アニメスタジオクロニクル Vol.3 スタジオジブリ 西岡純一

アニメスタジオクロニクル No.3 [バックナンバー]

スタジオジブリ 西岡純一(広報・学芸担当スーパーバイザー)

日本のアニメがビジネスとして認識された「千と千尋の神隠し」

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“世界に誇るジブリ”は意外と小さな会社

続けてスタジオジブリという会社の特徴を聞いてみた。すると“日本が世界に誇るジブリ”というパブリックイメージを持つ、業界屈指の有名スタジオらしからぬ実情が語られていく。

「最近こそ就業時間がきちっとしたりして会社っぽくなっているけど、根本的には会社じゃないと思うんですよ。会社という形ではあるけど、ここは宮﨑駿や宮崎吾朗のアトリエや制作工房であって、すべての中心はクリエイターにある。彼らが作品を作るために必要だから、グッズを作ったり海外に展開したりと収支決算が赤字にならないようにするという考え方です。その辺がほかの会社とは違いますよね。

株主のことを考えていないというわけでもなく、宮﨑や鈴木なりの考えもありますけど、そもそも株だって少ないし、資本金も1000万円に過ぎません。事務方には部長が何人かいますが、部長と言ってもそれぞれ部下が5人いるかいないかで、社員数もジブリ美術館を除くと今は70~80人。宮﨑や鈴木が目の届く範囲でしか人を増やしたくなくて、かつて三鷹の森ジブリ美術館を含めて社員数が300人とかになったときは『ちょっと会社をでかくしすぎた』と言っていました。うちは世間で思われている以上に小さな会社なんです。

スタジオジブリの会社内。

スタジオジブリの会社内。

昔は宮﨑が社内を1日中ウロウロしてはみんなと会話して、『あいつは最近元気がないな』と鈴木と話したりしていました。近年は歳も歳なのでそこまではしていませんが、それでも換気が悪いところを見つけては『ここは空気が悪いから換気扇を付けよう』とか『窓をここにしろ』とか言って。『換気が悪いと悪い気が溜まるのでよくない』とか、非常に換気にうるさいんです(笑)。スタジオジブリはそんな親方の宮﨑がいて、鈴木が切り盛りしているような会社です」

今回のインタビューで社屋に足を運び、“中の人”の話を聞くごとにスタジオジブリを身近な存在に感じるのが不思議なところ。実際に社員数が100人に満たない規模の会社ながら世界的な知名度があるのは、これまでに送り出してきた作品、そして徹底して作り上げられてきたブランドイメージのたまものだ。

「ブランドイメージを守ることはけっこう心がけています。広報として何か対応するときは『世間はスタジオジブリにどうあってほしいと思っているか』を常に考えていて、その世間の期待にできるだけ添って、裏切らないよう心がけています。嘘をついてもそれは絶対にバレるし、世間の期待を裏切りたくない。広報部としても、スタジオジブリ全体としても同じ考えです。

世間が我々に求めているのは子供から大人、おじいさんやおばあさんまでみんなが観れる作品でしょう。だからエログロや暴力はできるだけ描かず、子供に見せても恥ずかしくない作品を作り続けています。それは作品だけでなく、2022年に愛知県で開園したジブリパークのような施設などでも同様です。あそこは愛知県と一緒にやっているから先方の意向や土地の制約もあるのですが、宮崎吾朗が理想とするものをとことんまで追求しているので、ジブリらしさはブレていません」

ファン待望の「君たちはどう生きるか」、一方社員は

2023年7月には、宮﨑駿にとって約10年ぶり、スタジオジブリにとっても久々の長編映画「君たちはどう生きるか」の公開が控えている。多くの人が注目する新作についてコメントを求めたところ……。

「今回は宣伝などは完全に控える方針なので、新作についてはノーコメントとさせてください。『7月14日に公開されるので、楽しみにしていてください』としか言えません。新作公開を控えての社内の雰囲気? 『盛り上がっています』とか答えるとまたいろいろ書かれそうだしなあ(笑)。久々の新作に向けてワクワク・ドキドキしている、というよりは社員一同、日々、淡々と業務をこなしていますよ」

メディアにとって今一番じっくり聞いておきたい質問は軽くかわされてしまう。しかし続いてアニメ業界を目指す人々へのメッセージを求めると西岡氏は一気に饒舌になった。

「例えばアニメを作りたいと思ったときにアニメーターになることしか考えていない人もいるんですけど、やっぱり特殊な才能が必要なんですよ。がんばれば動画ができるようになる人も少しいるけれど、才能がない人はそれ以上はやっぱり無理。でもアニメっていろんな仕事があって、キャラクターだけでなく背景を描いている人もいるし声優や音楽、効果音を作っている人もいる。少し制作から離れるだけでもアニメ作品の展覧会をやっているスタッフもいれば、本を作っている人や著作権を扱っている人もいる。アニメ業界はとにかく裾野が広くて、意外と関われる仕事があるんです。だから視野を狭めず、いろんなことに挑戦してみてください。何せ社会人になってもしばらくまったくアニメに関わっていなかった僕が、こうしてスタジオジブリについて話すようなことになっているくらいだし(笑)」

インタビューの最後に熱いメッセージを送ってくれた西岡氏に、余談として一番好きなスタジオジブリ作品を聞いてみた。

「崖の上のポニョ」より。(c) 2008 Studio Ghibli・NDHDMT

「崖の上のポニョ」より。(c) 2008 Studio Ghibli・NDHDMT

「僕はスタジオジブリ作品でどれが好きか聞かれたら『崖の上のポニョ』と答えています。あれは2008年の作品だから……当時は40代か。それなのに完徹とかして宣伝の仕事がすごくハードだった思い出もありますが(笑)。でもやっぱりイマジネーション溢れる映像がとにかくすごかった。本当に圧倒されました。そうだ、『ポニョ』と言えば少し自慢がありまして。台風のシーンでテレビから台風情報が流れますが、あの原稿は気象情報を好きな僕が書いています。そういう手作りなところがいっぱいあるんですよ、スタジオジブリって」

西岡純一(ニシオカジュンイチ)

1960年、熊本県生まれ。九州大学工学部を卒業後、外資系石油会社で勤務。1999年スタジオジブリへ入社し、広報・宣伝業務に携わる。2011年から徳間記念アニメーション文化財団の事務局長、2017年から広報部部長を経て、2020年より広報・学芸担当スーパーバイザーとして後進の指導を行っている。徳間記念アニメーション文化財団評議員。

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