像をバンバン見せられたら圧倒されますよ。

高橋 あの物量は、「ゴジラ-1.0」のVFXをやった35人では無理だね。

野島 エフェクトアーティストの技量も感じました。単純にお金の問題だけではなく、すごく細かいところまで気にしながら作っている。

渋谷 エフェクトの厚みや奥行きがものすごくあるしね。

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」より、ゴジラ。

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」より、ゴジラ。

野島 ハリウッドの映画は全部そうなんですけどね。遊び心もあるし、ゴジラが熱線を吐くところなども、ただ吐くだけではなく、周りにどんな影響をもたらしているのか?といったことまで、ちょっとした味つけでちゃんと表現している。どういう編成で制作しているのかわからないけど、そういうところにも、関わった人たちのこだわりを感じました。

渋谷 私は、地下空洞のシーンのフォグ(霧)とライティングがすごいなと。特に、フォグは奥行き感があったから、それで地下空洞がすごく広いところなんだなっていうのがわかって。このぐらいの奥行きでいいかなって適当に作るのではなく、ずっと奥まで必要だからという考えのもとでやっている。そこは、見習いたいです。

高橋 僕は、ミニコングのスーコが地上に出てきたときに「意外と大きいんだな」と感じた(笑)。

野島 そこなんですよね。スケール感が変わる。前半部分では、コングに最適化された木々や岩がある世界観で。あまり大きくないという認識をそこですり込ませておいて、人間の世界に来たら、でかいという。ああいう表現がやっぱりいいですよね。急にでかく見えるっていうのが!

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」より、スーコ。

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」より、スーコ。

高橋 あれにはビックリした。これはでかいわ!と思った。

野島 それとコングたちがいっぱいいるシーンがあるじゃないですか? あのあたりも、ちょっと動きの遅い人間たちみたいに見えるけど、あいつらの殴り合いを地上でやったらとんでもないことになるんだろうな。

渋谷 街とか、そういうレベルじゃないよね、あの世界観は。

野島 あれはヤバいですよ。街の表現ももちろんすごかったけど。

今回のゴジラはオートマティックの銃みたい(高橋)

──ゴジラとコングの表現に関してはどうでしたか?

高橋正紀

高橋正紀

高橋 すごかったです。それこそ、熱線を吐くシーンも「-1.0」のゴジラはリボルバーの拳銃のように、弾数が決まっていて、溜めて溜めてドン!って感じだけど、今回のゴジラはオートマティックの銃みたいに、チャージしてからガンガン放出し続ける。そのあたりの表現が、やっぱり僕たちとはちょっと違いますね。

野島 僕はまず、ゴジラのディテールがすごすぎるなと。肉の動きというか、マッスル感というか、ちゃんと中に骨と肉が入っている。僕らはそこをやってないような気がします。

渋谷 私は人間のキャスト並みに、カメラがゴジラやコングにバンバン寄るのに驚きました。私たちはバンバン寄れないと言うか、寄るのが大変で。ゴジラにしてもコングにしても、寄ったときのディテールを表現するための物量はとんでもない多さですからね。

高橋 どの怪獣もよく動くしね。

渋谷 だから、それぞれの骨格や上顎、喉の奥はどうなっているんだろう?とか、地味にそういうところばかり見ちゃって。特に瞳がすごくよくできていて、生物らしさがちゃんと感じられるものになっていましたよね。

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」より、ゴジラ(手前)とコング(奥)。

映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」より、ゴジラ(手前)とコング(奥)。

──ゴジラの造形は、皆さんがお作りになったゴジラと比べてみてどうでした?

高橋 こっちのほうが、動きも含めてトカゲに近いですよね。「-1.0」のゴジラは監督の山崎(貴)さんの「ファースト(第1作のゴジラ)をやりたい。ファーストだけど、もっとかっこよくしたい」という考えであのデザインになったわけだから。

渋谷 山崎も、初期の頃の検討デザインではけっこう生物感のあるものを描いていたんですけどね。でも、そこはやっぱり、演出したい内容にどうしても影響されて、初代に近い神聖化されたものになっていった。今回はそれとは違って、俊敏なゴジラを考えて、あのデザインになっていったんじゃないでしょうか。

野島 股の下が大きく空いているから、動き回れる感じがしますよね。「-1.0」のゴジラはあんまり動けない。

高橋 山崎さんが「動かすな」って言うからね。「ゴジラは動いちゃダメなんだ」って。

渋谷 「-1.0」は“ゴジラは動くものじゃないんだ”という前提で作ったけれど、こっちは動き回るし、脚も長いよね。

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スケール感をわからなくしているのもうまい(野島)
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開田あや @ayanekotunami

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